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■狛鬼使い〜 呪縛の牙 〜■

緋烏
【1388】【海原・みその】【深淵の巫女】
■新聞の片隅を眺めながら紫煙を吐く草間武彦。
「……また神隠し、か」
ここ数ヶ月の間で頻繁に起こっている奇怪な事件。
「そろそろ…奴さんから依頼が来る頃だな」
それは例の公安関係者。
数奇な事件の中にはいつも彼が係わっていて、捜査権をいつのまにか掌握しているのだ。
「神隠し…獣の臭い…」
狐かはたまた狸か、と騒がれているがきっとそんな生半可な代物ではない。
草間はそう感じていた。
「…依頼が来る前に話しておくか」
そう言って電話をかけた。


「……おそらく、外道じゃないか」
「外道?」
言葉は聞きなれているが、そんな魑魅魍魎の類がいただろうか?
首をかしげる草間に、善は苦笑した。
「外道ってのはな…正式な名があるわけじゃないんだ。
様々な動物霊の集合体が実体化し、契約に寄って地位と名誉と財を与える代わりに、
毎年生娘の生贄を望む、そんな化け物さ江戸中期に出された、上野忠親著書の雪窓夜話にも同じような記述がある」
「…悪魔、とは違うんだな」
「やってる事は似ているが、そもそものランクが違いすぎる。それに奴はその存在があやふやだ。
契約で縛られている間はいい。キチンと予言もするし言う事も聞く。
だがな…いったん契約という稼がなくなると様々な動物霊の集合体だ、すぐに自我が崩壊して
ただ殺戮を好む妖獣と化すんだよ。狡猾で残忍な悪魔とは違うさ」
善の話に僅かに身震いを覚える草間。
「……それが…この一連の神隠しの原因だと…?」
「それはまだわからない。どーせいつもの奴が仕事持ってくんだろ?それに備えておいても損はあるまい」
「…だな」

案の定、それは夕暮れ時にやってきた。

「…宿主は政界の大物…恐らく外道はその政治家の別邸だろう」
「政界の大物が…人攫いとはな…国民としてもやりきれんな」
「ハッ、バカいうな。俺らみたいな無法者に政治家が関係あるのか?」
すると草間は、ないな、と皮肉交じりにニッと笑う。
「…しかし別荘の詳しい位置が把握できていないのは痛いな…」
「…いくらなんでも囮を使うわけにはいくまい」
すると善は腹を括ったような顔で言う。
「……囮はいる。発信機を持たせてなんとか食われる前に見つけるんだ」
草間は苦笑しつつも静かに頷いた。
「…わかったよ、そのへん肝っ玉の据わった奴、探しとく」



その夜、二人ともいつも以上に煙草をふかしていた。
今まで以上に嫌なのだ。

今回の暗件が。


―――何故なら…外道は契約者を殺さないことには静まらないのだ…


それ以外の方法での契約解除は不可能。
久々に血腥い暗件。


この日ばかりは二人とも、珍しく仲介人を怨んだ。