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■黄金褌伝説■

遠野藍子
【3415】【泰山府君・―】【退魔宝刀守護神】
 白王社月刊アトラス編集部。
 今日も今日とて、麗香のお気に召すネタを仕入れるべくネットを宛てもなく彷徨っていた三下は変わったHPを発見した。
 そのHPのタイトルは、『日本秘宝・埋蔵金伝説』。
 その名の通り、日本各地に伝わる埋蔵金伝説がいろいろとアップしてある。
 更新履歴をクリックすると、ちょうど今日新たに更新されていた。
 そこには、
『7月×日
  最近掲示板で噂になっていたアノ戦国武将の秘宝情報を入手!
  気になる人はココをクリック→☆』
とある。
 三下は導かれるままにそこをクリックした。
 数秒後、画面いっぱいに現れた情報を見て一瞬絶句する、

………。

「へ、編集長っ」
 きっと、これは麗香好みに違いないと三下は急いでその画面をプリントアウトして麗香の下へ駆け寄った。

      ***

 一方時を同じくして、こちらはゴーストネット掲示板。
 雫はいつものようにHPの書き込みをチェックしていた。
「ん〜、何か面白そうなネタないのかなぁ」
 どうも、最近は雫の琴線に触れるような書き込みが少ない。
 不作不作―――と次々とロールダウンしていった雫は昨夜の深夜にあった書き込みのところで手を止めた。

――――――――――――――――――――――――――――――
件名:埋蔵金を探しませんか?  投稿日7月×日 02:18
HN:埋蔵金発掘し隊
 
 とある戦国武将の埋蔵金の在り処を示す地図を入手しました。
 埋蔵金といっても大判小判ではありません。
 ソレを手にしたものは覇権を手に入れるといういわくつきの秘宝中の秘宝と言われている黄金の……

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      ***

「黄金の褌!?」

 奇しくも異なる場所で2人の声が重なったことを知る者は居なかった。
黄金褌伝説


*ゴーストネット発掘隊*


 ざっ……
 何かを散らすような音がした。
 散らしたの所謂『魔』に分類されるモノ。
 そう、先ほどの音は退魔宝刀を用いて退魔した音だった。
「ふっ」
 相当気力を使うのか退魔刀の持ち主が大きく息を吐き気を抑えようとしている。
 そんな退魔刀が鞘に収められる前にこっそりと刀から抜け出した者が居た。
 この退魔刀の守護神泰山府君(たいざんふくん・―)だ。
 本来冥府の神所有の退魔宝刀『泰山』の残留思念が自我を持ち、人の姿を得た存在が泰山府君だ。
 何の因果か、転々とする泰山は巡り巡って今はこうして人間界の東京という街に済む青年のものになっている。
 神様と言うのは昔話や神話などでも良くあるように、どうにも好奇心が強いらしく泰山府君も例外ではなかった。
 こうして時々退魔刀の持ち主の目を盗んでこうして人間界をうろついている。
 そして、本日の行き先はとあるネットカフェだった。
 そこで泰山府君は四角い箱のようなものに目をつけた。
「ふむ。これは『ぱそこん』とかいう珍妙な箱だったな。どこをどういじれば見られるものだったかな」
 首を捻ったが早々に諦め、店員を呼ぶ。
「あぁ、すまないがコレの使い方を教えてもらえないか?」
 店員に教えてもらってようやく自分であれこれサイトを見ていた泰山府君がとある掲示板で目を止めた。
 そこには噂の武将の埋蔵金探しの情報が書いてあった。
「埋蔵金とな―――」
 読み進めるうちにその埋蔵金が金銀財宝ではないことに泰山府君は愕然とした。
「……黄金の褌!?」


■■■■■


 本谷マキ(もとや・まき)がふと横を向くと彼女の隣の席に中華風の服を着た黒髪の凛々しい美形が店員にパソコンの使い方を聞いていた。
 ちらりとその姿を横目でみたマキはまたゴーストネットの『黄金の褌』探しの管理人からの依頼文に目を通していた。
 すると、隣からも、
「黄金の褌!?」
という台詞が聞こえてきた。
 そこで、マキは恐る恐る声を掛ける。
「あのぉ……」
 振り向いたその人の手元を見ればやはりマキ同様ゴーストネットの掲示板を見ていたらしい。
「あの、私、本谷マキって言います」
 ぺこりと頭を下げるマキに、
「我は泰山府君という」
 礼には礼を、泰山府君も名を名乗った。
「泰山府“クン”ですか?」
「泰山府・君ではなく泰山府君だ」
 奇妙なところで名前を切られて泰山府君はしっかりはっきりと訂正する。
「泰山府君さんもそれに興味があるんですか〜?」
「ない、とは言わないが。何故このようなものを秘宝にするのか!阿呆か、この武将は。本当に人間と言うものは面白いな」
 マキは泰山府君の微妙な言い回しに気付く様子もなく、
「私、お宝探しに参加してみようかなぁって思うんですけどご一緒しませんかぁ?」
 小さく首を傾げるマキに、泰山府君は少し黙り込んで、
「阿呆な武将だと思うが、まぁ良い。退屈しのぎに秘宝探しに行くのも良かろう」
と頷く。
「それじゃあ、宜しくお願いします」
 マキは泰山府君の代わりに2人分の参加の書き込みをした。



■■■■■


 マキと泰山府君の2人は電車に乗り継いで富士山麓のふもとへやって来た。
 ゴーストネットの管理人瀬名雫(せな・しずく)の情報によるとこの青木ヶ原の樹海の中にお宝は眠っているらしい。
 地図を確認していた2人の耳に電子音が響いた。
 それはマキの携帯のメールの着信音だった。
「あ、すみません」
 マキはそういうとやたら大きな鞄のポケットから携帯電話を取り出す。
 2つ折の携帯を開く。
 メールの相手はマキと同じバンドでキーボードを担当している飯合さねと(めしあい・さねと)からだった。
 偶然にもさねとは今日、アトラス編集部の三下忠雄とともに同じく黄金の褌探しに出かけているのだ。
 
『とりあえず一足先に樹海に突入するさかい。目印残しとくから気ぃつけてな さねと』

「私の友達のさねとはもうこの中にはいったそうです」
「そうか。なら我々も急がねばな」
 先日着ていたような中国風の衣装の上にいつの間にか甲冑まで纏った泰山府君に促され、マキはその大荷物を背負って先を目指した。
 しばらく歩くと、ある樹の幹に白いチョークらしきもので大きくいびつな×印がつけてある。
「きっと、ここから入ったんですよ」
 さねとの残した印と辿りながら2人は樹海の中に足を踏み入れた。

「それにしてもこれてアレですか? どこかのテレビ番組で埋蔵金が出るとか言って無駄に地面掘り起こして顰蹙買ったアレと似たようなことになったらどうしましょうか〜?」
 延々と樹海を歩きながあるものを片手にそう言い出した。
「『てれび』というのはあれだろう。あの、四角い枠の中で人が動いている」
「そーそー、アレで昔やってたんですよねぇ」
 軽く毒を吐きつつもマキは足を止めない。
 そして、同様に、
「でも、なんですかね。冷静に考えたら凄くばかばかしいですよね。飲まなきゃやってられないですぅ」
と、鞄いっぱいに持って来たカップ酒を飲む手も止めない。
 もちろん、空き瓶はお持ち帰りの為ビニール袋に入れてまた鞄にしまっている。
 そんな酔っ払いじみたマキの戯言を聞きながらも泰山府君は地図やかすかに感じる鉄類の気―――金気を頼りに地道に足を進めていた。
 かれこれ2時間ほど歩いただろうか。
 突然、森中に、
「も―――! 疲れたぁっっ!!」
という女性の声が響き渡った。
「何の声だ?」
「さねとの声です」
 マキはそういうと声の聞こえた方へ走った。
「さねと!」
 しゃがみこんでいるさねとを見つけてマキがそう叫んだ。
 さねとの周りには、こちらも相当疲れた顔をした三下とパンチ、縦縞スーツ、原色シャツ3点セットのヤクザ神宮寺茂吉(じんぐうじ・もきち)ことカレー閣下の姿もある。
「マキ―――」
 抱き合う2人のテンションに取り残された三下、カレー閣下、泰山府君の3人。
 奇妙なお宝捜索隊は更に奇妙なパーティとなった。


■■■■■


 人数は増えたものの結局は代わり映えもせず歩くこと更に1時間弱、事件は起こった。
「てめぇ! いつになったらお宝さまにたどり着くんだよ!」
 痺れを切らしたカレー閣下が三下の後ろ頭をどついた。
 ただでさえひぃひぃ言いながら歩いていた三下は木の根に足を取られて派手にすっ転んだ。
 また美味い具合に下り坂で転んだのでそのまま昔話のおにぎりのようにごろごろと転がって行く。
「三下さーん」
 どこか暢気な「スティルインラヴ」の2人は転がり落ちる三下を追う。
 ドン!
 三下が鈍い音をさせて木に激突したようだ。
 追いついた2人が見たのは、巨大な木の洞に頭が填まってしまい逆さ状態でもがいている三下の姿だった。
「三下ちゃん、あんた何してるん」
 あまりにも間の抜けた姿はさねとのツボに嵌ってしまったらしくお腹を抱えて大爆笑している。
「笑ってないで助けてくださいよぉ」
 そういって更にじたばたする三下をマキがひっぱる。
「おいおい、そんな小さい姉ちゃんにひっこ抜けるのかぁ」
 小柄なマキが三下の足を引っ張るのを見て笑ったカレー閣下だったが、次の瞬間その笑いは驚きに変わった。
 なりは小さくてもドラマーの腕力を舐めてはいけない。
「うーんしょっ」
 掛け声とともに見事にマキが三下を救い出した。
「ふむ……」
 その騒ぎを見守っていた泰山府君が三下の抜けた穴をじっと見つめている。
「その穴、自然に出来た物ではないな」
「え?」
「ほら、ここを良く見るといい」
 泰山府君がそう指差したのは洞の口を見ると確かにそこは時代がたちそれなりの風合いになって入るが不自然に綺麗な切り口になっている。
「ってことは、ここがお宝の入り口ってことか!?」
 穴を覗いていたさねととマキを押しのけてカレー閣下が三下の嵌っていた穴に腕を突っ込む。
「……」
「………」
 周囲が息を呑んで見守る中カレー閣下は、
「あったぞ!!」
と叫んで洞の奥からなにやら頑丈そうな四角い箱を取り出して両手で持ち上げた。
 立方体に近いその箱は真っ黒でいったい材質が何なのかもよく判らなければどこからあければいいのかもよく判らない。
「ホントに、これ?」
「なぁ、コレどうやって開けるん?」
「てめぇら、ごろごろ転がすんじゃねぇ」
 この期に及んでもまだ、その箱の中には究極のカレー(もしくはレピシ)が入っていると頑なに信じているカレー閣下は箱を持ってひっくり返したり叩いたり振ったりするマキとさねとを止めにかかる。
「仕方あるまい」
 そう言って泰山府君が愛刀の『赤兎馬』を翳すと、カレー閣下が2人から取り上げて頭上に掲げていた箱の上部を切り落とした。
 カラン……という音がして切り落とされた箱の木片が落ちる。
 一同の期待に満ちた目を受けつつカレー閣下が箱の中を覗き込んだ。
「……」
 中身がカレーその物ではなかったのでカレー閣下はなにやらキラキラ光る金色の布の下にレピシがあるに違いないと期待しつつその布を持ち上げる。
 ゆっくりと持ち上げられた黄金の布は紛れもなく―――
「ふっ、褌―――!? レピシはっ、究極のカレー様のレピシはどこだ!?」
 カレー閣下は箱と一緒に褌を放り投げてそう言いながら三下の首を締め上げる。
「くっ、くるしっ―――」
「こんなもん認めるかバカヤロ――――!!」
 究極のカレー様はどこだ、どこにあるんだぁぁぁぁぁ―――と叫びながらカレー閣下は更に樹海の奥地へと走り去ってしまった。
 死にそうになっている三下にもどこかに走り去ってしまったカレー閣下にも目もくれず、マキ、さねと、泰山府君の3人はようやくたどり着いたお宝を広げる。
 見事な金糸の刺繍が施された―――褌。
 ただし、それは虫に食われて所々穴が開いている。
「……」
「ま、まぁ、良かったやん見つかって」
「やっぱりおかしなところだな、人間界と言うところは」
 いまいち盛り上がりと言うか感動というか―――何かに欠けるお宝発見のバック、樹海の森にはカレー閣下のものらしい雄叫びがまだ響き渡っていた。


 ついでだが、その黄金の褌を持ち帰った三下が覇権を取ったと言う話しはついぞ聞かない―――



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1747 / 神宮寺・茂吉 / 男 / 36歳 / カレー閣下(ヤクザ)】

【2868 / 本谷・マキ / 女 / 22歳 / ロックバンド】

【2867 / 飯合・さねと / 女 / 22歳 / ロックバンド】

【3415 / 泰山府君・― / 女 / 999歳 / 退魔宝刀守護神】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは。遠野藍子です。
 この度はご参加ありがとうございました。
 奇しくも今回は初めて書かせていただくPCさんばかりで試行錯誤の結果こんな感じに……(汗)
 えぇと、アレです。アレのシリーズです。
 一応、コレが1番初めのシリーズだったのです。
 とりあえず、全開とは全く違う展開違うオチになっているので比較してみるのもまた一興かと。
 それでは、また機会がありましたらよろしくお願いいたします。