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■駅前マンション〜ある日の回覧板■

日向葵
【1431】【如月・縁樹】【旅人】
 だいたい月に一度の周期でマンション内を一周する回覧版がある。
 その回覧版の内容は様々で、最近事件が多いから気をつけてとか廃品回収だとかそんなごくごく普通のものからこのマンションにしかないような――陰陽師や退魔師に向けた仕事募集のメッセージや最近マンション内で起こった怪奇現象に関する事柄などなど。
 ちなみに、そういった怪奇現象関係の内容は、ある程度以上の霊力のある人間でなければ見えないよう、管理人のじーさんが小細工をしている。
 一応だが、ここには少数の一般人も住んでいるのだから……。


『ひな祭りをやりましょう』

 回覧板はそんな見出しから始まっていた。
 毎度ながら会場はマンション屋上。雛人形を持ち込んで、ちょっとしたパーティをやりましょうということらしい。
 ちなみに雛人形は、大家のじーさんが用意してくれるらしい。
 
駅前マンションの怪〜ある日の掲示板・フリーマーケット開催!

●準備万端、あとはよろしくっ!
 その話を聞いた時、如月縁樹がまず思い浮かべたのは倉庫となっている自宅の一室。
「この際だから部屋の整理でもしてみようか」
 物越し柔らかくにっこりと笑う縁樹に、相棒の人形・ノイは呆れたような顔を見せる。
「整理〜? 何言ってんだ、そんな気全然ないくせに」
 荒い口調で言われても、それで縁樹が不機嫌になることはない。ノイはいつでもこんな調子で、ノイが縁樹を一番に考えてくれているのをよく知っているから。
「じゃあ訂正。面白そうだから出店してみようか」
 笑顔を崩さないままに告げると、ノイはニヤンっと楽しそうに口の端を上げて頷いた。
 倉庫に入っているのは旅先で入手した古書やアンティークの小物や食器類。それと一時期気紛れで作ったあみぐるみなんかも放り込まれていた。
 中からいらない物を適当に選別して。
「それじゃ、店番よろしくね」
 始まって一時間もしないうち。
 縁樹は、店をノイに任せて出ていった。

●癒しの音楽
 縁樹の趣味で言えば、ブレスレットなどの可愛いアクセサリー類や香水、あれば文房具も欲しいかもしれない。
 そんなことをつらつらと考えつつ歩いていた縁樹の目にふと音楽MDの店が留まった。
 オリジナルの曲でも置いているのかと思ったら――いや、確かにオリジナルの曲ではあるのだろうが。
 そのMDのラベルには面白いことが書いてあった。『告白したい時に聞く音楽』『除霊の音楽』その他いろいろ。
「いらっしゃいませ」
 立ち止まった縁樹に、女性の声がかかった。年齢は縁樹より少し下くらいだろうか。
「いろいろな曲があるんですね」
「良かったら聞いてみます?」
 試聴用のMDウォークマンをきっちり持ってきているらしい。イヤホンではなく小型のスピーカー付きだ。
「それじゃあ……」
 リラックスできそうな曲が欲しいなあと思いつつ視線を巡らせていると、そのものずばり。『リラックスしたい時に聞く音楽』なんて書いてあるMDを発見した。
「これ、お願いします」
「はい」
 縁樹が示したMDを、女性はウォークマンにいれてくれる。
 結構綺麗な曲だった。せっかくなので、他にもいくつか聞かせてもらおうと声をかけた直後。
「あそこなの〜」
 甲高い少年の声と、ぱたぱたと軽い足音。
 どうやらこの音に惹かれて来たらしい。
「こんにちわなの〜」
「いらっしゃい」
 蘭の元気な声に、店の女性はにっこりと笑う。
「この曲、素敵ですね」
 変えてもらったばかりのMDの音楽を聞きながら、縁樹は、柔らかい笑みを浮かべる。
 さっきの曲も綺麗だったが、個人的にはこっちの方が好みかもしれない。
「なんだか落ちつく感じがするの〜」
「そう? どうもありがとう」
 二人の賞賛を受けて、店の女性は嬉しそうな笑顔を見せてくれる。
「それじゃあ、僕はこのMDを買おうかな」
 独り言のように呟いて、縁樹は『癒しの音楽』とラベルがついているMDを手に取った。
「ありがとうございます」
 女性の声に軽く会釈を返して、縁樹は別の店へと足を向けた。

●謎の日用品
 フリーマーケットといえば文房具は結構定番かと思ったのだが……。
 ここではそうでもないらしい。見つかるのは怪しげな石とか、札とかそんなものばかりで、なかなか文房具が見つからない。
 とその時。
「あ、文房具見っけ」
 視界の端に文房具を発見して、小走りに駆け寄った。店の前には先客の女性が一人。邪魔にならないよう横に立って、いろいろとある文房具を眺めてみる。
「お嬢さん、文房具を探してたんだ?」
「はい」
「いろいろ便利なものがあるよ」
 言って、まず男が見せたのは万年筆。
 手近にあった紙にのたくたと適当に文字を書く――と。
 ぐにょんぐにょんっと文字が動き出した。
「……役に立つのか微妙ね」
「面白いんですけど……」
「なら、これはどうだろう?」
 次に出してきたのは見た目は普通のハサミ。
『またお仕事ですかぁ? お兄さん、あっしを酷使しすぎなんじゃないですかい? まあ使われてナンボですけど、刃はちゃんと研いでくださいね』
 何故か、喋る。
 無駄に喋る。
「煩そう……」
「僕のところにはもう賑やかなのが一人いますから」
「そうか。ならもう一つ」
 次に男が出したのは、一見なんの変哲もないメモ帳。
「これはちょっと今すぐ実演というわけにはいかないんだけど……。書いても書いても一日たつと文字が消えるメモ帳だ」
「あら、それは便利そう」
「うーん……」
 確かに面白いのだが、文房具として扱いやすいかといえば話は別。
 かろうじて使えそうなのが『書いたものが消えるメモ帳』だが、一つしかないうえに、先客の女性もメモ帳に惹かれている様子。
 まあ、ここでなくても見つかるかもしれないし。
「いろいろ説明ありがとうございました」
 結局何も買わず、縁樹は軽く会釈をしてその場を去った。

●帰還
 てゆーか。
 ここで普通の品を望むのは間違いだったらしい。
 普通じゃないっぽい品で面白そうなのはいくつか入手したが、結局普通の……文房具やアクセサリーは見つけられなかった。
 怪しいアクセサリーはいくつかあったのだが、売ってる本人にも出所不明と言われると、購入には少々勇気がいる。
「おかえりー。遅いぞ、縁樹」
 と言っても、縁樹がスペースを離れていたのはほんの一時間程度である。
「ごめんごめん。お客さんはどうだった?」
 一時間くらい……なんて言ってノイが納得するわけがないのはわかっているので、素直に謝っていない間の様子を聞いてみる。
「あみぐるみが人気だったぞ」
「あ、ホントだ。結構減ってるね」
 と。
 あんまり売れないだろうなあと思っていた品が綺麗になくなっている事に気がつく。
「あれ。本、全部売れたんだ」
「一人で全部買ってったヤツがいた」
「へぇ、きっとすごく本が好きな人なんだね」
「縁樹は何買った?」
「僕? ちょっとしか買わなかったよ」
 言いながら、買ったMDを出して見せる。
「それだけ?」
「うん」
 あんまり惹かれるのがなかったんだから仕方がない。
「アクセサリーとか欲しかったんだけど……」
 何を言おうとしたのか気付いたらしいノイがケケッと笑う。
「まあ、ここだからな」
「…………」
 怪しげな現象満載、霊能者から人外まで怪しい人々満載の駅前マンションだ。
 最初から、普通の品を期待するの方が間違っているのかもしれない。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2164|三春風太    |男|17|高校生
1449|綾和泉汐耶   |女|23|都立図書館司書
2163|藤井蘭     |男| 1|藤井家の居候
2098|黒澤早百合   |女|29|暗殺組織の首領
2309|夏野影踏    |男|22|栄養士
1431|如月縁樹    |女|19|旅人
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         ライター通信          
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 こんにちわ、はじめまして。日向 葵です。今回はご参加ありがとうございました。
 フリーマーケットはいかがでしたでしょうか?
 なにか面白い品をゲットできていればよいのですが……(笑)

 アクセサリーを持ち込む方がおらず、こういう結果となりました。
 あんまり買い物できなくてごめんなさい。
 その代わり(?)とでも言いましょうか……ノイくん、他の方のノベルで活躍してます。
 縁樹さんがいないあいだのノイくんの店番の様子が見られます(笑)

 それでは、この辺で失礼します。
 またお会いする機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。