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■アトランティック・ブルー #3■

穂積杜
【2196】【エターナル・レディ】【TI社プロモーションガール】
 東京から出航、四国と九州に寄港し、最終的には沖縄へと向かうアトランティック・ブルー号。
 入手困難気味の乗船券を手に入れ、迎えるは出航日。
 不穏な乗客に何かが起こりそうな気配を感じるも、船は無事に港を離れる。
 
 しかし。
 
 差出人不明の脅迫状。
 謎のぬいぐるみ。
 幽霊船との遭遇。
 狙われている存在とそれを狙う存在。
 客としてまぎれこんでいる異質な何か。
 三つの品物の写真。
 そして、姉妹船と航路の謎。
 
 哀しいかな、予感は的中。
 楽しい旅路で終わるわけもなく……事件は起こった。
 そして。
 アトランティック・ブルー #3
  
 飛び立つヘリコプターが空の点となった。
「いってらっしゃいませ」
 眩しげに空を見つめ、小さく呟く。このあとは部屋へと戻り、通常の業務をこなすことになる。
「さて、と……」
 エターナル・レディは空から視線を外し、歩きだす。とりあえずの職業名はテクニカルインターフェイス社(TI社)のプロモーションガール。企業イメージを良くすることが主な仕事であるため、イベントはもちろんのこと、TVCMなどの各種メディアに対応しているが、特別な仕事がないときは、テクニカルインターフェイス・ジャパン(TIJ)の社長である貴城竜太郎につき従い、秘書業務をこなす。
 今日は、後者であり、特別な予定はない。貴城は急遽、今日の予定を変更し、豪華客船アトランティック・ブルー号へと旅立った。
 話題の豪華客船に乗船したい気持ちがなくもなかったが、べつにそれは今日でなくとも可能である。これから先、乗船する機会はあるかもしれない。
 部屋へと戻り、書類の作成や今後の予定についての微調整を行う。今日の予定はすべて変更されている。その影響を抑え、なるべく小さなものとするために各方面へと連絡を取り、うまく事態をおさめなければならない。決められた時間のなかで調整を行い、予定を組み立てることは、ある種、パズルのようだとエターナル・レディは思う。
 時間はあっという間に過ぎ去り、数時間が過ぎた頃、貴城から連絡が入った。無事にアトランティック・ブルー号についたにしては、遅い連絡に思える。話を聞いてみると、どうやら、何か興味をひかれる出来事があったらしく、こんなことを言ってきた。
『少々、調べていただきたいものがあるのですが』
「はい、なんでしょう?」
 即座に近くにあったペンを手に取った。
『セントラル・オーシャン社の経営状態および、所有船舶の状況。それから、COLという言葉を。おそらくはどこかの企業だと思われます』
 貴城が口にした言葉をさらさらとメモ用紙に書き込む。それ以上、貴城の言葉が続かないことを確認してから、言葉を返した。
「わかりました。調べて、データを転送いたします」
『よろしくお願いします。それと、何が起ころうと我が社のシステム、名を汚すことがないように手配を』
 それは、不穏な事態に備え、社名に傷がつかないようにしろという指示であり、その可能性が少なからず存在していることを意味する。
 まずは、セントラル・オーシャン社について調べてみることにした。ある程度のことはすでにわかっている。それなりの歴史を持つ企業であり、安定した実績をあげている。経営状態も良好であるはず。
 しかし、それらのことはとりあえず忘れ、一から改めて調べてみる。それによってわかったことは、セントラル・オーシャン社の経営状態は表向き安定しているが、裏では負債を抱えていたということ。
 つい先日まで、所有している太平洋横断航路のパシフィック・ブルー号が動力系統のトラブルを起こしたため、運行停止となり、パシフィック・ブルー号に頼りきっていたセントラル・オーシャン社は負債を抱え込む羽目となった……が、これはあくまで先日までの話。
 現在はある企業が助力をしているため、その負債も解消されている。
 その助力を行った企業は、サークル・オブ・ライフ社。COLと略される。
「COL……あら、繋がったわね」
 セントラル・オーシャン社を調べていく過程でCOLという言葉の意味が判明した。  COLことサークル・オブ・ライフ社は『ゆりかごから墓場まで、豊かな生活をコーディネイトする』という言葉を掲げて経営活動をしている生活用品一般を扱う企業で、生活に関わる品物で発売していないものはないだろうとまで言われている大手だが、日本での知名度は低い。しかし、今後、本格的に日本へ進出してくる可能性は大だ。さらに調べてみると、つい最近、『何か』を開発したらしく、株価が大きく上昇していることがわかった。
 とりあえず、それらがわかったところで貴城へデータを送ることにした。そのあとで、もうひとつの指示をこなすべく、TIJ新宿本社をあとにする。
 足を運んだ場所は、所謂ところの、ネット喫茶。そこからフリーメールを使い、警察庁をはじめとする各種関係省庁へテロ組織Pillr of saltの名義でアトランティック・ブルー号の爆破予告を送った。
 これを悪戯と取るか、本物と取るかはわからないが、口実ができればそれでいい。何かが起これば、こちらを調べるだろうし、何も起こらなければ悪戯で終わる。
 工作の一部を終えたところで、自社ビルへと戻る。
 そして、TIJ社のシステム開発部も同様のメールを受け取ったとして、アトランティック・ブルー号に対していつでも救助活動ができるようにと政府に要請し、自社保有船舶のうち、アトランティック・ブルー号に近い航路のものをいつでも救助活動に向かわせられるようにと手配した。
「それではよろしくお願いします……と、これでOKね」
 各種方面へと連絡を終え、受話器を置く。
 話が大きくなってしまったが、話が大きければ大きいほど悪戯であると考えるものだ。とりあえずはよしとする。
 これで貴城からの指示は終了、通常業務に戻ろうか思ったところで、再び、貴城からの指示が入った。
 新たな指示は、COLについて、特に開発したらしい『何か』についての情報を集めること。
「いったい何が起こっているのかしら……」
 受話器を起きながら、思わず呟く。話の流れから考えると、豪華客船は沈んでもおかしくはないような事態にあるように思えてならない。いつか乗船してみようと思っていたが、それは叶わぬ夢となりつつあるような気がした。
 それはともかくとして、COLについてもう一度、今度は詳しく調べてみる。あらゆる方向へとのびる情報網を利用し、COLの情報を収集する。内部に侵入できる状況を整えたあと、いくつもの回線を経由してCOLのデータベースへと侵入を試みる。
「……ん、成功」
 COLのデータベースへと繋がった。
 そこから貴城が必要としそうなデータを搾取する。最近に開発された『何か』とはなんなのか。
 開発されたなかで、情報レベルが高いものを探していく。
「……え? 子守ロボットぉ?」
 思わず、声が裏返る。最近に開発されたもの、それは忙しい母親に代わり、育児に従事するロボットだった。
 しかし、そのロボットの説明に目を通していくうちに、それが子守ロボットという名目ではあるものの、あらゆる面で活用できそうなものであると知った。
 外見は人と変わらず、区別がつかない。その外見を、視覚から手に入れた情報のとおりに変えることができ、音声の情報を得れば、その音声を再現することが可能だとある。母親の姿を真似ることができるということだ。そして、姿だけではなく、声も。
 姿かたちは人間でも、力や強度は人間の数倍に及ぶ……これは、護衛としての機能を備えているためらしい。格闘、武器の扱いも可能とある。
「すでに子守じゃないわ……」
 子守という域を越えているような気がした。子守という名目で開発はしているが、軍事利用を考えたものかもしれない。これが貴城の必要とする情報なのだろうとそれに関するデータを搾取していく。
 設計から機能といったデータの収集がもう少しで終わるというそのとき、不意に集めたデータが削除されはじめた。
 ……気づかれた?!
 慌てて回線を遮断する。追尾されたが探知されることはなかった。ほっと息をつき、デートを確認する。
「あらら……」
 その大半のデータは削除され、仕様を説明した部分しか残されていなかった。
 
 アトランティック・ブルー号は無事に沖縄へと辿り着く。
 メールは問題なく、悪戯として処理された。
「おかえりなさいませ」
 貴城を出迎える。その貴城は木箱を持ち帰った。
「これは……?」
「土産です」
「おみやげですか……!」
 まさかそんなものを買って来てくれるとは。それも、こんなにたくさん。エターナル・レディは嬉々として木箱の中身を覗き込む。
「……」
 そのなかに入っていたものは、女だった。眠っているかのように見える。だが、ただの女ではない証拠に、腕はあらぬ方向へと曲がり、そこから露出しているものは骨ではなく、金属だった。血も流れた気配がない。
 子守用ロボット……なのだろう。
 貴城が普通に土産を買ってくるわけがないか……エターナル・レディは小さなため息をつく。
「これがお役に立つとよいのですが」
 そして、手に入れた子守用ロボットの仕様データを貴城へ提出した。……やや苦笑い気味の笑みを浮かべて。
 
 −完−


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2196/エターナル・レディ(えたーなる・れでぃ)/女/23歳/TI社プロモーションガール】
【1865/貴城・竜太郎(たかしろ・りゅうたろう)/男/34歳/テクニカルインターフェイス・ジャパン社長】


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■         ライター通信          ■
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ご乗船、ありがとうございます(敬礼)
そして、お待たせしてしまい、大変申し訳ありませんでした。

相関図、プレイング内容、キャラクターデータに沿うように、皆様のイメージを壊さないよう気をつけたつもりですが、どうなのか……曲解していたら、すみません。口調ちがうよ、こういうとき、こう行動するよ等がありましたら、遠慮なく仰ってください。次回、努力いたします。楽しんでいただけたら……是幸いです。苦情は真摯に、感想は喜んで受け止めますので、よろしくお願いします。

こんにちは、エターナルレディさま。
納品が大幅に遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。
少々短めなのですが……乗船していないということで、お許しください。

願わくば、この旅が思い出の1ページとなりますように。