■hunting dogs ―ジャマイカ・ボンバー■
文ふやか |
【3586】【神宮寺・夕日】【警視庁所属・警部補】 |
――プロローグ
嫌な予感がすると、加門は辺りを見回した。
こういう世界にいると、そういった予感だけはよく当たるのである。
加門はきょろりと辺りを見回した。高層ビル群、背の高いデパート、人通りの多い大来。片手にトレンチコートを引っつかんだまま、片方の手で煙草を探り出し、一本器用に抜き出して口にくわえた。
火、火……。
加門がライターを探してポケットをあさっていると、後ろのデパートで爆音と、轟音が響いた。
驚いてそのままデパートを見上げる。
もうもうと上がる黒い煙が見えた。また轟音、今度はしっかりと見ていた。火花が散っている。
「火……そんなにでかくなくても」
いいんだがなぁ。加門はその光景を見つつ、困った顔で頭をかいた。
まさかデパートに上がった火で煙草に火をつけるわけにはいかない。コートのポケットから百円ライターを探り出し、火をつけながらデパートの出入り口をぼんやりと見つめていた。
遠巻きの野次馬のせいで、視界が悪い。短髪の黒人が人を掻き分けて外へ出る。そして、野次馬に混じって爆発炎上したデパートを見ていた。
加門はのっそりと男の隣に立って、訊いた。
「放火魔は自分のつけた火ぃ見るのが好きだっていうなあ」
そこで爆弾魔ボンバーを捕らえる算段だったのだが、いかんせん人が多すぎた。加門達の後ろにも、二重三重と人が溢れている。
「ち、賞金稼ぎか」
ボンバーは呟いて人込みをぬった。安穏と構えていた加門も、「どけ。どけって」などと騒ぎながら野次馬をかき分ける。
「逃がさねえぜ」
加門は煙草を道路へ吐き捨てた。
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ジャマイカ・ボンバー
――プロローグ
嫌な予感がすると、加門は辺りを見回した。
こういう世界にいると、そういった予感だけはよく当たるのである。
加門はきょろりと辺りを見回した。高層ビル群、背の高いデパート、人通りの多い大来。片手にトレンチコートを引っつかんだまま、片方の手で煙草を探り出し、一本器用に抜き出して口にくわえた。
火、火……。
加門がライターを探してポケットをあさっていると、後ろのデパートで爆音と、轟音が響いた。
驚いてそのままデパートを見上げる。
もうもうと上がる黒い煙が見えた。また轟音、今度はしっかりと見ていた。火花が散っている。
「火……そんなにでかくなくても」
いいんだがなぁ。加門はその光景を見つつ、困った顔で頭をかいた。
まさかデパートに上がった火で煙草に火をつけるわけにはいかない。コートのポケットから百円ライターを探り出し、火をつけながらデパートの出入り口をぼんやりと見つめていた。
遠巻きの野次馬のせいで、視界が悪い。短髪の黒人が人を掻き分けて外へ出る。そして、野次馬に混じって爆発炎上したデパートを見ていた。
加門はのっそりと男の隣に立って、訊いた。
「放火魔は自分のつけた火ぃ見るのが好きだっていうなあ」
そこで爆弾魔ボンバーを捕らえる算段だったのだが、いかんせん人が多すぎた。加門達の後ろにも、二重三重と人が溢れている。
「ち、賞金稼ぎか」
ボンバーは呟いて人込みをぬった。安穏と構えていた加門も、「どけ。どけって」などと騒ぎながら野次馬をかき分ける。
「逃がさねえぜ」
加門は煙草を道路へ吐き捨てた。
――エピソード
零がソフトクリームを食べたいというので、買い物の前だったが二人で買って食べた。特になにかがあるわけではなかったけれど、二人とも一個のそれを食べ終えて、目的のデパートへ着いたところだった。
彼女は黒・冥月が今風ではないというが、デパートでの買い物ぐらいでそれは今風に変わるのだろうか。なんとなく、上っ面だけを変えている気になったが、零が存外に楽しそうにしていたので、冥月は満足だった。
高い建物の並ぶ歩行者天国を渡って、デパートへ入ろうとしたそのときだった。
ドゴォーンともの凄い轟音が鳴った。冥月は少々驚いて上を見上げた。四階部分の一部が爆風で吹っ飛んでいる。なにごとかと、一瞬頭を巡らせた。
そのうち野次馬が集まってきて、冥月は零の手を握って離れないようにした。それから少しずつ後退する。
もう一度、轟音。同じ四階部分の逆サイドでの爆発だった。
これでは……四階が潰れるかもしれない。
嫌なことをする奴だ。冥月は小さく口の中で舌打ちをした。これで楽しかった買い物計画もパーだった。そんなことよりも、四階に人がいなければ……もしくは逃げ切れていればいいと願う。四階が潰れるのは時間の問題だろう。
前から、野次馬をかき分ける人間が二人来た。一人はすぐに抜けて飛び出した。もう片方は、流れに押されながら冥月の方へ流れてきた。
どん、と肩がぶつかった。冥月はその肩を払うように、手を上げていた。
ひゅう、と音が鳴って拳が空を切る。天然パーマの男は、人込みの中にいながら頭を咄嗟に下げたのだ。冥月の拳は男を捕らえることがなかった。
「こしゃくな」
男が野次馬達の渦を抜ける。冥月も追って抜ける。
いきなり頭を狙って蹴りかかると、それもひょいと身体の重心をずらして交わした。続けざまに鳩尾を狙うと、男は軽いフットワークでトンと後ろへ下がった。下がったところへ回し蹴りを胴に入れる。しかし男は屈んだ状態で、左手の腕で蹴った足を受けた。
「なにすんだ、俺は急いでるんだ」
眠たそうな顔の男がそう言う。
冥月は一回も攻撃が当たっていないことに腹を立てていた。だが実際、この男を殴る理由が正当だったかと言えばそうではない。
我に返り、冥月は短く謝った。
「悪かった」
「……あちゃあ、完全に見失っちまった」
ボサボサの天然パーマの髪を男はゴリゴリかいた。
「誰か探していたんですか」
ひょっこりと零が出てきて聞く。男は零の白いリボンへ目を移し、どうでもいいような顔でうなずいた。
「や、爆発があっただろ」
男は隣のチューリップが咲いたぐらいの口調で言った。
「そいつを追ってるんだ」
「ほう……それじゃあ悪いことをしたな」
「いや、ホントに。あんたに構わなきゃ、見失わなかったんだが」
冥月は少しむっとした。しかし、実際そうなのだろうから仕方がない。
「賞金稼ぎか、お前、名前は」
「深町。深町・加門。お察しの通りさ」
深町は片手にコートをぶら下げていた。冥月は黒いノースリーブのシャツに黒いパンツだった。零は白いリボンにワンピースを着ている。
加門は二人に断りも入れず煙草をくわえ、百円ライターで火をつけた。独り言のようにつぶやく。
「あーあ、ヘマやっちまったなあ」
「しょうがない。私も手伝おう」
冥月が言うと、加門は細く煙草の煙を吐き出してから短く訊いた。
「ここへはなにしに?」
零がにっこりと笑う。
「デートです」
加門は鸚鵡返しに「デートねえ」とぼんやりと呟いて、冥月を見た。冥月はぺちん、と零の頭をはたいた。
「お前最近草間に似てきたぞ」
「痴話喧嘩は興味ないんだわ」
言った加門の横腹に冥月が足を振り上げる。加門は左手で器用にそれをガードした。加門はそれを気にするでもなく、ただ眠そうな顔を困らせて頬を片手でかいていた。
「賞金は割らないぜ」
「いらん、そんなもの」
加門は「へー」と感嘆詞を漏らした。煙草の煙を吸い込み、ぼんやりと空を睨んでいる。そうしている間に、ドウンという音が鳴ってデパートの四階が潰れた。
「だるま落とし成功」
不謹慎にも加門はそうつぶやいた。
ケーナズと加門は標的になりうる二つの建物を、張っていた。しかし加門の方が当たりだったようだ。
歩行者天国を歩いてすぐの場所に加門がいる。爆音がしてからすぐに向かっていたのだが、人通りの多い通りなのに、爆破騒ぎが手伝って移動は困難を極めていた。
ようやく加門を見つけた瞬間に、デパートの四階部分が完全に潰れてしまった。
「加門」
呼ぶと、危機感のない顔をした加門が振り返る。片手にトレンチコートを持っていて、シャツの袖を軽くめくっていた。
「見たか」
爆弾魔ボンバーは正体不明の男だった。どういった容貌なのか、全くわかっていない。顔がわかれば、ケーナズの多くの能力で探し当てることができる。
加門の隣に立っている女性が言った。
「どういう顔をしていた」
「どう……って。そういえば、あんた名前は?」
長身で黒ずくめの女性が黒・冥月と、隣の少女が草間・零と名乗った。
「どういう顔だったんだ」
ケーナズも訊いた。
「ケーナズ・ルクセンブルク。保険屋だ」
加門がケーナズを紹介した。
「それで、顔は」
ケーナズと冥月が言い募る。
加門は困った顔をして、青い空を見上げてから手庇を作った。
「黒人だった」
「それから?」
ケーナズが聞き返す。加門は片手で煙草をつまみ、アスファルトへ投げて足で揉み消した。
「頭がチリチリだったな」
「拾って灰皿に捨てろ」
眉をつり上げてケーナズが言ったので、加門は渋々といった風に煙草を取り上げた。どうすることもできず、片手に持ったまま手庇を作っていた手で頭をかく。
「あとは?」
冥月が呆れた様子で訊いた。
「……眉毛が濃かった」
全員が沈黙したので、加門は言い訳をするように言った。
「見りゃわかるんだ、見れば」
これでは、ケーナズの千里眼でもわからない。手がかりが皆無なのと一緒だった。
冥月の影でもそれだけの特徴では爆弾魔を捕まえる術はなかった。この街にいる多くの黒人を片っ端から引き寄せるぐらいしか手段がない。しかし、それはあまりにも非効率的だ。
「次の爆破は六時間後だ……場所の目星は?」
ケーナズが口惜しそうに言い、加門に聞く。加門はまるで自分の失態ではないような顔で、こくりとうなずいた。
「女子供を巻き込まなくてもいいだろう」
ケーナズが言うと、冥月は短く答えた。
「私の責任だからな。責任ぐらい取らせてもらう」
「そうなのか?」
不思議そうな表情でケーナズは加門を見やった。加門は気のない表情で答えた。
「そういうことだ」
加門は歩き出しながらもう一本煙草を取り出した。
「それに、このお嬢ちゃんは喧嘩もなかなかの腕前だ」
ライターを取り出したところへ、隣を歩いていたケーナズに煙草を口から取り上げられる。
「歩き煙草は最低のマナー違反だ」
加門は口を尖らせて、ふんと鼻を鳴らした。
そこへ、カツカツとハイヒールの音が鳴った。目を上げると、少し訝しげな視線にぶつかる。後ろに長身の青年が立っていた。
ケーナズは相手が口を開く前に訊いた。
「何か?」
「……あなた達、爆弾魔みなかった?」
加門が不服そうに口を挟む。
「どうして俺達に訊くんだよ。他当たれよ、他」
「賞金稼ぎでしょ」
そう女は断定した。加門はケーナズや冥月、そして零を見てからその女を見返した。
「誰が?」
「あなたよ、深町・加門。度々警察の検挙率を下げてくれてありがとう。私は神宮寺・夕日。持っている情報を渡しなさい」
神宮寺・夕日はきっと気の強そうな顔で加門を睨んだ。加門は驚きも焦りもせず、ただ垂れた目を瞬かせている。
「深町・加門」
言う夕日の隣をすり抜けて、加門は歩き出した。もちろん、他の面々も彼に続く。
夕日は加門の隣へ小走りで駆け寄り、まだ続けた。
「爆弾魔の被害は広がる一方よ。捕まらなかったら、あなたのせいなんだから」
加門は口の中で「責任転嫁すんじゃねえよ」とつぶやいてから、珍しく愛想のよい声で答えた。
「人違いです」
ケーナズはまあまあと夕日を宥めて言った。
「ついて来ればボンバーには会えますよ。誰が捕まえるかは、お楽しみです」
「神宮寺さん、賞金稼ぎになんか関わるのやめましょうよ……」
「大阪くんは黙ってて。それじゃあ、先に帰りなさい」
長身の青年が弱々しく抗議をすると、夕日はばっさりと切り捨てた。
ケーナズも加門も車で来ていたので、車の前で冥月が零は家に帰るように指示した。加門は冥月と夕日をビートルの後部座席に乗せて、次の目的地に向かった。
東京ハンズの玄関口で、加門は煙草に火をつけた。
ケーナズは嫌そうな顔で、加門の側の片手をぶんぶん振った。
「私は煙草が大嫌いなんだ。テロと同じぐらい」
「俺は賞金首と同じぐらい、煙草が好きだな」
加門は構わず息を吸い込んだ。加門の隣には夕日が座っている。夕日は口をへの字に曲げていた。
冥月が夕日に訊いた。
「警官なのか」
「……ええ」
「どうして一人なんだ」
言われて、夕日は苦い顔をした。少し舌を出してみせ
「単独行動が得意なのよ」
苦し紛れにニコリと笑う。冥月はふっと少しだけ笑って、黒い髪をかきあげて言った。
「私もだ」
ケーナズは加門越しに夕日へ言った。
「私も単独の方が得意です」
加門は片手で耳の穴をかいてから、ゆっくり煙草の煙を吐き出した。
「お前等気が合いそうだな」
ケーナズは加門も同種だろうと思ったが、口には出さなかった。
夕日はことあるごとに加門に突っかかり、加門はめんどくさそうに答えていたが、誰もが玄関を見つめていた。黒人が通るたびに加門の顔を見る。そして何度目か、加門は黙って立ち上がった。
一番最初に駆け出したのは、夕日だった。彼女はハイヒールを履いていると言うのに他の誰よりも早かった。ケーナズと加門はボンバーの行く手を阻む為、ハンズの玄関口の前に立った。冥月がゆっくりと歩き出す。
そしていつの間にか、ボンバーは忽然と消えた。
夕日はボンバーの後ろにいる大きな男に掴みかかった。その男の隣にいた筈のボンバーは姿が消えている。ケーナズも加門も、一瞬夕日のいる場所に目が縫い付けられて動けなかった。
静かに冥月笑い声がする。
「……おかしいな。こんなにおかしいのは久し振りだ」
ボンバーの身柄は冥月が拘束していた。
加門が冥月を呆然と見ながらぼそりと言う。
「能力者か」
ケーナズはこくりとうなずいた。
「だろうな」
ケーナズは夕日の方へ近付いて行った。ボンバーは単独犯だと聞いていたのに、ひどく人相の悪い男が夕日に捕まっている。
「仲間か」
「……こっちがボンバーかと思ったわ」
「さっき加門が黒人だと言っていたからな。キミは……」
男は首をぶんぶん横に振った。
「私は爆弾で脅されてきたんです。人質なんです」
「嘘よ」
夕日が即答する。
「本当ですったら」
加門は冥月へ向かって行き、ボンバーを裏通りの路地へ引きずって行った。
夕日は大きな男をケーナズに任せ、加門に絡まりついて
「早くボンバーを警察に渡しなさい」
などと喚いている。
「足の速いお嬢ちゃん、おうちに帰るか黙ってろよ」
後ろからついてきていたケーナズが顔をしかめる。
「そんな言い方はないだろう。換金すれば、警察に渡るのですから、神宮寺さん」
加門へ文句を言い、夕日にフォローをする。
冥月が訊く。
「こんなところでどうする気だ」
「……仲間の潜伏場所を吐いてもらうのさ」
加門はボンバーの鳩尾に一撃を食らわして動けなくしてから、全身にある爆弾を全部取り出した。爆弾は片っ端から濡れている。
「誰だあ? 爆弾濡らした奴」
加門が訊くと、大男がハイハイと挙手をした。懐からごつい銃を取り出して、加門へ向ける。一瞬緊張が走った後、男はぴゅーと拳銃の先から水を出した。
「そうしておけば、爆発しないと思って」
全員、唖然とした。
加門はボンバーの頬をペシペシと叩いて、気を取り戻させる。
ケーナズは大男をつれて路地を引き返しながら言った。
「私の趣味じゃない。さっさと情報を聞き出してくれ」
冥月はケーナズの後を追いながら
「私もだ。殺さずにいたぶるなんて真似はできない」
結局、ボンバーが吐く頃には夜の十時を回っていた。
大男の名前はCASLL・TOというらしい。本人は悪役俳優だと言っているか、本当かどうか定かではない。
電話で確認したところ、前科はないようだった。
全身ターミネーターのような格好だった。黒い皮が全身を覆っている。
夕日は電話で応援を頼んでから、はあと溜め息をついた。
深町・加門と他の連中はどうあっても警察に賞金首を渡すつもりはなさそうだった。だから、こうして応援を頼むことになったのだ。
本当は応援など頼みたくはなかった。一人で解決して、涼しい顔でテロリスト達を突き出すのが一番だと思う。けれど、今目の前にある一軒家にはテロリストが六人もいるというのだ。
加門達の制止を振り切って一人で突っ込んでいったって、結果は目に見えている。彼等にテロリストを渡さないのならば、自分の職場に応援を頼むしかない。
癪だった。応援を頼むのも、加門に掻っ攫われるのも。
CASLLと冥月は顔見知りだったらしく、CASLLの身元ははっきりとしていた。けれど、今夕日の手元にいるのはCASLLだけだった。
応援が来るまでに、加門達は中に突っ込んで行くだろうか。
きっとまた、ボンバーのときのように手早く終わらせてしまうのだろう。
そう思ったらいても立ってもいられなくなって、夕日はマンションの植え込みの囲いに腰をかけていたが、立ち上がった。同じように、CASLLも立ち上がる。
「ここで待ってて」
「……行くんですか」
「ええ。警察ですから」
すると、CASLLは鼻を鳴らして言った。
「私も行きます。一人じゃ行かせられません」
「なぜ?」
「男ですから!」
加門達は表の窓の下に息を潜めている。夕日は三人の姿を見つけ、しかし無視をして正面突破玄関を蹴破った。CASLLも夕日に続いた。
「警察よ」
滅茶苦茶である。
中に入ると、男がサブマシンガンを夕日に向けた。CASLLが決死の覚悟で突っ込んでいく。
加門が慌てて立ち上がると同時に、冥月が影の中に消えた。眼鏡を外していたケーナズも瞬間的にいなくなる。
加門は一人外に残されて、夕日の蹴破ったドアから入るしかなかった。
影の中に潜み、夕日にサブマシンガンの銃口を向けた男の手元から武器を飲み込む。三人ほどの武器を飲み込んだだろうか。ふと見ると、ケーナズがふいに現れて男達を一瞬にしてなぎ倒している。力技というわけではない。部屋にいた二人の男を始末したケーナズは、冥月が武器を消した三人に向かってきた。
冥月はせっかくもらったオモチャを取られまいと、一人の男の頭に肘鉄を入れ、鳩尾を蹴り上げてから次の男のコメカミを回し蹴りで蹴り、着地と同じ瞬間にもう一人の男の懐へ入って顎を拳で突き上げた。
ケーナズが眼鏡を取り出しながら、パチパチと拍手をする。
夕日の後ろに立っていた加門が、夕日の肩を叩く。夕日は放心から冷めて、勢いよくこけたCASLLの元へ駆け寄った。
加門が気配を感じて後ろを振り返ると、買い物袋を下げた男が立っていた。加門は右の拳を握って、左足を蹴り出し、思い切り男の眉間を殴りつけた。
――エピローグ
夕日のくそ度胸に感服したケーナズと冥月が半分は警察に任せろと言うので、加門は渋々了承した。
ケーナズが冥月を家まで送ると言ったが、彼女は冷たく断った。
加門は換金所で賞金を手にして車まで戻って来て、自分の車の助手席に乗っている夕日を見た。
「なにやってんだ、お前」
「送ってください」
「は?」
CASLLも何故か後部座席に納まっている。
現場は応援を呼んで任せてきた夕日は、おそらく本当に家に帰るだけなのだろう。
加門は一応冥月に訊いた。
「お前は?」
「結構だ」
「相変わらず、男前な奴だぜ」
すぐに右足の蹴りが頭の位置に飛び込んできたので、加門は咄嗟に屈んだ。すると、冥月の足は加門のビートルを蹴りつけ、見事に車を凹ませていた。
「げ……はぁ。最悪だ」
「自業自得だ、バカが」
冥月が歩き出す。
誰もさよならを言わずに、その後姿を追っていた。
「オットコまえな女だよあ、あいつ」
加門は凹んだ車体を優しく撫でながら、黒いカレラGTに乗っているケーナズへ言った。
「かなりな」
ケーナズはそう同意して、冥月と同じようにさよならも言わずに車を発進させた。
加門は観念したように半開きの口をきゅっと閉じて、運転席に乗り込んだ。
――end
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1481/ケーナズ・ルクセンブルク/男性/25/製薬会社研究員(諜報員)】
【2778/黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)/女性/20/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【3453/CASLL・TO(キャスル・テイオウ)/男性/36/悪役俳優】
【3586/神宮寺・夕日(じんぐうじ・ゆうひ)/女性/24/警視庁所属・警部補(キャリア)】
【NPC/道頓堀・一(どうとんぼり・はじめ)/男性/26/警視庁一課特務班】
【NPC/深町・加門(ふかまち・かもん)/男性/29/賞金稼ぎ】PC登録してあります。
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■ ライター通信 ■
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はじめまして。「ジャマイカ・ボンバー」にご参加いただきありがとうございます。
文ふやかです。
今回は若干地味なお話に落ち着いてしまいましたが、楽しんでいただけたでしょうか。
お気に召せば幸いです。
また、お会いできることを願っております。
神宮寺・夕日さま
はじめまして! 気の強い女の子ということで、こういう感じに仕上がりました。派手な戦闘等を入れられず、申し訳ありませんでした。お眼鏡に適いますように!
※今回不備がありましたので、二度目の納品になります。本当に失礼いたしまいした。
以後気をつけますので平にご容赦ください。申し訳ありませんでした。
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