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■千紫万紅 ― 杜若の物語 ―■

草摩一護
【2067】【風凪・蓮媛】【花売り】
『千紫万紅 ― 杜若の物語 ― 』
「うわー、桜が綺麗でしぃぃぃぃーーーーー」
 スノードロップの妖精はひらひらと舞う桜の花びらたちと一緒に空間でワルツを踊るように楽しそうに飛んでいました。
「あまりはしゃぎすぎると桜の樹にぶつかりますよ」
 白さんは銀の髪の下にある顔に優しい表情を浮かべながら青い色の瞳をやわらかに細めました。
 さぁーと吹いた一陣の強い風。桜の花吹雪はいよいよ強く強く激しく激しく。
「ひゃぁー、すごい風ですぅー♪」
 視界を覆った薄紅の花霞み。激しく空間を舞ったそれがまたたゆたうように白さんの視界の中で緩やかな舞いを踊り始めた時に一人の美しい女性が薄紅の舞姫たちと共に舞いを踊っていました。
「桜の妖精さん?」
 小首を傾げたスノードロップの妖精に白さんは優しく微笑んだ顔を横にふりました。
「あれはね、杜若の妖精ですよ」
 薄紅の舞いに混じって舞いをしていた女性は白さんに向き直ると、丁寧にお辞儀をしました。白さんもお辞儀をします。スノードロップの妖精も白さんの横でぺこり。
「今日はどうしましたか、杜若さん? どこかお加減でも悪いのですか?」
 杜若は顔を横に振りました。
「いいえ。今日はあなたにお願いがあって来ました」
「僕にお願いですか?」
「はい。私たち杜若は歌舞の菩薩の化現であった業平の歌に詠まれたおかげで、非情の草木も成仏できました」
 突然、杜若が口にした言葉に疑問符の海に溺れるスノードロップの妖精はどんぐり眼をくるくると回しながら小首を傾げました。
 そんな彼女に白さんはにこりと微笑むと、すらすらとそれを口にしました。
「唐衣(からごろも) 着つつなれにし 妻しあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」
「なんでしか、それは?」
「昔、男ありけり。で始まる『伊勢物語』を書いた在原業平が杜若が美しく咲いているのを見て、都にいる妻をしのびながら、『カ』『キ』『ツ』『バ』『タ』の5文字を頭に入れて詠んだ歌なのですよ。杜若さんはその事を言っているのです」
 杜若はこくりと頷きました。しかしその彼女の顔には憂いの表情が浮かんでいました。白さんは眉根をかすかに寄せます。
「ですがそれでもその魂についた傷を癒せずに苦しむ女がいるのです」
 白さんは少し悲しげな声で言いました。
「それは姫逃池のお雪姫ですか?」
「はい」
 
 島根県大田市三瓶町の姫逃池(ひめのがいけ)の伝説。
長者原に住む長者に美しい姫がいました。その頃、三瓶を根城とする凶悪な山賊の首領が姫に邪恋を寄せました。しかし姫には親の許した婚約者がいました。とある夜、婚約者は件の山賊の事を知って、姫が止めるのも聞かずにひとり賊の山塞へ乗り込んでいってしまいました。その夜は霧が深い底冷えの夜でした。やがて長者原に朝がやって来ましたが青年はとうとう帰ってはきませんでした。姫は激しい胸騒ぎを覚えましたがひとり静かに恋しい人の帰りを待ちました。毎夜姫は長者原に立って青年を待ち続けました。江川からの霧が深く垂れ込み、底冷えの夜がやってきました。姫はいつものように青年を待っていました。するとどこからともなく姫を呼ぶ青年の声。姫は喜んであたりを見回しましたが、ただ深い霧があるばかり。姫は必死になって原を探しました。すると池の中にりりしい青年の姿があらわれて姫を呼びかけていました。姫は夢中で青年に駆け寄り、水中深く入っていった…。

「お雪姫は現世に転生し、再び恋しい人と出会いました。今世でこそ幸せになるために。ですが、二人は互いに惹かれあいながらも前世での心の傷のせいでお雪姫は自分が相手をまた不幸にしてしまうと恐れているのです」
 大きな目からぽろぽろと涙を零すスノードロップの妖精の頬をそっと指先でふいてあげながら白さんは悲しそうにため息を吐きました。
「杜若全般の花言葉は、幸運は必ず来る・贈り物。お雪姫が変化した紫の杜若は幸運でしたね」
「はい。私たち杜若では二人に何もしてあげられません。ですから白さん。お願いします。二人を結ばせてあげてください」
 白さんはこくりと頷きました。
「わかりました。お二人には今度こそ幸せになってもらいましょう」


 **白さん&スノードロップの妖精より**
 と、言う事でお願いします。あなたがこの二人を結ばせてください。
 お二人のデータでし。お雪さんは細井雪菜さん。18歳で今春より女子大生でし。それで青年は須藤礼さん、21歳。彼は美大生で絵の修行のためにフランスに単身留学しようとしてますでし。二人は両想いでし。
 今日は杜若の所縁の日4月17日。この日を逃すと二人はもう絶対に結ばれません。ですからどうか、あなたは礼さんもしくは雪菜さんを説得して二人の恋のキューピットをしてください。
 二人をどう説得するとか、もしくは嫉妬させて荒療治なんてのでも何でもOKです。あなたの方法で二人を幸せにしてくださいね。
 ああ、それと4月生まれのPLさま&PCさまがいらしたらプレイングの最後にその日をよろしければ書いておいてくださいませでし。><

『 千紫万紅 ― 杜若の物語 ― 』


 しゃんしゃんしゃん。
 しゃんしゃんしゃん。
 しゃんしゃんしゃん。
 どこかからか鈴のような音色が聴こえてくる。
 この音色はどこから?
 大学からの帰り道、知らず知らずのうちに細井雪菜はどこかからか聴こえてくる鈴のような音色に誘われるままに道を歩いていた。
 歩いていた道は家路のはずだ。だけど今彼女が歩くのはまったく知らない道。
「あたしは家に・・・」
 しゃんしゃんしゃん。
 しゃんしゃんしゃん。
 しゃんしゃんしゃん。
 だけど方向転換しようとした足は止まってしまう。
 足はそれを拒み、甘い水はこっちだよと言う人の声に誘われる蛍が如くに歩いていく。



 あたしは何処に行くのだろう?
 ―――――何処でもいいや・・・。



 投げやりなため息と共に雪菜は抵抗をやめた。
 しゃんしゃんしゃん。
 しゃんしゃんしゃん。
 しゃんしゃんしゃん。
 そして不思議な鈴のような音色が聴こえてくる方へと向う。
 しゃんしゃんしゃん。
 しゃんしゃんしゃん。
 しゃんしゃんしゃん。
 それにしてもこの音色はなんだろう?
 ――――不思議な音色だ。
 心の奥底にまで届き、
 そしてそこにある何かに囁きかけられるようで。
 ならばこの音色は一体何に囁いているんだろう。
 何に・・・。
「知らないわ、そんなの」
 やっぱり投げやり気味に諦めたように、そんな風に雪菜は呟く。無造作にソバージュが落ちかかった髪を掻きあげながら。
 しゃんしゃんしゃん。
 しゃんしゃんしゃん。
 しゃんしゃんしゃん。
 その音は大きい。
 大きくなる。
 どうやら音の根源・・・つまり、どうやら自分をここに誘っていた何かがある場所に辿り着いたようだ。
 何が?
 もしくは誰が?
 雪菜はそこに辿り着いた。
「教会?」
 そこは廃虚のような教会。その教会の礼拝堂に雪菜は入った。そこから彼女を誘う音が聴こえてきているから。
 しゃんしゃんしゃん。
 しゃんしゃんしゃん。
 しゃんしゃんしゃん。
 と、不思議な音色。
 礼拝堂に入ると、そこにはたくさんの花々があって、その中のひとつ…杜若が風に揺れるたびにそう音色を奏でていた。
 雪菜がその花を見つめていると、
「ぶーん」
 と口で言いながら本人はしかし飛行機のつもりであるのであろう両手を開いて飛んでいる妖精がひとり。
 目を瞬かせる雪菜の背後で、
「あら、なんかそれではまるで虫みたいよ、スノードロップちゃん」
 と、静かな静かな声がした。
 はっと雪菜は振り返る。そこには杜若の花を持った女性がひとり居て、そして彼女は雪菜を見て、微笑した。



 その笑みはただ優しかった。
 雪菜は何が哀しかったのだろう? つぅーっと瞳から零した涙で頬を塗らした。
 ―――哀しかった?
 違うそうじゃないんだ、あたしは嬉しいんだ・・・。
 そう強く感じた雪菜。
 胸の中にあった花の蕾は悲しみに固く閉じられていた。
 望んでいた人が居た。
 その人に望まれた未来があった。
 その人と望んだ未来があった。
 だけどそれは・・・だけどそれは心を閉じて頑なに拒絶してしまった。
 それはどうして?



「どうして?」
 いつの間にか彼女はそこに居て、
 雪菜の額を覆う前髪を掻きあげていて、
 その額にそっと口付けをした。
 額に感じたふわりとした柔らかで温かな唇の感触は、
 なぜかとても懐かしく感じられて、
 そしてその柔らかな感触は心を包み込み、
 温もりは心に優しく染み込んできて、
 だけど雪菜はそれを嫌だとは想わなかった・・・。




 +


 彼女は花売りでございました。
 廃虚のような教会の中で育てた普通の花とそうではない不思議な花を売る花売りでございます。
 とても美しい女性。腰の辺りまである長い黒髪に縁取られたその美しい顔はしかし表情は無かった。
 自然の美に溢れた花々が咲き誇る空間。その真ん中にいてそれらに囲まれて、そうやって居るその人はだけどその顔には表情は無くって、だけどそれがまた余計に彼女に無機質な美というモノを与えて、周りに美しい花々がある分だけにその美は際立っていた。
 さわぁ、とそこにある花々がほんの少し開けてあった窓から吹き込んできた風に揺れました。
 その吹いた風に彼女はかすかに目を細めてその窓から吹き込んできた風が吹いてきた方に視線を向けました。
 ふわりと吹き込んできた風に揺れる髪を彼女は手で押さえながら小さく口を開けて、そして表情の無かった彼女はだけど小さく…それは本当にかすかな感情の揺らぎのようなもので御座いましたのですが、彼女はその腰の辺りまである黒髪に縁取られた顔に微笑を浮かべたので御座いました。
「風は吹き、花は音色を奏で、そして呼んだのね、あなたを。それでもそれはあなたが望まなければそうはなりはしなかった。前世はあなたを苦しめる。今のあなたはお雪姫であった時を忘れていても、それでもあなたの魂は自分がお雪姫であった時の事を覚えている。だからあなたはその無意識の苦しみと悲しみ苛まれ…新たなる恋路に幸せに進めない。それでもね、道は繋がっている。そしてその道をあなたはもう歩み始めているの。杜若の音色が教えてくれる未だあなたが無意識に拒絶する彼との幸せへと続く未来への道を」



 そう呟くあなたは、それならば・・・
 いえ、今はやめましょう。
 それをあなたに問うのは。
 こうして物語は先に述べた物語へと続くのでございます。



 +


「あなたは誰?」
 ―――わたしは風凪蓮媛。
 
 ここは細井雪菜の精神世界。
 蓮媛と雪菜は光も無い真っ暗な世界で向かい合って空間に浮いていた。
 水に浮いているように腰の辺りまである艶やかな蓮媛の黒髪はふわりと広がっていて、そしてその美貌に浮かべられているのは無表情に近い表情で、
 亜麻色のショートカットの髪を手で整えながら雪菜は、そのかわいらしい顔に戸惑いきった表情を浮かべていた。



「風凪蓮媛さん? それよりもここは何処?」
 ―――此処はあなたの精神世界よ、細井雪菜さん。

 静かに蓮媛は答えた。



「あたしの精神世界?」
 ―――そう、無意識と呼ばれる場所。わたしは人の心に触れられる。精神世界を視る事ができるの。その能力を応用してあなたの心もこうして此処に連れてきた。
「あたしの心? あたしの心と精神世界は別・・・切り離した?」
 ―――いえ、そうではないの。ここはあなたの無意識。その無意識の場所にあなたの心を連れてきたの。

 雪菜は眉間に刻んだ皺を深くした。
 言ってる意味がわからない。
 それでも今起きている事は・・・
 ・・・現実。



「どうしてこんな事を? ここがあたしの心………無意識だとして、そうなら、それならどうしてあたしをここに連れてきたの?」

 それは哀れんでいるような、
 哀しんでいるような、
 見守っているような、
 そんな表情だった。
 意味ありげなそんな表情。
 そういう表情を浮かべて蓮媛は雪菜を見つめていた。その髪と同じ黒い瞳で。
 雪菜はその黒い瞳をじっと見据えたが、でもその瞳の黒はものすごく深くって、読む事が出来ない。
 でもそれでもわかったのは―――――



 ああ、なんて哀しそうな瞳なのだろう、この人の瞳は・・・。



 そして蓮媛は口を開いた。静かに空間に…いや、雪菜の心に蓮姫の声が直接響いた。
 ―――前世…報われなかった恋……こんな依頼でなければ、きっとわたしは来なかった…。



「前世?」
 ―――そう、前世。あなたの。
 お雪姫。
「お雪姫・・・」

 雪菜は両手で頭を抱えて目を見開いた。
 それをどこか冷たくも感じられる無表情に近い表情で蓮媛は見つめている。



 ―――ここはあなたの無意識の世界。
 心が憶えていない事も、でもここでなら見つめる事ができる。
「…………いやだぁ、そんなの怖い……」
 ―――そうね。怖いかもしれない。いえ、怖いわ。それでもあなたはせねばならない。



 蓮媛はぎゅっと後ろから両手で雪菜を抱きしめ、空間に浮いていた二人はそこから更に真下(と言っても上下も左右も無い空間なので感覚的にだが)に向った。
 そこにあるのは一輪の杜若の花の蕾であった。



 ―――さあ、雪菜さん。



 蓮媛の言葉に雪菜は震えた。
 その雪菜の耳元で蓮媛はそっと囁くようにかすかに唇を動かせる。
 彼女は雪菜に何を言ったのだろうか?
 雪菜は蓮媛を見た。その彼女の表情にあるのは悲壮。



 そして雪菜は蓮媛に小さく頷くと、その手を杜若の花の蕾に伸ばす。
 震える指先、それが花の蕾に触れる寸での場所でだけど止まってしまう。
 桔梗の花の蕾に指先が触れる寸での場所で止まって震える手にだけど蓮媛の手が添えられる。
 そうしてその手の温もりに何かを感じたように雪菜の手の指先が杜若の花の蕾に触れて、
 そうしてまた新にその細井雪菜の無意識の世界にひとりの女が現れた。真っ白な着物を着た哀しげな表情の女が・・・



 ―――お雪姫。これが前世のあなた。
「この人が前世のあたし・・・?」
 ―――そう。さあ、語ってもらいましょう、お雪姫に。あなたは忘れている、だけど魂が憶えている哀しい記憶を。
 そこからどうするかはあなた次第なのだから。



 ・・・。



 +


 蓮媛は雪菜から唇を離しました。
 とめどなく涙を流し続ける雪菜から。
 おそらくは外部の時間では蓮媛が雪菜の額に口付けをしていたのはわずかに数秒の事であったのでしょう。
 ですがそのわずかな数秒の刻の間に雪菜は理由を知ったのでございます。
「…ずっと、ずっとあたしは苦しんでいました」
「ええ」
 たくさんの花に囲まれた教会の礼拝堂の中で、雪菜はかすかな感情の揺らぎのようなモノをその腰の辺りまである黒髪に縁取らせた美貌に宿らせる蓮媛に言います。
「ずっとあたしは苦しんでいた。あたしには好きな人がいるんです」
「ええ、知ってるわ」
「はい。その人は絵を描くのが大好きで、あたしはその人が絵を描く姿も、その人の描いた絵も大好きで、涙がとめどもなく出るぐらいに大好きで、でもあたしはダメでした」
「うん」
「あたしはダメでした。どうしても彼の所へ行けませんでした。足が動かなかった。竦んでしまった。躊躇ってしまった。それがどうしてかわからなかった。ただ…そう、ただ怖かったんです。あたしが彼の元に行けば、そうしたらあたしはまた彼を不幸にしてしまうと、わかっていたから…。でも、はい、でも今日、それがわかりました…」
「うん」
 ぼつりぼつりと感情を零していく雪菜に蓮媛は頷きます。
 娘に頷く母親のように。
「だけどそれはお雪姫の記憶がそうさせていたんですね。あの娘の記憶が…」
「そうね。ええ、そう。あの娘の記憶があなたを怖がらせていた。ねえ、でも本当にコワイのはそれ?」
「え?」
 そうして今度は蓮媛が語り、
 雪菜が聞くのでございます。
「確かにコワイかもしれない…愛する人が自分のせいで不幸になるのを考えると…でも、それ以上にコワイのなに?」
 無表情に近かった蓮媛の顔に感情が少しずつ溢れ出てくる。泉の水が溢れてくるように。
 蓮媛は訥々と語る。
 母親が頑な娘を優しく諭すように。
「一番この世でコワイこと、哀しいことは…」



 そこで蓮媛の表情に宿ったのは感情の揺らぎ…残滓のようなモノではなく、
 はっきりとした優しい笑みでございました。



「…愛する人が死ぬことではないの? それが今のあなたにはよくわかるでしょう? お雪姫の涙を見たあなたには」
「はい」
「せっかくこの世にお互い生きているんですもの。だったら今度こそ、ね」
「でも、だけどあたしは…」
「ん?」
「あたしは…もうダメなんです。彼は…須藤さんはもう行ってしまった…」
 そう言って顔に両手をあてて泣き出した雪菜の肩にそっと手をまわした蓮姫はそのまま彼女を抱き寄せるのでございます。そして彼女は優しく雪菜の頭を撫でながら言いました。
「大丈夫よ。彼はどこにも行っていないわ。だって彼もあなたの事が大好きだから」
 そして、その人たちはそこに出てくるのでございます。
「雪菜」
 そっと躊躇うように気遣うように響いた声。
 雪菜はその声に弾かれたように顔をあげました。
「礼さん。でもどうして?」
 そう、そこにいたのは須藤礼でございました。
「だって礼さん、礼さんは・・・」
「蓮媛さんが引きとめてくれたんだ。僕も雪菜の事を諦めようとしていた。でも僕も蓮媛さんに前世の記憶を見せてもらって…それで、決めたんだ」
「決めた?」
「そう、決めた」
「あなたはどうするの、雪菜さん?」
 蓮媛が優しく問います。
 雪菜は胸元をぎゅっと手で掴んで下唇を噛み締めて。
「あ、あの、あたしは・・・」
「あたしは?」
「あたしも幸せになりたい。幸せになりたいけど・・・」
「けど?」
「怖い。それがどうしても拭いきれない」
「雪菜」
 何かを言いかけた礼の肩に白がぽんと手を置き、振り向いた彼に白は顔を横に振りました。
「それでも・・・」
「それでも?」
「あたしは前に行きます。それはとても怖いけど、だけどお雪姫の事をあたしは知ってしまったから。それに蓮媛さんの事も。だからあたしは前に行こうと想います」
 そう言った雪菜に蓮媛は優しく微笑みました。
 そして・・・



「では、唄を歌いましょう。若き男女の幸せを願う唄を。過去の悲しみを癒す唄を。新に続く道を祝福する唄を。唄を」



 真捧郷、それは蓮媛の力。彼女の唄は浄化の癒しの唄。



 無数の花弁が降る中で雪菜と礼は涙を流しながらキスをした。



【ラスト】


「ありがとうございました、蓮媛さん」
 蓮媛は顔を横に振った。
「いえ、白さん。わたしはただあの二人をどうしても結ばせてあげたかっただけですから」
「それは彼らがあなたに似ているからですか?」
 そう問う白に蓮媛は顔を横に振った。
「わたしの感情はとうに枯れているからどうでも…いい、のです」
「蓮媛さん」
 蓮媛は例の感情の揺らぎのような表情を浮かべた顔を静かに横に振った。
「わたしが願うのは誰かの癒しでわたしを殺してもらうことだけ。癒されるのは願っておりません」
 そんな彼女に白は何かを言おうと口を2、3開きかけるが、しかし結局は何も言えずに口を閉じた。だが愛でるような優しい瞳で周りの花々を見た。
「こんなにも綺麗に花を咲かせられる蓮媛さんです。きっとあなたもいつか必ず…」
「白さん…」
 そして白は優しく微笑み、教会を後にし、
 蓮媛は花に水をやり始めるのであった。



 ― fin ―



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


【 2067 / 風凪・蓮媛 / 女性 / 24歳 / 花売り 】



【 NPC / 白 】


【 NPC / スノードロップ 】





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■         ライター通信          ■
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こんにちは、風凪・蓮媛さま。はじめまして。
このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。


このたびは本当にありがとうございました。
ものすごく蓮媛さんを書いていて楽しかったです。
ところどころちょっとキャラ設定の方を勘違いしていないかな? という不安な部分はあるのですが、
でも本当にものすごく惹かれるキャラさんで、色んな描写が楽しく。


精神世界を視る能力は少しこちらでアレンジさせていただいたのですが、その描写も楽しく、
そしてやはりラスト間際の唄を歌う部分が一番好きだなーと想いました。


蓮媛さんもまたすごく気になる設定があって、蓮媛さんが憶えていらっしゃる前世の記憶とは何なのかすごく気になります。
そしてキャッチフレーズもそれだけにすごく魅力的に感じられて、それでラストの描写となったのです。
いつか蓮媛さんの過去も明らかになるのでしょうか?
その日が来る事を楽しみにしておりますね。^^


それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
本当にありがとうございました。
失礼します。