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■Extra Track■

深海残月
【2839】【城ヶ崎・由代】【魔術師】
 オープニングは特にありません。
Track 05 featuring “Twin Magician”


 ………………利発そうな少年だ、と言うのが第一印象だった。
 黒系のスーツを着、小さな丸眼鏡を鼻に引っ掛けたその姿、年齢の割には大人びて見える。
 …ただ、それは「黙って立っていれば」と注釈が必要で。
 実際の言動を見ると、そうでもない。
 むしろ狡猾な悪ガキである。
 位階が際立って上の者――つまり言ってしまうとお偉いさんの前では見事にイイ子。
 僕のような立場の者にもそれなりに丁寧には接する。が、僕は彼にとっては入団の時期が一年程度早いだけの相手。少々侮っているような雰囲気も垣間見えるのは気のせいでは無いだろう。
 立ち居振舞いも卒が無い。この少年は子供である事を利用してか、警戒されぬよう教団内の様々な相手に声を掛け、色々と見定めているような感があった。…末恐ろしい。成長した時どんな存在になるのだろう。そう思わせた。
 ダーティブロンドの髪に群青の瞳、見た目からして英国人。名前は、デリク・オーロフ。
 オーロフと言えば歴史ある名家。となると、この辺りの使い分けは家柄故かとも思う。
 この歳での入団が可能だったのもその為か、と、何処か柔らかな雰囲気を持つこの男もその程度はあっさりと察しが付いた。
 …本来なら、ひとりの魔術師として魔術教団に入るなど、自分の年齢でもまだ若い方に入ると思うから。


 ………………自分とは全然逆な相手。
 静かで穏やかな印象。…こんな魔術教団なんかに居る以上それなりに欲が無けりゃ、人を蹴落とす気が無けりゃやってられないのは当然なのだが、このオニイサンにはそんな攻撃的な気配はちょっと見えない。
 気さくで見るからに『いい人』で通りそう。
 でも地道に位階は上げているらしいと聞いている。
 歳の割には落ち着いた、何処か老成したような雰囲気もある。
 探りを入れる雑談がてら色々突っ込んで訊いてみると、魔術知識の方も頼りになるとすぐわかった。…ひょっとすると彼より上の位階になる相手よりも…知識量だけなら既に上かもしれない。
 と、なるとこのオニイサンは本当にただひたすら探求者って事なのかナ?
 金とコネと権力。結局それがモノを言うから実力『だけ』じゃナカナカ上に行けない。
 ここのような魔術教団に籍を置く事は――貴族や政治家、そんな上に立つ者にとってはステイタスのひとつ。
 本気で魔術『だけ』に取り組むような団員は滅多に居ない。
 そもそもこのカレ、日本人だと言う話。名前は、城ヶ崎由代。
 こんな場に居る事が出来る、特に肩書きも無いアジア人。それだけでもちょっと引っ掛かる。
 …俺が見ている時は大抵ぼーっとしてるように見えマスけド、それだけじゃ無いって事ですネ?


 …と、お互いの印象はそんな感じで。
 取り敢えず、顔を合わせておいて損は無いが別にそれ程の得も無い、今後共にあまり関る事も無いだろう相手だと思っていた訳で。
 まさか、教団を離れてさえ付き合いが続く程の相手になるなどとは思ってもいなかった。


 そのきっかけは。


■■■


 教団施設、そこに程近い森の中。
 由代はひとり歩いていた――否、ひとりとは言い切れないかもしれない。
 歩いていた理由はと言えば、先日、偶然ながら奇妙な気配を見付けた、その確認の為だったが…。
「待ってヨ。宜しくお願いしますって。…ユシロってバ?」
 そう、何に興味が湧いたのかこのデリク・オーロフと言う少年、由代の後を追い掛けて来ている。
「…付いて来られても困るんだけどね」
 何も無ければそれに越した事はないが、もし何かあったなら――そんな懸念があるから、余計だ。
 付いてきて欲しくない。
 由代がそんな風に思っているのを知ってか知らずか、デリクはやんわりとした拒絶の言葉を聞いても気にしない。
 このデリクは顔色を読む。人の裏を読む。大抵の事は見透かしているようなところがある。別に超常能力でも魔力でもない。注意力と観察力の問題だろう。…狡猾な大人も舌を巻く程の。時が経過すればする程、この少年は頭角を表し出した。特例であり異例、そんな入団だったが――今の彼を思えば、その特例も必然だったように思える。素質も実力も、探求心も魔術への熱意も――家柄さえも並ではなかったのだから。
 …即ち今、由代が周囲を注意深く窺っている事に、気付いていないとは思えない。
「そんなつれない事言わないで下さいヨ。俺まだ参入したばっかりのヒヨッコなんデスよ?」
「…そんな時期は一年程前に過ぎていると人伝に聞いたのは記憶違いかな」
「そりゃ、確かにもうココに一年は居ますケド、ユシロから見れば全然変わりありませんっテ。まだ十三歳のオトコノコなんですヨ? ホラホラ」
「…」
 だったらその十三歳の男の子より魔術師としては一年と少しだけしか違いが無い筈の自分は?
 思わず溜息を吐き掛けるが、それは内心だけで留めておき、表には出さない。
 それ以上何も言わず、由代は歩を進める。仕方無し、デリクの存在も心に置いたままで動く事にする。何を言おうがデリクも今はそれなりの魔術師だ。まだ未熟とは言え一通りの事は出来るようになっている。全面的に庇う事も無い。何かあってもサポートに入る事が出来れば事足りる。
 由代はそのくらいの意識でいる事にした。
 …そうでもなければやっていられない。


 僅かな痕跡も気に懸かる。だからこそ由代は今ここに居た。感覚を外へ広げる。奇妙な、と思ったのは自分の居るこの魔術教団、その敷地内にも拘らず決定的に違う流派の術、そんな気配に感じたから。元々この魔術教団も様々な知識は貪欲に取り入れる。だが、その技を導入した術師によって発展のさせ方の癖や好みはある。近くに居ればそれらが似る事も多い。必然的に教団ごとに流派の違いは隔てられて来る。
 ほんの微かな、香りの違いとでも言うか。
 …これが、自分の籍を置いている魔術教団の手によるものであるならいい。むしろここまで「教団の影響を受けていない」気配を放つ技を作った施術者に話を聞いてみたいとさえ思う。
 だが、違うとなれば。
 外部からの害意ある関与、その可能性も否定出来ない。


 そう思った時。
 由代は瞬間的に何かを感知した。途端、紅い『何か』が由代を襲い来る。複数。突然の事。やはり『あった』かと咄嗟に後退りつつ、何者かを指揮でもするように虚空に指先を滑らし始める。
 由代の後ろ、リーチの差か置いて行かれ少し離れた場所に居たデリクも、一拍遅れてぱしりと両掌を合わせてから胸の前で引き離した。バリバリとその合間の空気が歪む。次元を歪曲させている。
 デリクの掌には魔法陣が浮いていた。今描いたものではなく元々その掌に定着している代物。デリクにとっては一番使い慣れた術式になる。そこから何者かを喚ぶ事もあるが逆に強制的に吸い込む事もまた可能。今は再び引き離した掌、その両方で襲い来る紅蓮の魔物を吸い込み、逆に召喚したこちらの支配する別の魔物を紅蓮の魔物に向け繰り出す事をしていた。
 由代は喚び起こした場の霊魔を操り、紅蓮の魔物に抗していた。静かな命令を何度も出している。キリがなく見えた。何かの罠だったか。攻撃して来るものである以上、害意ある『何か』である事は確か。
 分析しながら、由代は確実にひとつひとつ紅蓮の魔物を葬っている。
 だが、多い。
「…舐めないで貰いたいですネ」
「…油断するなよ」
「わかってまス!」
 答えたデリクは、た、と地を蹴り出し、巻き込まないようにと考えたか由代から少し離れる。そちらにも当然のように躍り掛かる紅蓮の魔物。デリクの影。薄らと黒いそこが――何故か、たぷんと波打ったように見えた。
 瞬間、デリクの深い群青の瞳が酷く冷たく煌く。
「面倒ダ――オマエが、狩レ」
 命じた途端――黒い『何か』が、ず、とデリクの影より具現化した。


 デリクの影より具現化した古き魔物の顎。一時にがっぷりとそれが捕らえた、牙を持つ紅蓮の魔物。
 …だがそれらは『すべて』ではなく『殆ど』であって。
 残りが居た。
 両掌で作った次元の穴に落とし入れるにも、僅か、間に合わない。
 危険信号がデリクの脳裏に点滅する。
「ユシロ!」
 思わず上げてしまった。そんな様子の――叫ぶ声が由代の耳に届いた。


 内心、舌打つ。
 呼ばれる声の前に見えていた。…あれではひとつ取り落とす。思った由代は殆ど反射的に、ぼう、と光の尾を引いた指先でシジル――召喚の為の魔術的な印形、絵文字――をするすると描いている。無意識でも動く程手馴れた動き。問うに頭に叩き込んであるひとつひとつの意味。丁寧に、それでいて今までやっていた以上に素早く虚空に記されていく。喚び出す相手は『一番のお気に入り』。
 あの魔王。
 名前など呼ぶ必要も無い。
 それが無くとも用は足る。
 …そして同時に、この魔王しか今は『間に合う』と思えない。


 デリクの影から顕れた、古き魔物の顎が間に合わない。
 魔術には発動までに絶対的な空白の時間がある。
 ――先に用意していた方が早いのは必然。紅蓮の魔物の方が有利なのは仕方無い。
 ひとつだけ逃がした紅蓮の魔物、その牙がデリクに達する――達しようとする。


 刹那


 三つの目。
 四対の角。
 三対の翼。
 …招いた刹那に空気が凍る。
 何をさせるでもない。ただ、顕れただけで事足りた。
 由代が咄嗟に召喚していた魔王。その視線に凍らされた牙の魔物がそこに居た。程無く、デリクを襲った以外の紅蓮の魔物も凍り付く。凍り付いたそれらは、自身が倒された、そう認識した瞬間に衝撃を受けた薄氷の如く砕け散る。同時に、それが魔物の核でも為していたのか、何らかの魔符のような物が千切れ飛んでいた。


 デリクは深く息を吐いている。
 そして暫く、立ち竦むような形で、考え込んでいる。
 ほんの僅か遅ければ己が身体を食い破られていた。
 ほんの僅か、足りなかった手数。
 そこを補ってくれた、由代の魔術――見た事も無い魔王を召喚する、その技術。
 ………………デリクの瞳が底光りしていた。


 由代は片膝を地に突き、術の痕跡を確認する。千切れた魔符を拾う。デリクの様子は魔王を還してから一度確認したっきり。特に動く様子も、話そうとする様子もなかった。少しは懲りたかと由代は思う。
「…施術者は捕まえられそうにない、か」
「そのよう、ですネ」
「…デリク」
「ま、良いんじゃないデスか? あれだけの力なら施術者は近くに居た筈。なのに今施術者が居ないト言うのなら、今後、当面の危険はナイでしょーシ? それなりの実力者と見ましたカラ…次があるならまた違う新しい術式の試金石にしても良イ」
 手応えがちょうど良い――使い易い相手に思えましたカラね。
 今回は俺の方が少し油断してしまったようデスが。
「…デリク?」
「それより」
 アナタです、と胸の真ん中をちょこんと指差され、由代は目を瞬かせる。
「やっぱり、ナカナカやるじゃないですか?」
 何もない虚空にあんな正確な、少しも危なげのないシジルを描ける人なんて初めて見ましタ。
 にっこりと笑い、デリクは由代を真っ直ぐ見上げる。
 …ずーっと御謙遜ばっかり。それが日本人の美徳なんデスカ?
「…」
 にこにこにこ。
「謙遜でも何でもないよ。このくらいは、出来て然るべきなんだ」
「俺を助けて下さっテ有難う御座いまス」
「…それも、当然やらなければならない事なんだよ」
 教団に於いて、後に続く者を守る事。
「知ってまス。でも、お礼を言いたいので、言いますヨ?」
 教団は礼節を重んじマスし。それにやっぱり、是非ともアナタとお近付きになりたいですからネ。
「…本気か?」
「勿論本気ですヨ。今のを見たら余計にその気持ちは譲れなくなりマシタ」
「…譲ってくれていい」
「嫌ですネ。…アナタと居た方が色々と楽しそうですモン♪」
 …それに、どうしても俺は経験不足になりまスから。魔術師としては絶対に未熟でス。でも、その間はアナタと一緒に居れバ安全で居られると思いまス。
「…」
 難しそうな顔…と言うより嫌そうな顔をして、由代はデリクを見下ろしている。
 それに気付きながらも、にこにこにこと満面の笑みで由代を見上げて引っ付いているデリク。更に良く見れば逃がさないとばかりに上着の裾が確り掴まれてしまっている。
「まだ俺の知らない魔術の理論トカ、イロイロと教えてもらえそうですしネ♪」
「…他を当たれ」
 僕程度で人に教えられる立場だと思うのか。
 由代は内心でそう続けるが、デリクは全然その辺の事を気にした様子は無い。
 それどころか。
「他に当たるべきトコロは他に当たりますっテ。…俺がアナタに求めているのは魔術知識の方。上に行く方法はまた別に考えますっテバ?」
「――」
 にこにこ。
 さりげなく吐かれた不穏な科白に、由代は思わず絶句する。
 が、それもまたわかっているだろうにデリクは動じない。…わざと知らせた、そんな風で。
 魔術に本気で携わるものなら、自分の仕業が評価されて嬉しくない訳が無い。それも今の言い方、要約するなら――そこらの魔術師…大抵の位階が上の相手より、由代の方が魔術師としての実力は余程信用出来る、と。
 それも、何処か気に食わない相手だとは言え、今の仕業を見れば末恐ろしくさえ思える――素質に溢れた幼い魔術師から言われたとなれば。
 由代は改めて複雑そうな顔でデリクを見る。
 デリクは相変わらずにこにこにこと変わらない。


 …何だかこの子供、このまま滅多に離れそうも無い気がするぞ?
 …この人と居ると、面白いし俺の役にも立ちそうだしネ?


 そして偶然ながらほぼ同時。
 二人共に思う事。


 このガキ。
 このオニイサン。


 やっぱり。
 ………………初めの印象、そのままだ。


【了】


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

■PC
 ■2839/城ヶ崎・由代(じょうがさき・ゆしろ)
 男/42歳(作中24歳)/魔術師

 ■3432/デリク・オーロフ
 男/31歳(作中13歳)/魔術師

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          ライター通信
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 再びの御指名有難う御座います。深海です。
 このたびはこんな実験的な代物にお付き合い下さり有難う御座いました。
 目一杯上乗せした期間まで使っての(汗)漸くのお届けで御座います。
 長らくお待たせ致しました。

 まずは色々とお気を遣わせてしまい申し訳ありませんでした。
 某所でも書きましたが、こんな使い方をして頂くのもこのシナリオの密かな狙いだったと言う部分もありますので、プレイングに関しては城ヶ崎様にオーロフ様共に、こちらの方が御礼を言いたい気分だったりします。
 戦闘の相手に関しては…不明ですね。
 魔術なので術者同士の直接対決じゃなくてもいいかなあと思った次第です。

 如何だったでしょうか?
 結果はこんな風になりましたが、少なくとも対価分は楽しんで頂ければ幸いで御座います。
 では、また機会がありましたらその時は…。

 ※この「Extra Track」内での人間関係や設定、出来事の類(今回の場合NPC関連)は、当方の他依頼系に発注して下さる事がありましたら、そちらでは引き摺らないでやって下さい。どうぞ宜しくお願いします。
 それと、タイトル内にある数字は、こちらで「Extra Track」に発注頂いた順番で振っているだけの通し番号のようなものですので特にお気になさらず。05とあるからと言って続きものではありません。それぞれ単品は単品です。

 深海残月 拝