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■茜の心を癒す人 【中編】■

滝照直樹
【3275】【オットー・ストーム】【異世界の戦士】
 あの、路地裏であった少女・長谷茜と出会ったあなたは、暫く彼女を世話することに。その中で彼女の悲しみなどを受け止めて、心を通わせていく。

「……私、どうすればいいのかわかんないよ。何もかも真っ白で……こわい」

 まだ、先にある運命に立ち向かえるだけの強さを持っていないようだった。
 彼女を元気に出来ることは出来るだろうか?


 長谷平八郎は、愛する娘の捜索を続けている。
 彼も分かっていた、今無理矢理連れ戻しても娘は昔のように元気になってくれないと……。しかし、一目見たいのであった。
茜の心を癒す人 中編

 あなたは、ひょんな事で茜と出会った。その暫く後の事である。

 行く当てもない茜にとって、この巨大な鉄塊にいつも怖く怯えていた。
 当の彼女を連れてきた大型巨大ロボットのオットー・ストームは、彼女のことを気遣っているのかも怪しく、地下室秘密基地のいつもの仕事に勤しんでいる。
 つまり終始無言。茜も人サイズのベッド〜入院患者用のパイプベッド〜でずっと寝っ転がったままだ。

 寝っ転がっていても、彼女はあの巨体が何をやっているのか分かっていたし、害を加えない事も分かっている。しかし、どう話すべきか迷っているのだ。
 あの巨体がする仕事を訊いたとき、口をあんぐりしてしまった。
「新兵器開発と薬品の管理に、掃除、そして食料の調達だ、ロボ」
 突っこみたい。
 そう突っこみたいのだ、茜は。
 だいたい、20メートルの巨体が薬品管理や掃除をすると言うのは、大きなプラントのチェックだろう。しかしあの言い方では人間サイズで考えると手のひら大の瓶などを棚に入れたり残量のチェックだったりすること。彼に出来るだろうか? まさか爆発でも起こるのではないのか?
 しかし、予想を裏切った。
 彼の薬品管理というのは、棚にある人サイズ用の物でなく、前者のおよそ人では大人数を要する薬品プラントの管理だった。バーコードか別の認識コードで彼が調べ、己を改造した人物に不足分を無線か何かで伝える。至ってシンプル。彼がチョロチョロ動いて大破壊を起こすこともない。
 また、食料調達といっても彼の食生活は見窄らしいものだ。なにぶん100円も満たない小遣いだ。しかし、今回はどうしたことか、手作りの弁当を持ってきてくれたのだ。
「どうしたの?」
「改造してくれたアイツにいったら作ってくれたロボ。あいつ妙な所で優しいロボ」
「……ふぅん」
「ボクは別にパンの耳で良いロボ。茜、人間だからしっかり食べるロボ」
 と、弁当をサブアーム(人サイズ)で器用にテーブルに置いて、また管理や掃除に向かっていった。

 何とも奇妙な、関係。

 この地下基地に、茜とオットー以外いない。だいたいオットーが何を考えているのか茜にも分からないし、オットーも茜を拾ってきた事を自分で分かっていない。感情という物はオットーにあるのだが、異界の機械故、少しずれている。
 奇妙と行っては奇妙だが、茜にとって、逆に“必要なとき以外の干渉”は有り難かった。
 数日も彷徨ってから、いまでは雨露をしのげ、オットーの真面目だがみためが滑稽な風景を眺めるだけでも今までの辛いことをそれほど酷くない事と思えた。彼に思いの丈をぶちまけたあと、ほぼ無干渉の生活。茜自身は心より体の休息を欲していた。
「ゴメンだけど寝るね」
「分かったロボ。極力掃除は静音モードでするロボ」
 20m巨体用の大型掃除機で静音が出来るのかと突っこみたくなるが、そんなことよりも深い眠りについてしまった。


 長谷平八郎は、悪霊の残骸を見つけそこから、茜の残留魔力を感じ取った。
「アイツ空を飛べる術を覚えていたのか? いや、其れはあり得ぬ。儂等の一族はエルハンドの世界では“時間”の特性を受け継げるのだ」
 もはや、捜索不能かと言うときに、電話が入った。
 着信を見ると、エルハンドからだ。
「何度言ったらわかる! 儂と茜の問題じゃ! お節介はよいわ!」
 と、怒鳴り散らし、携帯の電源を落として、時間からの“過去読み”を開始する。
「光学迷彩の20mロボット? はぁ、魔都東京、様々な物が入り交じっておるわ」
 溜息をついた平八郎は、
「もしかすれば、何かの生け贄にされかねん……急いで探さねば」
 と、彼も疲れているのに、その場所から茜を探し出そうと術を詠唱し始めた。


 珍しく、その日は晴れていた、光学迷彩で姿を消し、無音状態を維持して色々飛び回っていたオットーは思った。
 ――茜を乗せて飛ばせば彼女はどういうのだろう?
 直ぐに実行に移すオットー。
「茜……。外でるロボ」
「どうして? いきなり?」
 落ち着いているのかどうか分からないが、少し元気な茜がいう。
「中にばかり居たら、錆び付いてしまうロボ」
 錆びる…。もっとも彼らしい言い方だ。
「うん、いいけど?」
 好意をむげに出来はしない。
「決まりロボ」
 いつの間にか改造主の手によって、人2人は安全に乗せることが出来るコクピット(風も感じることが可能)が臨時であるが設置されていた。位置は彼の頭近く。一部の武装を取り外せば何とかなるものだったようだ。
 なにより20mと大きいのだから。
 当然、20mの巨体が動くとなると、その周辺に以上が生じる。空港や港以外で20m級の移動物などない。当然ステルス機能全開でゆっくり空を飛ぶオットー。
 街をさけて郊外を選んだ。
 高さは1000m以上飛行中。空も飛行機で埋め尽くされているこの世界で、オットーはなんとか“穴”を見つけていた。魔力で推進し、かつ重力制御での無重力浮遊。速度的には茜にGがかからないように飛んでいる。
 茜は自然の空を見て感嘆の声を挙げている。其れが心地よいものであるとはオットーは思った。
 ただ、人間に近い感情はあるにせよ、彼自身がどう思っているのか分からない。只言えることは、こうだった。
「茜、辛いこともあるだろうけど、俺は茜の元気のない姿は見たくないロボ」
「……」
 押し黙る茜。
 それから、暫く沈黙が続いた。
「いつも空を飛んでいるから疲れるロボ」
 とはいうものの本人は足がないロボットになってしまったので常時浮いている必要があり、コレはコレで困ったものだ。
「ぜぇぜぇ」
 機会生命体故、生命なので息切れが激しいようだ。肥満体の人間が陥りやすいとか何とかは於いておき。
「あのさ、オットー。そのアーマー取り外しできないの?」
 と、沈黙していた茜が訊いてみた
「殆どの身体を取り替えられたから、出来ないかも知れない……でも一度訊いてみるロボ。コレだと疲れるし、いざとなったとき動けないロボ(ぜーぜー)」
「うん、しっかり日常に適応した姿が居るよ。わたしオットーにどう接すればいいか分からないから」
「確かにそうだロボ。この所出番がないけど更に出番がないような気がするロボ」
「だよね。幾ら兵器とは行っても、元は人ぐらいだったんじゃない?」
 と、色々話をしていく。
「ふ――。なんかすっきりしたかな……」
「どういうことだロボ?」
「ウジウジしても何にもならないって」
「そうだロボ。ウジウジ考えても仕方ないロボ。俺幽霊が大の苦手だけど、他の連中から色々言われるけど元気に生きているロボ」
「どんなこと?」
「……いや其れは言えないロボ」
「わかった、其れは聞かない」
 と、他愛のなく話をしていた。
 それほど長い間一緒にいたわけではないが、奇妙な繋がりが出来上がっているのは2人に感じ取れた。

 西の空から雨雲が見えてきた。
「そろそろ帰るロボ」
「うん……ありがとう」
 と、オットー達が去ろうとする間際に、
「茜、マテ」
 初老の男の声がした。
 山岳の中に、最小限の登山用具でやってきた男。
「てめぇ誰だロボ」
「まって、お父さん」
「お、父親!?」
「捜したぞ……まさか、外世界の“機械仕掛けの国”の影響下にある機会生命と一緒にいたとは」
 オットーは只の人間ではないと悟った。
 光学迷彩、さてまた魔術感知遮断とステルスは完璧だったのに……。
「魔法使い、ロボ?」
「そうともいえるか……この世界では、時間を操ること自体が魔法と言えるからな、この世界の科学では時間操作などできない。お主はだれじゃ?」
「オットー・ストーム」
「オットーとやら、暫く娘と話させてもらえるか?」
 その言葉に、オットーは此の男をひねり潰すことを考えるが、全く自分を恐怖の対象を見ていない事に戦慄する。その気になれば地下城塞も破壊できるのに。おそらく彼は、自分の手の内を全て“時間”“区間”で読みとったのだろう。動く前に自分を無力化出来るという程の気迫におされていた。
 故に、
「わかったロボ……」
 力無く、茜をコクピットから降ろした。

 雨は大降りになってく。
 親娘はそのまま濡れながら、沈黙している。
 オットーはこれからどうするべきなのか、あの少女はどうなるか分からないでいた。
 ただ、オットーはこの20mの巨体のままでは、茜と本当に会話できるか不安を感じずにいられないのであった。


To Be Continued

■PC/NPC紹介
【3275 オットー・ストーム 5 男 異世界の戦士】

【NPC 長谷・茜 18 女 神聖都学園生徒/巫女】
【NPC 長谷・平八郎 65 男 長谷神社宮司】

■ライター通信。
 滝照直樹です。
 『茜の心の傷を癒す人』に参加して下さりありがとうございます。
  最後の後半があります。そこで重要なことですが(全PC様に連絡されます)、短い時間でしたが、オットー様は長谷茜に対してどう思っておられるかを、今度のプレイングに必ず書いて下さい。茜の心構えは後々(後半で)分かると思いますが、茜とオットー様の関係は未だに確立されておりません。茜は感謝しても、実際どう思っているか分かりませんし、オットー様の考えにも大きな影響を受けます。
 茜の背景は異空間書斎〜東京怪談で起きる事件と同じですが、このノベルだけはパラレルです。残る後編の行動次第で、茜との関係が明らかになります。

 では又の機会があればお会いしましょう。

 滝照直樹拝