■妖精さんいらっしゃい♪■
日向葵 |
【2334】【セフィア・アウルゲート】【古本屋】 |
それはある晴れた日のこと。
「こーんにーちわ、なの〜♪」
「ワタシたち、すっごく暇なの〜☆」
突然降ってわいた甲高い声のその直後。
貴方の目の前に、何かがぽんっと姿を現わした。・・・・・・それは、透明で薄い綺麗な四枚羽を持った、二人の小さな妖精。
そっくり同じ姿を持った二人は息もぴったり合うようで、見事に左右対称に、まるでダンスでもするかのように宙を踊った。
ふわふわんっとウェーブのかかった薄紅の髪が背中まで伸びていて、楽しげに風に揺れる。
少女たちの深緑の瞳と目が合うと、二人はくるりと空中で一回転。ダンスを止めて、可愛らしい笑みを浮かべた。
「あたしはウェル♪」
「ワタシはテクス☆」
そして二人は、パンッとお互いの両手を合わせて、見事に声を合わせた。
「遊んでなの〜〜〜っ!」
妖精たちは返答も待たずに飛びついて来て、
「遊んでくれなきゃイタズラしちゃうのっ」
無邪気な笑みで脅しともとれる言葉を告げたのだった。
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妖精さんいらっしゃい♪〜お昼寝日和
ある晴れた日の午後。
お騒がせ妖精コンビはいつものように、面白い物を探しつつ空の散歩を楽しんでいた。
と。
二人の視界に、よく知った姿が飛び込んでくる。
「せふぃあだっ!」
「せふぃあだ、せふぃあなのーっ!!」
ぴゅんっとスピードを上げた二人は、止まることなどまったく考えずにセフィアに突っ込んで行った。
「……あら?」
風を切る音に上を見上げたセフィアは、疾風の如く飛び込んでくる二人の妖精の姿に気がついた。
「せふぃあーっ」
「遊ぼうなの」
「遊んでなの」
「遊んでくれなきゃイタズラしちゃうのっ!」
きゃらきゃらと賑やかな笑い声とともに、まったく同じ顔、同じ声を持つ二人の妖精――ウェルとテクスが飛びついてきた。
勢いよく――と言っても小さな二人のことだ。さすがにセフィアがひっくり返るほどの勢いはなかった。
しっかりと抱きとめて、セフィアは思わずそのままぎゅーっと妖精コンビを抱きしめる。
「えへへへー」
「ねねね、せふぃあ。遊んでなのっ」
妖精コンビもまんざらではないようで、セフィアにぎゅーっと抱き返してきた。
見上げる視線で頼まれて、セフィアは少々考える。今日の予定は特になし。目的があるわけでもなく、ただなんとなくお散歩していたところだった。
しかし用事がどうとかそれ以上に……もし多少の用事があったとしても。可愛いもの好きのセフィアは、こんなふうに頼まれてしまえばあまり断る気にはならないのだ。
「そうですね、どこが良いですか?」
問い返す言葉に承諾の意を汲み取った妖精コンビは黄色い歓声の声をあげて、楽しげに宙をはしゃぎ回る。
「面白いとこーっ!」
「楽しいとこーっ!」
「せふぃあのおすすめ〜?」
二人で交互に口を開いて、最後の一言は二人一緒に言ってポーズを決める。いつものパターンだが、何度見ても飽きないくらいに可愛らしい。
ふわんっと揺れるピンクの髪を靡かせて、妖精たちはにこにこと期待に満ちた瞳でセフィアを見つめた。
「妖精さんが喜びそうなところ……ん……あそこ……かな……?」
楽しいものがありそうで、尚且つ、妖精さんを見ても吃驚しないだろうところ。
そう思って考えたセフィアの頭にまず最初に浮かんだのは芳野書房と言う古書店であった。
あそこには本の九十九神の少年・結城がいる。そもそも本人が不思議な存在であるのだから、他のそういった存在にも多分免疫があるだろう。
この前、行方不明猫の捜索に協力した縁もあるし。あの時の猫さんやその持ち主の女の子が今どうしているかも気になるし。
「それじゃあ、本屋さんに行ってみましょうか」
「ほんやさん?」
「なあにそれー?」
「面白いのー?」
きょとんっと首を傾げて聞いてくる妖精たちに、セフィアは本のことを説明してやる。
文字という概念をよくわかっていない妖精たちはあまり興味を持てなかったらしいが、実際に見たら多少なりと変わるだろう。
「行ってみたらきっと面白いですよ」
穏やかな笑顔で言えば、妖精たちはセフィアの言葉を素直に聞いて、わっと楽しそうにはしゃぎ始めた。
芳野書房はのんびりとした雰囲気をもって佇んでいた。
暑い時期の昼間であるせいか、客の姿は今はない。セフィアにとっては好都合であった。
「こんにちわ……」
そっと中を覗き込んで、それからゆっくりと店内に入って行く。
「やあ、いらっしゃい」
レジの奥から明るい少年の声が返ってきた。
姿を見せたのは蒼い髪に金の瞳という、なかなかに日本人離れした容貌の少年だ。まあ実際、彼は日本人ではない――どころか現実の存在ですらないが。
「セフィアさん……だっけ? 今時珍しいね、妖精連れなんて」
ウェルとテクスの姿は、妖精を信じない者には絶対に見えない。また、見えたとしてもこんなにすんなり受け入れてくれる人間は少ない。
やっぱりここに来て正解だったと、セフィアは思う。
「一緒に、遊びに来たの」
「へーぇ。だったら奥の読書スペースに行ったらいいよ。お菓子もあるし、妖精を喜びそうなお客さんも来てるし」
結城が指差した先には、セフィアの知った顔がいた。
つい先日、絵本の猫さんが行方不明になったと言って泣いていた少女――久美だ。
「あっ、おねえちゃん! このまえはどうもありがとうございましたっ」
ぺこりと礼儀正しく礼をした久美の目線は、だけどセフィアよりも妖精たちに向いていた。
「ウェルさんとテクスさんって言うんですよ」
紹介しながら、二人をテーブルに載せてあげる。妖精コンビはどうもこういう場所に来たことがなかったらしく、物珍しそうにきょろきょろと辺りを見まわしていた。
「ようせいさん? すごい、かわいいーっ」
瞳を輝かせて妖精コンビに見入る久美の、ちょうど正面にあたる位置に腰を下ろした。
とりあえず、周囲の様子を見る。どうやら今日は本の世界からのお客さんはいないらしい。期待していたから、少し残念だ。
「ウェルなのっ!」
「テクスなのっ!」
くるくると回転する可愛らしい踊りを披露して、二人はぴっとポーズを決める。
久美は両手を叩いて大はしゃぎだ。そんな反応が嬉しいのか、妖精コンビは何度も踊りを披露して、終いにはくるくるしすぎて目を回していた。
「大丈夫ですか……?」
「きゅう〜」
「くらくらするのぉ〜」
倒れかける二人にそれぞれ片手ずつ差し出して支えてやると、妖精コンビはぱたんっとセフィアの手に凭れかかってきた。
「ごめんねっ、久美がいっぱいお願いしちゃったから」
心配そうに謝る久美に、妖精さんたちはふにゃっと頼りなさげながらも笑顔を作る。
「だーいじょーぶー」
「せふぃあ、あったかくて気持ちいーの〜」
「そうですか?」
すっかり安心しきったふうで、妖精コンビはすっかりセフィアの手を枕にしてしまっていた。
と、思った直後。
寝息が聞こえた。
「……あれ?」
久美もセフィアと同じ疑問を持ったのか、じっと妖精コンビの様子を覗き込んだ。
「ねちゃってるね」
「いっぱいはしゃいで眠くなったんでしょうか?」
今時の店にしては珍しくクーラーのない芳野書房だが、風通しはばっちりで、日陰だし静かだし。ここはお昼寝にちょうど良い位置取りだった。
ぐっすり寝こける妖精コンビを見ていたら、久美も眠くなったらしい。机に突っ伏してそのまま眠り込んでしまった。
「……どうしましょう」
こーいう場面で一人起きているのもなんだか寂しい。
一緒に寝てしまいたいけれど……。
手の上の妖精さんたちを退けるわけにもいかないし。
「んー……」
考えること、十分ちょっと。
結局。
ちょうど近くにあったお茶用布ナプキンに招魂をかけて、妖精さんたちをお願いして。
セフィアもお昼寝組に入ることにした。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
2334|セフィア・アウルゲート|女|316|古本屋
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ライター通信
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こんにちわ、日向 葵です。いつもお世話になっております。
妖精さんたちとお昼寝大会、いかがでしたでしょうか?
小さいだけに体力もないらしい妖精さん……ちょっと遊んだらすぐ寝てしまいます(苦笑)
一回こっきり出演だったNPCのことも気にかけてくださって、本当に嬉しいです。
ありがとうございます。
またお会いする機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。
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