■ファイル１-心を盗られた人。■
朱園ハルヒ |
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【2259】【芹沢・青】【高校生／半鬼？／便利屋のバイト】 |
「変死体…？」
「いや、実際には、違う。生きているが、動かない…と言えばいいのかな」
デスクを挟み、奥には槻哉。その前には早畝とナガレ。そして斎月が珍しく顔を出している、司令室。
一つの事件の内容が記されたファイルを手に、槻哉がその二人へと、状況説明をしている所だ。
「…なんだそりゃ。病気じゃねーの？」
「病気の類であれば、僕のところにこんな書類なんて回ってこないよ、斎月」
斎月のやる気の無い言葉に、槻哉は軽く溜息を吐きながら、書類の内容を二人に見せるかのように、デスクの上にそのファイルを置いた。
クリップで止められた、白い紙と、数枚の写真。その写真には、『死体』とも呼べる、生気の無い人間が映し出されていた。
「被害者だよ。どれも同じような状態だろう」
早畝が写真を食い入るように覗き込んでいると、槻哉が補足するかのように言葉を投げかける。
「ふーん…確かに事件の臭いだな。…っていうか、先に写真見せてから説明始めろよ、槻哉」
斎月は写真を一枚手にしながら、そう毒づく。付き合いは長くも、二人はあまり、仲がいいという訳ではない。
「なんか、人間業じゃないよなぁ…変な気配感じるし」
そう、口を開いたのは、早畝の肩に乗っているナガレだ。動物的な勘が働いたのか、写真に顔を近づけて、くんくん、と臭いを嗅いでいる。
「ナガレならそう言うと思ったよ。だから君も呼んだんだ。もうこれで…５人目。警察側の特捜部も、お手上げ状態らしくてね」
手に書類を戻し、槻哉はそう言う。その言葉に何より反応したのは、早畝であった。
「…じゃぁ、俺たちが解決すればいい話だよな。あいつらには、負けない」
警察組織自体を信用してない、早畝の心からの言葉。それを槻哉も斎月も、そしてナガレも、何も言わずながらも、その胸のうちに何かを感じ取りながら。
「……とにかくだ。此処に流れてきたからには、君たちの出番だ。よろしく頼むよ」
パシン、と再び書類をデスクの上に軽く叩きつけるかのように置きながら、槻哉はそう言い立ち上がる。すると早畝も斎月もそれに習うかのように、姿勢を正して見せるのだった。
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ファイル１-心を盗られた人。
「変死体…？」
「いや、実際には、違う。生きているが、動かない…と言えばいいのかな」
デスクを挟み、奥には槻哉。その前には早畝とナガレ。そして斎月が珍しく顔を出している、司令室。
一つの事件の内容が記されたファイルを手に、槻哉がその二人へと、状況説明をしている所だ。
「…なんだそりゃ。病気じゃねーの？」
「病気の類であれば、僕のところにこんな書類なんて回ってこないよ、斎月」
斎月のやる気の無い言葉に、槻哉は軽く溜息を吐きながら、書類の内容を二人に見せるかのように、デスクの上にそのファイルを置いた。
クリップで止められた、白い紙と、数枚の写真。その写真には、『死体』とも呼べる、生気の無い人間が映し出されていた。
「被害者だよ。どれも同じような状態だろう」
早畝が写真を食い入るように覗き込んでいると、槻哉が補足するかのように言葉を投げかける。
「ふーん…確かに事件の臭いだな。…っていうか、先に写真見せてから説明始めろよ、槻哉」
斎月は写真を一枚手にしながら、そう毒づく。付き合いは長くも、二人はあまり、仲がいいという訳ではない。
「なんか、人間業じゃないよなぁ…変な気配感じるし」
そう、口を開いたのは、早畝の肩に乗っているナガレだ。動物的な勘が働いたのか、写真に顔を近づけて、くんくん、と臭いを嗅いでいる。
「ナガレならそう言うと思ったよ。だから君も呼んだんだ。もうこれで…五人目。警察側の特捜部も、お手上げ状態らしくてね」
手に書類を戻し、槻哉はそう言う。その言葉に何より反応したのは、早畝であった。
「…じゃぁ、俺たちが解決すればいい話だよな。あいつらには、負けない」
警察組織自体を信用してない、早畝の心からの言葉。それを槻哉も斎月も、そしてナガレも、何も言わずながらも、その胸のうちに何かを感じ取りながら。
「……とにかくだ。此処に流れてきたからには、君たちの出番だ。よろしく頼むよ」
パシン、と再び書類をデスクの上に軽く叩きつけるかのように置きながら、槻哉はそう言い立ち上がる。すると早畝も斎月もそれに習うかのように、姿勢を正して見せるのだった。
「すいませーん。ここで人手がいるって聞いてきたんですけど…」
軽いノックの音の後、ゆっくりと開かれる、司令室の扉。その奥から顔を出したのは、芹沢 青と言う少年だった。
「……槻哉？」
彼の急な訪れに、早畝が戸惑いを隠せずに、槻哉を見つめる。斎月、ナガレも同様に、言葉無く、視線だけを投げかけてきた。
「…ああ、君が芹沢君、だね。待っていたよ。紹介するから、どうぞこちらへ」
「お願いしまーす」
逆に、その少年、青は槻哉の言葉に戸惑うことも無く、扉を閉じてスタスタとこちらへ向かってきた。どうやら、こういう状況に、場慣れしているようである。
彼は槻哉が事前に募集をかけていた、『協力者』と言うものらしく、所謂特捜員のアルバイトと言う位置の、存在だった。
槻哉の心理がどういったものかは計り知れないまま、早畝も斎月もナガレも、それぞれの思いを心の中で燻らせたまま、青と対面する。
「芹沢青と言います。短い間だけど、よろしく」
「…どうも」
軽い自己紹介を交わした青と三人は、早速、事件についての真相を確かめるべく、資料に目を通し始める。
その間に槻哉は『頼んだよ』と言葉を残して、司令室を後にしていった。その後姿を追ったのは、斎月である。
「…どういうつもりだ？ 部外者を巻き込むなんて…」
「人を悪者みたいに言うのはよしてくれないか。…僕らの請け負う仕事には、先の見えない危険度の高いものが多い。だから事前に調べ上げた、特別な能力を持った人物、と言うのが必要になると思ったんだよ。…近いうちに、正式に特捜員としてここに勤務してくれる人物を、募るつもりだ」
声をかけられた槻哉は肩越しに振り向き、斎月に口早にそう応えた。そして、それ以上は何も語ることなく、視線を前方に戻して、先へと進む。
「………ちっ…だからお前は、信用できねーんだよ…」
眉根を寄せながら漏らした斎月の言葉は、廊下を進む槻哉には届くことはなかった。
「…言われてみれば、嫌な感じがするなこの写真…」
被害者の写真を手に、そう漏らしたのは、青である。早畝の一つ下の十六歳と聞いていたが、なかなか頭の回転が良さそうで、早畝は焦りを感じていた。
「……あの、芹沢、サン」
「青でいいよ。それにあんたのほうが年上なんだし、タメ口でいいって」
おずおずと口を開いた早畝に、青は表情を変えることも無く、そう答える。そしてまた、資料へと視線を落とした。
（…場数踏んでんなぁ、コイツ…）
ナガレがちらり、と青を見上げながら、心の中でそう呟いた。そして勢いに押され気味の自分の相棒、早畝に視線を送りながらため息混じりに、彼の肩に飛び乗った。
「ほらほら相棒っ何ボケっとしてんだ。青に負けちまうぞ」
「わ、わかってるって。…じゃあ、青、一緒に頑張ろうな」
ナガレに突付かれて、ようやく早畝が口を開く。
そんなやり取りを横目で見ていた青は、早畝の言葉に軽く頷きながら、うっすら笑っていた。
「…他に資料は？これだけ？」
「あ、それなら多分資料室にまだ他のがあると思う。行こうか？」
「……その資料なら、ここだ」
会話を続けていた青と早畝の背後から、聞こえた声。
その声と同時に目の前に降ってきた、クリアファイルに入った、別の資料と思われるもの。
振り返るとそこには、呆れ顔の斎月が立っていた。
「時間ねーんだろ。協力者が出来たんだし、さっさと片付けちまおうぜ」
斎月はそういいながら二人の前に回り込んで、テーブルを囲んで手をついた。それが合図になったかのように、三人と青は、これまでの事件の経緯などを、まとめ始めた。
「警察の、聞き込み情報って、どうなってるんだろう」
「あー…それも、この資料のどっかにあるんじゃねーか。あいつら匙投げたらしいしな」
青の言葉に答えるのは、斎月。そう言いながら、手元の資料を漁って、それらしい記事を探す。
「これじゃないの？【被害者同士には何も繋がりは無く、無差別的な犯行…】…ほら」
早畝が一枚の書類の文字を指差しながら、青や斎月にそれを見せる。ナガレは早畝の肩口から、それを覗き込んでいた。
「…無差別にしたってなぁ…」
「……ねぇ、これって、共通点になるんじゃない？」
ナガレがボヤきを口にした途端、ぽつりと口を開いたのは、青。
その声に、三人とも視線を集中させる。
「深夜の公園…この近くだな。ここで、三人…他の二人にしたって、この公園のすぐ傍の位置…」
「犯人は、この公園に、居座ってるのかも」
「被害者さんたちは、病院？」
「ああ、うちの管轄の病院に、全員入ってもらってる」
四人がそれぞれ、言葉を吐く。バラバラなようで、きちんとキャッチボールが出来ている。
「…うちって、病院も持ってたんだ…」
「早畝、それくらい把握しておこうぜ…」
感心したように、早畝がそう漏らすと、すかさずツッコミを入れる、相棒のナガレ。そんな二人のやり取りをみて、青はまた、うっすらと笑った。
「情報もかき集めたことだし、手分けして行動しねーか？４人でゾロゾロ、じゃ目立ちすぎる」
斎月が、提案を出す。すると他の３人は満場一致で頷きを返して見せた。
太陽がもう、沈み始めたころ。
斎月と行動を共にすることになった青は、被害者が運ばれている病院へと足を運んでいた。
分かれた早畝とナガレは、犯行現場の公園へと、向かっている。
「………」
「何か感じるのか？」
一人の被害者の病室で、青が静かに瞳を閉じて、被害者に向かい手を翳している。何かを、読み取っているようだ。
「……記憶、って言うのかな…よくあるじゃない、死んだ人の残留思念とか、そう言うの。普段は、人じゃなくて、土地とか建物を【視る】んだけどね」
「ああ…お前はそう言う能力があるんだな。じゃあ応用みたいなものか」
斎月は青の能力に素直に関心してみせた。特捜員にも能力があるものは多少存在するが、青のような能力者は、少ない。
槻哉が欲しがっている人材、と言うのを、そこで初めて理解してみたりもする。
（まぁ確かに…こーゆうヤツがいれば、事件もすんなり解決出来そうだしな）
「斎月さんにも、見えると思うんだけど…どうかな」
「……、凄いな」
斎月が考えをあれこれと巡らせているうちに、青はその手で記憶の具現化と言う物をしていた。見せるだけではなく、活性化、つまりは動く立体映像のようなものを、作り出したのだ。
「…人だから、あまり深入りした映像は出せないけど…参考にはなると思う」
「ああ、そうだな」
動く映像には、被害者の視点から見た、夜の公園が映し出されていた。仕事帰りらしく、足早にその公園を通り、帰路へと抜けようとしている。
「…………」
公園の、中心部を通りかかったところで。
「……出会ったな」
「そうみたい」
被害者の動きが止まった。
映像が急に後ろへと下がっていく。被害者が後ずさりをしているようだ。ゆっくりと流れる景色…視点が徐々に下へと下がり…その先に、見えるもの。
「……子供？」
被害者の足元に存在する、髪の長い少女。
表情は読み取れないが、被害者を見上げて、にやりと笑っている。
『おともだちになって…』
ジジ、とそこで映像が乱れた。
静かな言葉を残して。
青は素早くその映像をかき消し、その場の静寂を取り戻す。
「なぁ、あれって、ナマモノだったか？」
「それって…生きてるか、ってコト？」
二人はそこで顔を見合わせた。
暫しの沈黙の後、思うことは、一致する。
先に犯行現場に向かっている、早畝達の、ことを。
「…マズイな。あいつ、犯人はふつーの人間だと思ってるし…」
「急いだほうが、いいね」
青がそう言うと、二人は同時に病室を後にした。
「お、なかなか美味い。ナガレも食べる？」
公園のベンチに深く座り込み、消えかけの夕暮れを見上げながら、公園の入り口で購入したサンドイッチを頬張る早畝。
そんな早畝を見上げ、ナガレは深いため息を吐いた。
「……お前、やる気ある？ 緊張感無さ過ぎ」
「うん？ だって腹減ってたら、動けないじゃん。だから、補給してんの」
「さいですか…」
口をもごもご、と動かしながら、ぼんやりと空を眺める早畝。
「………」
やがて空は完全に夜色に染まり、外灯がぽつぽつ、と灯り始めた。
周りから聞こえてくる喧騒とは裏腹に、この公園内は、静まり返っている。
早畝はそこで一瞬だけ、何かに囚われたような、感覚に陥っていた。
『早畝。大丈夫か？』
「…あ、…うん。平気。まだ異常なし。そっちは？」
『今お前の元へ向かってる。…早畝、良く聞け』
「うん…？」
早畝が会話をしているのは、装備しているインカムを通している斎月だった。ナガレはそれを見上げながら、ぴくん、と耳を動かす。
「………」
（…なんだ…この風…）
「何？ 犯人が人間じゃないって、どういう事？…動物とか？」
早畝は斎月との交信に気をとられて気がついていないらしい。ナガレだけが、その場の空気が変わったことを、読み取っている。
風が生ぬるいものに変わっていく。ナガレはそれだけで毛並みを逆立て始めた。
「……早畝ッ」
「なんだよナガレ、今斎月の説明が…」
「前見ろって！！」
ナガレの怒号に、早畝は初めて周りの空気が変わっていたことに気がついた。そして、前方に何かの、気配。
『…早畝？ どうした？』
「…………」
インカムから斎月の声が響いていたが、早畝はそれに答えることはしなかった。
「なるほど…人間じゃないって、…幽霊のコト言ってたんだ…」
笑ってはいたが、余裕などない。早畝はベンチから立ち上がり、ゆっくりとこちらに向かってくる小さな少女と、対面する事になった。
「…早畝さんに何か？」
「ああ、おそらく遭っちまったんだろうな、犯人に」
走りながら早畝と交信をしていた斎月が、軽く舌打ちをする。そこでインカムの電源を切り、走るスピードを一気に早めた。青も、それに遅れることなく、ついてくる。現場はもう、目と鼻の先にまで、近づいている。
公園の周りにだけ、灰色に近い、オーラのような膜が、覆われているように、見えた。実際、その入り口は封鎖され、公園内には、誰も入ることが出来なくなっている。
「ったく、世話の焼ける…」
入り口に辿り着いた途端、禍々しく重い空気が青と斎月に襲い掛かってきた。
斎月は指弾を使い、その空気を粉砕する。
「俺たちを中に入れない気なんだ…」
青は先に進めないその見えない膜に手を触れて、冷静にそう言う。そして数歩下がりながら、
「斎月さん、ちょっと下がって」
「……おう」
斎月を後ろに下がらせた青は、ゆっくりと空気を吸い込みながら、瞳を閉じる。そして右腕を差し出しながら、膜に目掛けて何かを放った。
バリバリ、と響く、特有の音。
それは空から聞こえる、雷鳴と同じものであった。
横に走った稲妻が膜を破り、パァン、と弾け飛ぶ音が、周りに響き渡る。
「きゃあ！」
すると、その中から、小さな子供の声が、聞こえた。
「……お前すげーな。雷操れんのか」
「これでもまだ、未知な力なんだけどね」
斎月の言葉に、素直にそう答える青。
覆っていた膜が弾けとんだ事で、二人は公園内へと掛けていく。
「…早畝っ」
「……斎月、何したの。驚かせたら、ダメだろ」
早畝の元に辿り着いてみれば。
早畝は地面に座り込みながら、犯人と思われる少女を庇うかのような仕草をして見せていた。
「………どーゆう状況なんだよ、これは…」
「どうやら俺の雷が、怖かったんだろうね」
青は常に落ち着いていた。少しだけ息が荒いのは、走り疲れがまだ抜けきっていないためなのだろう。
「ああ、さっきの雷、青だったんだ。じゃあ、いいや」
「おい…コイツならよくて、俺の仕業だったらダメなのかよ」
「…だって斎月、コドモ嫌いじゃん」
早畝は、じと目で斎月にそう答える。そして抱きしめている少女に向き直り
「大丈夫だよ、あのお兄ちゃんは、怖い人じゃないから」
といいながら、頭を撫でてやっていた。
すると青が、すっと前に出る。そのまま歩みを進め、早畝の目の前で、腰を下ろした。
「…こんばんは。なんでこんな所にいるの？」
早畝と同じように、頭を撫でながら。
青は穏やかな口調で、少女に声をかけた。
すると少女は青を振り返る。その腕の中には、ナガレが納まっていた。どうやら、気に入られてしまったらしい。
「……こんばんは。あなたも、わたしのおともだちになってくれるの？」
少女の小さな口から、静かな声が聞こえた。それは、青と斎月が病院で聞いた、声音と同じものだった。
「うん、そうだね。俺の質問に答えられたら、友達になってあげるよ」
「…………」
早畝はそんな青を心配そうに見つめていたが、青は音のない言葉で『大丈夫』と返してきたので、黙ってその場で見守ることにした。
ナガレはナガレで、少女を混乱させないように、沈黙を守り通しているようだ。
斎月はすでに、蚊帳の外状態である。
「しつもんって、なぁに？」
「素直に応えてくれるかな？ どうして君は、こんな夜にここにいるの？」
「わたし、おもいだせないの。きがついたらここにいて…さみしかったから、おともだちをさがしてるの」
（…厄介だなぁ…此処で事故か何かで死んだんだろうけど、本人に自覚ないみたいだし…
…）
そう心で呟いたのは、ナガレ。言葉は違えど、早畝も斎月も、同じ事を考えているのだろう。
「そうか…でも、君がしていることは、悪いことなんだよ。わかる？」
「………」
少女は青を見上げたまま、黙ってしまう。
青は少女を、諭す様な眼差しで、見つめている。これも、彼の能力の一つなのだろうか？
「じゃあ、わたしは…どうしたらいいの？ どこにいけばいいの？ ここにいたら、パパやママに、おこられちゃう？」
「そうだね、怒られちゃうかも。だから、今までお友達になってくれた人を、助けてあげなくちゃ」
質問だらけの問いかけにも、青は顔色一つ変えずに、対応する。そして少女の頭を撫でながら、言葉を彼女に吹き込んでいく。精神操作、のようなものだろうか。
「君はここにはいちゃいけない。…帰らなくちゃ。きっとパパとママも、探してるよ」
「……うん」
「いい子だね」
青が、ふ、と笑うと少女もふわりと笑った。
（終わるな…）
斎月はいつの間にかベンチに座り込みながら、それをずっと見ていた。そして溜息一つ吐きながら、通信機を取り出し、司令塔である槻哉に連絡を取り始める。
「これは、おにいちゃんに、あげる」
少女がナガレを片手に、差し出してきたものは、五つの小さな玉のようなもの。おそらくは、それが被害者たち五人の、【心】なのだろう。
「ありがとう」
「またあえるかな…？ そうしたら、おともだちになってくれる？ はやせおにいちゃんも、またおともだちになってくれるかな…？ ナガレちゃんといっしょに」
「…もちろん。だからちゃんと、還るべき場所に帰ろうな？」
少女の『ナガレちゃん』発言に吹き出してしまいそうなのを必死に抑えて、早畝はにこっと笑いながら、そう答える。青も同様に、頷いて見せた。
「…いたずらしちゃって、ごめんなさい…」
するり、とナガレを抱いていた腕の力が、緩いものになった。それでナガレはようやく解放されて、とん、と地に降りる。
振り返ると少女は、柔らかい光に包まれて、消えかけていた。
「……無事終了。被害者の【心】ってもんも、回収済み、これから戻る」
『ご苦労様』
斎月が立ち上がりながら、少女を見、そして通信機の向こうの槻哉へ報告を入れる。
槻哉が応答すると同時に、目の前の光は弾けて、パラパラと光を失っていくのであった。
場所は変わり、司令室内。
応接間でテーブルを囲み、反省会、といったところだろうか。
秘書の女性が、『ご苦労様です』と微笑みながら、各自にお茶を差し出していた。
「ナガレちゃん…いい響きだよなぁ」
「……うるさい、いい加減に笑うのやめろ、早畝」
早畝が少女の言葉を繰り返しながら、くすくすと笑っている。それをナガレは嫌そうに睨み付け、ふい、とそっぽを向いた。
「今回は協力してくれてありがとう。君のおかげで無事に解決することが出来たよ」
「役に立てて良かったです。それで…あの子はどうして…？」
槻哉の言葉に青は軽く笑い、そして、思い出したかのように次の言葉を作った。
斎月はその脇で、煙草をふかすのみである。
「ああ…随分前の話になるんだが、共働きの両親の帰りを待ちながら公園で遊んでいた少女が、遊具から誤って落ち、そのまま亡くなったようなんだ。発見が早ければ、助かったのかもしれないんだけどね…その当時、日も落ちた時刻だったから、落下した少女に気づくのが、随分遅かったようでね」
「…そうだったんですか」
言葉のトーンが落ちた、青の声。
「青っ、いつでも遊び来いよ。遠慮しなくていいからさ」
「う、うん」
それを壊したのが、早畝だった。横から割り込むように勢いをつけてくるなど、小学生のようである。こうしていると、早畝より青のほうが、数倍も大人びて見えたりもした。
「…ま、無事終了って、ことで。もういいだろ、解散させてくれ」
斎月がそういいながら、立ち上がる。槻哉にちらり、と視線を落としながら、誰の返事も待たずに、その場を離れていった。
「……じゃあ、俺も…次のバイトがあるので、これで失礼します」
「僕が送ろう。男の子だろうと、夜道は危険だからね」
つられるように立ち上がった青を追うように、槻哉も立ち上がった。
「青、さんきゅーな」
早畝の声に、青が振り返る。そしてにこ、と笑いながら、司令室を出て行った。
「…芹沢 青、かぁ…」
その場に取り残された早畝は、青の名前を一つ呟き、楽しそうにしていた。年の近い者がこの場にいない分、気に入ったのかもしれない。
すっかり不貞腐れのナガレは、司令室の隅で丸くなり、暫く動こうとはしなかった。
【報告書。
７月２１日 ファイル名『心を盗られた被害者達』
幽体の少女による、心のみを抜き取られていくと言う犯行は、登録NO.01早畝と同じく00.ナガレ、03.斎月と協力者、芹沢 青氏の力によって無事解決。襲われた五人の被害者も全員、管轄内の病院にて、意識を取り戻したことを確認済み。
少年を巻き込むのはどうかとの意見もあったが、その少年の能力によって早期解決へと繋がった事を重点に置くと、多少の妥協も必要だということが判明。
今後、積極的に協力者を募ることも重要事項の一つとして記載しておく。
以上。
―――槻哉・ラルフォード】
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登場人物
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【整理番号 ： ＰＣ名 ： 性別 ： 年齢 ： 職業】
【２２５９ ： 芹沢・青 ： 男性 ： １６歳 ： 高校生＋半鬼＋便利屋のバイト】
【ＮＰＣ ： 斎月】
【ＮＰＣ ： 早畝】
【ＮＰＣ ： ナガレ】
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ライター通信
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ライターの桐岬です。今回は初のゲームノベルへのご参加、ありがとうございました。
個別と言う事で、PCさんのプレイング次第で犯人像を少しずつ変更しています。
芹沢・青さま
ご参加有難うございました。ＮＰＣ三人とも、との指定でしたので三人一緒で動かしたのですが…如何でしたでしょうか？ 芹沢くんの口調とか、崩れてなければいいなぁと心配です。余談ですが、芹沢くんはうちの早畝に気に入られてしまったようです…。
また何処かでお会いできればと思っています。
そしてお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
ご感想など、聞かせていただけると幸いです。今後の参考にさせていただきます。
今回は本当に有難うございました。
誤字脱字が有りました場合、申し訳有りません。
桐岬 美沖。
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