■駅前マンション〜ある日の回覧板■
日向葵 |
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】 |
だいたい月に一度の周期でマンション内を一周する回覧版がある。
その回覧版の内容は様々で、最近事件が多いから気をつけてとか廃品回収だとかそんなごくごく普通のものからこのマンションにしかないような――陰陽師や退魔師に向けた仕事募集のメッセージや最近マンション内で起こった怪奇現象に関する事柄などなど。
ちなみに、そういった怪奇現象関係の内容は、ある程度以上の霊力のある人間でなければ見えないよう、管理人のじーさんが小細工をしている。
一応だが、ここには少数の一般人も住んでいるのだから……。
『ひな祭りをやりましょう』
回覧板はそんな見出しから始まっていた。
毎度ながら会場はマンション屋上。雛人形を持ち込んで、ちょっとしたパーティをやりましょうということらしい。
ちなみに雛人形は、大家のじーさんが用意してくれるらしい。
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駅前マンションの怪〜ある日の掲示板・フリーマーケット開催!
●駅前マンション屋上へ
実はシュライン・エマは、フリーマーケットがあると知って駅前マンションに来たワケではない。
というか、駅前マンションに訪ねて来たわけでもなかったりする。
「あら、今日はフリーマーケットなのね」
マンション前の掲示板にしっかと貼られたお報せを見つけてせっかくだしと、シュラインは屋上に行ってみることにしたのだ。
何か安くて使い勝手の良いものも出ているかもしれないし。……まあ、場所が場所だからおかしなものもたくさんありそうだが。
と、そこでふいと思いつく。
草間興信所に居候している神様・桐鳳のことだ。元・神社のご神体である彼は、かつて神社に納められていた品を回収すべく日々情報収集に勤しんでいる。
「何かあるかもしれないし、連絡しておこうかしら」
言いつつ、シュラインは携帯電話を手に取った。
●合流……?
屋上についてまず目に付いたのは、もう見るからに怪しさ大爆発な屋上の様相であった。
「……」
まあ、予想済みではあったけれど。
売っている品々も怪しいけれど、売っている人間も相応に怪しい感じだ。黒尽くめやら、動く人形やらと賑やかだ。
「こんにちわ」
「おや、いらっしゃい、お嬢さん」
大家に声をかけると、大家はいつもの如く穏やかに笑って答えてくれる。
「お疲れ様です。これ、どうぞ」
本当は事務所に持って行こうと思っていた手作りクッキーだが、差し入れにするのも良いだろうとさっき小袋に分けておいたのだ。
「大家さんの分と……あと、他の方々に分けてあげてください」
「どうもありがとう。いろいろあるし、ゆっくりして行くといい」
「ええ」
穏やかに会話を交わしていた時。
「あーっ、ずるいっ。僕も欲しいっ」
ふいに上から声が降ってきた。
「桐鳳くんの分もちゃんとあるから大丈夫よ」
連絡してから到着までがずいぶん早い。おそらく空を飛んできたのだろう。
「クッキーと連絡ありがとね。いろいろ見て回ってみるよ」
にっこり無邪気に笑った桐鳳は、さっさと一人で他の場所へと歩いていった。
「さて、どこから見てみようかしら」
ぐるっと屋上の様子を眺めたシュラインは、とりあえず適当に周って見ようと歩き出した。
●黒服の人
妙に……というか、無駄に目立つ黒服黒タイ黒眼鏡の男性。その人物に、シュラインは見覚えがあった。
「……八島さん?」
一体こんなところで何を……。
そんな意味をこめた問いに、
「中古のマジックアイテムの販売です」
至極普通に答えを返してくる。
いや、聞きたいのはそういうことではないのだが……。
「良いんですか、八島さん?」
ふいに、横から声がかかった。
「こんにちわ」
「あら、来てたのね」
隣に立っているのは綾和泉汐耶。手にはどうやら重箱らしい包みを持っている。
「差し入れ?」
「ええ、知り合いが多いみたいだったから」
店の前でついつい盛り上がりかけたが、途中で気付いて――買い物と関係ない会話を店の前でするのは営業妨害にしかならないだろう――話を戻す。
「こういうのって、横流しとか言わない?」
「いいえ。普通の中古払い下げ品ですよ」
売っているものが防霊弾チョッキとか占術盤とか更に宮内庁秘密機関の制服――八島が来ているのと同じ、黒服黒タイ黒眼鏡のセットだ――だとか言う時点で、すでに普通ではない気もするが。
目を引いたのでついつい見に来たが、特別欲しいものはない。
シュラインはクッキー、汐耶はお弁当の差し入れをそれぞれ渡し、二人はまたそれぞれに興味あるものを見に別行動となった。
●なんか宿ってそうな石
次に目についたのは、ゲームソフトが置いてある店。駅前マンションのフリーマーケットに置いてある品にしてはあまりにも普通で、かえって目についたのだ。
「どうぞ、見てって下さい」
にっこりと笑ったのは店の主らしい男性。
「どうもありがとう」
社交辞令に軽く告げ、置かれている品々をぐるりと見る……と、やっぱり普通ではなかったらしい。
見た目にはただの天然石のようにも見えるのだが、手にしてみるとなんだか生温かくて怪しい感じだ。
「……何か封印でもされてるのかしら……」
「多分ね」
いつの間に戻ってきたのか、桐鳳が石を覗きこみながら言う。
「何か見つかった?」
「んーん。面白いのはいろいろあるけど、僕の探し物とは別みたい。まあ、せっかくだから見て周るけど」
じーっと石を眺めつつ、安いから買ってみようかなあなんてブツブツ言っている。
「ねえねえ、おにーさん。これ、どこで見つけたの?」
にっこりと子供らしい――この場合実年齢は考えない――無邪気な笑みで問う桐鳳に、男性は苦笑を浮かべた。
「弟が石を集める趣味を持っててね、俺が見つけたわけじゃないから、ちょっとわからないんだ」
「ふぅん、残念」
なかなか会話は終わりそうにない。別のところを見に行くと軽く告げ、シュラインはその場を離れて歩き出した。
●癒しの音楽
今時流行りの癒し系ミュージック……と、最初は思った。
けれどよく見てみると、ちょっと違う。告白したい時に聞く曲だとか、元気になりたい時に聞く曲だとか、まあその辺は普通。だけど、もうちょっと良く見てみると……。
「へぇ、除霊の音楽なんてあるのねぇ」
「こんにちわ」
店の主である少女が穏やかに笑う。
「あら、これ素敵ねえ」
シュラインより前にこの店に来ていたらしい女性がなにかのMDを目に止めて瞳を輝かせた。
そんな様子を横目に見つつ、自分もMDを選ぶ。
「これ、仕事に使えそうね」
呟いて手に取ったのは除霊の音楽。
……武彦さんは不本意だろうけど……。
だけど、草間興信所にそういう依頼が多いのは事実で、ならばこういうアイテムは、あって損するものでもないだろう。
「ねえ、これいくらかしら?」
「ありがとうございます」
訪ねると、少女はにこりと笑って告げて、値段を教えてくれた。
そう高いものではない。
「それじゃこれを買って行くわね」
言いながらお金を渡し、除霊の音楽入りのMDを手にシュラインはその場を離れた。
●帰る前には挨拶を
「面白いものはあったかい?」
帰りがけに大家の老人のところに寄ると、老人はいつもと同じに穏やかな笑みで聞いてきた。
「ええ。いくつか買い物もしたし」
「それは良かった」
言いながら、老人はさっき渡した小袋のうちの一つ――カラになっていたを見せる。
「さっきのクッキー、頂いたよ。とても美味しかった」
「そう? 良かったわ」
他愛もない世間話のような会話を少し交わして、
「あ、そろそろ行かないと。またフリマを開く時は教えてくださいね」
「ああ、それじゃあ今度やるときは興信所の方にもチラシを持って行くよ」
「どうもありがとうございます」
予定よりずいぶん少なくなってしまったが、桐鳳の分はもう渡したし、武彦と零と三人で食べるには充分だろうクッキー。それと、ここで買った除霊の音楽とを持って。
当初の予定より少し遅れて、シュラインは事務所に向かった。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2164|三春風太 |男|17|高校生
1449|綾和泉汐耶 |女|23|都立図書館司書
2163|藤井蘭 |男| 1|藤井家の居候
2098|黒澤早百合 |女|29|暗殺組織の首領
2309|夏野影踏 |男|22|栄養士
1431|如月縁樹 |女|19|旅人
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ライター通信
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こんにちわ、日向 葵です。今回はご参加ありがとうございました。
フリーマーケットはいかがでしたでしょうか?
なにか面白い品をゲットできていればよいのですが……(笑)
クッキー、どうもありがとうございました。皆様美味しく食べたことと思います。
いつも桐鳳くんのことを気にかけてくださってありがとうございます♪
除霊の音楽お買い上げは、興信所での武彦さんの反応を想像できて楽しかったですv
それでは、この辺で失礼します。
またお会いする機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。
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