■神の剣 忌屍者【前編】■
滝照直樹 |
【2181】【鹿沼・デルフェス】【アンティークショップ・レンの店員】 |
「決着を付けなくては」
織田義明は天空剣道場で呟いた。
三滝尚恭との戦いである。
相手はリッチという忌屍者。魂の入れ物を探し出し壊さなければならない。
過去の記録を何とか調べあげて、かつて三滝が住んでいた所に赴く準備を完了し出かけることにしたのだった。今は大きな墓地となっている。
今まで受け身だった。ならばこっちから三滝の魂の入れ物を壊すことが唯一の手段だ。
義明が道場から出ようとすると、
「茜」
茜が心配そうに入り口で立っている。
「よしちゃん……いっちゃうの?」
「大丈夫だ。これ以上アイツの好きなようにさせないつもりだ」
「大丈夫じゃない!! 独りで行っちゃ駄目! 幾ら自分の宿命といっても、全部自分で背負わないで! それによしちゃん……体が……」
茜は涙を流しながら彼を止めようとするが、
義明は首を横に振った。
「アイツが現れて、計画をつぶすだけではもう駄目なんだ」
そのまま、彼は旅道具を持って道場を去った。
「全部背負い込まないで……よしちゃん……」
止められなかった茜。大粒の涙を流す。
――止められないなら……私も……
茜は直ぐに後を追うことにした。
三滝はかつての住処だった所に立っていた。すでにそこは墓場になっていた。
「時の流れは無常だな」
三滝は知識探求から魔術を知り、神隠しに遭って、別世界の魔法を習得し、魂のみの存在となった。しかし、その知識を得ていく中で己の存在を常に保つには“神として超越”しかない。己の魂もそろそろ知識量により消滅され、“知識の魂”となるだろう。それだけは避けなければならない。
IO2は、三滝のアジトを見つけ、ヴィルトカッツェと渡辺美佐を派遣する。
「萌ちゃん〜。気を付けてね」
と、美佐はヴィルトカッツェを抱きしめる。ついでといえば彼女のおしりを触る美佐。
「な、何するんですか!? 真面目にして下さい!」
ジタバタもがくヴィルトカッツェ。
「だって〜近頃一緒にお仕事出来なくて寂しかったんだもん〜」
「そんなのは理由になってないです! 真面目になってこの付近の霊反応など調べて下さい! 魂の入れ物は呪物反応に引っかかるでしょ!」
「はぁい」
美佐は渋々ヴィルトカッツェから離れ、シルバールーク改で霊反応、その場所の測定を開始するが、
「ここってかなり霊反応が此処まで強く……怨霊器を作るに十分な反応よ」
渡辺美佐は、シルバールーク改から探知させた霊反応に驚いている。
「呪物反応も地下にかなりある。同じ質のように見えて殆どがフェイクね」
「一番大事な“物”だからね。其れぐらいはしているわけね」
ヴィルトカッツェは墓場を眺めた。
「織田さんの命を取られたら更に被害が増えるけど、織田さんを捕獲・保護するほどIO2(こっち)は力がないし……。困ったなあ、神の力って……」
ヴィルトカッツェは今回の任務のために霊的強化した武器を持つ。
「ま、私たちは三滝の逮捕と言いたいけど、結局は破壊になるわね。でも織田義明って少年はおとなしくしてくれるかしら?」
「其れはないと思うよ美佐さん。織田さんは三滝との決着を付けるために必ず来るよ」
美佐の疑問にヴィルトカッツェはそう答える。
「彼は今のところ一般人扱いだし、任務に支障を来す場合、逮捕か……」
「本当は、出会っても戦いたくないな。神聖都で見る限り面白い先輩だもん。でも、三滝に一番狙われているのは彼だし」
「複雑ね。顔見知りを敵と認識した場合逮捕しなきゃならないのだから」
と、2人はため息をついて、
「さて、作戦開始!」
IO2としての任務を果たすことにしたのだった。
まず、この墓場のどこかにある、三滝の住まう地下の入り口を見つけなければならない。
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神の剣 忌屍者 【前編】
「決着を付けなくては」
織田義明は天空剣道場で呟いた。
三滝尚恭との戦いである。
相手はリッチという忌屍者。魂の入れ物を探し出し壊さなければならない。
過去の記録を何とか調べあげて、かつて三滝が住んでいた所に赴く準備を完了し出かけることにしたのだった。今は大きな墓地となっている。
今まで受け身だった。ならばこっちから三滝の魂の入れ物を壊すことが唯一の手段だ。
義明が道場から出ようとすると、
「茜」
茜が心配そうに入り口で立っている。
「よしちゃん……いっちゃうの?」
「大丈夫だ。これ以上アイツの好きなようにさせないつもりだ」
「大丈夫じゃない!! 独りで行っちゃ駄目! 幾ら自分の宿命といっても、全部自分で背負わないで! それによしちゃん……体が……」
茜は涙を流しながら彼を止めようとするが、
義明は首を横に振った。
「アイツが現れて、計画をつぶすだけではもう駄目なんだ」
そのまま、彼は旅道具を持って道場を去った。
「全部背負い込まないで……よしちゃん……」
止められなかった茜。大粒の涙を流す。
――止められないなら……私も……
茜は直ぐに後を追うことにした。
三滝はかつての住処だった所に立っていた。すでにそこは墓場になっていた。
「時の流れは無常だな」
三滝は知識探求から魔術を知り、神隠しに遭って、別世界の魔法を習得し、魂のみの存在となった。しかし、その知識を得ていく中で己の存在を常に保つには“神として超越”しかない。己の魂もそろそろ知識量により消滅され、“知識の魂”となるだろう。それだけは避けなければならない。
IO2は、三滝のアジトを見つけ、ヴィルトカッツェと渡辺美佐を派遣する。
「萌ちゃん〜。気を付けてね」
と、美佐はヴィルトカッツェを抱きしめる。ついでといえば彼女のおしりを触る美佐。
「な、何するんですか!? 真面目にして下さい!」
ジタバタもがくヴィルトカッツェ。
「だって〜近頃一緒にお仕事出来なくて寂しかったんだもん〜」
「そんなのは理由になってないです! 真面目になってこの付近の霊反応など調べて下さい! 魂の入れ物は呪物反応に引っかかるでしょ!」
「はぁい」
美佐は渋々ヴィルトカッツェから離れ、シルバールーク改で霊反応、その場所の測定を開始するが、
「ここってかなり霊反応が此処まで強く……怨霊器を作るに十分な反応よ」
渡辺美佐は、シルバールーク改から探知させた霊反応に驚いている。
「呪物反応も地下にかなりある。同じ質のように見えて殆どがフェイクね」
「一番大事な“物”だからね。其れぐらいはしているわけね」
ヴィルトカッツェは墓場を眺めた。
「織田さんの命を取られたら更に被害が増えるけど、織田さんを捕獲・保護するほどIO2(こっち)は力がないし……。困ったなあ、神の力って……」
ヴィルトカッツェは今回の任務のために霊的強化した武器を持つ。
「ま、私たちは三滝の逮捕と言いたいけど、結局は破壊になるわね。でも織田義明って少年はおとなしくしてくれるかしら?」
「其れはないと思うよ美佐さん。織田さんは三滝との決着を付けるために必ず来るよ」
美佐の疑問にヴィルトカッツェはそう答える。
「彼は今のところ一般人扱いだし、任務に支障を来す場合、逮捕か……」
「本当は、出会っても戦いたくないな。神聖都で見る限り面白い先輩だもん。でも、三滝に一番狙われているのは彼だし」
「複雑ね。顔見知りを敵と認識した場合逮捕しなきゃならないのだから」
と、2人はため息をついて、
「さて、作戦開始!」
IO2としての任務を果たすことにしたのだった。
まず、この墓場のどこかにある、三滝の住まう地下の入り口を見つけなければならない。
1.それぞれの決意
義明に前に現れたのは、恋人の天薙撫子が茜を連れて待っていた。姿は巫女の袴姿に襷にハチマキという出で立ちである。
「撫子さん……どうして此処に?」
「どうしてもなにも、あなたと共に歩むことを誓い合ったじゃないですか」
にっこりと微笑む撫子。
頭を掻く義明。
「まいったな……」
「一人で全部背負わないでくださいね。あなたの身体は限界と知っているのはあなただけではありません。茜さんも、そしてわたくしも、です」
大人びた笑顔で彼女は義明を諭した。
「よしちゃん」
「茜……」
「茜さんも、一緒に義明くんを助けましょうね」
「うん」
榊船亜真知は、既に衛星軌道上からスパイ衛星宜しくこの情報を“見て”いた。
化身の方は、正装の姿で物陰に隠れている。
話の内容からだと、撫子の説得でいまは“3人”になった様だ。それでも決着を付けに行くのは変わりない。
「仕方ないですわね」
苦笑混じりで亜真知サマは軽やかなステップで姿を現して、
「お姉様♪」
と、駆け寄って“従姉”に抱きつくのだった。
死神である、御柳紅麗は目に黒い眼帯をしており、既に死神の身体となって現世に降り立った。
――廻魂界中央一〇八室より御柳紅麗副隊長へ…第一級特例:織田義明を援護し、三滝尚恭の魂を狩る由、厳命する。尚、任務の障害となる者を斃す事を一〇八室の名に於いて許可する。未確認情報:『禍』出現の惧れ有り。
「病み上がりに、危険な指令をだすのかよ」
苦笑混じりにぼやく紅麗。
彼も又過去に、三滝と戦い自分の無力さを知った者の一人だった。死神として一度で狩れなかった相手を取り逃がすことは出来まい。しかし彼は修行や他の事件の時に“禍”という「摂理を無視し全てを無にする」組織と戦い目に負傷を追ったのだ。
「おいおい、今からだと……間に合うか」
既に死神の身体なのだから、少しかっ飛んでいけば義明に追いつくだろう。多少霊力は落としていくべきではあるが。
IO2のヴィルトカッツェと渡辺美佐の前に鹿沼デルフェスがいる。彼女はなんとライバル視している美佐から「萌ちゃんをまもって」と言われたのだ。ビックリしただろう。因みにいつものドレスではなく動きやすいあやかし荘のスポ根状態ではないが、スポーツジャージで彼女はやってきている。其れは其れで彼女に似合っているものだ。曰く付きのジャージであるのは言うまでもないが……。
「全力でヴィルトカッツェ――萌様をお守りします」
デルフェスは2人の前で誓う。
「ありがとう。シルバールーク改の各弾薬などは一区画消滅する程強力なの。聖別処理された、更に恐ろしい威力だから、……萌ちゃんを失いたくないの。破壊行為以外のはあるけど弾薬も少ないから……」
「萌様を失いたくないのは、わたくしも同じですわ」
「もう任務の前で、友情ごっこ? それとも決着つけるの?」
「萌様/ちゃん!?」
ヴィルトカッツェこと茂枝萌からすると、2人の会話には優しさとライバル心の気迫を感じていたのだ。その辺を少し突っこんでみただけのNINJA。
慌てて弁護というか何かよく分からないことを良いまくし立てる2人に、萌は笑った。
そこで、東京支部から連絡が来た様だ。
「はい、此方三滝殲滅班……え? 一般人の織田義明と共闘すると? どういう事です!?」
美佐は通信を受け取り驚いている模様。
「考えてみれば、お互いが鉢合わせになったとき、強制退去させるわけには行きませんわ」
「わたしも、織田さんとは戦いたくないけどその方が、仕事がはかどるかもしれない」
「丸くなられましたね、萌……いえ、ヴィルトカッツェ様」
「ああ! もう! どうして調子狂う!」
落ち着いている2人に反して、美佐はこの“共闘”する命令を渋々受けることになるのだった。
その案を提示したのは、織田義明の目の前で待っていたいつも傘を持っている奇妙な少年、御影蓮也だった。
「全く雫の時といいもっと用意してから行動して欲しいな」
「わりぃ」
「多分お前のことだから、パーティを組んでの行動など、なんにも考えてないだろう。」
「ま、そうだな。今考えていた所だが」
「そうだろうと思って、ほら見取り図」
蓮也は皆に三滝のアジトの地図などを見せた。そしてどうするか説明している。
「IO2の方にも何とか“共闘”を持ちかけているから、多分戦闘にはならない。俺はお前のサポートで別行動を取っている立場にある。だから、義明は三滝を倒すことを考えればいい」
「ありがとう」
蓮也の助けは何と心強いものか。義明は礼を言った。
「よかったですね、義明くん。お友達が沢山いて」
「ああ、そうだ……」
撫子は、義明の肩に手を置く。義明は其れに答える様手を彼女の手に重ね合わせた。
「さて、作戦は入り口探しで、トラップなどを回避、破壊だね。そのへんはIO2に任せればいいってわけだ!」
茜は今まで泣いていたのが嘘の様に、元気に作戦の要点をまとめ始めた。
素早く茜と亜真知は蓮也の手をとり、少し義明と撫子から離れた。
「な? なんだよ?」
「しーっ! 暫く二人っきりに!」
「あ、成る程です」
3人して笑う。
戦いに赴く前に、少しだけでも愛する人だけの時間を与えたいという、粋な(?)計らいだった。
IO2からの蓮也の案が全て承認された時点で、その時間は終わりを告げる。
そうして、彼らは動き出した。
2.墓場
義明組が墓場にたどり着く。
「広い墓場ですね」
撫子が一声。
「恐ろしい程の霊力の存在がかなりありますわ」
大きな仏教関係の墓地。古くから建っていたためか、道や墓石に統一性もなく、“如何にも”な場所だった。
「肝試しするにはうってつけな場所かもな」
蓮也が呟く。
リンの発火による人魂と本当の人魂もあるから言えた言葉だった。
「このだだっ広さをよしちゃん一人で“義明は足下を調べた……”ってやってそうな気がするなぁ」
「ゲームじゃねぇ」
「あ、其れはありそうですわね」
「コイツならやってそうだ」
茜の言葉に義明が反論するが、皆否定しない。
「ったく、霊感知や“占術”で調べるよ。墓荒らしじゃないんだから」
少し拗ねた口調で義明は言い返し、そのまま先行する。
「待って下さい! 義明くん急いではなりません」
撫子が小走りで追いかける。
皆、警戒はしているが入り口手前では問題はなかったようだ。
亜真知は別ルート進行、および上空ナビのため、現在衛星軌道上にいるらしい。
「4つ生命反応!」
「急がなきゃ。織田さんだ!」
「はい」
IO2が動き出した。
名前が“山猫”のようにしなやかに音も立てず墓場を翔るヴィルトカッツェ。その後をデルフェスがついていく。6メートルほどの間隔を空けている。
「悪霊が! デルフェスさん!」
ヴィルトカッツェとデルフェスの間にいきなり実体化した悪霊。
「大丈夫ですわ、これくらいのモノなら!」
非実体の悪霊を“掴む”デルフェスは何かを唱える。そのまま酸に焼かれるように悪霊が消えていく。
「換石の術以外でもつかえるのですか?」
驚く幼きNINJA。
「掴んだときに、生き返らせて下さった方の……知識の一部が目覚めたのかもしれません」
「心強いです!」
萌は年相応な笑顔を見せデルフェスの手を握る。
――無線で何かひび割れる音がした気がするのは気のせいかもしれない。
「しかし、悠長な事は言っていられない……デルフェスさん」
「ですわね……。何かが急速に此方に向かっていますわ……」
「萌ちゃん、デルフェスさん! 霊力ランクA+が急接近中!」
「A+? 神?!」
美佐の通信で2人はその方向を向いた。
“それ”はまさに神の力をもった存在だった。持っていたモノが大鎌でなく日本刀だが、その力には“魂を狩る”力を宿している。
ヴィルトカッツェとデルフェスは構え、何者かを視認する。データ解析つきゴーグルによると、それは人であってそうでないモノだった。
「データ解析……御柳紅麗? 本当の死神?」
2人は警戒する。
「IO2か!」
音も立てず、停止。そのまま宙を浮く紅麗。距離は9メートルほど、死神の仮面を被っているが霊力は上がっている。
「御柳紅麗、何故ここに来たのですか?」
ヴィルトカッツェが尋ねた。既に過去のデータでエルハンドや義明から彼の存在を知っている。
「義明と同じさ。決着を付けるんだ。三滝の魂を狩るって」
そのまま正直に答える紅麗。
「今のあなたは、異能者として危険視されています。今すぐ此処から出て下さい。」
ヴィルトカッツェは銃を構えて警告する。壁のように立っているはデルフェスだ。
「やるってのか? 生憎俺も個人的にケリを付けたいこともあるし仕事なんだよ。……個人的感情ではあんたと戦ってみたいけど、“ヴィルトカッツェ”に“鹿沼デルフェス”」
「そっちの世界で仕事なのですね……御柳様」
3人に緊張が走る。
ハッキリ言えば、デルフェスのサポートでも今の紅麗にかなう相手ではないだろう。しかし、相手は好戦的な態度を取っている。人間の肉体であれば力が制限されるため何とかなるだろうが、向こうは其れを無くしているのだ。
「しかし、場所が場所のようですわ……」
ゴーレムは周りを見る。
死神の霊力はハッキリしていたためか、三滝が動いたようだ。その証拠に、非実体系浮遊悪霊たちが浮かび上がり、墓の中で眠り続けていた骸骨が地面から手をだしてくる。
「今は休戦か……俺は義明に一度会っておきたいんだけどな」
「そうね。周りの悪霊達を殲滅封印に切り替えます!」
3人は襲いかかる悪霊達に視線を変えた。
「……色ボケが来ている」
義明が呟く。
「紅麗くんのこと?」
茜が訊いた。
「言うまでもないだろ? 俺が付けたあだ名だ。あれ? かわうそ?か? 宗家だったっけ?」
「悠長なこと行ってないの! で、どうなの?」
間抜けなことを考えている幼なじみにハリセンで突っこむ茜。
「いって……。存在自体がギャグになるな、やっぱそれ」
「……もう! 危機感あるのかないのははっきりしてよ! だから天然って言われるんだから!」
フグ面になる茜。
「まあまあ、義明くんに茜さん……漫才はそのへんで」
「お前等馬鹿か?」
撫子と蓮也は呆れつつ、笑いながら2人の漫才をとめる。
「義明。で、あの色ボケ死神が来たがどうしている? 俺は“運斬”の効果を少し使って隠れ身をしているし、そんなに霊感が高いわけでないんだ」
「IO2のエージェントとこの感じは……デルフェスさん……と鉢合わせて、三滝の部下を刺激したようだ」
「ええ?!」
皆が驚いた。
「急いで合流しないと……後々喧嘩しちゃうんじゃ?」
「亜真知サマから念話が……亜真知サマが“アジトの入り口”を探すそうです。先に今の3人の危機を助けないと……、ライバルや友達の身の安全が」
「分かりました撫子さん」
――そうはさせない……贄共。
「三滝! “無想神格”を認識したか!」
義明と蓮也が構え、撫子、茜は結界の印を結ぶ。
――愚かな、既に占術により貴様が来るのは分かっていたのだ! それに運命を書き換えようが、どうしようが、生命の活動を隠すことは出来まい!
闇夜に突風が吹き荒れた。
風に飛ばされないように、皆は身を少しかがめる。
その瞬間、見たモノは。
――人の形をしながらも、腕には黒鳥の翼を持った異形なる生命体だった。
3.黒鳥
「怨念ごときに構っている暇はねぇ!」
見事な剣捌きでアンデッドを屠っていく紅麗。
「ゾンビ使いの能力もあると聞いていたけどこれほどとは! でも、勝てる!」
ヴィルトカッツェが軽い身のこなしで次々とゾンビやスケルトンを打ち倒す。
「萌様後ろ! 危ない!」
――え?
隠れていたのか影のアンデッドが萌に襲いかかろうとするが……彼女は瞬間石化した。
「はぁ!」
ゴーレムは“はしたない”と言っていられない状況なので、萌を襲おうとした影に回し蹴りを喰らわした。エルハンドの肉体を与えられ、生き返った彼女の身体は聖なる力を帯び、その影とその周辺全体を完全以上か出来るほどであった。
「あ、あら……私としたことが」
流石に派手なアクションは恥ずかしかったためか赤面するも、急いで萌を石化の術を解くデルフェス。
「コマンド入力で範囲必殺技か?」
その光景を少し眺めて呑気な感想を言う死神。
「何ですか其れは?」
「格闘ゲームでそう言った感じのモノがあるんだ」
「??」
「……」
世間知らずなゴーレムにアーケードゲームの話は無理だろう。
「あ……デルフェスさんありがとう」
「いえいえ、危なかったですね」
石化解呪した後状況を把握し、礼を言うヴィルトカッツェに微笑むデルフェス。
「此処にはもう、悪霊はいないみたいだな。さっきの浄化作用が効いたのだろう」
半径6メートルは綺麗さっぱり浄化されたようだ。魔法のトラップさえも。
「しかし、わたくしの力は桁外れになっていますわ」
「霊鬼兵の戦いを止めたときの恩恵だね……エルハンドさんから聞いています」
「ったく……天然剣客と愉快な仲間に関わるとホント皆の霊威が上がるな……敵の驚異度も上がってしまうけどね」
この戦いで、お互いを危険視する感情はなくなっていた。
「一度、義明と合流した方が良いのではない?」
紅麗の案だった。
紅麗は知らないがIO2は義明と“共闘”することになっている。一端合流し、また各自で行動した方が、良いのかもしれない。また、この騒ぎで向こうにも何かしら影響があるだろう。
「……も……ちゃ……。萌ちゃん!」
「美佐さん?」
戦闘中無線が切れていたが、一度終われば自動的に回復する。
「今、織田義明たちに何かMUAと接触。超常能力戦闘中のようよ!」
「三滝?」
「可能性はあるわ」
「じゃ、俺は先に行って助けに入る。お前達は好きにしてくれ。一度俺は天然に会っておきたい」
と、紅麗はそのまま飛んでいった。
「急ぎましょう……萌様」
「うん、分かった」
2人は頷く。
「霊鬼兵で肉体代用の次は、遺伝子改造人間か!」
ある武器企業の生命兵器を“貰った”三滝は、魔法の力をあまり使用せず、“烏”の力で飛んでいる。
「所詮、命は儚いものだよ、織田! 魔術探求には永遠の時間が必要だ! アンデッド(忌屍)等という何れチリになるモノよりイモータル(不死性)を求めるのは人間として当たり前の欲望だ! お前は其れをもっていて使いこなしている。何れは完全に人から離れる身なのだ! その力を欲するは貴様も知っているだろう!」
「持っていない者が持っている者に対する妬みか、三滝! 無い物ねだりはやめろ! 元からお前に“神格覚醒”する素質を魂がなかっただけだ! 俺は単に生まれたときから既にあっただけの話其れを、意義のある事柄に昇華するのが俺の生きる道だ! お前等に悪用されてたまるか!」
飛行能力を瞬時発動し、聖別された日本刀を抜刀する義明。
「おしゃべりはそこまでです! 三滝!」
妖斬鋼糸を張り巡らせて、三滝を絡めようとする撫子。
「甘いわ!」
無動作無詠唱で魔法の弾丸を撫子に向けて放とうとする三滝。
しかし、割り込むように、茜が術式で相殺する。
「記憶から調べたら、三滝、俗に言う剣と魔法世界に言ったと知っているからね。その“呪文”だと分かったわ」
「貴様!」
「お前の敵は3人だけではないぜ!」
蓮也が、服に“人が飛べる服”と書いてから運斬で斬りつける。しかし、石に当たった様な音がした。
「な!?」
「Erase!」
三滝は蓮也の服の文字を消す。
「しまった!」
概念走者の文字が消えた場合、効果はとたんになくなる。蓮也はそのまま落下するところ、様斬鋼糸がクッションになり救ってくれた。
「ありがとう」
「あなたが無茶してどうするのです?」
「あ……ああ、すみません。でも俺は良いから義明のフォローをお願いします」
蓮也は撫子に頼む。
「はい、任せて下さい」
一方、亜真知は衛星軌道上にいる。
『神斬覚醒開始。本体からの理力重点開始。……オールグリーン』
「さて、わたくしも、あの時の借りを返させていただきます。三滝尚恭」
亜真知はそのまま不可視光線を地球上に放った。その下には……撫子がいる。
「神斬が?」
愛刀である神斬が光る。生き物のように勝手に鞘から抜けた。
「封印が解かれ……覚醒したのですね……亜真知サマ」
天薙の御神刀である“神斬”が聖なる光を発した。コレは1000年前から当時の亜真知の理力から作られたアーティファクトなのだろう。其れを解放できるのは作った本人ぐらいだ。
「さぁ! 姉様やっちゃってください!」
宙からの亜真知のガッツポーズ。
「義明くん!受け取って下さい!」
「え? 姉様?」
亜真知にはコレを予想できなかった。まさか神斬を既に“具現剣”を得ている天空剣士に渡すとは……。
「やば!」
「ええ? 前と同じ事??」
蓮也と茜は事の重大さを直ぐに理解し、各々が最大防御技を展開する。
茜は紅一文字事件に使った神格抑制結界、蓮也は“ある因果を断ち切る”因果断絶である。
義明は上手く神斬をキャッチする。前に自分の『水晶』を愛する人に渡したように、彼女も又彼に力を託したのだ。
――ありがとう撫子……さん。
「ぬぅ! させるか!」
「流星雨呪文!」
三滝が、瞬時に8つの火球を作りだし、全て義明に投げつける。
「人の心の超越を舐めるなぁ!」
義明は神斬を片手に持ったまま、左手でのみでその火球一つを握りしめその場で爆発させた。
「「義明!」」
そのまま残る7つが彼に直撃し大爆発をおこした。
「義明くーん!」
撫子が叫ぶ。
爆煙の中に、一筋の青白い光が見えたとき……、撫子は涙を浮かべ笑った。
「天魔断絶・改 光明滅影」
彼は、爆煙の中を突っ切り、三滝に向かって神斬を振り落としたのだ。
元から神である紅麗にはこの力は尋常でないことに気付く。
「やべぇ! いや、まて。この“力の放出”を利用すれば!」
今こそ仮面を外す。と紅麗はおもった。
「大きな霊力反応! ランクEX! 逃げて!2人とも!」
美佐がヴィルトカッツェとデルフェスに警告を出した。
「危ない!」
デルフェスは瞬時に自分と萌を石化する。
「ディヴァインパワージャマー発射!」
ルシファーフォーク改の主砲が唸った。
同其れは全て同時に起こり、墓場は白い光に包まれた。
4.発見
その威力は愛の力もあるのか、絶大だった。
流石にDジャマーの障壁も破壊。茜と蓮也の最大防御技は自分自身を救ったが、環境まではカバーできなかったようで、吹き飛ばされている。
爆心地にいるのは、義明と撫子、そして負傷している三滝だった。
しかし、其れを予期していたのか三滝は烏のままその力に耐えている。今まで烏と人の合成だった姿を大烏に変身することで、その傷を殆どいやしていった。
「ふ、それで勝てるとおもうな……。神の子。瞬時に防御呪文を何重に展開発動させていたのだよ。そう何度も身体を失ってたまるものかと言うことだ」
「くそ……」
義明が悔しがる。左手の火傷が酷い。
撫子は、義明のみを案じるだけで呆然としてしまう。
「中に黒鳥の勘が宿っている分、前に比べてすこぶる頭の回転が速いものよ」
「まさか本気に……」
仕留められず、魂さえも消滅できなかったことに焦りる。あの技の代償なのか、息が荒い義明。
「所詮は神の力を持っていても肉体が追いついていない。お前の肉体が灰になる前に魂を手に入れる為の下の女の思いつきだろうが、……無駄になったわけだ……」
そのまま三滝は姿をそうとしたが。
「みたきなおたかぁ! うらぁ!」
そのまま何かがミサイルのように飛んできた。
「な? にぃ?」
そのまま三滝に直撃し、そのまま三滝は吹き飛んでいく。
ミサイルの正体は、力を吸収してジェット噴射にかえた死神だった。
「紅麗!」
「此処は俺に任せて“入れ物”をさがせぇ!」
「このガキがぁ!」
そのまま2人は墓場からかなり遠くまで飛んでいった。見た目では遠くの山に墜落したようだ。
「今のうちに……」
「義明くん」
降りてきた義明を支える撫子。
「ありがとう……。くそ、相乗効果を予測していたのは分かっていたが……かなり力を付けていたみたいだ……。いや、其れより蓮也と茜が……」
「大丈夫ですよ。2人の霊力を感じます。2人を信じて……今は傷の手当てを……あなたは神の力を抑えて戦わないと行けないのですから」
「ああ。分かっているでも……」
撫子は焦っている義明を抱きしめる。
「撫子さん?」
「落ち着いて下さい……」
「ああ……ありがとう……」
落ち着いた義明は彼女の額にキスをしてから……。
「アイツ等なら後で合流できるんだ。何せ、2人とも運命を切り開ける技を持っているのだから」
剣客の高速治癒がはじまる。
――見つけましたよ。入り口を。
亜真知からの念話が2人に届いた。
「あのあたりなのですね……亜真知サマ」
撫子が見た先に、大きな石の積まれた土台があった。あの大技で墓石などが吹き飛ばされており、その土台はどう見ても現代的な作りではない小さな砦のつくりをしているのだ。前面石畳である。
「この石田畳みの空間が怪しいな」
義明が狙いを定め少し蹴りを入れただけで、その石畳は崩れ、下に通じる怪談を見つけたのだ。
「いこう、撫子さん」
「はい……」
「「あー危なかった」」
ヴィルトカッツェとデルフェスががっくり腰を落とし、命があることに安堵していた。
「厄介な敵ですね……換石でもあのまま耐えられたかどうか……」
「Dジャマーを売ってくれた美佐さんのおかげかも……」
そう、あの光で、換石の術が危うく解けかけたのだ。上位解呪もあったのだろう。
「でも、みて……デルフェスさん」
「あ、織田様に天薙様ですわ……」
「「あの様子からだと、発見したんだ」」
と、2人は歩き始めた。
茜と蓮也は、何とか生き延びていた。かなり墓場から離れたところで目が覚めた。
「全く、周りの迷惑も考えてくれ……」
と、蓮也がぼやく。
「でも、無傷で済んでいるから良かったわ」
「ああ、サクッと合流しに行くか」
と、2人ははやく義明と撫子、IO2との合流を急ぐことを優先したのだった。
To Be Continued
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0328 天薙・撫子 18 女 大学生】
【2181 鹿沼・デルフェス 463 女 アンティークショップの店員】
【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【1703 御柳・紅麗 16 男 不良高校生&死神【護魂十三隊一番隊副長】】
【2276 御影・蓮也 18 男 高校生 概念操者】
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■ ライター通信 ■
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滝照直樹です。
いきなりパワーバトルです。
この回を仕上げる前に、有名卓上RPGでパワーゲームな戦闘していたのでその影響丸出しです。
このまま、中編に続きますので、次回も宜しくおねがいします。
一応、技の今回の効果説明も記述します(私が勝手に作ったものだけ)。
ホーリースマイト・キック(ソバット):デルフェスさまのソバット。命中すると聖なる力が込められ拡散し浄化する技。肉体素体自体がエルハンドなためなのか、彼の隠れた性格でているのだろうとおもわれ。
ディヴァインパワージャマー(Dジャマー):霊的効果を抑制か解呪する弾。前回佐山宗治異界事件で使用したものを再開発し、怨霊器爆破を食い止める防御型兵器として完成したもの。その光は大抵の呪物効果を解呪や今回のような力場の壁を展開させる。人間などには被害はないがある種の疑似生命やアンデッド系には結構痛い代物でもある。
放射力量転換術:紅麗さんが仮面を外し異界の術を使った。使ったのは天空剣鏡面反射の応用版。鏡面反射は相手の放出した魔力や神通力などを吸い取り、そのまま倍返しなどするモノ。今回は其れを飛行増幅能力として利用。その気になったらマッハ10も夢じゃない。別名紅麗くんミサイル。
天魔断絶・改 光明滅影:天魔断絶は破壊行為のみになるが、それを何かに特化したモノにしたようだ。しかし、今回三滝の転換術や防御術などにより、通常の天魔断絶に書き換えられたので真の能力は不明。たぶん、キャンセレーション能力を有しているらしい。
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