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■嬉璃■

ALF
【2946】【ねこえるりん・―】【猫神(ねこ?)】
●縮小実弾銃
「うーん、厳しいなぁ」
 下校途中、神聖都学園生徒である少年、三下忠は財布の中を覗いていた。
 財布の中には、500円玉と他少し。
 500円‥‥これが、三下が月に使えるお小遣いの全額。以前はもっとましだったのだが、嬉璃が来てからと言う物、通販による出費がかさみ、三下の懐は限りなく寒くなり続けていた。
「でも、これだけあれば漫画の新刊が買えるぞ。楽しみにしてたんだから‥‥」
 たかが漫画一冊‥‥とは言え、発売をずっと楽しみにしていたのだ。
 ささやかな幸福‥‥例え、漫画を買って帰っても、嬉璃に「お主の物は、わしの物。わしの物は、わしの物」とばかりに奪われてしまうだろうとしても‥‥一瞬でしかないとしても、訪れるだろう幸せに思いをはせ、しみじみとその幸福を噛み締める。
 しかし、三下の幸せなど続かない‥‥というか、訪れる事さえない。
 神がそう定めたかのようにその時、同級生にして部の先輩のオカルトアイドルSHIZUKUが高速で疾走しながら、背後に迫ってきていたのだった。
「三下君、さよならーっ!」
 追い抜きざまにSHIZUKUが三下の背中を強めに叩き、そのまま飛ぶように走って去っていく。
 挨拶のつもりのその一撃‥‥しかしその時、三下の財布を持つ手が揺れた。
「あ‥‥‥‥」
 財布の中から飛び出した500円玉が、地面に落ちる。そのまま歩道を横切るように転がり‥‥そして、まっすぐ吸い込まれるように、ビルとビルの細い隙間へと転がり込んでいく。
「あーっ!」
 慌てて三下は500円玉の後を追い、その隙間の前に跪いた。
 その隙間の幅は5cmもない。手も入らないその隙間に顔を押しつけ、三下は叫んだ。
「僕の‥‥僕の漫画〜〜!!」


「嬉璃えも〜ん‥‥」
「その名で呼ぶなと‥‥なんぢゃ、土下座の練習でもしてたのか?」
 部屋のドアが開けられるなり響いた哀れっぽい声に、通販番組を映し出す謎のテレビから目を離して言い返そうとした嬉璃が見たのは、膝から下と上半身を泥まみれにした三下の姿だった。
「ち‥‥違うよぅ。酷いよぅ」
 泥まみれなのは、500円玉を取ろうと、小学生でもやる前に分かるような無駄な努力を続けた結果。
 涙をダバダバ流しながら、鬱陶しく拗ねる三下。彼を見て、嬉璃は小さく溜息をつくと、慈愛の微笑みを浮かべて言う。
「鬱陶しい奴じゃ。わしが笑えている内に泣き止んで、理由の一つも話さんと、お主が想像した事もないような酷い目に遭わせるぞ」
「え‥‥えと‥‥じつは‥‥‥‥」
 嬉璃は本気だ‥‥そう、本能的に察した三下は、とりあえず涙を止める努力をしながらも、事の経緯を自分なりに語り始めた。
 で‥‥‥‥
「良くわかった。しかし、たかだか500円でみっともない‥‥」
 うなずき、そして呆れた顔で三下を見ながら嬉璃は言う。しかし、その表情は、すぐに笑顔に変わった。
「ぢゃが‥‥ちょうど良い。そんな時にはこの縮小実弾銃じゃ!」
 言いながら嬉璃は自分のお腹に巻かれた帯の中に手を突っ込み、モーゼルによく似た拳銃を引っ張り出して高く掲げた。その銃がビカビカと光った気さえする。
「じゅ、銃!?」
 驚いて後ずさる三下に、嬉璃は邪悪な笑みを浮かべながら銃を向けた。直後‥‥響く銃声。三下の眉間に穴が開き、そこから鮮血が散る‥‥血がどんどん噴き出す。
 ‥‥と、血が抜けた分、まるで風船が縮むみたいに三下は縮んでいく。
 一方、血は蒸発するかのように出る端から消えていっていた。
 そして、三下の身長が5cmくらいになった所で縮小は止まる。小さくなった三下は自分の身体を呆然と見ているようだった。
 踏み潰したい‥‥そんな欲求が嬉璃に芽生えるが、ともかくさておき、嬉璃は銃を再び三下に向ける。
「元に戻すには、もう一度撃つ‥‥と。ああ、小さなりで動くでない! 外れるぢゃろ!」
 文句を言いつつ、引き金を引く。放たれた銃弾は、小さな三下を貫通し、弾けるように消し飛ばした。
 と、直後に、三下がいた場所に魔法のようにもとの大きさの三下が現れる。
「ひぃぃいいいいいいっ! 怖い! 怖いよぉ!」
 三下は、涙を流しながら叫んでいた。まあ、自分の身体よりも大きな銃に狙われ、銃弾‥‥いや、砲弾並みの大きさの攻撃を受けて消し飛んだ体験をすれば、誰だってそうなるだろう。
 しかし嬉璃は、そんな事はかまっちゃ居なかった。
「落ち着け。痛みなどなかろうが」
「痛いよ! 全身、痺れるみたいに痛いよ!」
 銃弾を喰らえば、死なない程度に‥‥一発殴られたくらいには痛いらしい。もっとも、三下の痛がりようは少々騒ぎすぎだが。
「まあ、何にしても死ぬ程ではないのだろうが」
 嬉璃はそう言いながら縮小実弾銃を三下に渡す。
「何にせよ、これで縮めば隙間に入って500円が拾えるぢゃろ。さっさと行ってこい」
 恐る恐る銃を受け取って、三下は嬉璃に何気なく聞いた。
「でも、良くこんなの持ってたね?」
「ああ‥‥何せ、月分割20回払い1万円で安かったからの」
 さらっと言いながらテレビの前に戻る嬉璃。と、そこで思い出したかのように付け加えた。
「払いは今月からぢゃ。頼んだぞ」


 嬉璃の台詞を受けて、三下が狂ったように泣きながら部屋を出て行ってから一時間‥‥通販番組が終わり、嬉璃は時計を見上げた。
「ん‥‥幾ら何でも時間がかかりすぎぢゃの」
 小首を傾げる嬉璃はふと、有る事に思いつく。
「あれ‥‥そう言えば、一人で元に戻れるんぢゃろか」
 縮小実弾銃。撃たれた本人とその着衣は縮むが、銃自体は縮まない。縮んだ者は銃をまた撃てるだろうか‥‥?
 気まずい結論に至り、嬉璃は立ち上がった。
「仕方がない。探しに行ってみるかの」


 道ばたにモーゼルによく似た銃が落ちていた。
 それは、縮小実弾銃‥‥
 その側にはビルとビルの細い隙間があったが、そこに何か生き物が居るような気配はなかった。

嬉璃へも

●縮小実弾銃
「うーん、厳しいなぁ」
 下校途中、神聖都学園生徒である少年、三下忠は財布の中を覗いていた。
 財布の中には、500円玉と他少し。
 500円‥‥これが、三下が月に使えるお小遣いの全額。以前はもっとましだったのだが、嬉璃が来てからと言う物、通販による出費がかさみ、三下の懐は限りなく寒くなり続けていた。
「でも、これだけあれば漫画の新刊が買えるぞ。楽しみにしてたんだから‥‥」
 たかが漫画一冊‥‥とは言え、発売をずっと楽しみにしていたのだ。
 ささやかな幸福‥‥例え、漫画を買って帰っても、嬉璃に「お主の物は、わしの物。わしの物は、わしの物」とばかりに奪われてしまうだろうとしても‥‥一瞬でしかないとしても、訪れるだろう幸せに思いをはせ、しみじみとその幸福を噛み締める。
 しかし、三下の幸せなど続かない‥‥というか、訪れる事さえない。
 神がそう定めたかのようにその時、同級生にして部の先輩のオカルトアイドルSHIZUKUが高速で疾走しながら、背後に迫ってきていたのだった。
「三下君、さよならーっ!」
 追い抜きざまにSHIZUKUが三下の背中を強めに叩き、そのまま飛ぶように走って去っていく。
 挨拶のつもりのその一撃‥‥しかしその時、三下の財布を持つ手が揺れた。
「あ‥‥‥‥」
 財布の中から飛び出した500円玉が、地面に落ちる。そのまま歩道を横切るように転がり‥‥そして、まっすぐ吸い込まれるように、ビルとビルの細い隙間へと転がり込んでいく。
「あーっ!」
 慌てて三下は500円玉の後を追い、その隙間の前に跪いた。
 その隙間の幅は5cmもない。手も入らないその隙間に顔を押しつけ、三下は叫んだ。
「僕の‥‥僕の漫画〜〜!!」


「嬉璃えも〜ん‥‥」
「その名で呼ぶなと‥‥なんぢゃ、土下座の練習でもしてたのか?」
 部屋のドアが開けられるなり響いた哀れっぽい声に、通販番組を映し出す謎のテレビから目を離して言い返そうとした嬉璃が見たのは、膝から下と上半身を泥まみれにした三下の姿だった。
「ち‥‥違うよぅ。酷いよぅ」
 泥まみれなのは、500円玉を取ろうと、小学生でもやる前に分かるような無駄な努力を続けた結果。
 涙をダバダバ流しながら、鬱陶しく拗ねる三下。彼を見て、嬉璃は小さく溜息をつくと、慈愛の微笑みを浮かべて言う。
「鬱陶しい奴じゃ。わしが笑えている内に泣き止んで、理由の一つも話さんと、お主が想像した事もないような酷い目に遭わせるぞ」
「え‥‥えと‥‥じつは‥‥‥‥」
 嬉璃は本気だ‥‥そう、本能的に察した三下は、とりあえず涙を止める努力をしながらも、事の経緯を自分なりに語り始めた。
 で‥‥‥‥
「良くわかった。しかし、たかだか500円でみっともない‥‥」
 うなずき、そして呆れた顔で三下を見ながら嬉璃は言う。しかし、その表情は、すぐに笑顔に変わった。
「ぢゃが‥‥ちょうど良い。そんな時にはこの縮小実弾銃じゃ!」
 言いながら嬉璃は自分のお腹に巻かれた帯の中に手を突っ込み、モーゼルによく似た拳銃を引っ張り出して高く掲げた。その銃がビカビカと光った気さえする。
「じゅ、銃!?」
 驚いて後ずさる三下に、嬉璃は邪悪な笑みを浮かべながら銃を向けた。直後‥‥響く銃声。三下の眉間に穴が開き、そこから鮮血が散る‥‥血がどんどん噴き出す。
 ‥‥と、血が抜けた分、まるで風船が縮むみたいに三下は縮んでいく。
 一方、血は蒸発するかのように出る端から消えていっていた。
 そして、三下の身長が5cmくらいになった所で縮小は止まる。小さくなった三下は自分の身体を呆然と見ているようだった。
 踏み潰したい‥‥そんな欲求が嬉璃に芽生えるが、ともかくさておき、嬉璃は銃を再び三下に向ける。
「元に戻すには、もう一度撃つ‥‥と。ああ、小さなりで動くでない! 外れるぢゃろ!」
 文句を言いつつ、引き金を引く。放たれた銃弾は、小さな三下を貫通し、弾けるように消し飛ばした。
 と、直後に、三下がいた場所に魔法のようにもとの大きさの三下が現れる。
「ひぃぃいいいいいいっ! 怖い! 怖いよぉ!」
 三下は、涙を流しながら叫んでいた。まあ、自分の身体よりも大きな銃に狙われ、銃弾‥‥いや、砲弾並みの大きさの攻撃を受けて消し飛んだ体験をすれば、誰だってそうなるだろう。
 しかし嬉璃は、そんな事はかまっちゃ居なかった。
「落ち着け。痛みなどなかろうが」
「痛いよ! 全身、痺れるみたいに痛いよ!」
 銃弾を喰らえば、死なない程度に‥‥一発殴られたくらいには痛いらしい。もっとも、三下の痛がりようは少々騒ぎすぎだが。
「まあ、何にしても死ぬ程ではないのだろうが」
 嬉璃はそう言いながら縮小実弾銃を三下に渡す。
「何にせよ、これで縮めば隙間に入って500円が拾えるぢゃろ。さっさと行ってこい」
 恐る恐る銃を受け取って、三下は嬉璃に何気なく聞いた。
「でも、良くこんなの持ってたね?」
「ああ‥‥何せ、月分割20回払い1万円で安かったからの」
 さらっと言いながらテレビの前に戻る嬉璃。と、そこで思い出したかのように付け加えた。
「払いは今月からぢゃ。頼んだぞ」


 嬉璃の台詞を受けて、三下が狂ったように泣きながら部屋を出て行ってから一時間‥‥通販番組が終わり、嬉璃は時計を見上げた。
「ん‥‥幾ら何でも時間がかかりすぎぢゃの」
 小首を傾げる嬉璃はふと、有る事に思いつく。
「あれ‥‥そう言えば、一人で元に戻れるんぢゃろか」
 縮小実弾銃。撃たれた本人とその着衣は縮むが、銃自体は縮まない。縮んだ者は銃をまた撃てるだろうか‥‥?
 気まずい結論に至り、嬉璃は立ち上がった。
「仕方がない。探しに行ってみるかの」


 道ばたにモーゼルによく似た銃が落ちていた。
 それは、縮小実弾銃‥‥
 その側にはビルとビルの細い隙間があったが、そこに何か生き物が居るような気配はなかった。
 と‥‥そこに何かが通りがかる。
 猫耳猫尻尾のついた男の子としか形容できないそれ‥‥ねこえるりんは、ふにゃふにゃと機嫌良く鼻歌なぞを歌いながら歩いて来、そして落ちていた縮小実弾中に気付いた。
 ねこえるりんは屈むと、それを手に取ってしげしげと眺め、それからおもむろにポケットにしまい込む。
「銃は危ないです」
 立ち上がり、ねこえるりんはまた、ほにゃほにゃと鼻歌を歌い出した。そして、その視界の端に、何か動く物を見つける‥‥

●嬉璃が行く
「このわしにいらん手間をとらせるとは、まったくもって無能な奴ぢゃ」
 嬉璃は勝手に憤慨しながら、往来を歩いていた。まあ、三下が有能な人間だったら、嬉璃がここにいるわけもないのだから、今更にそんな事を責めるのはどうかと思うのだが。
「‥‥では、その無能な三下君の為、私に手間をとらせようとしている貴方は何だ?」
 と‥‥淡々とした問いかけが、嬉璃の頭上から降ってきた。
 嬉璃の背後を歩くササキビ・クミノが、憮然とした表情で嬉璃を見下ろしている。とはいえ、これはいつもの通りであり、愛想の良い表情などを嬉璃に見せたことは無い。
「全ての罪は三下にある。それで良いぢゃろ」
「正直に言え。買ったばかりの新商品を使いたかっただけだろう」
 適当に話を切り上げようとする嬉璃に、ササキビは鋭く正しいツッコミを入れた。更にその上でササキビは、呟くように言い足す。
「隙間を友好利用! 【スキマサンギョウ】でも使えば良かったのに」
「それは今一つ、購買意欲が‥‥商品の魅せ方がたらんとおもわんか?」
 何の品評か、嬉璃は言い返した。
「所詮通販と言えども‥‥いや、通販だからこそ、商品の魅力をだな‥‥と!?」
「うわぁ!?」
 すらすらと続けようとした講釈が、嬉璃が何かに躓いた事で途切れる。
 嬉璃より大きなものにつまずいたが故に、跳ね返されるようにして後ろに尻餅を付く嬉璃。
 そのつまずかれたもの‥‥どことなく貧乏くさい中年男、シオン・レ・ハイは、這い蹲っていた姿勢から擦り寄るようにして嬉璃の元へ寄り、彼女を助け起こすべく手を差し出した。
「これは申し訳有りません! 大丈夫でしたか、お嬢さん!」
「‥‥かまうな」
 嬉璃はシオンに憮然として言い返すと、彼の手を借りることなく立ち上がる。
「‥‥それより、最近は天下の往来で土下座の練習をするのが流行っているのか?」
 シオンは、地面に這い蹲って何かをしていたらしい。それが、三下の様と似ているような気がして嬉璃はシオンに聞いた。
 かなり不躾な質問だったが、シオンはそれを気に止めることもなく答を返す。
「あ、いえ、あのですね。どうもズボンのポケットに穴が開いていたらしくて‥‥」
 苦笑しながら立ち上がり、ズボンのポケットを引きずり出してみせる。
 パルプと化したティッシュの残骸の他には何も入っていないポケットには、確かに縫い目の解れがあって、そこが穴になっていた。
「大事な一円玉が、ここから落ちたらしくて‥‥それで、恥ずかしながら、こんな格好を」
「1円‥‥全く、どいつもこいつも」
 嬉璃は呆れたような声を上げた。
 たかが1円‥‥かたや500円。金額の差こそあれ、それだけの為にこうもみっともない行動をとる者がこの世に二人もいたとは。
 そんな事実に新しい発見の爽快感など有るはずもなく、嬉璃は世の無常を深い溜め息で嘆いてみせ、そしてそれから何事も無かったかの様にシオンに言った。
「まあ良い。それより、土下座しておったなら、小さい者もよく見えたぢゃろう。こ奴を見なかったか?」
「はい‥‥」
 嬉璃がシオンに渡したのは一枚の写真。その中に三下少年が、緊張した‥‥と言うかいっそ怯えたようなと言うべき表情で写っている。
「可愛いお嬢さんですね」
 写真を見、シオンは勘違いした。まあ、三下少年は女顔だから、仕方のない誤解だとは言える。嬉璃は誤解を解こうともせずに言葉を投げ返す。
「‥‥何でも良いから、見たか見てないかだけ言え」
「いえ、残念ながら見てはいません」
「そうか‥‥では、別の所を探すか」
 シオンの正直な答えに嬉璃はぶっきらぼうに言い、そしてシオンを一睨みして続けた。
「では行くぞ。さっさとついてこい」
「は!? いや、何故‥‥それに私は落としたお金を探さないと」
 突然ついてこいと言われたシオンは、当然の様に困惑と疑問の声を上げる。
 しかし、それを完全に叩き潰すかのように、嬉璃は傲慢に言い返した。
「ふん‥‥わしの行く先を塞いだことに対する慰謝料という奴ぢゃ」
「慰謝料!? そんな‥‥」
 ちょっとぶつかっただけ‥‥しかも、前方不注意だった嬉璃にも問題がありそうなのにというシオンの感想は捨て置き、嬉璃はどんどん言葉を連ねていく。
「無論、金銭で取り立てるが筋というものであろうが、1円に事欠く者からこれ以上はむしれまい。よって慈悲深いわしが、お主に労働奉仕をもって慰謝料を支払う機会を与えようと言っておるのぢゃ。それに、同じ土下座するなら人助けのために土下座するがよかろう。親切は人のためならずぢゃ」
「はあ‥‥まあ、人助けと言う事なら。でも一体、何があったと言うんです?」
 シオンは反論を諦めて聞いた。何を言っても、押し切られそうだから。
 それに、写真の女の子‥‥未だに勘違い中の三下君の事も心配である。
「ふむ‥‥それがな」
 嬉璃は説明を始める。とは言え、三下が何故に金銭に事欠いているのか‥‥すなわち全ての原因が嬉璃の浪費のせいである事は微塵も語ろうとはしなかったが。
 そして‥‥
「うう‥‥こんなに若いのに、貧乏に苛まれているなんて何て可哀相なんでしょう」
 全てを聞き終えて、シオンは同情の涙を流した。貧乏に苦しむのはシオンも同じ。加えて、うら若き少女(未だ勘違い中)が、同じ苦しみを味わっているとは‥‥
 シオンは、1円を泣く泣く諦め、三下少年を探すことに決めた。
「自力では元の姿に戻れない事を悟って、家を目指しているのかもしれません。ですが、身体の大きさから言って、そんなに遠くには行っていないでしょう」
 早速地面にへばりつくように姿勢を低くしながら、シオンは実に的をえた事を言う。
 体が小さいと言う事は歩幅も小さいと言う事。つまり、一定時間で移動できる距離は相応に短くなっている。
「探せば見つかりますよ。犬等がくわえて行ったとか、溝にはまってるとか、そんな不測の事態にあっていれば別ですけど」
 シオンは、まあそんな事はないだろうと言う軽い気持ちでそんなことを言った。

●不測の事態
「待つでーすっ!」
「うわわわわわわっ!」
 必死になって走る三下の後を、巨大な影が追う。そして、丸太のように太い腕を伸ばし、三下を叩き潰すかのように振り下ろしてきた。
 すんでの所でそれは外れたが、三下を追う者はそれで諦めたりはしない。再び腕が持ち上げられ、三下を狙う。
 とはいえ‥‥実際には三下は縮んでいるので、描写したとおりのスケールではない。
 路地裏、必死で逃げまどう三下を、耳をピンと立てて目を輝かせながら追いかけているのは、ねこえるりんだった。
 小さくてチョロチョロ動き回る物を追うのは猫の本能みたいなものだ。それに忠実に、ねこえるりんは三下を追い回している。
 しかし、追われる方にしてみればもう、そのまんま死活問題だ。
「やだーーーっ!」
「掴まえたーっ!」
 三下の悲鳴と同時に、三下はねこえるりんの手にプチっと叩き潰されていた。
 もっとも、死んではいないようで、三下はねこえるりんの手の下でじたばた藻掻いている。
 と‥‥ねこえるりんが手を上げる。三下は慌てて逃げようとし‥‥そこをねこえるりんの手が再び叩き伏せる。
 押さえつけたまま三下をズルズルと引きずって逃げる前の場所に戻して、また手を上げるねこえるりん。
 もう一回逃げようとする三下は、またねこえるりんの手に捕まって引きずり戻される。
「うふふふふふふぅ」
「ううっ、やめてよぉ‥‥」
 三下は泣き声を上げるが、猫本能に突き動かされているえこえるりんはそれを止めない。
 何度も繰り返しながら、恍惚としている。
「うううう‥‥」
 何度もやられている内に、どんどんボロっちくなっていっている三下が、再度上げられた手の下で、最早逃げる気力もなく呻く。
 その時だった。
「あら〜、猫さん〜、弱い者を苛めちゃ、ダメですよ〜」
 ねこえるりんに、スローテンポの声がかかる。
 路地裏を覗き込んだ姿の鷲見条・都由は、ねこえるりんに微笑みかけ、さらに言葉を続けた。
「ね〜、わかったら〜放して上げて〜」
「はい、わかったです」
 素直にねこえるりんは三下から手を放し、それから三下を見下ろした。ボロっちくなってるけど、どうしようか‥‥と。
「えーと」
「その子は、私が預かります〜」
「じゃあ、お願いしますなのです」
 礼儀正しくペコリと頭を下げ、ねこえるりんは去って行きかけ‥‥そして思い出したかのようにポケットの中の銃を取り出した。
「そう言えば、落とし物なのです。銃は危ないので、大人の人に預けるのです」
「あらら〜銃だなんて、恐いわ〜」
 言いながら鷲見条は、縮小実弾銃を受け取った。そしてそのまま、誤射の危険など何も考えず、銃とはそうやって持つ物だと安易に考えて銃把を握る。
 直後、引き金に鷲見条の指が触れ、銃弾が撃ち出された。轟音に鷲見条は驚き、身を竦ませ、目を瞑る。
 そして銃声の余韻も消えて目を開いた時、そこにねこえるりんの姿は無かった。
「あらら〜‥‥猫さん、足がお速いのね〜」
 小首を傾げて辺りを見回し、ねこえるりんの姿を探すもその姿は何処にもなく‥‥ただ、踏み出した鷲見条のサンダルの下から本当に小さな猫の尻尾がはみ出していたが、不幸にもそれには誰も気付かなかった。
 まあ、神様だから平気だろう。
「購買のおばちゃ〜ん!」
 ねこえるりんを探すのを断念した鷲見条は、足下から呼びかける声に気付いて下を見た。
 そしてそこに三下の姿を見つけ‥‥驚く事もなく微笑みながら言葉を返す。
「あら〜、確か三下君でしたよね〜。こんなに〜小さかったでしょうか〜。ああ〜、実は〜小人の国の住人で〜魔法が解けて元に戻ったとか〜。もしかして〜、噂の小人の呪いなのでしょうか〜。小人さんに〜お礼をしないと〜小さくなってしまうという呪い〜、噂は本当だったんですね〜」
「違いますよぅ!」
 三下は、鷲見条の訳の分からない想像がどんどん飛躍していくのを止めるために声を上げる。
「え〜違うんですか〜?」
 違うと言われて、何故か不満そうな鷲見条。彼女に、三下は一所懸命に説明を始めた。
「実は、その銃で‥‥というか、元々は‥‥」
 ややあって説明を聞き終え、鷲見条は何処からともなく漫画の新刊を取り出す。
「新刊〜、もしかしてこれですか〜? 購買で買うと〜駄菓子1個買える位お得です〜。頑張って〜探してくださいね〜」
「ああ、購買のおばちゃん‥‥500円見つけても、それは嬉璃えもんの通販代金に消えてしまうんだよぅ。もう、僕のお小遣いなんて‥‥一円も‥‥あれ、変だな涙が止まらないや」
 そのまま、えくえくと泣き始める三下。
 鷲見条は小さく溜め息をつき、漫画を何処かにしまってから言った。
「あらら‥‥お金がないんじゃ仕方有りませんねぇ〜。漫画の本は取って置いて上げますから〜。それと〜、これはお返ししますね〜」
 泣きじゃくる三下の前に、鷲見条は縮小実弾銃を置く。
「では〜、お金を探すの頑張って下さいね〜」
 言いながらそそくさと去っていく鷲見条。去りゆく彼女のサンダルに、猫の尻尾がまだくっついていたが、非常に残念なことに、まだそれに気付く者は居なかった。
 まあ、神様だから死なないだろう。
 それはさておき‥‥三下は、小さく溜息をついた後に、縮小実弾銃に歩み寄った。
「はぁ‥‥いちど、元に戻ろう」
 言いながら銃口の前に立ち、引き金に手を伸ばそうと‥‥
「‥‥届かない」
 銃口の前に立ったのでは、引き金には手が届かない。その事実を確認し、三下は顔を青ざめさせた。
「き‥‥嬉璃えもぉーーーん!」

●お買いあげ新道具
「嬉璃えも〜ん! わしにも道具を出してくれなのじゃ!」
「えもんを付けるなぁ!」
 遭遇するなりその名で呼んだ本郷・源を、嬉璃の怒声が出迎えた。
「それに、お前に出す道具など無い!」
「金なら有るのじゃが」
 言いながら本郷は札束を取り出して嬉璃の目の前で振ってみせる。無論、中だけ白紙の偽札束だなんて事はなく、全て本物である。
「うぁ‥‥有るところには有るんですねぇ」
 シオンが目を丸くしてそれを見る前で、嬉璃は素早くその札束に自分の手を添えた。
「今は忙しい。話は後でな」
「忙しい? いつも暇そうなくせに、どうかしたのか?」
 札束を景気良く嬉璃に渡しながら、不思議そうに本郷が聞く。嬉璃はその札束を自分の着物の袖の中に落とし込みながら答えた。
「三下の馬鹿に縮小実弾銃を渡したら戻ってこなくなったのぢゃ」
「ほう、難儀じゃの」
 難儀でも何でもなさそうな声で本郷。その横で、ササキビが嬉璃に聞いた。
「何か道具で探せないのか? 『指定存在を一撃必殺、体戮弾道弾!』とか」
「殺してどーする。いや、待てよ‥‥」
 ササキビに言葉を返し、嬉璃は帯の中から携帯電話を引っぱり出した。そして、手慣れた様子でボタンを押して相手を呼び出す。
「来い」
 ただ一言。そして切る。
 その直後‥‥本当に一瞬と言っていい程の直後に、アンティークショップ・レン通販部のロゴの入ったトラックが、嬉璃の前に滑り込むようにやってきて停車した。
「まいど、アンティークショップ・レン通販部です」
 中から出てきた作業服の男に頷き、嬉璃はシオンを指さす。
「あいつに、人捜し用の一式をあつらえるのぢゃ」
「はい。ご利用ありがとうございます」
 言うなり、作業服の男はシオンの元へと歩み寄り、パーティ用ヒゲ付き鼻眼鏡、付け犬耳、殿様ちょんまげを素早く装着させた。
 その後、配達証明を嬉璃に差し出し、サインをもらってから、作業服の男はトラックに戻って走り去っていく。
 全ての出来事は、ほんの数分の事だった。
「これは‥‥」
 一瞬のうちに、仮装パーティーでももう少しセンスがあるだろうという格好にされてしまったシオンが呆然と呟く。
 と、次の瞬間、頭上の殿様ちょんまげが、チャカポコと奇妙な音を立てつつ、回転灯のごとく光を発しながら回りだした。
「ふおおおお!? 感じる! 何か感じますよぉ!」
「電波を探知する『殿様ご乱心』ぢゃ。それと、小さな・遠くの物も見える鼻メガネ。後は小さな声も聞き逃さない付け犬耳『わんダフル』とか言ったな」
 何か怪しげな物を感じてガクガク来ているシオンに冷静に説明する嬉璃。そんな嬉璃に、ササキビが言う。
「‥‥その商品、確か、あまりのセンスの無さに買う気がないんじゃなかったのか?」
 だいぶ前に会った時は、嬉璃はそんな事を言っていたのだが‥‥
「背に腹はかえられん。何より、わしは買う気など無い」
 嬉璃がニヤリと笑いつつ含みを持って言い返したその時、半分放置されていたシオンが叫んだ。
「おお!? 嬉璃えもんの名を呼ぶ声が聞こえます! 聞こえますよぉーっ!」
「つくづく、センスがないな」
 感じる物がある方へとフラフラ歩き出すシオンを見、嬉璃が一言ぼやく。そんな彼女の袖を引いて、本郷が真顔で言った。
「あーいう良い物が、源も欲しいのじゃ。わかるかのぅ嬉璃えもん」

●酷い目に遭う人々
「ううう‥‥どうしよう‥‥‥‥」
 元に戻れないことを悟った三下は、銃の前で泣き崩れていた。と‥‥
「見つけましたよ! ここにいました!」
 シオンが例の珍妙な扮装で三下を見下ろす。直後、どやどやと嬉璃、ササキビ、本郷の三人が三下の周りに集まってきた。
「これが、縮小実弾銃か‥‥」
 三下の事など見もしないで、ササキビは縮小実弾中を拾い上げる。そして、何処からどう取りだした物か、木製ケースを銃の後部に取り付けて、ウッドストックにして遊びだした。
 その傍ら、嬉璃は三下を意地悪そうに見下ろし、そしていたぶるように優しい声で話しかける。
「ふふふ‥‥助けに来てやったぞ。どうぢゃ、ありがたかろう?」
「き‥‥嬉璃えもん! 早く、元に戻して‥‥」
 言いかける三下の傍らに、嬉璃の足が勢いよく踏み下ろされる。
「えもんを付けるな」
「あ‥‥はい」
 ガクガクと震える三下が、必死になって頷くのを見てから、嬉璃は誰にともなく口を開く。
「さて‥‥これで、あとはこ奴を撃って終わりぢゃの」
「よし! 撃てばよいのじゃな!?」
 返答は嬉璃の想像外の場所から帰った。
 言うなり本郷は素早く銃を構えて三下に向ける。黒い鈍光を放つコルト・オートマチックを。
「え‥‥違‥‥」
 呟く三下の言葉を銃声が掻き消す。直後、三下から僅かに離れた場所でアスファルトが砕けた。
「うわああああああああっ!?」
「ん、外したか。じゃあ、もう一発‥‥」
 三下の悲鳴など何処吹く風と、本郷は軽く舌なめずりをしながら改めて三下に狙いを定めた。
「待たんか」
 言いながら嬉璃が本郷の腕を上に押し上げる。
 直後に放たれた銃弾は、遙か天の高みを目指して飛んでいった。
 それを見送るかのように本郷は空を見上げ、それから嬉璃に非難の声を上げる。
「撃てば良いのじゃろう? ならば、このコルトが適切じゃ!」
「何を言っておる。縮小実弾銃で撃たねば、こやつがミンチになるだけぢゃ。それはそれでかまわんが、掃除はお主がするのぢゃぞ」
 嫌そうな嬉璃‥‥三下を案じてと言うよりも、後始末の方が心配らしい。
 本郷も、路上で震える三下に目をやり、嬉璃に言葉を返す。
「ま、そう言う事なら仕方がないの」
「ん‥‥では、元に戻すぞ」
 銃を懐にしまった本郷に嬉璃は言い、それからササキビの方に視線で合図する。
 ササキビは軽く頷き、手の中の縮小実弾銃のセレクタをフルオートにしてから三下に向けた。
「一発では当たらないかもしれないから、20発弾倉全て撃たせてもらう。既に撃った分、何発か足りないのは残念だが、我慢してくれ」
 直後、三下の悲鳴を引き裂いて、縮小実弾銃から銃弾が吐き出される。その銃弾は、ササキビの手により驚異的な集弾率で三下へと襲いかかった。
 自身に比して砲弾と言っていい程の大きさの銃弾が、三下の身体を粉みじんに粉砕するに飽きたらず、一欠片も残さずにすり潰す。
「ほう‥‥消えたのぅ」
「まったくぢゃの」
 呑気に言う本郷と嬉璃。
 ややあって、三下が元通りの人間サイズで再生を果たした。とは言え‥‥常人ならば一生に一度も味わえぬだろう、死の恐怖と苦痛を味わった三下は、身体を硬直させたまま死んだように動かなかったが‥‥
「あ、あの、この子、大丈夫ですか?」
 恐る恐る聞くシオンに、嬉璃はいきなり三下の腹を踏んづける事で答えを見せる。
「げふぅっ」
「鳴いたな‥‥大丈夫ぢゃ」
「大丈夫じゃないよぅ!」
 泣き声とともに身を起こして、三下は嬉璃に抗議した。しかし、嬉璃は一向に気にした様子はない。
 もちろん、ササキビや本郷も気にしていない。
 めげて泣きそうになる三下‥‥だが、ここにはただ一人、優しい人がいた。
「大丈夫ですか?」
 シオンはそう言って手をさしのべ、三下を立たせる。
「あ、ありがとう御座います」
「いえいえ。しかし‥‥お腹を蹴るなんて酷いですね。赤ちゃんが産めなくなってしまいますよ」
 三下の礼に答えた後、嬉璃にちょっと非難がましく言うシオン。三下はその言葉の意味を理解出来ずに首を傾げる。
「赤ちゃん‥‥?」
「何をぶつくさ言っておる。帰るぞ」
 嬉璃はシオンの事も三下の事も全く眼中になく、立ち上がった三下に背を向け、さっさと歩き出した。
「全く‥‥人騒がせぢゃった」
 人騒がせなのは嬉璃の出した道具であり、三下にはあまり非がないような気がするが‥‥嬉璃はそんな事はちっとも気にしていない。
 無論、そんな不条理に気付く程、三下君も気が利いてはいないのだった。
「あ、でも、まだ500円が‥‥」
 未練がましく三下は地面を見る。三下の500円玉は、まだこの辺りに有るはずなのだ。
 ササキビは、そんな三下に言って聞かせる。
「また戻れなくなって騒ぐつもりか? それに、見つけても縮んだ後の身体の大きさでは500円玉を持ち上げられまい。諦めろ」
 ササキビはそう言って、縮小実弾銃をウッドケースに戻した。それを、素知らぬ顔で本郷が受け取り、誰も見てないのを良い事に懐に忍ばせる。
「まあ、永久に借りておくだけじゃ」
「何か言うたか?」
「全く何も言っていないのじゃ」
 本郷に嬉璃は聞くが、本郷は綺麗にポーカーフェイスを貫いて言い切る。
 それに騙されたという訳でもないのだろうが、嬉璃は何を咎めるという事もなく本郷を解放し、改めて三下へと視線を移す。
「ササキビの言うとおりだ。そんな事も分からないのか?」
 最初に道具を渡したのは嬉璃では無かろうか‥‥? だが、そんな疑問の声は何処からも上がらなかった。
「えぇ〜‥‥でも‥‥‥‥」
 三下は、未練たっぷりにぐずる。
 500円。それが無いと、このあまりにも役立たずだった縮小実弾銃の料金が払えないかも知れないのだ。だから、三下は諦めろと言われても諦める事が出来ない。
 動かない三下に嬉璃は、三下の側で事態を見守っていたシオンを指さして言った。
「ぢゃあ、後はこの冴えない中年男‥‥秘密道具シオン号に頼め。わしは、帰って寝る」
「待つのじゃ、源の為に道具を出す約束じゃぞ」
「ああ、わかっておる。ぢゃが、後でな」
 嬉璃と共に歩み出しながら本郷が言う。嬉璃はぞんざいに頷きながらさっさと先に進んでいった。
「ではな、三下君。頑張ってくれ」
 ササキビは一声かけてから、嬉璃と本郷とは違う方向に歩き出す。家に帰るのだ。
 残されたシオンは、去っていく連中を見送り‥‥それから、三下に言った。
「じゃあ、探しましょうか。嬉璃さんからもらったこの秘密道具が有れば、すぐに見つかりますよ」
「あ‥‥はい、すいません。でも‥‥もらった?」
 お礼を言いながらも、三下は疑問に思う。
 嬉璃はそんなに気前が良かっただろうか‥‥いや、相手が三下限定でケチだったりはするようなのだが。
 そんな疑問は知らず、三下の前でシオンは這いつくばって500円玉を探し始める。光り輝くちょんまげは、再びクルクルと回り始めた。
 路上で這いつくばって、輝くちょんまげをクルクル回しながら音を高らかにならしつつ、犬耳をひくつかせている、鼻眼鏡の男。
 などという路上に置いておいて良いものか悩む格好のシオンと一緒に、三下が晒しものになって小一時間‥‥シオンはついに、家の壁とアスファルトの隙間に挟まっていた500円玉を見つけ出した。
 すかさずシオンは500円玉を拾い、誇らしげに手に持って立ち上がる。
「さ、見つけましたよ!」
「あ、ありがとうございます!」
 500円‥‥このために酷い苦労をした。三下は、涙を流しながら手を揃えて出す。
 シオンはそっと、三下のその手の平に500円を落とした。
 三下の泣き顔が、満面の笑みに変わる。
「今日は本当にありがとうございました」
「いえ、良いんですよ。それじゃあ」
 何度も礼を言う三下に軽やかな笑みを向けながら離れつつ、シオンは達成感でいっぱいだった。
「人助けをした後は気分が良いですねぇ」
 そして、シオンは満足げに歩き出す。再び、一円玉を探すために。しかし、その背後から駆け寄る者の姿があった。
「あの、すいません」
「はい?」
 アンティークショップ・レン通販部の作業服の男が、シオンを呼び止める。
 そして、振り返るシオンに伝票を渡した。
「サイン、お願いします。商品3点で、お支払いの方、合計で月々2980円の6回払いになってますんで。忘れずに振り込むか、自動引き落としをご利用ください」
 2980円の6回払い‥‥
 それは、自分の身につけている道具の代金。
 全てに気がついたその時。シオンの断末魔の叫びが近所中に響き渡った。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 年齢 / 性別 / 職業】

1166/ササキビ・クミノ/13歳/女性/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。
3107/鷲見条・都由/32歳/女性/購買のおばちゃん
2946/ねこえるりん・―/999歳/男性/猫神(ねこ?)
1108/本郷・源/6歳/女性/オーナー 小学生 獣人
3356/シオン・レ・ハイ/42歳/男性/びんぼーEfreet

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■         ライター通信          ■
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