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■目隠しの森〜獣達の啼く夜act2〜■

水貴透子
【2240】【田中・緋玻】【翻訳家】
 七人の犠牲者が出て、事件は一瞬の静寂を迎えた。
 ―…八人目の犠牲者は出ない、はずだったのだが…。
 七人目の犠牲者が出てから一週間、八人目の犠牲者が出た―…。
「ぐっ…」
 現場に向かった刑事の一人が遺体を見て、吐き出す。どんなに刑事歴の長い人間でもこの悲惨な現場を見たら吐き出してしまうのも無理はないだろう。
「吐くのは勝手だけど、現場を汚さないでね」
 叶は冷たく男の刑事に言うと、遺体の方へと足を進めた。
 殺され方は今までと同じ獣に食いちぎられたような殺され方。
 こんな異常な犯罪は今までにないため、同一犯と考えてもおかしくはないだろう。
「…だけど―…」
 今までと違うのは被害者が殺された場所。
 今までは人目につくような場所で殺されていたのだが、今回はあまり人が通らない樹海。間違えれば遺体は誰にも発見されない可能性だってあるのだ。
「…なんで今回はこんな場所に…」
 今までと何か違うのだろうか、叶はそう思いながら現場を後にした。



  ライターより

 この「目隠しの森」は前回の獣達の夜の続きになります。
 ですが、読みきりの短編シリーズなので、前回参加されてない方でも話が分かるように書きます。
 これは発注をかけてくださった方のみが登場する個人受注製です。
 発注をいただきましたら精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。
 
 
目隠しの森〜獣達の啼く夜act2〜

オープニング

 七人の犠牲者が出て、事件は一瞬の静寂を迎えた。
 ―…八人目の犠牲者は出ない、はずだったのだが…。
 七人目の犠牲者が出てから一週間、八人目の犠牲者が出た―…。
「ぐっ…」
 現場に向かった刑事の一人が遺体を見て、吐き出す。どんなに刑事歴の長い人間でもこの悲惨な現場を見たら吐き出してしまうのも無理はないだろう。
「吐くのは勝手だけど、現場を汚さないでね」
 叶は冷たく男の刑事に言うと、遺体の方へと足を進めた。
 殺され方は今までと同じ獣に食いちぎられたような殺され方。
 こんな異常な犯罪は今までにないため、同一犯と考えてもおかしくはないだろう。
「…だけど―…」
 今までと違うのは被害者が殺された場所。
 今までは人目につくような場所で殺されていたのだが、今回はあまり人が通らない樹海。間違えれば遺体は誰にも発見されない可能性だってあるのだ。
「…なんで今回はこんな場所に…」
 今までと何か違うのだろうか、叶はそう思いながら現場を後にした。


視点⇒田中・緋玻


 目隠しの森〜獣達の啼く夜act2〜

「また犠牲者が出たわけ…?」
 緋玻は今朝の新聞を読みながら溜め息混じりに呟いた。
「警察が山狩りでも始める前にこっちのも片付けた方が良さそうね。普通の人間じゃ犠牲者が増えるばっかりだし」
 多分、今回の事件も一週間前の事件で出会った十六夜・夜白という少年が関係しているんだろうと思う。こんな異常な犯罪は他に誰も思いつかないだろうから。
 もしかしたらこの間の女性も現われるのかもしれない。銃を持っていたから警察関係者だろうとは思う。あんな危険な所に一人で来たのだから、警察官としてマジメに職務を全うしているようにも見えたが、それだけの理由で一人では来ないだろう。
「また、あの女性は来るのかしら…。だったら先に樹海の地理を調べておいた方が良さそうね」
 もし、何も調べずに樹海に行ってあの女性がまた襲われたら広い樹海の中では助けに入れない。
「さて、広いのよねぇ…」
 緋玻は気だるそうに樹海についての資料を探し始める。翻訳家という仕事柄のためか、それなりに資料はある。だが、肝心の資料はどこにあったかしら、とバサバサと本を掻き分けながら探す。
「…あった」
 数十分の時間をかけて探し出したのは、今回の事件で犯行現場となっている樹海の地図とそこに纏わる話などが書かれた分厚い本だった。
「ちょっと古い本だけど、何とかなるでしょ」
 そう言いながら緋玻は本をパラパラと捲り始める。広さとしては人とはぐれたら二度と出会う事ができなくなるんじゃないか、というくらいの広さだった。この中を歩き回らなくてはいけないのかと思うと、緋玻は少しだけ憂鬱になってきた。
「とりあえず、地理は暗記したし…何とかなるでしょう。後は彼女の動き次第なのよね…」


 そして緋玻は警察署の近くの喫茶店であの時の女性が出てくるのを待った。コーヒー一杯しか頼んでいないのに何時間も居座る緋玻をウェイトレスは怪訝そうな顔で見ていたが、そこは気にしないでおこう。
「あっと…」
 視線を外に向けていると見覚えのある女性が警察署から出てきた。
「あの時の人だ、今から行くのかしら…」
 時計を見ると夕方の六時、今から樹海に向かえば十時前には着くだろう。
「あたしも行くとするかな」
 そう呟いてコーヒーの代金を払って外に出る。


 そして、緋玻の予想通りにその女性は樹海へと向かっていた。近からず、遠からずの位置で緋玻も女性を追いかける。
 樹海に到着した時、女性は臆することなく真っ暗な樹海の中、足を進めていく。暫く歩くと開けた場所に出て一軒の建物が建っていた。中からは電気がついているのが見えるので誰かがいる事に間違いはないだろう。
「…なに、あれ…」
 緋玻が不審そうに呟く。女性はホルダーから銃を取り出して、胸の位置まで持ってきて警戒しながら建物の中に入っていった。
「なんや、あんた」
 女性が建物に入り、緋玻も気づかれぬように入る。すると派手な格好をした女性が現われて緋玻の前にいる女性に話しかける。
「わ、私は桃生叶、警察よ。一体、貴方達はここで何を―…」
 しているの?という言葉は叶の口から漏れることは無かった。なぜなら女性の隣には大きなライオンに翼が生えたイキモノがグルルと唸りながらこちらを見ているからだ。
「…なっ」
「可愛いやろ。うちは夜白みたいに人間なんか使わへん。あんた、何しにここまで来たん?ただの捜査にしちゃ随分と熱心やんか」
「…私は…妹の敵を取りたいのよ!」
 そう言ってライオンに一発撃つ。銃の腕は下手なのかかすりもしない。
「…ハァ、しゃーないけど、やってまえ」
 女性の声を合図にライオンが叶に襲い掛かってくる。さすがにこれを見逃すと叶は生きてはいないだろう。緋玻がライオンと叶の間に割って入り、ライオンを投げ飛ばす。
「あなたは…」
「話は後よ。あんなのに人間が勝てるわけないでしょう?少しは頭を使ったらどう?」
 緋玻が振り向きながら言う。緋玻が現わることを予測していたのか女性は驚くことなく腕組みをしている。
「あんた、誰?」
「…そういうあなたこそ誰なの?」
「うちは紫峰堂みちる、夜白と同じイキモンや」
「…そう。あたしは田中緋玻。通りすがりの翻訳家よ」
「そら、偉い物騒なところを通りかかるんやな。まぁええわ。あんたが今言うたな。ライオンに人間が勝てるわけがないと…、勝算もないのに出てきて死ぬンか?」
 みちると名乗った女性は下卑た笑みを見せながらおかしそうに笑う。
「人間なら、でしょ?」
 そう言って緋玻はライオンの首と胴を離して、首をみちるに投げつける。みちるはそれを冷たく払いのけてこちらを睨みつけてくる。
「あーあ…うちの可愛いペットが死んでしもたやん。まぁ…また作ればええけどな」
「次はあたしとあなたの決着でしょ?」
「勘弁、ライオンの首を引きちぎる馬鹿力の女とやり合うには分が悪すぎるわ。次はまた強くなってからくるわ。それに―…実験は成功してるンや」
 そう言いながらみちるは黒く、大きな翼を背中から出して窓から逃げていった。
「あ、ありがとう…あなたは」
「さっき名乗ったわ。あなたは刑事さんよね?大した能力もないくせに動き回ると命をなくすわよ?」
「妹の敵を取りたいのよ。それのためなら、命をなくしても構わないわ」
 叶はきっと強く、鋭い視線を緋玻に向ける。
「そう、あたしにはあなたが死のうが生きようが関係ないけれどね」
 そう言って緋玻は少し黙り込む。みちるが去り際に言った言葉。

「実験は成功してるんや。意思を持つケモノ。敵はうちらだけじゃなく、案外身近におるかもしれへんで?」

 確かにそう言った。この言葉の意味を緋玻は後に知る事になる。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2240/田中・緋玻/女性/900歳/翻訳家

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■         ライター通信          ■
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田中・緋玻様>

いつもお世話になっております、瀬皇緋澄です。
今回は「目隠しの森」に発注をかけてくださいまして、ありがとうございます^^
「目隠しの森」はいかがだったでしょうか?
少しでもおもしろく感じていただけるとありがたいです^^
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^

          −瀬皇緋澄