■【狭間の幻夢(ゆめ)】魔人の章■
暁久遠 |
【3524】【初瀬・日和】【高校生】 |
―――――それは、ある日の午後のこと。
貴方はなんとなく町を歩き回っていた。
空の頂点には太陽が爛々と輝き、地に佇む貴方を照らす。
―――今日もいい天気だ。
そんなことをぼんやりと考えたその時。
――――――――ザァッ。
貴方の頭上に、唐突に大きな影が被さった。
「!!」
貴方が驚いて目を見開いている間に、その影はあっという間に貴方の頭上を通り過ぎ、何処かへと消えていってしまった。
逆光の為しっかりと判断することは出来なかったが、どうやら大きな鳥のようなものが頭上を通りすぎたらしい。
いや、鳥の羽のようなものを持った…『人間』か?
奇妙な影の正体に頭を悩ませる貴方。
しかしその目の前に、ひらひらと何かが舞い落ちてきた。
反射的に手を伸ばしてそれを捕まえると、その正体は―――大きな、ヤツデの葉。
自分の掌を軽く超えるほどの大きなその葉は、少なくともこの辺りに生息している木ではないのはすぐに見て取れた。
不思議に思って裏返してみると、そこには文のような物が。
『・招待状・
ただいま我々は非常に困っております。
しかし、それを解決するためには、どうにも人手が足りません。
これを読んだ方、どうかお手伝いお願い致します。
喰魔山管理役より』
「…『喰魔山<くらまやま>』?」
聞いた事がない名称に眉を寄せる貴方。
しかしその疑問は、すぐに解消されることになった。
……すとん。
―――軽い音と共に、貴方の目の前に看視者が到着したからだ。
「あ…」
驚く貴方を他所に、看視者はふっと貴方に目を向け―――ぴたりと、貴方の手の中にあるヤツデの葉に目を留めた。
そして何か考えるような仕草をしてから―――貴方の腕を掴み、地面を蹴った!
とん、と軽い音と共に高々と飛び上がる貴方と看視者。
戸惑いの声をあげる貴方すら半分無視状態で、看視者は貴方の片腕をしっかり掴んだままとんとんとビルや屋根の上を軽やかに飛んでいく。
一体何がどうなっているのかと目を白黒させる貴方にちらりと視線を向けた看視者は、ぽつりと呟いた。
「――――――あのヤツデは、『招待状』だから…」
「『招待状』?」
その言葉に不思議そうに首を傾げる貴方を見ながら、看視者は簡単な説明を行う。
このヤツデは『喰魔山管理役』なる者からの招待状なのだ。
それは無差別に撒き散らされるが、文章を読むことが出来るのは能力者のみと言う変わった術が施されているもので。
何が起こるかわからない場所ゆえ、安全のために超常現象にある程度対処できる力を所持する能力者のみを招待する運びになっているのだそうだ。
…まぁ、看視者の場合は統治者からの依頼も兼ねているので、行きたくなくても行かなければならないらしく。
貴方を発見した時、丁度同じ招待状を持っているのだから連れて行ってもいいだろう、と半ば巻き込む形で拉致することにしたのだという。
…要するに、貴方は行く行かないの選択肢を選ぶ前に、強制的に拉致された、と言うことだ。
そのことで恨めしげに看視者を睨むが看視者達はさらりとその視線を受け流し、黙々と進む。
そして視界は二転三転。
人が多く雑多に建物が立ち並ぶ街中から少しずつ建物がぽつぽつと減っていき、気づけばどこか懐かしい雰囲気漂う大きな山が目に入った。
ぽつぽつと点在するビルや家に囲まれるようにして、しかし全く揺らぐ様子がないように、堂々と鎮座するそれ。
驚いて目を見開く貴方だが、看視者は止まらない。
そのまま田んぼの脇道を軽く蹴って高く飛び上がると―――――そのまま、山の入り口へと着地した。
「ここは…」
「ここが『喰魔山』だよ♪」
呆然とした貴方の疑問に答えたのは、看視者ではない、少女のような…それでいて少年のような、不安定な声。
驚いて声のした方―――山の入り口へと目を向けると、そこには二人の『人』が立っていた。
――――――いや、『人』ではなかった。
「どーも初めまして♪俺たちが届けた招待状、受け取って貰えたみたいだねv」
「其方も忙しいところに呼んでしまってすまなかったな」
入り口に立っていた二人には―――『羽』があった。
黒い脇辺りまである髪をポニーテールにしてあり、くりっとした大きな瞳は右が金、左が金の変わった色彩<いろ>を持っている。
チャイナと膝丈の着物を混ぜたような変わった服にスパッツ、膝まである編み上げブーツを着た少女なんだか少年なんだか判別しかねる子供の腰から、真っ白な蝙蝠のような奇妙な翼があった。
そしてもう一人。
黒く足首まであるややたるませた長い髪を腰辺りで縛り、切れ長の瞳は射るような冷たさを帯びた白銀色。
陰陽師の式服のような衣装に、草履。
和風スタイルの落ち着いた青年の背からは、漆黒の翼が生えていて。折りたたまれたその両翼のそれぞれの中間点には、直径十センチくらいの緋色の石が埋め込まれるように点在していた。
――――どちらも、姿からして、やはり人ではなさそうに感じた。
しかしこの二人、見る限りではどうにも兄弟が親子にしか見えないのだが…それよりも、むしろ何故こんな格好で、それもこんな人里離れた山の中にいるのだろうか。
訝しげな貴方の視線に気づいたのか、子供の方がにこりと笑うと、貴方に向かって握手を求めるように手を差し出す。
「俺は神翔<かしょう>だよ。
こっちのひょろ長いのは鳴<なる>ってゆーんだ」
「ひょろ長い言うな」
どげしっ。
「あ」
笑顔の神翔の説明に不満を持った鳴からの蹴りツッコミが神翔の背中にキレイに入った。
顔からずべしゃぁっ!と見事にスライディングをかます神翔。
驚いたように目を丸くする貴方の目の前で、神翔はがばぁっ!と体を起こした。
ちょっと鼻の頭がすりむけている辺り、結構痛そうだ。
「なんだよ鳴!ホントのことじゃんかぁ!!」
「人に変な印象を持たせるような紹介はやめろといつも言っているだろうが!!!」
きゃんきゃん吠える神翔と怒鳴り返す鳴。
最初の印象とは違い、どうにも漫才コンビの印象が拭えない。
どうすればいいのだろうと戸惑っている貴方とじーっと見ている看視者に気づいたのか、二人ははっとして佇まいを直す。
そして『こほん』とわざとらしい咳をすると、鳴は真面目な顔で口を開いた。
「まぁ、私達の名前はこれで知ってもらえたと思うが。
私達の素性についてなど色々と気になることもあるだろうが、とりあえず我々の住居へと案内させてもらう。
話はそれからだ」
その言葉に頷いた貴方と看視者は、前を歩き出す神翔と鳴に着いていき、山の中へと足を踏み入れるのだった。
***
「――――――そういうワケで、私達はきちんと『統治者』から許可を貰って暮らしているわけだ」
先ほどの邂逅から約一時間後。
数十分ほどかけて木や草をきちんと避けられた一本道を真っ直ぐに通った先にあった古風な一軒家の中。
外見の割には意外と近代的な内装の家の中に入り、鳴に入れてもらった茶を飲みながらの話の締めくくりが、これ。
―――鳴の無駄に長い話を要約すると、こうだ。
神翔と鳴は純正のあやかしだが、ここの森に住む他のあやかし達は大抵が何かしら半端な部分を持つ者達らしい。
それゆえ戦闘能力もほとんどの者が皆無に等しく、人と争う気も持たない者ばかり。
だからこそ黒界では攻撃や蔑みの対象になることが多く、それを回避する意も込めて、統治者がこの『喰魔山』にそれら半端なあやかしたちを集め。
そして用心棒も兼ね、人界で暮らしたいと思っていた神翔と鳴の申請を『喰魔山の管理役になる』と言う条件でもって受けたのである。
「ここの山はなんだか不思議な力があるみたいでね。
純正のあやかしは近づくことすら難しいみたいなんだ」
あ、俺達は看視者から喰魔山の気の影響を受けない術を施して貰ってるから平気なんだけどね☆と笑い、神翔は話を続ける。
「それにここの山の草木は全てが純正のあやかしにとっては普通の人間にとっての『毒』に等しいほどの威力を持ってるんだ。
草木の汁や木屑の欠片が付着しただけでもアウト。被れたりそのだけ腐ったりしちゃうみたい。
ついでに言うと、食べれば下手すれば即死、ってトコだね」
あー、でも黒界のあやかしにしか威力がないみたいだから、結局のところ黒界以外の存在に対してはほとんど無力なんだけど。
そう言って笑顔を向ける神翔。
「…そういうわけで、この喰魔山は半端者の孤児院のようなものであると同時に、対あやかしの能力を持つ天然の要塞も同然、と言うわけだ」
だからこそ、ここに住まう半端者達は皆健やかにすごせる。
そう言ってしめくくる鳴を見ながら、貴方は口を開いた。
「…それじゃあ、『困ってる』って…?」
その疑問に、神翔と鳴は苦虫を噛む潰したような表情を浮かべる。
そして少々の沈黙の後、神翔が困ったように眉尻を下げて口を開いた。
「……それがさぁ。どっかの開拓業者がこの山を開拓の対象にしてるみたいなんだ」
その言葉に、貴方は驚いたように目を見開く。
「この山がなくなれば半端者達の行き先がなくなる。
そうなれば、ヤツらは黒界に戻るしかない。
…そうなると、また半端者に対する虐待が酷くなるだろう…」
できればそれだけは避けたいと悲しげに目を伏せる鳴を見て、貴方は戸惑うように視線を看視者に向ける。
しかし看視者はただ話を静かに聴いているだけ。どうやら話が終わるまで動く気はないらしい。
「何度か人のフリして此処の開拓は止めてって適当に理由でっちあげてお願いしたんだけど、あっちは聞く耳持たず。
とにかくそんな事情は知らぬ・存ぜぬ・今更開拓止められぬ、の一点張り」
「このままでは喰魔山が崩されてしまうのもそう遠くはない」
「だから…」
そこで言葉を切った神翔は、がばぁっ!といきなり立ち上がる。
驚いて目を見開く貴方を他所に、神翔はぐっと拳を握りながら声を荒げた。
「――――こうなったら俺達で開拓を無理矢理やめさせるしかないって、決めたんだ!!」
「……は?」
あまりにも唐突な発言に、貴方は完全に目が点。
いきなり何を言い出すんだと言わんばかりの表情に気づいたのか、鳴が呆れたようにコーヒーを飲みながら口を開く。
「…要するに、奴らが此処を開拓したくないと思わせればいい、と私達は考えたわけだ。
とは言え、我々には財力はないからな。金での交渉は不可能。
……となれば、最終的に残るのは実力行使、と言うわけだ」
「だから俺達がその開拓業者に対して徹底的にイタズラや嫌がらせをして、ここの山を開拓しようとしたら祟りが起こるとでも思い込ませればいい!
俺はそう考えた!!!」
「…とりあえず最終的な交渉はしてみるつもりではいるが、恐らく希望は持てまい。
その時は徹底抗戦だ。
私は必要な機材の破壊や、威嚇も兼ねたギリギリ直撃しないように調整して人間達へ攻撃。
神翔は他のあやかし達を先導して悪戯の限りを尽くす。
悪いとは思うが、相手の都合よりこちらの都合。
二度とそのような考えが湧かぬよう、容赦はしないつもりだ」
「それで他の業者にもその話が広がれば、俺達としては万々歳だしね!!
この山が開拓されないようになれば、それでいいわけ♪」
交互に為されるトーンもテンションも違う言葉に少々混乱しかけながらも、貴方は大方のところを理解した。
要するに、開拓をやめさせるため、業者達に嫌がらせや脅しを行えばいいわけだ。
直接人間に危害を加えるつもりではないようだし、彼等の住処になり得るところが此処しかないのなら、仕方がないだろう。
此処まで聞いてしまった以上、放っておくわけにもいくまい。
既に今回の行動について話し合いを始めている看視者と鳴・神翔を見ながら、貴方は面倒なことになったかもしれないと、深々と溜息を吐くのだった。
――――――――勝負は明日の昼間から。
はてさて、喰魔山が開拓されぬよう、どうするか。
○
どうも初めまして、もしくはこんにちは。暁久遠です。
微妙なOPでごめんなさい。全看視者に対応したOPにしようとすると何かと描写に制限がかかるので…(汗)
この異界での第3回目のゲームノベルは、イタズラ系(笑)にしました。
いまだに戦闘してませんが、そこはご容赦くださいませ…(滝汗)
看視者達や神翔・鳴ら特殊NPCや世界観については、異界の「狭間の幻夢(ゆめ)」を御覧下さいませ。
今回のシナリオは、大雑把に言えば「魔人・看視者(一人)と一緒にイタズラ及び実力行使で工事の立ち退き要請!」となります(をい)
出会った看視者・鳴(立ち退き最終要請及び実力行使)と神翔(イタズラし放題)のどちらと一緒に行動をとるか・看視者が二人組の場合、どちら(一人)が一緒に来るか・どんな行動をとるか―はお忘れなく書いて下さい。勿論、属性についての明記も必須ですよ。(属性名か、お任せか)
複数人数打ち合わせの上での同時参加の場合は、その旨をお書きください。
喰魔山の気になることや、看視者達の気になることなども聞きつつ、思いっきり実力行使しちゃってください☆(笑)
参加人数は特に決めておりません。期間内は開けっ放しの可能性高し(をい)
ではでは、ご参加お待ちしております。
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【狭間の幻夢】鳳凰堂の章―羽
●番−凰●
高校生である初瀬・日和は、同い年の羽角・悠宇と下校している途中に、自分を呼ぶ『声』が聞こえてこの店に訪れていた。
「なるほど…お二人は『呼ばれて』来た方なのですね?」
とりあえずはお茶でもいかがですか、と言う継彌に促されて生活スペースに入った二人と看視者…護羽。
そしてお茶を出されてのんびりとしかけたところで、継彌から説明を求められて当初の目的を思い出し。
悠宇と二人で代わる代わる説明と補足を繰り返しながら、なんとか説明し終わったところで、冒頭の継彌の台詞に辿り着く。
「呼ばれて…なぁ。
ほな行き先は奥の部屋で決定やな」
「えぇ、そうですね」
こくりと頷いた二人を見て口を開く護羽に、継彌は笑顔でこくりと頷く。
継彌の声の中にどこか嬉しそうな響きを汲み取って、悠宇は日和と顔を見合わせた。
しかしそんな二人を知ってか知らずか、継彌は護羽と同時に立ち上がって、二人にも立つように促す。
「少し休んで理由がわかったことですし、早速あなた達を呼んだ子を探しましょう?
きっと、その子達は早く貴方達と会いたくてうずうずしてる筈ですから」
ふふ、と笑いながら言う継彌に、二人は同時に首を傾げた。
まるで人間の子供のことのように話す。なんて不思議な人だろう。
そんなことを思いながら、日和は悠宇に手を貸してもらって立ち上がる。
有難うといいながら立ち上がって前方の継彌達に視線を向けると、彼等は既に歩き出していて。
「こっちや。二人ともついて来ィ」
振り返ってくいっと親指を反らせて此処に入る前の簡素な扉と違ってやけに重厚な鋼鉄製の扉を指してにっと笑う護羽に、なんとなく不安な気持ちが湧き上がる。
「大丈夫ですよ。単に泥棒に入られない為の予防策ですから」
それにちゃんとすぐに出られるようにドアの鍵は開けておきますからね、とまるで二人の不安を汲み取ったかのように付け足しながら笑う継彌を見て、悠宇と日和は思わず顔を見合わせた。
普通ならば疑わないで欲しいと言う所を、疑っても別に構わないから大丈夫だとでも言いたげな態度は二人にとっては新鮮だったらしい。
単に自分に関することに無頓着なのか、それとも疑われるのに慣れているのか。
どちらにしても微妙なことに変わりはなかったが、二人は大人しくついていくことにした。
…ガチャリ。ギギ…ィ…。
南京錠の鍵を外した後に鉄製の蝶番が軋んで思い扉を動かす音が重苦しく響く。
中から香るどこか熱を孕んだ鉄の匂い。
その空気に思わず眉を顰めた日和だったが、次の瞬間には目を大きく見開いた。
…店舗以上に重厚な棚や留め具によって、所狭しと武器と道具が置かれていたからだ。
店舗よりもずっと内装に気を使っていない、無造作且つランダムに置かれた道具や武器達。
しかし、無造作に見えて、その並べられた道具や武器達は『何か』が同じような気がして、その並びが間違っていないと錯覚してしまう。
ふと横を見てみれば、どうやら悠宇も同じものを感じたらしく、自分の隣で驚いたように立ち止まっていた。
振り返ってそれに気づいたのか、継彌は小さく微笑むと先に入って二人に続いて入るよう促す。
護羽も早く来いと言いながら中に入る。
それに気づいた二人ははっとして慌てて早足で中に入っていく。
【―――こっち】
「!!!」
一歩足を踏み入れた途端、頭に直接響くような声が聞こえてきた。
自分を呼ぶ、声。
驚いて目を見開く日和にたたみかけるように、声は呼び続ける。
【――――こっちだよ】
【早く―――早く、見つけて】
見つけて欲しくてたまらないとでも言いたげな、まるで子供のような声。
驚いて辺りを見回すと、同じように顔を動かしている悠宇と目があった。
「お前も…?」
「悠宇君も…?」
どうやら相手も同じように呼ばれているらしい。
「…どうやら、早速呼ばれているようですね」
「みたいやな。後はキミら自身が頑張って見つけてやるだけや」
そんな二人の姿を見て微笑む継彌と護羽は、二人に探せと促すように声をかける。
恐らく自分達を呼んだ声はこの中にあるのだろう。
そしてその『声』は、見つけて欲しがっている。
自然と足が動き出す。
一歩踏み出せば―――すぐに二歩目を踏み出して。
悠宇と日和は、何時の間にか早足で進んでいた。
【――こっちだよ】
歩くごとに、段々と急かす声が大きくなっていく。
【そっちじゃない】
【こっちだよ】
【早く―――早く見つけて】
【ずっと―――――ずっと、待っていたんだよ】
どこなの。
どこにあるの。
どこに―――いるの?
焦るように足を動かしていくと、声がはっきりと聞こえる場所が少しずつ理解できていく。
ここは左。こっちは右。
入り組んだ棚をまるで迷路を抜けるかのように進んでいくと、銀光が眩い棚へと辿り着いた。
丁度反対側の棚の陰から、悠宇が姿を現すのが見える。
――――――この棚の中だ。
この列を見た瞬間、不思議な確信が湧き上がった。
間違っているかもしれない、と言う思いは微塵も湧かない。
自分を呼ぶ声は、気づけばぴたりと止んでいた。
…後は自分で探せ、と言うことなのだろうか。
悠宇も同じことを思ったのか、棚を不思議そうに見ながら戸惑ったようにそこに並ぶ品を見渡している。
…おそらく、後は己の勘を信じるしかないのだろう。
正面から、靴が硬質な床を叩く音。
先に、悠宇が歩き出したのだ。
それに気づいた日和も、少々の逡巡のあと、覚悟を決めて歩き出す。
二人分だけの靴音。
向かい合った二人の間が、少しずつ縮まっていく。
視界の端を通り過ぎていく品物達は、どれ一つとして目に留まることはない。
そして――――丁度棚の中間に来たところで、二人の動きが止まった。
「「――――――これ…」」
二人の目に留まったのは――まるで寄り添うように並べられた、二つの…銀色の、ベル。
細かいながらもシンプルな彫刻の施されたそれは、掌に乗るくらいのサイズで。
日和の目を惹いた方のベルは、水色の小さなリボンが装飾として結び付けられていた。
そっと手に取ると―――ちりん、と澄んだ美しい音色が耳に届く。
その音が聞こえると―――身体の奥底から、力が溢れてくるような気がした。
…実際、何時もより周りを包む空気が優しく、心強くなったような気がしたから、あながち気のせいではなかっただろう。
重なるように聞こえた音に横を見てみると、悠宇の手には緑色のリボンが結ばれた物が乗せられていた。
【――――やっと、会えた】
本当に心の底から喜んでいるような、嬉しそうな声。
その響きに思わず呆然としてベルを見ると、両サイドからぱちぱちと手を叩く音が聞こえてきた。
「―――無事、見つけることができたようですね」
「ちゃんと会えたんやな。よかったやん」
嬉しそうに微笑む継彌と、面白そうに笑う護羽。
何時の間に来ていたのだろうか。
驚く日和と悠宇を他所に、継彌は二人に近寄って口を開いた。
「…それは、『番』と言う、対になったベルです」
「「『番』?」」
継彌の告げた名に二人が不思議そうに声を上げると、継彌は楽しそうに笑う。
「えぇ。番です。
悠宇さんが手に取ったのが番の『鳳』、日和さんが手に取ったのが番の『凰』です。
鳳凰は元々雄の『鳳』と雌の『凰』が一緒にいるものの総称でしたから、それになぞらって僕がつけただけなんですけどね」
単なる通称ですから、名前はお二人がきちんとつけてあげてくださいね、と微笑む継彌に、二人は手の中にあるベルを見た。
軽く揺らすと、り…ん、と美しい音色が聞こえる。
「…なぁ、それってきちんと音出とるんか?」
ベルを揺らす二人を見て、護羽が唐突に変なことを聞いてきた。
「音出てるかって…さっきから出てるだろ?」
「そうですよ。さっきからとても綺麗な音が…」
「はぁ?俺には全然聞こえへんで?」
不思議そうに返す悠宇と日和に、護羽が不思議そうな声を重ねて出す。
聞こえない…何故?
顔を見合わせて首を傾げる二人を見て小さく噴出した継彌が、笑って震えた声で口を出した。
「…護羽さんには、聞こえませんよ」
「「え?」」
「はぁ?なんでや?」
三人のどこか抜けた声がツボにはまったのか、くつくつと笑いながら、継彌は更に言葉を重ねる。
「それは対になる者―――つまり、所持者本人と番を持っている人にしか聞こえない音色なんです」
まぁ、僕は製作者なので辛うじてかすれた音が聞き取れますけど、と苦笑するその姿を見て、二人は驚いた。
ただのベルだと思っていたのに、そんな不思議な性質を持っているとは―――。
そんな二人の心境を知ってか知らずか、継彌は微笑みながら更に言い募る。
「ちなみに。
悠宇さんのベルは攻撃力を、日和さんのベルは防御力を高める効果があります」
「攻撃力を?」
「防御力?」
「RPGで言うところのサポート系の効果を持つ装備品、と言うヤツですね」
全く同じ見た目なのに能力は違うのか、と不思議そうにベルを見比べる悠宇と日和を見て、継彌はくつくつと笑いながら付け足した。
「このベルを、どのように使うかもあなた達次第です。
どんな風に使われても、そのベルは貴方たちを絶対のものとして信じますから。
…貴方方が最良と思うように、この子達を扱ってあげてください」
そう言ってそっと二つのベルに手を添えると、継彌はふわりと微笑んだ。
そんな継彌を見て―――二人は、しっかりと頷いた。
少なくとも――――相手が悲しむような使い方だけは、しないと心に誓って。
●『選ぶ』と言うこと●
――――呼び声の主も見つかってひと段落と言うことで、四人はのんびりとすることにした。
…最初は生活スペースで茶を飲もうと言うことだったのだが…。
護羽が一人で茶を持って『店番しといたるわ』と言い残して店舗の方に行ってしまったのだ。
継彌は一瞬戸惑っていたが、それも本当に一瞬。
すぐに自分に茶を勧めているところを見る限り、大して気にしていないようだ。
そして悠宇も、護羽を追うように「店番をしてくる」と言うと、さっさと店舗の方に行ってしまったのだ。
店舗へと繋がる扉が閉まる直前、「―――どうぞごゆっくり」と継彌がどこか楽しそうに言うその声に少々首を傾げたが…まぁ、それだけ。
「――――さて」
完全に扉が閉まり、静けさが空間を支配した直後、扉を見ていた日和が顔を戻すと同時に向き直ると、継彌はにこりと微笑んでそう切り出した。
「?」
不思議そうに自分を見る日和に小さく笑いながら、継彌は口を開く。
「なにか―――言いたいことが、あるんじゃないですか?」
「!!」
まるで心を見透かしたような一言。
あまりにも的を得すぎた一言に、日和は驚いて目を見開いた。
そのリアクションが予想通りだったのか単に面白かったのか、継彌はぷっと吹き出すとくつくつと喉の奥で笑いをかみ殺す。
継彌の反応に少々ぽかんとした後、無性に恥ずかしくなって日和は誤魔化すように茶を飲んだ。
そんな日和を見て「すみません、つい…」といいながら笑いを引っ込めた継彌が、優しい微笑を浮かべながら話を促すような視線を向けた。
それを見て覚悟を決めたのか、継彌は深呼吸を行う。
そして―――恐る恐る、口を開いた。
「……あの、継彌さん」
「はい?」
「……私、能力者と呼ばれる種族らしいんですけど、戦ったことさえありません」
その言葉に、継彌は少し驚いたように目を開く。
だが日和はぐっと我慢すると、自分の疑問をぶつけるように、言い続ける。
「そんな私が…ここの道具に呼ばれるなんてことが…あってもいいんでしょうか?」
そこで言葉を切ると、手の中で音色を奏で続けるベルに視線を落とし、見つめながら呟く。
「…この子は…自分の力を振るうことさえおぼつかない私を、どうして呼んだんでしょう?」
そこまで言い切って、日和はその満足感に深々と溜息を吐いた。
―――――それは、ここで話を聞いてからずっと抱いていた疑問。
何故、自分を選んだのか。
何故、自分でなければならなかったのか。
何故―――自分には、それに答えうる力がなかったのか。
考えれば考えるほど、深みにはまっていく気がする。
けれど、日和にとって、それは疑問と同時にコンプレックスとも言える内容だと思えた。
悔しさにぐっと手の中の湯のみを握りしめると、温くなった生暖かい温度が感じられる。
…しかし、継彌は優しく微笑むと、日和の手に自分の手を添えて握り締めた手を緩めるように促す。
驚いて手の力を緩めると、継彌は自分の元に己の手を引き寄せて、そっと口を開いた。
「…この子が貴方を呼んだのは、『能力者』だったからではありません」
「……え?」
驚いて目を見開くと、継彌はどこか困ったように微笑む。
「……武器や道具たちの中は、能力者ではない一般の人たちの中に選んだ相手がいる子もいるんです」
「え?でも…」
ならば、どうして能力者だけが見つけられる空間を作った?
その疑問に答えるように、継彌は優しく微笑んで続きを紡ぐ。
「…けれど、一般人には、この子達の声は届かない」
―――その言葉に、日和は目を見開く。
その様子に悲しそうな笑みを浮かべると、継彌はそっと湯飲みを両手で包み込んだ。
「一般人には呼びかけが梢が揺れる音ぐらいにしか聞こえません。
この子達の声は、能力者であるからこそ強く、そして深く――――繋がりを得て、伝えることができるのです」
懐かしむように瞳を閉じる継彌を見て、日和はどうしたらいいのかと戸惑いの表情を浮かべる。
「……じゃあ、その、一般人を選んだ武器や道具は―――どう、なるんですか?」
至極当然の疑問。
しかし継彌はやはりきたか、と言わんばかりの表情を浮かべ、呟いた。
「――――ほとんど半永久的に、待ち続けます。
選んだ一般人が死んで生まれ変わり、新しく能力者として生まれ変わることを祈って―――ただ、待ち続けるのです」
事実、この店の奥にある道具たちの中には、主を見つけられずに父の代からずっと待ち続けている子達もいるんです。
そう付け足した継彌に、日和は驚いて目を見開いた。
――――永遠にも感じるその時間を、ただ待ち続ける。
それは―――いったいどんな気持ちなんだろう。
見つけて貰えるときをただただひたすら待ち続ける、その気持ちは―――。
自分だったら―――――――きっと、耐えられない。
壊れてしまうかもしれない。
悠久とも言えるその時を、ただ待ち続けることしかできないというのは…とても、辛いのだろう。
そう考えて辛そうに眉を寄せて目を閉じる日和をどう思ったのか。
そっと湯飲みを持ち上げて一口飲むと、継彌は話を再開する。
「…だからこそ。
この子達は、ただ、自分の声が聞こえる人を待ち続けるのです。
そして、声が聞こえる人が自分を見つけてくれるのを―――心待ちにしているんです」
そう言われて、日和は目の前にあるベルを見た。
静かに佇むその姿は、待ち続けていた主を見つけられた喜びからか。
「…そして。
自分の声が聞こえるのならば――――どんな能力を持っているか、とか、その力を上手く使えるか、とかは…関係ないのです。
ただ、自分を側に置いてくれるのならば…この子達は、それだけで幸せなのですから」
【――――そうだよ】
継彌の声に重なるように、ベルの嬉しそうな声が聞こえてくる。
【僕は―――貴方に会えただけで嬉しいんだ。
能力なんて―――関係ないよ】
その声音に、日和はどこか照れくさくて頬を染めた。
優しい言葉をかけて貰えるのが、嬉しくて仕方が無い。
その様子を見てふわりと目を細めた継彌は、微笑んで口を開いた。
「―――――この子が求めていたのは、『貴方』なんです。
能力が上手く使えないとか、戦ったことがないとか…そういう事を全てひっくるめた『貴方』を、この子は求めているんです」
だから…気にしなくてもいいんですよ。
そう言って微笑む継彌に、日和は思わず泣きそうになった。
その優しさが、心に沁みて。
り…ん、と優しく鳴ったベルが、それを肯定してくれているようで―――とても、心が温かくなる。
「……はい…」
このままでいていいんだよと言われているようで――――――とても、嬉しかった。
●夢現●
話終わった所で丁度よく護羽と悠宇が戻ってきて、継彌と日和は微笑みで迎えいれた。
長い付き合いから、どこかすっきりしたような表情の悠宇になにかあったのだろうと思ったが、今は聞くのはやめておこうと考え直す。
自分だってついさっきまで話していたことだし、言いたくないことだってあるかもしれないからだ。
――その後、四人でのんびりとしたお茶会を行った。
護羽の仕事の話はまるで御伽噺のようだったし、継彌の話はこちらの変わった食べ物の話だったから、興味をそそられたり思わず笑ったりする。
自分達に合わせてくれているのだろう。
そんな些細な気遣いが、二人にとってはむずがゆくもあり、嬉しくもあった。
時を忘れて話しに興じていた二人だったが、ふと継彌が壁を見て口を開く。
「―――そろそろ、お帰りになった方がよろしいかもしれませんね」
「「え?」」
その呟きに二人が継彌の視線を追って壁を見ると、そこには大きな振り子時計が立てかけられていた。
何時の間に、と思ったが、それよりも気になるのは、その時計の針が指している時間。
――――――夜、六時。
家族には「今日は早く帰る」と帰路の途中に連絡したっきりだ。
…つまり、今此処にいることは、家族には一切連絡していないということ。
「―――ヤバッ!」
「大変!早く帰らないと!!」
きっと家族は二人の帰りが遅いことを心配しているだろう。
早く帰って安心させてやらねば。
悠宇と日和は同時に立ち上がり、慌てて床に置いていた荷物を掴む。
ベルは傷つけないように気をつけながらも急いで鞄の中に仕舞い込んだ。
「それじゃあ!」
「私達、これで失礼しま―――」
「――嬢ちゃん」
頭を下げる二人の言葉を遮るように、護羽が日和を呼び止めた。
その静かな声音に驚いて顔を上げる日和。
その上げた顔が見たものは―――――。
…視界をいっぱいに広がる、大きな…掌。
「……さよならや」
――――――パキィンッ。
どこか寂しそうな声と同時に、日和の頭の中に直接ガラスが割れるような音が響いた。
身体から一気に力が抜けていく。
それに――――とても、眠い。
「日和!!」
完全に意識を失う寸前に日和の頭に入ってきたのは、悠宇の驚いたような声と――――護羽の、どこか悲しそうな微笑。
――――――そして、世界が漆黒に染まる。
***
―――頬に、暖かく柔らかいものが当たっている。
…いや、身体の前面全体が…とても、暖かい。
「う…ん…」
前面に触れるそれが揺れ、日和は思わず身じろいだ。
そして気づく。
この少しごつごつした感触は―――人の、背中だと。
―――起きなければ。
きっとこの背中は―――自分が、大切に思っている『彼』のものだ。
何時までも迷惑をかけるわけにはいかない。
早く―――目を覚まそう。
目を擦りながらうっすらと瞳を開くと、日和の視界いっぱいに彼…悠宇が広がっていた。
「日和…起きたのか?」
起きたことに気づいたのかそっとコンクリートの道路に降ろしてくれた悠宇は、そっと声をかける。
その声にようやく目が覚めてきて、日和は「うん…」と頷いてから顔を挙げ、照れくさそうに微笑んだ。
「ごめんね?重かったでしょ?」
「いや…別に」
お約束といえばお約束の会話に悠宇が苦笑しながら答えると、日和は笑ってそっか、と返事を返す。
――――そこで、ふと気づく。
…なんで、私は眠っていたのかしら?
学校から出るところまでは記憶がはっきりしているのに―――ここに来るまでの道のりや会話が、全く思い出せない。
まるで―――その部分だけがぽっかりと『抜け落ちて』いるかのように。
そんなに眠かったのだろうか?
おぼろげな『何か』があるような気がするのに、それだけがどうしても思い出せない。
思わず首を傾げると、悠宇が不思議そうな表情で顔を覗き込んできた。
「日和?」
その不思議そうな悠宇の問いかけに、日和はあ…うん…と煮え切らない返事を返す。
申し訳ないけれど―――自分が覚えていない以上、彼に聞くのが懸命と言うものだろう。
少し考え込んでからそう結論付け…恐る恐る、口を開いた。
「ねぇ…私、どうして眠っていたんだっけ?」
「…え?」
日和の言葉に驚いて目を見開く悠宇。
予想通りの反応に思わず苦笑すると、日和は申し訳なさそうに更に問いかける。
「学校から帰ったところまでは覚えてるんだけど…私、何時眠ったの?」
その問いかけに―――悠宇は、驚いた表情のまま硬直した。
どうしてそんな顔をするんだろう。
私が帰り道のことを覚えていないのが、そんなに不思議なのかしら?
それとも…覚えていないのが可笑しいようなことをやってしまったとか?
その悠宇のリアクションは、妙に不安を掻き立てる。
ドキドキしながら悠宇の返事を待っていると、彼は苦笑しながら日和の額を小突き、口を開いた。
「…なんだよ。もう忘れたのか?
お前…学校出たときからずっと眠そうで…途中で神社に寄り道したら、そのまま寝ちまったんじゃねぇか」
…漠然と、稚拙な言い訳のような理由だと思う。
―――けれど、その言葉で、一気に記憶がよみがえった。
そうだ。
昨夜は課題の難しい部分をわかるまで徹底的にやっていたのだ。
そのせいで、少し寝不足で―――。
帰りに寄り道した時に、うっかり…寝てしまったのだった。
そこまで思い出し、今まで思い出さなかったことが恥ずかしくて、誤魔化すように困ったように笑う。
「そっか…昨日、提出の課題が難しくて寝るのが遅くなっちゃったから…そのせいかな?」
うん、きっとそうだ、と改めて納得していると、悠宇がほーっ、と深い溜息を吐く。
一体どうしたのだろうと首を傾げたが、きっと彼にとっては聞かれたくないことなのだろうと思い、大人しく口を噤んでおくことにした。
夏場とは言え六時を過ぎれば着実に暗くなっていく。
夕暮れの赤い空を見ていると、不意に日和の目の前に手が差し出された。
…悠宇の、手が。
「―――ほら、帰るぞ」
その言葉に一瞬ぽかんとした日和だったが、すぐに顔を笑みの形に崩して、悠宇の手を掴む。
「――――――うん!」
―――自分の笑顔に笑い返した悠宇笑顔は、日和がよく知っている悠宇の笑顔だった。
二人は、夕暮れの中を歩いていく。
沈みかけた西日が長い影を生み、手を繋いだ影が長く伸びた。
***
「……あら?」
―――家に帰ってから鞄を開いたところで、日和は中に見慣れないものが入っていることに気づいた。
綺麗で細かい彫刻が施され、水色のリボンが巻きつけられた―――銀色の、ベル。
「このベル…いつ買ったっけ…?」
緩やかに鳴らすと、り…ん、と、心の奥底にまで響き渡るような音が室内に響く。
優しくて、全てを包み込むような――――澄んだ、音色。
「綺麗な音…」
その音にうっとりとして目を細めていると、ふと…心の中に不思議な感覚が湧き上がることに気づく。
不思議で――――懐かしくて。
そして…何故だか、勇気を分けて貰えているような―――力強い、心。
それはとても不可解で。
だけど―――不快ではなくて。
戸惑いながらも――何故だか、このベルを捨てる気にはなれなかった。
後で悠宇に聞いてみると、これは悠宇の持っているものと対になっていて、自分と悠宇にだけしか音が聞こえないのだそうだ。
そんな不思議なベルを、一体どこでどうやって手に入れたのか。
日和はそれを問いかけかけて―――止めた。
何故だか、それは…質問してはいけない気がしたからだ。
それに…日和にとって、ベルは気持ちの悪い物とは感じなかったから、このままでも構わないと思っていた。
――――その夜。
日和は、そのベルの音を聞きながら―――眠りについた。
その日の夢の中には、とても優しくて―――だけど、悲しそうな笑みを浮かべた人が出てくるのだけど。
一体その人が誰だかは――わからなくて。
悠宇は知っているのに、自分だけわからないのがもどかしくて。
だけど―――――それが『あの人』の優しさだと分かっている自分がいた。
そして―――目が覚めて。
日和は何故か―――――少しだけ、泣いた。
それ以降―――ベルは、彼女に肌身離さず身につけてもらえることになる。
<結果>
記憶:残留。
入手:番−凰(掌に乗るほどの細かい彫刻の施された銀色のベル。防御力を高める効果がある)
終。
●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●
【整理番号/名前/性別/年齢/職業/属性】
【3524/初瀬・日和/女/16歳/高校生/水】
【3525/羽角・悠宇/男/16歳/高校生/風】
【NPC/護羽/男/?/狭間の看視者/無】
【NPC/継彌/男/?/『鳳凰堂』店主兼鍛冶師/火&水】
■ライター通信■
大変お待たせいたしまして申し訳御座いませんでした(汗)
異界第二弾「鳳凰堂の章」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
今回は前作に比べて皆様の属性のバリエーションが広がっており、ひそかにほくそ笑みました(をい)
まぁ、残念ながら火・地属性の方にはお会い出来ませんでしたが…次回に期待?(笑)
また、今回は参加者様の性別は男の方のほうが多くなりました(笑)いやぁ、前作と比べると面白いですねぇ(をい)
ちなみに今回は残念ながら鎖々螺・鬼斬と話す方はいらっしゃいませんでした…結構好きなんですけどねぇ、私は(お前の好みは関係ない)
なにはともあれ、どうぞ、これからもNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)
NPCに出会って依頼をこなす度、NPCの信頼度(隠しパラメーターです(笑))は上昇します。ただし、場合によっては下降することもあるのでご注意を(ぇ)
同じNPCを選択し続ければ高い信頼度を得る事も可能です。
特にこれという利点はありませんが…上がれば上がるほど彼等から強い信頼を得る事ができるようです。
参加者様のプレイングによっては恋愛に発展する事もあるかも…?(ぇ)
・日和様・
ご参加どうも有難う御座いました。また、護羽をご指名下さって有難うございます。
悠宇様とのリンクノベルと言うことで、楽しく書かせていただきました。
継彌との絡みが大目ということで、一生懸命書かせていただきましたが…いかがでしょう?
気づけば継彌がいいお兄さん風な人になってましたが…(汗)ベルが日和様を選んだのは能力者だから、ではないと言うことが上手く書けていたらいいなぁ、と思います。
ちなみに一番最後の題名は「ゆめうつつ」と読んでくださいませ。
覚えていないけれどベルによって引っかかりを感じる。けれど思い出せない。それって、とてももどかしいですよね。そんな感じが出ていれば成功だな、と思います。
ベルは勝手に呼び名をつけていますが、ご自由に名づけてしまって結構です。…と言うか是非変えてください(をい)
色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。
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