■I’ll do anything■
九十九 一 |
【1779】【葛城・伊織】【針師】 |
都内某所
目に見える物が全てで、全てではない。
東京という町にひっくるめた日常と不可思議。
何事もない日常を送る者もいれば。
幸せな日もある。
もちろんそうでない日だって存在するだろう。
目に見える出来事やそうでない物。
全部ひっくるめて、この町は出来ている。
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祭りの日 〜葛城・伊織〜
仕上がった浴衣を手に、羽澄はそれは嬉しそうに微笑んだ。
見てる周りも幸せになれるような、そんな笑顔で真新しい浴衣に袖を通す。
紺地の朝顔柄のゆかたは髪の色と合わせてとてもよく似合っていた。
羽澄をよく知るからこそここまでの物を作れたのだろう。
「ありがとう、かなちゃん」
「良かった、よく似合ってる。他はどうだって?」
「みんなも大丈夫だって」
親しい人を誘って、出かける約束を取り付けたのは最近の話。
切っ掛けは幾つかあった。
毎年おこなわれている縁日がもうすぐだとか、兄のように慕っている奏でが仲のいい人に毎年新しいデザインの浴衣を作ってくれる事だとか。
つまりは、恒例行事のようなもの。
既に連絡は入れてあり、後は浴衣を渡して当日を待つだけだ。
まるでこの辺り一帯だけが時がさかのぼったようだと、そんな事を考える。
祭りの当日。
つい先日伊織にと渡された真新しい浴衣は紺地に生成の縦縞模様、和服を着慣れているだけあって、帯の結び方や着こなしは実に様になっていた。
「少し早かったか」
待ち合わせの場所に立つ伊織が眺める人の流れは楽しげで、どこか暖かい物を感じるのだ。
賑やかで絶え間なく聞こえる話し声。
ついつい足が向いてしまいそうな明り。
どれを取ってもいいものだと本当にそう思う。
そろそろ待ち合わせの時間だ。
羽澄達の姿を見つけ手を振り歩き出す。
浴衣に合わせてアップに結われた髪はとても涼しげで、伊織に笑いかけるのと同時にサラリと揺れる。
「早かったのね」
「少しだけな」
笑い返してから、揃ったメンバーをグルリと見渡す。
集まった9人全員が浴衣であるだけでも人目を引くが、中でも女の子3人は特に華やかだった。
「羽澄ちゃんの浴衣大人っぽいのに可愛いね」
「ありがとう、二人もよく似合ってるわ」
「ありがとうございます」
羽澄の紺地の朝顔柄の浴衣にアップに結われた青銀の髪はとても涼しげにまとめられ、ている。
リリィが着ているのは赤地に白の花柄の浴衣で、二つに分けて結われた髪が動くたびに揺れたりしていた。
メノウは白地に荻模様の浴衣を着付けて貰ったらしく嬉しそうだった。
そして男性メンバーも全員浴衣で、加えてほぼ全員背が高いだけあって人目を引いている。
「やっぱり浴衣はいいな」
「ほんとだよな、華やかだし」
「着物、落ち着かないんだが……見るのはいいものだな」
伊織の紺地に生成の縦縞模様の浴衣、帯の縛りかたも凝っていて実によく似合っていた。
りょうが藍染めで灰色の絞りの入った着物。
ナハトは濃い紫の浴衣で金の髪が目立つからとそろいの生地でバンダナを巻いている。
「そうですね、着心地も良くて」
「あー、腹減った、早くなんか食おうぜ」
啓斗が海松色浴衣で斗の浴衣は葡萄鼠色、対になっている様ながらで、柄や帯も左右対称になっていた。
「これで全員……目立ちすぎじゃないですか」
夜倉木が呟いたのは限りなく事実。
ちなみに彼の浴衣は黒に裾にデザインが施されている物だった。
このメンバー、確かに人目を引く。
大人数で全員が着物と言う事だけが理由じゃないのは確かである。
祭りの中で上手く人混みに紛れられたらいいと思ったのだが、甘かったようだかもしれない。
「こうしてても仕方ないし、行きましょうか」
「そうだな」
「なにくおっかなー」
「北斗っ」
何はともあれ、あまり気にしない事にしてさっそくとばかりに祭りの人混みの中へと紛れ込む。
二人きりじゃないのはほんの少し残念だが、こうして大勢でワイワイやるのも楽しいものだ。
目立っていたのも最初だけで、すぐに気にならなくなる。
「そんなに食べられるの?」
北斗とりょうが両手一杯に持つ夜店で売られている食べ物の数々。
右手にはフランクフルトに焼きそば、左手にはかき氷にクレープと大判焼き。夜店で食べ物が売られている所を見ると買い始めるのだから、無茶無理無謀を地で行くようなハイペースな買い方である。
それらをどうやってバランスを取っているのか疑問に思うような配置で、実に絶妙なバランスで手に持ちながら食べているのだ。
「食べ過ぎよね」
「お腹壊しそう……」
リリィとメノウの疑問は本当に同意したくなる。
「まったく……」
軽く頭を抱える啓斗に、伊織が見つけたのは金魚釣り。
「どうだ、軽く腹ごしらえした所で勝負でも」
「いいぜ、受けて立つ!」
「何賭けるんだ?」
伊織が持ちかけた勝負にここぞとばかりに乗っかる。
「ほんと好きよね、そう言うの」
「でも楽しそう」
クスクスと笑う羽澄にリリィも同意する。
ここまで楽しそうだと、見てる側も楽しめると言うものだ。
「頑張れよ、啓斗」
「なに言ってんだよ、みんなでやろうぜ。ほら、兄貴も」
「ほ、北斗」
傍観を決め込もうとしていた啓斗の背を押し、金魚釣りの前へと連れて行く。
「一番多かった奴が勝ちな」
「ルールはどうする?」
「特殊能力禁止って事で」
「えっ」
「使う気だったのか……」
流石に人目がある上にそれぐらいの方が楽しいからと言う事だったのだが、一部は使う気満々だったらしい。
言うまでもないと思って冗談で言ったのだが、言って置いて良かった。
みんなで移動してそして勝負開始。
「これで……薄いですね」
「そうよ、そっと優しくすくうの。コツもいるけど何度かやってみるといいわ」
「がんばってね」
「はい」
紙が張られた金魚すくいの網を手にしたメノウに、羽澄とメノウが色々と教える形になる。
その横で白熱した……様な勝負をしている男性メンバー。
「意外に難しいな……最近のはこうなのか?」
開始した直後が良くなかったのか、既に半分以上破れている伊織。
「紙が弱かったんじゃねぇの?」
「うーん……」
まれな事だが、偶にこういう事があったりするのだ。
「3匹目ゲーット! って、兄貴……」
ゲーム系は得意なだけあってなにげに上手いのが北斗だったが、更に上手いのが啓斗であったりする。
「意外に楽しいな……」
流石運動神経がいいだけの事はあると言うべきか。
「多すぎないか……」
そんな事を言うナハトに、既に金魚が7匹ほど詰まった袋を手に持っていたりする夜倉木が一言。
「後でこいつにやればいいだろう」
「………おい」
現時点で金魚合計18匹。
流石に全部はなんだか怖い……まあ、何とかなるだろう。
多分。
そして結果の方はと言うと……。
結局言いだした伊織が、不幸にも全員にたこ焼きを奢る事になった訳である。
その後も色々な出店を見て回りながら、奢って貰ったたこ焼きを思いついたように一つつまようじで差し伊織の方へと差し出す。
「ハイ、健闘賞よ」
「ずいぶん豪華な商品だな」
「冷めない内に食べてね」
「もちろん」
パクリとたこ焼きを食べてから嬉しそうに笑う。
「美味い」
「よかった」
いつもよりほんの少しだけ近い距離は、それだけで照れてしまいそうな気持ちにさせる。
トクトクと早くなった鼓動を落ち着かせようと視線を他に移した羽澄が目を止めたのは、色々なアクセサリーの置かれた出店。
先に駆け寄ったのは、リリィだった。
「見てっていい?」
「いいわよ」
リリィが最初に足を止めた事で、同様に羽澄とメノウもそこに並ぶ。
「何か買うんですか?」
「うん、集めるの趣味なの」
細々としたヘヤピンやらを手に取っているリリィにメノウが声をかけたりしている。
色々な物が売られている中ふと目に付いたのは指輪。
「気になるか?」
「伊織……」
ほんの少しだけ驚いて振り返った。
指輪なら既に伊織から貰っていからと……そう続けようとして軽く振った片手を、伊織が握る事で言葉が止まった。
「違うのよ、ちょっと……」
羽澄に向けた伊織の視線は大人の……大切な人に向ける視線だったから。
「俺がもっと特別な指輪かってやるから……」
「えっ……」
「約束するから、今日は我慢な」
「―――っ!」
不意打ちとも取れる行動に、カアッと羽澄の頬が赤く染まる。
「な、なに言ってるのよ。人が居るのにっ」
「大丈夫。人混みの中じゃ、意外に他の人間は見てないから」
「そう言う事じゃなくって!」
慌てる羽澄を伊織がそれはそれは嬉しそうに見ていた。
赤くなった頬を何とか何時も通りに戻った頃に、にわかに騒がしいのは射的の屋台。
かなり反則ギリギリの手を使い、横にいるナハトと射的の主人が困った顔をしていた。
「しょうがないわね……」
手に持っていたヨーヨーを手に二人に近づく。
羽澄に気付いたナハトが一歩下がった。
ポン、ポン。
軽い音と柔らかい感触が二度。
「羽澄!」
「何やってるのよ」
驚いて振り返る。
本当に夢中になっていたようだ。
「射的……」
目線を逸らす北斗。
「っと、リリは? ………あ」
話題を変えようとしたりょうが辺りを見た途端半眼で呻く。
「どうしたんだ?」
声をかけた啓斗に、伊織が答える。
「まあ……些細な事だな」
ほんの一瞬目を離した間に、リリィとメノウに声をかけた男が二人ばかりいたようなのだ。
現在その二人は、りょうに射的の銃をそのまま突きつけられている。
「さっさと散れ!」
おもちゃの筈なのだが……りょうがもつとなんだか妙にリアルに思える上に、あの強面に睨まれたら退散しない方がおかしいだろう。
知らないで声をかけたのだろうが、何とも不幸な事である。
「大人げないわよね」
「まったくだよな」
クスクスと笑う羽澄に同意する北斗。
「そんな事言って、自分の立場だったら違う反応するくせに」
ビシリと指を突きつけられた先にいた北斗と伊織は、確かに気持ちは解ると苦笑したり照れたような顔見せる。
ほんの些細な出来事だったが、こういう事なら楽しいものだ。
祭りの夜は、まだまだ続く。
そろそろ遅くなるからと一旦解散する事になった。
「家まで送ろう」
「ありがとう」
祭りの賑やかさから大分離れた頃。
「……きゃ!」
突然バランスを崩した羽澄を伊織が抱き留めた。
「大丈夫か、羽澄?」
「うん、ちょっとつまずいただけ……」
抱き締められている事に気付き、慌てて距離を取る。
「あ、ありがとね」
「鼻緒が切れたみたいだな」
「そうみたい、どうしよう……」
困った様子の羽澄の下駄を拾い上げると、前に背中を向けて身を屈めた。
「ほら、おぶされよ」
「えっ!」
驚いて首を振る羽澄に、伊織が手にした下駄を見せて笑う。
「それじゃ帰れないし、どうしてもいやだって言うんだったらお姫様だっこにするけど」
「―――っ!」
「どっちかふたつな」
何て2択。
結局羽澄が選んだのは………。
「楽しかったか?」
「うん、来年もまた……」
背中に背負ったまま交わす会話は、暖かくてくすぐったい。
「みんなでワイワイやるのもいいが、今度は二人で来ような」
出来るなら、羽澄が迷う事がないように……この背中の暖かさを覚えていてくれるよう。
「そうね、約束よ」
返って来たのは、極上の笑顔。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【0568/守崎・北斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【1282/光月・羽澄/女性/18歳/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【1779/葛城・伊織/男性/22歳/針師】
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■ ライター通信 ■
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縁日へのお誘い、ありがとうございました。
楽しんでいただけたら幸いです。
色々と起きててそれはもう楽しかったです。
ギャグに甘い話にダーク系と。
考えてみれば凄いです。
それでは、発注ありがとうございました。
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