■ファイル1-心を盗られた人。■
朱園ハルヒ |
【3689】【千影・ー】【Zodiac Beast】 |
「変死体…?」
「いや、実際には、違う。生きているが、動かない…と言えばいいのかな」
デスクを挟み、奥には槻哉。その前には早畝とナガレ。そして斎月が珍しく顔を出している、司令室。
一つの事件の内容が記されたファイルを手に、槻哉がその二人へと、状況説明をしている所だ。
「…なんだそりゃ。病気じゃねーの?」
「病気の類であれば、僕のところにこんな書類なんて回ってこないよ、斎月」
斎月のやる気の無い言葉に、槻哉は軽く溜息を吐きながら、書類の内容を二人に見せるかのように、デスクの上にそのファイルを置いた。
クリップで止められた、白い紙と、数枚の写真。その写真には、『死体』とも呼べる、生気の無い人間が映し出されていた。
「被害者だよ。どれも同じような状態だろう」
早畝が写真を食い入るように覗き込んでいると、槻哉が補足するかのように言葉を投げかける。
「ふーん…確かに事件の臭いだな。…っていうか、先に写真見せてから説明始めろよ、槻哉」
斎月は写真を一枚手にしながら、そう毒づく。付き合いは長くも、二人はあまり、仲がいいという訳ではない。
「なんか、人間業じゃないよなぁ…変な気配感じるし」
そう、口を開いたのは、早畝の肩に乗っているナガレだ。動物的な勘が働いたのか、写真に顔を近づけて、くんくん、と臭いを嗅いでいる。
「ナガレならそう言うと思ったよ。だから君も呼んだんだ。もうこれで…5人目。警察側の特捜部も、お手上げ状態らしくてね」
手に書類を戻し、槻哉はそう言う。その言葉に何より反応したのは、早畝であった。
「…じゃぁ、俺たちが解決すればいい話だよな。あいつらには、負けない」
警察組織自体を信用してない、早畝の心からの言葉。それを槻哉も斎月も、そしてナガレも、何も言わずながらも、その胸のうちに何かを感じ取りながら。
「……とにかくだ。此処に流れてきたからには、君たちの出番だ。よろしく頼むよ」
パシン、と再び書類をデスクの上に軽く叩きつけるかのように置きながら、槻哉はそう言い立ち上がる。すると早畝も斎月もそれに習うかのように、姿勢を正して見せるのだった。
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ファイル1-心を盗られた人。
「変死体…?」
「いや、実際には、違う。生きているが、動かない…と言えばいいのかな」
デスクを挟み、奥には槻哉。その前には早畝とナガレ。そして斎月が珍しく顔を出している、司令室。
一つの事件の内容が記されたファイルを手に、槻哉がその二人へと、状況説明をしている所だ。
「…なんだそりゃ。病気じゃねーの?」
「病気の類であれば、僕のところにこんな書類なんて回ってこないよ、斎月」
斎月のやる気の無い言葉に、槻哉は軽く溜息を吐きながら、書類の内容を二人に見せるかのように、デスクの上にそのファイルを置いた。
クリップで止められた、白い紙と、数枚の写真。その写真には、『死体』とも呼べる、生気の無い人間が映し出されていた。
「被害者だよ。どれも同じような状態だろう」
早畝が写真を食い入るように覗き込んでいると、槻哉が補足するかのように言葉を投げかける。
「ふーん…確かに事件の臭いだな。…っていうか、先に写真見せてから説明始めろよ、槻哉」
斎月は写真を一枚手にしながら、そう毒づく。付き合いは長くも、二人はあまり、仲がいいという訳ではない。
「なんか、人間業じゃないよなぁ…変な気配感じるし」
そう、口を開いたのは、早畝の肩に乗っているナガレだ。動物的な勘が働いたのか、写真に顔を近づけて、くんくん、と臭いを嗅いでいる。
「ナガレならそう言うと思ったよ。だから君も呼んだんだ。もうこれで…五人目。警察側の特捜部も、お手上げ状態らしくてね」
手に書類を戻し、槻哉はそう言う。その言葉に何より反応したのは、早畝であった。
「…じゃぁ、俺たちが解決すればいい話だよな。あいつらには、負けない」
警察組織自体を信用してない、早畝の心からの言葉。それを槻哉も斎月も、そしてナガレも、何も言わずながらも、その胸のうちに何かを感じ取りながら。
「……とにかくだ。此処に流れてきたからには、君たちの出番だ。よろしく頼むよ」
パシン、と再び書類をデスクの上に軽く叩きつけるかのように置きながら、槻哉はそう言い立ち上がる。すると早畝も斎月もそれに習うかのように、姿勢を正して見せるのだった。
(…あいつ、人間じゃないよな…)
とことこ、と歩きながらその目に留まったのは、少女の姿だった。
ふわふわの黒髪をツインテールでまとめ、黒地に緑色の蝶と花をあしらった浴衣を着こなし、その場を歩いていた。しかし、その足取りは挙動不審だ。
「…何か探してるのか?」
「……きゃぁっ」
その少女に背後から声をかけたのは、ナガレであった。
早畝と二手に別れ、調査の最中だったのだ。
「そんなに驚くなよ、傷つくだろ」
声をかけられた事に真底驚いた少女は、小さいながらも高い声を上げた。
ナガレはそれに眉根を寄せて、そう繋げる。
「…あ、こ、こんばんわ…」
「こんなところで何してる?女一人でぶらついてたら、危ないだろ」
ナガレは少女の揺れる瞳を捕らえながらそう言った。
もう日は落ち、あたりは暗い。しかも歓楽街に近い通のこの場は、治安がいいほうとは言えないのだ。
「万輝ちゃん、見なかった? 探してるの」
「万輝?」
少女はナガレに向かい合う形で膝を折り、そう言った。
そんな彼女に『こっちこい』とナガレは浴衣の裾を引く。道端でしゃがまれては、人の目に付くからだ。
「いつもはすぐに見つかるの。でも今日は見つからなくて…」
少女は黒髪を揺らしながら、不安そうに言葉を漏らす。
(…迷子か)
ナガレは内心そう呟きながら、どうしたものかと思考を巡らせる。調査に戻りたいがこの少女を放って置くわけにもいかない。余りにも危険すぎるからだ。
「…しゃーねぇな…」
「?」
ぽつり、と呟いた後、ナガレは人目に付かないよう、木の影に姿を消す。
「どこいくの?」
少女が追ってくるが、その場で止め、素早く行動を起こした。
「…ふぅ。やっぱこっちのほうが楽だよな…」
「……!」
そんな独り言を言いながら。
再び姿を見せたナガレに少女が口元を押さえて、驚きを見せている。
「なんだよ、そんなに珍しくも無いだろ? …お前も、『同類』なんだろうし」
「あたしのこと、わかるの?」
ナガレは少女の背丈より、少しだけ高い位置にいる。…つまりは、普段の動物の姿から、人型をとったという訳だ。
「伊達に長生きしてないしな。だいたいの見分けはつく。それより、人を探してるんだろ、飼い主か?」
少女の手を取りながら、ナガレは道を歩き出す。
『飼い主』と言ったのは、少女の普段の姿を見越しての、ことである。おそらくは、間違いではないだろうと思いながら。
「あのね、納涼会があるから、万輝ちゃんと出かけたの。それで…途中で、ヒトが多くなって…逸れちゃったの」
「そうか…じゃ、一緒に探してやる。それと、祭りなら、この通りは間違ってるぜ。ここから二本隣の通りだ」
確かに、納涼会は行われている。ナガレはその喧騒から逃れ、こちらの道を選び、調査を続けていたからだ。
少女はナガレに遅れを取らずに、カラコロと下駄を鳴らしながら着いて来る。ゴシックパンク姿のナガレと、浴衣の少女。傍から見れば、若いカップルのようである。
「お前、名前は? 俺は、ナガレ」
「えっと、千影(ちかげ)。万輝ちゃんは『チカ』って呼ぶの。ナガレちゃんも、チカって呼んで?」
千影と名乗った少女は、肩越しに振り返るナガレに向かい、ふわりと笑った。
その笑顔を見て、ナガレは改めて『置いてこなくて良かった』と思ったりもする。本人がどう思っているかは解らないが、千影は目立つ。早い話が、美少女、と言うわけなのだか。道を通る不貞な輩が、ちらちらとこちらを伺っているのは、千影の姿を認めている為だ。
ナガレは溜息を吐き、千影の手を引きながら、その通りを外れる。そして祭りの通りへと、彼女を導くように歩いていった。
メインの通りにたどり着いたときに、通信機が鳴り響く。早畝からの連絡だ。
ナガレは千影に離れるなよ、といいながら、小さなマイクを口元に持っていった。
「どうした、早畝?」
会話を始めるナガレを見つめながら、千影はきょろ、と視線を外す。
「…………」
目に見えるのは、色とりどりの明かりと、楽しそうな人々の声。
『…あそんで、ほしいの…』
『さみしいの、おともだちがほしい』
それにまぎれて聞こえてくる声に、ぷぅ、と頬を膨らませる。
「…楽しいお祭りなのに、邪魔するのはだぁれ…?」
小さく、だが、そう呟いた言葉に、ナガレも反応する。
「――千影? どうした」
「ナガレちゃんには、聞こえない? 子供みたいな、声」
「…声? …っと、ちょっと待てな。…悪い早畝、今、人探ししてんだよ。うん?そっちもか?」
「……、万輝ちゃん…?」
ナガレの言葉を聴きながら、千影は何か気がついたように、万輝の名前を呼ぶ。それだけで、勘のいいナガレも、合点が行ったようだ。
「……ああ、わかった。そっち行くから、あんま動くなよ。あーそれと…何かあったら雷光弾使えよ。それで場所解るしな?」
千影は急にそわそわし出した。それほど、万輝に会いたいのであろう。
早畝のとの通信を終わらせたナガレは、彼女の背中ぽんぽん、と押して、
「もうすぐ会えるって。わかったろ? 俺の相棒が、万輝連れてるって」
言いながら、安心させるように、笑いかける。
「……うん。でも、さっきから聞こえる声、気になるの…」
「それは俺もだ。もしかしたら、俺達が追ってる事件に、関わりあるのかもな。…ほら、行こうぜ」
ナガレは再び、千影の手を取る。
すると千影も歩き出す。進むたびに強さを増す、小さな声を気にかけながら。
「あ、そうだ。俺、相棒んとこにたどり着いたら、さっきの姿に戻るけど…今の姿、内緒な?」
「…? うん。でも、どうして?」
「あんま見せたくねーんだよ、あいつに」
あいつ、とは、間違いなく相棒の早畝のこと。
今はまだ、この姿を見せることは出来ない。これからも見せる予定はない。ナガレは心でそう呟きながら、千影を導くように、前を進んだ。
ぎゅぅ、とナガレの手を握り返してくる千影。それが気になり、振り向くと彼女は頭をふり、前へ進めと合図をしてくる。
「大丈夫か?」
「うん」
(……大丈夫じゃないだろ、その様子じゃ…。…ま、解らないわけじゃないけどな…この空気じゃ)
千影やナガレだからこそ強く感じる事が出来る、霊的な存在。呼ばれているような、淋しい声。…子供の声。
その声とは裏腹に人ごみは彼らを押し戻すかのように襲ってくる。言ってみれば、すし詰め状態になっているのだ。それを何とか掻き分けながら、前に進んでいると
「………万輝ちゃん…ッ」
と、千影が大きな声を上げたのに気がついた。
「千影?」
「…ナガレちゃん、万輝ちゃんが危ないの…!」
「ぅわ…っ」
千影はナガレにそう言うと、ぐん、と彼を引きながら、前へと進み出た。いきなりのことに、ナガレはバランスを崩す。その瞬間、自分は元の姿に戻ったほうが良いと判断したのか、千影が生み出すスピードの流れに沿って、変容を遂げる。
そして千影の肩の上に乗りながら、彼女が目指す方向へと、意識を巡らせた。
そんな時、彼らが目指している方角の上空が、一瞬だけ光る。
――早畝が位置を知らせてきたのだ。
「千影、解るな?」
「うんっ今の、光った場所に、万輝ちゃんはいる…!」
気がつけば、もう、人ごみから抜け出している。…千影は人間ではない。ナガレはその事を、一瞬だけ忘れていた。今の、人型の彼女があまりにも、人間に近くて。
主人を思い、必死になっている彼女を横目に見ながら、それほど絆が深いのだろうと考えが行き着くと、彼の心の中が、少しだけ痛んだように思えた。
『きれい』
『きれいね』
『なんのあそびなの?』
「――万輝ちゃん!!」
場所は神社の境内の中。二人の耳に届けられる声。
奥の御堂にまでたどり着くと、万輝と思われる少年の横には、早畝がいた。
そしてその二人の目の前に、小さな子供の姿があり、その子供が今にも、二人に触れようとしているところであった。
それをギリギリで弾きに入ったのは、言うまでも無い、千影である。
『…いたい…』
『いたいよぅ…どうしていじめるの…』
『ぼくは、あそんでほしかっただけなのに…』
「早畝」
万輝を支えていた早畝の名を呼ぶのは、ナガレ。現れた少女、千影の肩の上に乗っていたのをひらりと降り、彼の元へとやってくる。
「ナガレ…彼女が、千影ちゃん?」
「見れば解るだろ。それより、大丈夫なのかよ」
ナガレは早畝の支えている万輝をちらり、と見ながらそう言った。
するとその視線に気がついたのか、万輝は早畝の支えをそっと逃れて、姿勢を正す。
「…遅いよ、チカ…」
「ごめんね、万輝ちゃん。どこも怪我してない?」
万輝の声に振り向いた千影は、自然に万輝へと寄り添い、彼の身体の心配をしていた。その光景がやけに綺麗に見える、と思ったのは、早畝だけではないらしい。
「…………」
一瞬だけ、今の状況を、忘れそうになった二人がそこにいた。
『ぼくだけ、なかまはずれなの?』
『だれもあそんでくれないの?』
「完璧な子供の霊かよ…でもコイツが今回の犯人と見て、間違いないんだろうな」
「多分ね」
ナガレは子供の姿をその目にしっかりと認めて、溜息混じりにそんな事を言う。
そして早畝も遅れを取らずに、返事を返した。
「キミなの? 万輝ちゃんに悪戯したのは。悪い子ね」
千影は悲しそうな言葉を発する子供に対し、そんな言葉を投げかける。
すると一瞬だけ怯んだように見せた子供は、それでも必死に、口を開いた。
『あそびあいてだもん』
『ぼくのこえ、きいてくれたもん』
『だからずっと、ぼくとあそんでもらうんだもん!』
子供が声を荒げると、その後ろに、淡い光を放つ、人の影のようなものが見えた。
「…なんだ、あれ…?」
ナガレがいち早くそれに気がつき、早畝の頭の上に駆け上がる。
「―…今までの、被害者なんじゃないの?」
それに応えたのは、万輝だった。
見れば彼は、少年とは思えない、冷酷な表情で、子供を見据えている。
『さみしいのはいや』
『だからぼくとおんなじひとを、さがしてたの』
『さみしいひと』
『ぼくといっしょに、いてくれるひと』
『いっしょなら、さみしくないでしょ?』
「…それ、ものすごく不愉快。君の価値観を押し付けないでよ…。…チカ」
こめかみを一度押さえながら、万輝は静かにそう言う。そして千影に合図を送り、それに応えた千影が、一瞬にしてその姿を変えた。
「…!!」
それに驚いたのは、ナガレだった。
今まで一緒に行動し、彼女を人間ではないとまでは感じていたものの、その真の姿までは、想像できなかったようだ。
「困ったちゃんには、お仕置きが必要、でしょ?」
早畝とナガレの目の前にいるのは、先ほどまでの可憐な少女の姿ではなく。
背に鷹の翼を持つ黒獅子。それが、千影の本来の姿、らしい。
万輝に視線を送ると、彼は顔色一つ変えることも無く、千影の姿を見つめていた。
「…………」
早畝はその姿に、多少の不安を覚える。
千影はその翼を大きく羽ばたかせて、子供に向かい、前足を掲げて見せるそぶりをした。
『こわぁい!!やだぁ!!』
『こわいよぅ…うわぁぁん…!!』
「…君が悪いんだよ…」
ぽつ、と漏れた言葉。
それを早畝は聞き逃すことなく。
「おい…早畝?」
自分が身体を預けている足元がゆらり、と揺れた事で初めて。
ナガレは早畝が歩みを進めている事に気がついた。
「…万輝ちゃんを困らせる子は、許さないよ?」
『わぁぁぁん!!』
千影はそう言いながら、子供の頭上すぐ間近まで、その口を近づけさせた。その開いた口からは、鋭い牙が覗いている。
「…千影ちゃん、そこまで」
その、千影の動きを止めたのが。
泣き叫ぶ子供を抱きしめた、早畝だった。
「………!」
それに驚いたのが、万輝である。
千影の真の姿に少しも怯える事も無く、早畝は自分のみを差し出すかのような素振りで、彼女を見上げている。
「……万輝ちゃん」
困ったような彼女の声に、万輝は溜息を漏らし
「…チカ、もういいよ。…戻って」
と、半ば投げやりに、千影に言葉を投げかけた。
「……大丈夫だよ。少しも怖くないから」
『…ほんとう? ぼく、たべられちゃわない?』
「大丈夫」
『………うん』
早畝のそんな言葉に安心したのか、ずっと泣き続けていた子供は、涙を拭いながら早畝に抱きついた。
(……子供の扱いだけは、上手いよなぁ、早畝は…)
ナガレは早畝の頭上から覗き込むようにその状況を見て、心の中でそう呟く。
それから万輝と千影のほうへと視線を送ると、人型に戻った千影が、気まずそうにこちらを見ていた。
「…寂しいのは、わかるよ。でもな、だからって、我侭言ってちゃダメだ。…嫌われちゃうぞ?」
『…………』
大人しくなった子供の頭を撫でながら、早畝はにっこり笑ってそう言う。
そんな姿を見、万輝も何か思うところがあるのか、二人のほうへと足を向けた。千影も慌てて、万輝を追う。
「――…そんなに寂しいなら、ここから抜け出しなよ。こんなところにいるから、君はいつまでたっても、寂しいままなんだよ」
早畝の背後から。
静かに言葉をつくり、子供に語りかけたのは、万輝。
『じゃあ、どうしたらいいの…?』
「簡単だよ、上へ昇るといいんだ」
「か、万輝ちゃん…」
子供の問いに、万輝は淡々とそう答えると、千影が慌ててそれを止める。
「そのとおりでしょ、チカ…」
「だからって、こんな小さい子に、駄目だよ、万輝ちゃん」
「…………」
早畝とナガレは、彼らを見上げながら、半ば緩んだ心で、次の言葉を待っていた。
「え、えっとね…もう、反省してる?」
『うん、もうぼく、わるいことしない』
「じゃあ、皆に謝らなきゃ。それが出来たら、あたしがキミを連れて行ってあげる」
千影はそう言いながら、にっこりと笑ってみせる。
『お空にいけるの? そしたらさみしくない?』
「うん、さみしくないよ」
『…わかった…』
千影の言葉で納得できたのか、子供は早畝から少しだけ離れ、両手を合わせるような仕草をして見せた。
「――ナガレ、回収よろしく」
「解ってるって」
早畝はその子供の行動が読めたのか、ナガレに言葉を投げかけると、彼は早畝の頭の上で、立ち上がった。
次の瞬間、子供の両手が光りだし、そこから淡い色の光の球が五つ、空に浮いた。
…被害者の【心】である。
『くるしませて、ごめんなさい…』
「…………、…」
「万輝ちゃん」
万輝に対して、頭を下げた子供に向かい、万輝が何かを言おうと口を開くと、それを千影が止める。
すると万輝は面白くなさそうに、顔を背けた。
そんな二人を、早畝とナガレは、小さく笑いながら見ていた。
その後子供は、千影が持ち合わせる力の応用で、その場から解けるように姿を消す。こちらに頭を下げながら。
早畝はその子供に、手を振りながら見送っていた。
「……それじゃあ、僕達はこれで」
「え、あ、そっか…」
早畝たちが引き上げようとの素振りを見せると、万輝は静かに彼らにそう言った。自分達も、立ち去るらしい。
「…あのさ、万輝と千影ちゃんて…」
「――【The Fool】だよ。それじゃ、またどこか出会えたら、ね…」
「ばいばい、ナガレちゃん、早畝ちゃん」
早畝の問いに、遠まわしな言葉しか返さずに。
万輝はそのまま、背を向け歩き出す。千影は二人に手を振り、万輝の後を追っていった。
「…………」
早畝はそれ以上の言葉が見つからずに、黙って彼らを見送った。ナガレもそれに従い、何も言わずにいた。
二人の姿が完全に見えなくなってから。
早畝とナガレも事件の解決を知らせるために、槻哉が待つ特捜部へと戻るために、その場を後にするのだった。
「ねぇねぇ、万輝ちゃん。あたしは役に立てた?」
「…………」
「万輝ちゃんってばー」
「……わかったよ。僕の負け。帰ったらししゃも焼いてあげるから」
「えへへっ 万輝ちゃん、大好きだよっ」
それは、帰路の中での、二人の会話。
先ほどまでずっと不機嫌だった万輝の表情は、今は穏やかなものであり。
千影はその横で、楽しそうにしていた。
腕を組んだ二人は、ゆっくりと家への道を、進んでいた。
【報告書。
8月28日 ファイル名『心を盗られた被害者達』
被害者の心のみを抜き取られていくと言う犯行は、登録NO.01早畝、同NO.00ナガレと協力者、『万輝』と名乗る少年と千影と言う少女の能力によって無事解決。
犯人は小さな子供と言う報告を受け、詳細を調べた所、数年前に現場で親の虐待により死亡していることが判明。この件に関しては、事件として扱われておらず、警察の不手際と判断し、纏めた資料を先方に送る事で勧告とする。
被害者については無事心を取り戻す事が出来、その後皆普通の生活に戻れた事も確認済み。
協力者の二人が気にかかるところであるが、今は何も情報が得られないので、またの機会に記載する事にする。
以上。
―――槻哉・ラルフォード】
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登場人物
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【整理番号 : PC名 : 性別 : 年齢 : 職業】
【3689 : 千影・ー : 女性 : 14歳 : ZOA】
【3480 : 栄神・万輝 : 男性 : 14歳 : モデル・情報屋】
【NPC : 早畝】
【NPC : ナガレ】
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ライター通信
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ライターの桐岬です。今回はファイル-1の第二期へのご参加、ありがとうございました。
個別と言う事で、PCさんのプレイング次第で犯人像を少しずつ変更しています。
千影・ーさま
ご参加有難うございました。もうもう、千影ちゃんが可愛くて仕方ない桐岬の、勝手な妄想が反映されてしまっていると思いますが…(滝汗)い、如何でしたでしょうか?
前半部分は万輝君とは別行動を取っているので、内容が別物になっています。
なんにしても納品が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
ご感想など、聞かせていただけると嬉しいです。今後の参考にさせていただきます。
今回は本当に有難うございました。
誤字脱字が有りました場合、申し訳有りません。
桐岬 美沖。
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