■花唄流るる■
草摩一護 |
【2182】【倉前・沙樹】【高校生】 |
【花唄流るる】
あなたはどのような音色を聴きたいのかしら?
あなたはどのような花をみたいですか?
この物語はあなたが聴きたいと望む音色を…
物語をあなたが紡ぐ物語です・・・。
さあ、あなたが望む音色の物語を一緒に歌いましょう。
**ライターより**
綾瀬・まあや、白さん(もれなくスノードロップの花の妖精付き)のNPCとの読みたい物語をプレイングにお書きくださいませ。^^
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『 花唄流るる ― on the phone now ― 』
風呂上りの沙樹が右手に冷たいウーロン茶が入ったコップを持って部屋に入ると、携帯電話がベッドの上で震えていた。
「誰だろう?」
沙樹は小首を傾げて机の上にコップを置いて、折りたたまれていた携帯電話を開いた。液晶ディスプレイに表示されているのは沙樹の従姉妹の名前だ。
それを見た沙樹はわずかに目を見開き、そしてくすりと笑いながら電話に出た。
「もしもし」
そして家の用事でちょっと遠くに出かけている彼女と沙樹は久しぶりに言葉を交わす。
「でもこうやってしゃべるのを久しぶりだね。たとえ電話でもさ。なんかちょっと気恥ずかしい感じがするけど、嬉しい」
『ああ、うん。ちょっと電話をするのを控えていたからな』
「え、どうしてよ?」
『だって憧れの白さんとの時間を邪魔しちゃったら沙樹に悪いかな、と想ってさ』
「う〜」
沙樹は軽く頬を膨らませる。
そしてまるでその彼女の姿が見えているかのように沙樹の従姉妹はけたけたと笑った。いや、きっと彼女には見えている………沙樹の姿が、心の目で。だって沙樹にだって今の彼女がどうやってこの携帯電話の向こうで笑っているのかわかるから。
そう、二人は心の姉妹だから。
『さてと沙樹、時間はあるのかな?』
「うん、あるよ。大丈夫」
『ではでは、ジュースとお菓子を用意して、おしゃべりタイムと行こうか。今夜は何の気兼ねもなく沙樹とおしゃべりできるのだから』
「もう、まだ言って」
そして沙樹は机の上のコップを手にとって、中の液体を一口口に流すと、
「ではでは、まずは燐さんからのお誘いの電話のシーンからお話しましょうかな?」
『はい、お願いします』
沙樹は瞼を閉じて記憶を反芻させて、そしてそれを言葉にして口から紡ぐ・・・。
【シーンT 倉前家 沙樹の自室】
えっと、あの日もこうやってある日突然に携帯電話に電話がかかってきたの。
朝の素振り千回をやって、一汗からかいたからシャワーを浴びてね、え、うん、そう、いつも通りにお庭で。
それでアイスクリームを舐めながら部屋に入ってって、大丈夫。太らないよ。ちゃんと運動してるもん。
え、味? あー、えっと確かソーダ―味って、わざとやってるでしょう?
ちょっと黙って聞いててください。
はい。
じゃあ、話の続きね。
私は誰からかな? と想って携帯電話を開いて、それでその液晶画面を見たら表示されている名前が燐さんからだったの。
「あ、はい。沙樹です。もしもし、燐さんですか?」
『あ、沙樹さんですか。燐です。お久しぶりですね』
「あ、はい、お久しぶりです」
あのね、その時のさ、携帯電話の向こうから聞こえてくる燐さんの声ってすごく優しくって、
そう、多分あの夏休みの最初に起きた事件の事を知っていたんだと想う。それで私たちを誘ってくれたんだと………
「それで今日はどうしたんですか?」
『あ、はい。沙樹さんは8月の5日から7日まで予定は空いていますか? あ、正確的には8日まで』
「え、あ、はい、大丈夫ですけど?」
『では、その5日から8日まで私と白さんと一緒にお出かけしませんか?』
「お出かけ、ですか?」
『はい、お出かけです。私の友人の松井恵子さんという人のところまで一緒に遊びに行きましょう。空気が美味しい山奥です。森林浴をしてしっかりと英気を養いませんか? 恵子さんにもお父さんのような人と、可愛い娘たちを連れて行きますね♪ って言ってますんで』
ち、違いますぅー。し、白さんにつられたんじゃないもん。燐さんがせっかく誘ってくれて、それを断るのは悪いからだよ!!!
あ、うん。燐さん、残念がっていた。用事で行けないと想います、って言ったら。
でもそれでね、私は燐さんに行きますって言ったらね・・・
『わ、本当ですか。では待ち合わせ場所はですね・・・』
って、それはもう嬉しそうに予定を説明してくれたの。
【シーンU 駅】
え、あ、うん、そうだよ。移動は電車だったの。
燐さんがね、気を遣ってくれたのよ。
『あら、沙樹さんは電車に乗っての移動はあまりないんですか?』
「はい。電車に乗っての長い移動はあまり無いんです」
『じゃあ、今回は電車に乗って移動しましょうか? 4時間ぐらいの電車の旅になりますが大丈夫ですか、沙樹さん?』
「はい、大丈夫です」
って、私、すごく嬉しくって携帯電話でしゃべりながら何度も頭を下げちゃった。
――――くすくすと携帯電話の向こうから聞こえてくる従姉妹の笑い声に沙樹はにこりと微笑んだ。
そして彼女はコップの液体で唇を湿らせて、先を促す従姉妹にこくりと頷いて記憶の続きを言葉にして紡ぐ。
それでね、私は駅まで車で送ってもらって、それでそこで燐さんと合流したの。
燐さんは駅の前で待っていてくれたんだよ。
「あ、おはようございます、燐さん」
白のシャツを着て、黒のジーパンを履いて、それで後ろで髪を一つに縛って野球帽子をかぶっていたんだよ、燐さんは。それはもう朝日の中で笑いながら私に手を振る燐さんは綺麗だったんだから。
―――拳を握って力説する沙樹に携帯電話の向こうの彼女はやっぱりその光景が見えているように笑った。
「おはよう、沙樹さん。それにしても大きな荷物ね」
「はい。3日分の着替えと洗面用具、それと手作りクッキーにお弁当」
「わぁ―、すごいわね。手作りクッキーにお弁当なんて。もちろん、お弁当も手作りなんですよね?」
「はい。そうですよ、燐さん」
「私は料理ができないから本当に料理ができる沙樹さんが羨ましいです」
「いえ、そんな大した事じゃないです」
「大した事です。大した事です。ほんと、羨ましいですよ、沙樹さん♪」
「お弁当は春の夜桜見物の時に燐さんや白さんがよく食べていた物を中心に作っておいたんですよ」
「まあ、それは素敵ね。で、クッキーは?」
「クッキーはハーブ入りクッキーや、ナッツを砕いたのをまぶしたりしたんです。クッキーはスノードロップちゃんが好きなのをメインに」
「ああ、沙樹さんはあの娘と仲良しさんだものね」
「ええ。それにちょっと前に巻き込まれちゃった事件でスノードロップちゃんと白さんに迷惑をかけてしまって、そのお詫びにって」
私が苦笑しながらそう言うと、燐さんはとても優しく微笑んでくれたの。それでやっぱりああ、燐さんは私たちを元気付けるために誘ってくれたんだな、って確信できて。だからね、その笑みを見た瞬間に私の胸にはとても嬉しくって暖かい温もりが広がったのだよ。
――――沙樹は携帯電話を持つ方ではない右手を左胸にそっと当てた。そこにあるとても暖かで大切な灯火を消してしまわないように触れるように。
そして沙樹はくすりと笑う。
それにしてもね、本当に初めての電車での長旅は大変だったよ。最初から。スノードロップちゃんのおかげで。
って、こら。虫って呼ばないの。
――――沙樹は苦笑しながら、膝の上に乗ってきた蓮と蘭の背中を撫でながら口を開く。
「噂をすればなんとやら」
「ですね」
本当に燐さんと顔を見合わせて笑っちゃったよ。本当にタイミングばっちりだったんだもん。
そう、スノードロップちゃん登場の決まり文句はいつも通り。そう、いつも通りの登場の仕方だったよ。
「でしぃ〜〜〜♪」
ひらりとひとひらの花びらが風に舞って飛んでくるようにスノードロップちゃんが飛んできたの。
そして私はね、ドラム缶バックとトートバックの手持ち紐を手首に引っ掛けて、両の手の平を上に向けたのね、そしたらその私の上に向けた両の手の平の上にスノードロップちゃんが正座して座って、
顔を手の平に向けた私と、その顔を見上げるスノードロップちゃんと同時ににこりと微笑みあったの。
うん、私はスノードロップちゃんが大好きだから。
あ、でもそのスノードロップちゃんを危機に陥れちゃったりもしたりして。
――――ぺろりと舌を出した沙樹を蓮と蘭が見上げている。
沙樹は髪を耳の後ろに流しながら言葉を紡ぐ。
「沙樹さんもおはようございます」
「あ、はい。おはようございます、白さん」
――――紡がれたのはその日の白との最初の挨拶の光景。沙樹の顔はちょっと赤い。その事を言われて更に顔を赤くして、そして苦笑しながら沙樹は続ける。
あのね、私は両の手の平の上にスノードロップちゃんを乗せた状態でぺこりと慌てた状態で頭を下げてしまったの。だから両手も同時に下に下がる訳で、だから驚いたスノードロップちゃんはバランスを崩して私の手の平の上で後ろに転がって、
「わぁー、でしぃー」
って悲鳴をあげてね、
「あわわわ。ごめんなさい、スノードロップちゃん」
それで私も慌てて手の平の上のスノードロップちゃんに謝って、
「い、いえ、大丈夫でし」
でも泣きそうな私に向って頭の後ろを撫でながら笑ってみせてくれたんだよ、スノードロップちゃんは。
――――嬉しそうにそう語る沙樹に『沙樹は本当にスノードロップが好きなんだな』と彼女は言う。その彼女に沙樹はうん、と花が咲き綻んだような笑みを浮かべて頷いた。
ああ、で、それでね、話は本題に入るの。
駅はね、ホームがたくさんあって、いくつかのホームにはもう電車が止まっていて、それで燐さんは白さんと一緒に駅の売店で恵子さんへ持って行くおみやげを選んでいて、私はスノードロップちゃんと一緒に一足先にホームに行っているつもりだったんだけど、
「あれ、燐さんは6時8分の電車、って言っていたんだけど、そう言えばどのホームに行けばいいんだろう?」
「えっと、これじゃ、ないでしか? 5番ホームの電車でし」
「えっと、6時8分の電車だね。うん、これでいいと想う」
「そうでしね」
「うん、そうだね♪」
「はい、そうでし♪」
その時は…ああ、うん、そう、初めてのお使いの子どもみたいな感じかな。電車の時刻表を見て、それでいるべきホームを知れた事がすごく嬉しくってさ。
でもあのさ、時刻表にはもうひとつ6時8分発の電車があって、実はそっちの方が正解だったの…………って、笑いすぎだよ…。
――――頬を膨らませた沙樹は瞼を閉じる。
そうすれば脳裏に思い浮かぶ思い出。
「わ、電車が来たよ、スノードロップちゃん」
「はい、電車でしね、沙樹さん」
駅員のアナウンスの声と共にホームに滑り込んできた電車。
ぷしゅぅーっという音と共に開いたドアに沙樹とスノードロップは顔を見合わせあって笑いあう。
「さあ、乗って待ってましょうでし」
「え、あ、う〜ん、でもここで燐さんと白さんを待ってた方がよいかな? と想うんだけど、どう想う、スノードロップちゃん?」
「う〜ん、ではわたしは電車の中に入って席取りをしていますでしね」
どうやらこの小さな妖精は早く電車に乗りたくってしょうがないらしい。そんなスノードロップに沙樹はにこりと微笑みながら頷いた。
「じゃあ、席取りよろしくね、スノードロップちゃん」
「はいでし」
ぴしっと敬礼をして電車の中に入っていくスノードロップ。そのひらひらと飛んでいく妖精の後ろ姿にくすくすと笑っている沙樹。
その沙樹の耳朶に届く声。
「あ、沙樹さん、よかった」
「え?」
安心した響きを持つ声に振り返ると、そこには白がいた。沙樹は小首を傾げる。
「どうしたんですか、白さん?」
「あ、いえ、ここから出る電車も確かに6時8分初の電車ですが、でも違うんですよ」
とても優しくそう言ってくれる白に沙樹は驚いて大きく開いた口を片手で覆い隠した。そして顔を真っ赤にして頭を下げる沙樹。
「わわ、ご足労をかけてすみません」
「いえいえ。ところで沙樹さん、スノードロップは?」
頭を掻きながら周りを見回す白に沙樹は「あっ」と声をあげた。
「スノードロップちゃんは中です」
「わ、それは大変だ。僕が中に入って探しに行きますから、沙樹さんはここで待っていてください」
ひらりと素早い動きで電車の中に入った白。その彼の後を沙樹も追う。
「待ってください、白さん。私も行きます」
二人して電車に入って、
そしてその二人に駅のホームの方から、
「沙樹さんと白さんも電車に乗ったんでしかー。じゃあ、わたしも乗り直すでしぃー♪」
という軽やかな声。
もちろん、沙樹も白も振り返る。にこにこと笑うスノードロップがひらひらとひとひらの花びらが風に待って飛んでくるようにホームから電車の中に入ってこようとして、
そのスノードロップに、
同時に沙樹と白は手をあげて、
「「ダメ。これは違う電車」」
と、言って、
「あうし」
と、急ストップをスノードロップはして、
そしてその妖精に沙樹と白が安堵のため息を吐いた瞬間に電車の扉が閉まってしまった。
・・・。
+
もう、笑い事じゃないよ。
本当にこの時はすごくびっくりして、どうしようかと想っちゃったんだから。
閉まった電車の扉の向こうではホームに呆然と佇む燐さんがいて、スノードロップちゃんはハンカチ振ってるしで。もう。
ふぅー。
【シーンV 静かな森】
で、私たちは何とか燐さんのお友達がいる場所に到着して、そのまま行く途中の森でお昼ご飯にする事にしたの。
場所はもちろん最高の場所だよ。だって・・・
「すごく綺麗な場所ですね、沙樹さん、白さん」
「はい、私と白さんで周りの植物さんたちに訊いて、それで選んだ場所ですから」
「はい。でも、少し皆の意見を取りまとめるのは大変でしたけどね」
「やっぱり、皆が自分たちのところが一番だって言いますものね」
「じゃあ、ここはどうやって選んだんです?」
「アンケートを取ったんですよ。泉か川があって、木々もあって、綺麗にお花が咲いているところはどこですか? って。そしたら皆がじゃあ、ここだって」
「ええ。そうなんですよ」
「そうなんですか」
もう本当にすごく良かったんだから。
さらさらと流れる川のせせらぎの音は本当にすごく澄んでいて、
空気も美味しくって、
花はネジバナなんかも咲いていたし、
それに飛んできた蝶々とスノードロップちゃんとの戯れもすごくかわいかったんだから。もう本当に見せたかったよ。私に燐さん、白さんでお花畑を舞台にしたスノードロップちゃんと蝶々のワルツに和んでいたんだから。
で、うん、お弁当も皆が美味しいって食べてくれたよ。
――――沙樹は満面の笑みを浮かべた。
「ふぅふぁはぁーーーー。美味しそうでしぃぃぃぃーーーーーー♪」
花柄のビニールシートの上にお弁当箱を並べたの。
青色のお弁当箱にはおにぎり。中身はシーチキン、たらこ、おかか、鮭、うめぼし。
黄色のお弁当箱にはサンドイッチ。やっぱりシーチキンにそれにタマゴ、ハム、カツ、で、カツだけはそれを挟むパンもトースト。あとはレタス、きゅうり、トマトアスパラを挟んだ野菜サンドもスノードロップちゃんのために作ったんだ。そう、スノードロップちゃんはベジタリアンだから。
ん、うん。そう、マヨネーズであえたシーチキンは燐さんのためだよ。
「燐さん、どうですか?」
「はい、すごく美味しいです」
「よかった」
本当によかったと想ったよ。だって少しでも気を遣ってくれた燐さんに喜んでもらいたくって、それでマヨネーズであえたシーチキンやサンドイッチを作ったんだもん。
ほんと嬉しかったなーって。
え? 白さん???
あー、えー、あ、うん、あの……白さんの好きなおかずも作りました
「あの、し、白さん、これもどうぞ。前に白さん、美味しそうに食べていたから、たくさん作ったんです」
「はい、ありがとうございます、沙樹さん」
「い、いえ。どういたしまして」
あのね、爪楊枝でからあげを刺して、それを白さんの紙皿に乗せて、そしたら白さんがにこりと笑ってくれて、それで白さん、私が爪楊枝で刺して紙皿に乗せたからあげを食べてくれたんだよ。
うん、美味しいって言って笑いかけてくれたの。
――――電話でそう伝える沙樹はとても幸せそうな顔をしていた。
【シーンW バーベキュー】
コテージはね、とても綺麗でかわいいコテージだった。
でね、さっきから話に何度も出てくる松井恵子さん。燐さんのお友達の恵子さんはとても楽しくってかわいい人だったよ。
それにやっぱりとても綺麗で、そして優しい人だった。
「あ、あそこですよ、沙樹さん、白さん」
地図と睨めっこしていた燐さんは目的地に着いた事を確認すると、後ろの私たちを振り返ってとても嬉しそうな顔をしてくれて、
私もとても嬉しくって、
それで白さんも優しい温もりを称えた青い瞳を細めて頷いたの、燐さんに。
ああ、スノードロップちゃんはお腹満腹で私のトートバックの中でお昼寝。かわいいよね。
「楽しみですね、燐さん」
「はい」
燐さんは私に頷くと、視線を白さんに向けたの。
「白さんはどうですか?」
「それはもちろん楽しみですよ」
「はい、良かったです」
「これから行く所は、燐さんのお友達がやっていらっしゃる所なんですよね?」
「ええ。松井恵子さん。旧姓橋爪恵子。二つ名はタトゥー・ハート。フリーランスの何でも屋でね、裏の世界では少しは名の知れた美人スイーパーだったのよ」
右手の人差し指を立てながら我が事のように嬉しそうに言う燐さんだったわ。
その彼女に私はくすりと笑いながらおどけたように軽く肩をすくめて言ったの、
「でも燐さんほどじゃないんでしょう?」
って。
そしたら燐さんはくすっと笑って、
「もちろんのろんよ♪」
笑いあう顔を見合わせあって笑う私たちに白さんもくすっと口元に軽く握った拳をあてて笑ってた。
「あ、来た来た。遅かったじゃない、燐ちゃん」
亜麻色の肩までの長さのセミロング、人懐っこい笑み、本当にその華奢な女性が裏世界で名をはせたスイーパーには見えなかったわ。
でね、燐さんと一頻り再会を祝いあった恵子さんはおもむろに私と白さんに視線を向けてきて、
それでね、
「で、お父さんのような人と、可愛い娘たちってのは後ろの人たちでいいのかしら? どうやら予定が変わって可愛い娘たちから可愛い娘さんに変わったみたいだけど」
っていきなり言われちゃってびっくりしちゃった。
え、可愛いは否定したのか?って。いいえ、否定していません。だってせっかく言ってもらえたんだもん。ありがたくその可愛い娘さんの称号をいただきましたとも。
――――携帯電話の充電器のコネクト部分に充電器を差し込んで、コンセントを刺して、携帯電話の電気残量を示すゲージが満タンになる。
ああ、それで私は恵子さんに自己紹介したの。
「あの、えっと、こんにちは。はじめまして倉前沙樹です」
「はい。倉前沙樹さんね。それにしても美人さんな娘ね」
「あ、いえ、そんな事は……」
「いえ、美人さんよ♪ こんなにも美人さんなのに、謙遜するなんて罪だわ」
そう、もうそんな風に言われちゃったからびっくりして、それですごく顔が熱くなっちゃって、
それでそんな私の鼻の頭がくっつく寸前の場所にある恵子さんの顔には捕まえたネズミを弄ぶ仔猫そっくりの笑みが浮かんでいて、もう本当にどうしようかと想っちゃった。
そんな恵子さんにね、しょうがないなこの人は、っていう感じの苦笑を浮かべた燐さんが、私に助け舟を出してくれたの。
「恵子さん、それでこの人が白さんです」
「ああ、お父さんのような人ね。でもお父さんというよりも恋人の方がいいんじゃなくって?」
言われた白さんもその横の私もその恵子さんの言葉には目を瞬かせたわ。
それでウインクする恵子さんに燐さんは両拳を握って、
「恵子さん!!!」
って、抗議をして、
恵子さんはけたけたと笑いながら、
「さあ、こっちよ。燐ちゃんたちの部屋は」
と、案内してくれて、
軽やかな足取りで先に歩いていく恵子さんに燐さんは大きくため息を吐いて、それで燐さんは私と白さんに深々と頭を下げたの。
「ほんとぉ〜〜うにごめんなさい。恵子さんって昔らからあーいう人で。でも彼女は本当に悪い人ではないから」
って、すごく一生懸命にフォローして。
それでそんな燐さんに私も白さんもふわりと笑ったの。
「わかっていますよ、燐さん。燐さんのお友達ですもの。大丈夫、いい人だってわかっています」
本当にそう想ったし、それに恵子さんの目を見ていればたとえ燐さんのお友達じゃなくっても恵子さんがいい人だってのはわかったしね。うん。
だけどその後の燐さんにはまた驚かされちゃった。
だって顔をあげた燐さんは目をうるうるさせていて、
それで・・・
「沙樹さん」
「わわ、ちょっと燐さん」
って、燐さんは私に抱きついてくるんですもの。それでやっぱりそんな私たちに白さんは見守るような微笑ましい表情をしてくれていたの。
+
晩御飯はね、コテージの前でバーベキュー。
私が包丁でバーベキューの材料を切ったり、サラダの材料を切ったりして、
白さんがお肉や野菜をバーベキュー用の串に刺していってくれたの。
ん、燐さんは食器並べ。でもね、これぐらいは燐さんにでも大丈夫かな?と想って頼んだ事があったんだけど、ね………
「沙樹さん、食器、並べ終わりましたよ」
「あ、はい、ありがとうございます。えっと、それではこっちに来てサラダを作っていただけませんか?」
作って、という言葉に燐さんはにぱぁーっと顔を崩したわ。
だって周囲の人間は燐さんに料理をさせようとしないから。
だからもちろん・・・
「げぇ、沙樹さん、チャレンジャーね」
などと恵子さんには言われてしまって、
それでそんな恵子さんに燐さんは不愉快そうに眉根を寄せたの。
「なんですか、それは!!! 恵子さん」
燐さんがそう言うと、恵子さんはにんまりと笑いながら頬にかかる髪を耳の後ろに流しながら、肩をすくめて、
「あら、燐ちゃんに料理をさせないのは常識じゃない」
なんて言って、それでますます燐さんは頬を膨らませてしまって、
「な、そんな常識がいつできたんですか!!!」
って、燐さんが突っ込んでね、そしたら恵子さんの言いようがとても面白かったの。
「んー、香港返還前に起こった香港札術組織とイギリスのマフィアとの抗争の時にクライアントのマフィアもろとも悶絶死させた伝説の中華まんを作った時かしら? それと台所を爆発させた事もあったし、しばらく二人でニューヨークで暮していた時に私のお気に入りのお鍋を焦がして底に穴を開けた事もあったし、それに・・・」
指を折り数えて過去の燐さんの料理での武勇伝を語っていく恵子さんなんだけど、それが両の指では足りなくなってしまって、それでスノードロップちゃんの指を借りながらまだしゃべっていく恵子さんに燐さんは顔を真っ青にして、それでちらりと私と白さんを見た後に、
「あー、わー、もういいです。もういいですから。えっと・・・あー、もう!!! Be quiet!!!」
って、燐さんは叫びながら恵子さんの口を両手で押さえて、
それでそれに対して恵子さんはおどけたように両手をオーバーに振ってもがいてね、
そんな二人を見て私と白さんは本当に二人は仲がいいんだなーって、笑ったの。
んー、でも確かに怖いよね、昔を知ってる友人って。
――――くすっと笑った沙樹がその後に苦笑したのは『ああ、あたしも沙樹の3歳からの過去はよ〜く憶えているよ』と従姉妹が言ったからで、それに対して沙樹も小さくため息を吐いて苦笑しながら言うのだ、「あの、私も知ってるんですけど?」って。
そして二人でくすくすと笑いあった。
『で、燐さんは結局、サラダを作ったの、沙樹? って、沙樹、聞こえている?』
携帯電話を持ったまま沙樹は少し顔色を青くさせて固まった。
そしてこほんと咳をすると、
「あー、えっと、実は教訓ができました」
『教訓?』
「うん、教訓。燐さんには料理をさせないって」
『って、沙樹………。で、沙樹にそこまで言わしめた燐さんの新たなる料理の武勇伝って何な訳? 話からすると、サラダで新に作ったんだよな?』
―――沙樹は小さく深呼吸してから、口を開けた。
私は、千切りにしたキャベツが氷水に浸されて入ったボールと、千切りにしたニンジン、ピーマン、玉ねぎが入ったザルとを燐さんの前に置いたの。
「えっと、お皿にキャベツを綺麗に小山形に盛って、その上にアオミ(ニンジン、ピーマン、玉ねぎの意)をかけて、それできゅうりとトマト、ゆで卵を乗せておいてください。それでその出来上がったサラダに私が作ってきたドレッシングをかけてください。お昼のお弁当のサラダにもかかっていた奴ですから少し申し訳ないんですが。それが終わったら茹でたスパゲティーを3等分に切って、それをボールに入れて、切ったハムを入れて、マヨネーズで和えてくださいね」
「はい」
幼女の如く嬉しそうに頷いた燐さんは鼻歌を歌いながらサラダの作成に取り掛かるんだけど、
こっそりと周りの木や草、花が教えてくれたの。燐さんが『皆をびっくりさせてやるんだから』って呟きながら、どうやら自分で前もって作って来たらしいドレッシングをサラダにかけているって。
え、あ、ううん。それをどうこう言うつもりなんてなかったよ。やっぱり女の子なら自分の作った料理を皆に食べてもらいたいと想うに決まっているもん。
それに私も燐さんの手料理を食べたいと想ったしね。
それでそこに………そう、野うさぎが来るの………。
――――沙樹はふっと苦笑いを浮かべた。
「あ、うささんでしぃー」
最初に野うさぎに気が付いたのはずっと私の頭の上で寝そべっていたスノードロップちゃんで、
私もぴょこりと顔を草むらから出している野うさぎに顔を綻ばせたわ。
「本当だ、かわいいです」
「そうですね。かわいいですね」
白さんもすごく和んだ声を出してね、
でも………
「さあ、お食べ」
って、燐さんは自分の特製ドレッシングがかかったレタスを野うさぎに差し出して、
それで野うさぎはそのレタスを食べてね、
で、私は燐さんが野うさぎとの触れ合いに成功したんだ、ってすごいすごいって大喜びしたんだけど、
でもね………
――――ここで『沙樹?』ととても不思議そうな、そして心配しているような響きを含んだ声が携帯電話から聞こえてきたのは、
沙樹の声が震えていたからだ。
そしてその訳は………
あのね、その燐さんの特製ドレッシングがかかったレタスを食べた野うさぎはね……
ぱたりと口から泡を出して、気絶したの………。
『・・・』
「・・・」
『沙樹、よく無事に帰ってこれたな』
――――沙樹は遠い目をしながらそう言って、また大きく大きくため息を吐いた。
【シーンX お風呂場】
『でさ、沙樹。今日、電話したのは沙樹の声が聞きたかったのもあるんだけど、大丈夫だったかな? と心配もしていたりで、さ』
「心配?」
『そう、心配。沙樹と燐さんも白さんに惚れてるだろ。だからその辺で大丈夫だったかな?ってさ。そこら辺の事も話し合ったりした?』
「え、あ、うん。したよ、燐さんと白さんの話………」
+
「さあ、美味しくバーベキューを食べましょう♪」
冷たく冷えたビールが入ったグラスを高く掲げ上げた燐さんのその言葉がバーベキューパーティーの始まりの言葉。
「はい、乾杯です」
そう言って私もね、オレンジジュースが入ったグラスを燐さん、白さん、スノードロップちゃんとかちんと軽くぶつけ合ったの。
そうやってジュースを飲みながら白さんやスノードロップちゃんにバーベキューを勧めたり、サラダを食べさせてあげたり、
それで燐さんにもね、美味しく出来上がったビビンバをお皿に盛って、燐さんに食べてもらおうと想って、燐さんの所に持って行ったんだけど、
それでね私は聞いたの、その時に燐さんと恵子さんのお話を。
―――――沙樹はこっそりと聞いていた大きな樹の陰で、二人の風に乗って聞こえてくる喋り声を。
「白さんを取り合うライバルって。敵は手強いわよ。美人で料理上手。しかもものすごく性格がいい」
「あははははは。でも、はい。負けませんよ。それにあの人は皆に優しいから、だから誰かひとりを選ぶということはしないでしょうし、考えた事も無いんじゃないかな? だから多分、皆がずっと片想いなんだと想います、白さんにはずっと。それに前に見ちゃったんですよね。とても寂しそうな顔で桜を見ていたのを。多分あの人は覚えていないけど、でも理屈とかじゃない感覚で忘れられない人たちがいるんだと想います。だからこそ私が幸せにしてあげたいんですけどね。でも選ぶのは、前に進む一歩を踏み出すのは白さんだから、だから私はあの人の一歩前に居て、手を差し出しているつもりです。そしてその手がつかまれなかった時は、その時はその手で白さんたちの背を押すんです。それがあの雨の日に生きる意味を…私を私にしてくれたあの人への恩返し」
『それで沙樹はどう想った、それを?』
「うん、さすが燐さんだなって。私もね、それは少し想っていたんだ。白さんの優しさは、あの人自身が持つ天然の優しさだけではなく、あの人が前に出逢った優しさの結晶が白さんの心を包み込んでいるんだって。だからあの人は誰よりも他人に優しくできて、そして哀しいと想うの」
『うん、それで?』
「あ、うん、いや、それだけ……。私はまだ漠然とでしか自分の想いはわかってはいないから。それでもね、その想いを燐さんに聞いてもらう機会に恵まれたの。うん、そう、あの夕飯時にね、急に雨が降り出してきたの――――」
―――――雨が突然降ってきて、バーベキューは中止。
私たちはコテージに逃げ込んで、
でも皆ずぶ濡れでね、それでその私たちに恵子さんが言ったの。
「お風呂は出来てるから、入ちゃって。私は、この雨に濡れちゃったバーベキューを調理し直すから」
「あ、はい」
燐さんは頷いたけど、
だけど私は料理のお手伝いを申し出て、
「あの私も、お手伝いします」
って。
だけどそう言った私に恵子さんがにこりと笑ったのね、
「大丈夫。あなたはお風呂に。風邪を引いたら大変ですもの」
って。
でも私は言い張ってしまったの。だって恵子さんはそう言ってくれるけど悪いじゃない。
「あの、でも・・・」
だけど言い張る私に燐さんはにこりと微笑んでね、
「恵子さんの料理は沙樹さんに負けず劣らずにすごく美味しいんですよ。だからここは恵子さんに任せて、私たちはお風呂に。お風呂から上がったら手伝いましょうか?」
って、そう言ってくれたの。
その燐さんの後ろで、
「手伝うのは沙樹ちゃんだけでいいからね」
また恵子さんがそう悪戯めいた声で言って、
もちろん、すごい勢いで後ろを振り返って燐さんは抗議の声をあげてね、
その燐さんや恵子さんの姿に私は笑ったの。
まだまだ本当に私は子どもだなって。一方向からしか物事が見えていないのがわかったから。ほんと、まだまだだよ。
それでね、私は燐さんとお風呂に入ったの。
檜で出来たとても大きなお風呂で、お湯も乳白色で、
燐さんは檜の匂いがする湯船に浸かりながら鼻歌を歌って、
私は両手でお湯をすくっていたの。
「いいお湯ですね、沙樹さん」
「はい。美味しい空気に、気持ちいいお風呂。最高です、もう」
――――そして沙樹が従姉妹も来れたらよかったのに、と残念そうに笑うと、その沙樹に燐は悪戯っぽく笑った。
「ひょっとしたら気を遣ったのかも?」
「え、気を遣うって?」
「だから沙樹さんが白さんと居られる時間を増やそうかな、って」
その時は頭が真っ白になっちゃった。だって………知ってるから………
「でも燐さんだって白さんを好きでしょう?」
「え、あ、はい。そうです」
――――ぽちゃんと水道から水滴が湯船に落ちた音が充分に聞こえるほどに二人とも沈黙する。
白い湯気がレースのカーテンのように包む風呂場。そのレースのような湯気をふわりと動かして、風呂場に下りていた黙をばしゃっと水の音で壊す。
「わわ、燐さん!!!」
恥ずかしさで頭が一杯だった私は燐さんの動きが掴めず、後ろから抱きつかれて大声をあげてしまったの。
そんな私に燐さんはふざけてぎゅっと私の体を抱きしめてぴったりとくっついて、それでそのまま私の耳元に囁いたの。
自分が白さんをどう想っているかを。
「私にとっての白さんは『水』です。私を優しく包み込み癒してくれる………そういう想いから水。私は『火』。水は火を消してしまう。火は水を蒸発させてしまう。でも火が燃やした物はそれが栄養となり自然の命を生み出し、水はそれを育む。そうですね。私はそうやって白さんが過去に私を助けてくれたように、私も白さんと一緒になって誰かを支え応援したいんです。恋とは違うかもしれませんね。パートナーという感じでしょうか。でもそれでも選んでもらえたらそれはとても幸せで。私も皆が好きなんだと想います。皆が。白さんという個を好きなのか、それとも白さんを含んだ周りの皆…家族としての白さんが好きなのかわかりません。でも白さんと一緒に居ると幸せです」
それでね、燐さんがそう言ってくれたから、だから私も………燐さんに言ったの、私が白さんをどう想っているかを。
「私も白さんが好きです。好きな人。側にいるとほんわりと暖かくなるような、落ち着くような。気恥ずかしい気持ちもあって、あれだけど、でもやっぱり一緒にいられるのは嬉しくて。好きだし尊敬もしている。この気持ちが恋かどうかはわからないけど、でも私にとって白さんは特別な人なのです」
好き、
その想いは、
LIKE
か、
LOVE
かはわからない。
でも二人の乙女は、乳白色の湯に浸かりながら、
ひとりの人への想いを語り合った。
【ラストシーン 寝室】
うん、大切な想い出だよ。
とても大切な想い出。
燐さんと白さんの事を話し合ったのは。
「ああ、でもこの旅行で一番のドッキリはやっぱり寝室のベッドかなー」
『なに、沙樹。そんなおかしそうな声を出して。一体何があったのかな、ん?』
「あのね―――――」
――――あのね・・・
「えっと……これはどうしましょう…か?」
「あ、あの、僕は、向こうのソファーで寝ますね」
私と白さんはそれにすごくびっくりして、戸惑っていたの。
え? 何に戸惑い、びっくりしたのか?って。
それはね、ベッドのサイズ。
てっきり寝室には二段ベッドが二つあるもんだと想っていたのに、なのにその寝室に置かれたのは大きなベッドがひとつだけなんだもん。
そう、その、あの、恋人同士がそういうホテルに泊る部屋に置かれている大きなベッド。
実はね、私たちが泊っていたコテージは家族用のコテージじゃなくって、カップル用のコテージだったの。
あ、ううん、向こうの不手際なんじゃなくって、燐さんがね、そうするように申し出たの。恵子さんを助けるために。
「えっと、実はちゃんと家族用のコテージを用意しておいてくれたそうなんですけど、飛び入りで三人家族のお客さんが来てしまったそうで、それでその家族さんに恵子さんは帰ってもらうよう頼もうとしていたんですけど、でもこれってお客様あっての商売でしょう? だから私が私たちが使うはずだったコテージをその家族さんに回すように頼んで、それで私たちはちょうどその時にキャンセルが入ったこのカップル用のコテージを使えるようになったんですよ♪」
「か、カップル用って・・・」
はい、もちろん私は大きな…優に四人は充分に寝られる大きなベッドを見て顔を赤くしましたとも。
でも燐さんってばね、
「さあ、では一緒に寝ましょうか?」
なんて言い出すのよ。
「は、え、寝るって・・・寝るんですか???」
私は目を回しながら裏返った声を出しちゃった。
それでも燐さんはこくりと頷いてね、
「はい、寝るんですよ。三人と一匹で」
って、言い切って。
「一匹ってなんでしか???」
文句を言うスノードロップちゃんをスルーして、ベッドの真ん中にダイブして、
そしてころんとひっくり返って、左手でとんとんとベッドを叩いて、私ににこりと笑ったの。
――――沙樹はくすぐったそうな懐かしそうな笑みを零した。
携帯電話の向こうからそんな沙樹がわかっているようにくすっと笑う声が聞こえてくる。
「さあ、沙樹さん」
で、私はそんな燐さんに負けて、彼女の横に寝転んで、
それで次に燐さんは右手でベッドを叩くの。
うん、もちろん白さんは銀色の髪の下にある顔を真っ赤にしながら手を横に振ってた。
「い、いえ、僕はだからソファーで眠るので」
「わ、酷い。女に恥をかかせるんですか? 勇気を出して誘ったのに」
うふふふ。負けていないよね、燐さん。
「は、恥って」
それで白さんはものすごく困った顔をして、
私はただただ真っ赤な顔を俯かせて、
燐さんは笑いをあげて、それで白ににこりと笑って、
で、何を言い出すかと思えば・・・
「大丈夫。誰も無理やり、白さんを押さえつけておかしたりはしませんから。ね、沙樹さん」
それで私は思わず燐さんに突っ込んじゃったの、こうやって。
「当たり前です!!!」
ってさ。
『で、結局、どうしたのさ、沙樹?』
「あ、うん。寝たよ、皆で。燐さんを真ん中にして、川の字でね。なんだかすごくくすぐったかったけど、でも同時にものすごく懐かしかった。うん。それでね――――」
―――――それでね・・・
そうやって沙樹は朝日が登り、すずめが朝を謳う唄を歌いだすまで楽しい旅行の想いを語るのであった。
机の前の壁にかけられたコルクボードには白、燐、沙樹という順で川の字の形に大きなベッドの上で並んで寝ている幸せな光景を写した写真がとても大切そうに貼られていた。
― fin ―
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【 2182 / 倉前・沙樹 / 女性 / 17歳 / 高校生 】
【 1957 / 天樹・燐 / 女性 / 999歳 / 精霊 】
【 NPC / 白 】
【NPC / スノードロップ 】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、倉前沙樹さま。いつもありがとうございます。
こんにちは、天樹燐さま。いつもありがとうございます。
このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。
プレイングを拝見させていただいて、もう本当に面白そうで楽しそうでしょうがありませんでした。
沙樹さん、燐さん、白さんでの旅行はものすごく楽しそうですよね。
沙樹さん、白さんは植物の声が聞こえるから、だからピクニックや紅葉狩り、自然観察といったのはすごく得意そうで、
本当にものすごく良い場所に案内してくれそうで羨ましいです。
そして草摩の中では前にいただけた言葉がものすごく嬉しくって、もう沙樹さんと言えば当然セットでスノードロップが出てくるので、
今回もスノードロップは沙樹さんにべったりです。^^
い、いえ、決して沙樹さんにスノードロップが餌付けされている訳ではなく、
二人は親友さんなのです。^^
今まで何回か、僕は沙樹さんの白さんへの想いを書かせていただけましたよね。
今回は沙樹さん自身の白さんへの想いをプレイングにて聞かせていただけて、本当に良かったな、と想いました。
沙樹さんはこのような想いを白さんに抱いていたのですね。
そういう意味でも今回のこのノベルはとても印象深い物になったのですよ。^^
それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
本当に今回もありがとうございました。
失礼します。
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