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■神の剣 忌屍者【後編】■

滝照直樹
【2213】【御柳・狂華】【中学生&禍【十罪衆】】
「ヤツとの戦いは、長い戦いと思ったが、それは一晩だけのものだと思うと不思議だ」
 義明がある時に言った言葉らしい。
 
 何かを葬った“墓”には何もなかった。
 朝日がまぶしく、疲労困憊のこの戦いに関わった者は……
 
 三滝の戦いから彼は何を得たのか? そして助けてくれた仲間と妨害してきた敵、そして三滝はどうなったのか? 
 戦いは? 人々は?
 
 其れはこれから語られるだろう。
 
神の剣 忌屍者 【後編】

「ヤツとの戦いは、長い戦いと思ったが、それは一晩だけのものだと思うと不思議だ」
 義明がある時に言った言葉らしい。
 
 何かを葬った“墓”には何もなかった。
 朝日がまぶしく、疲労困憊のこの戦いに関わった者は……
 
 三滝の戦いから彼は何を得たのか? そして助けてくれた仲間と妨害してきた敵、そして三滝はどうなったのか? 
 戦いは? 人々は?
 
 其れはこれから語られるだろう。
 

1.GATE
 虚無の境界のシンボルが描かれている門が勝手に開いた。とは言うモノの、半開きも満たない。
「“いらっしゃいませ”だと」
 御柳紅麗が仮面を被り直して織田義明に言った。
「此処まで来たからには、招くしかないのだろうな。目の前に求めている物があるというなら尚更だ」
「義明、アイツの魂は“俺が狩る”からな」
「其れはさせない。IO2として、彼を……」
 ヴィルトカッツェが割り込むが、紅麗が阻んだ。
「死神の仕事は其れにある。お前が神秘隠匿で活動しているような事。コレは譲れない。他の連中の取り締まりは俺には関係ないけどな」
 紅麗が、刀を取り出した。
「喧嘩は良くないよー。みんなで三滝をぎゃふんと言わせるんだ!」
 呑気な声で言うエヴァ。
「その事には同感ですわ。しかし、わたくしは皆さんをお守りします。全力で」
 デルフェスが言う。
 小太刀を二振り構え精神集中している御影蓮也。
 黙したままの隠岐智恵美。心配そうな零と茜。
 皆それぞれ思いが有るのだろう。
「義明くん」
「よしちゃん」
「撫子さん、茜」
「生きましょう。前に進むため……」
「行こう」
「ああ」

 義明は大きな門を両の手で開けた。重苦しい金属音が迷宮に木霊する。


 空間を歪曲させているのか、エーテル界かアストラル界にこういう部屋を作ったのかそんなことはどうでも良かった。十分な広範囲攻撃魔術を打ち放つほどの広大な部屋であった。魔術で光をともしているかハッキリと分かる。
「やる気満々か、それとも時間稼ぎの捨て石を配置しているのか?」
 蓮也が、遠くを眺めて言った。
「そのようだな」
 義明が水晶を召喚する。
 目の前に、虚無の境界の機動兵器である3メートルの巨人が虚空から現れたのだ。手には呪物の野太刀や長刀、火器を持っている。数は15だ。
「気を付けて、ドヴェルグよ。見た目はノーマルだけど」
 NINJAが言う。
「三滝に更に改良されている。防御膜のレベルが半端じゃないから」
「ま、此方が神クラスだからか」
 蓮也と智恵美、デルフェスが、義明とヴィルトカッツェの前にでた。
「義明は三滝と戦うそれだけ考えろ、直ぐに片を付ける」
「蓮也」
「任せて下さいな」
 と亜真知も参加。
「さて、お掃除しますか」
 零も怨霊の鎧を纏い、刀を作る。
 エヴァは可愛い女騎士の格好で。
「おっぱじめるよー!」
 ナグルファル−ドヴェルグ15機と蓮也と智恵美、デルフェス、霊鬼兵姉妹の戦いが始まった。

「始まったか」
 烏の身体を脱ぎ捨て、其れをどこかに“飛ばした”三滝。彼の姿は有ってないような半透明な身体だった。その隣に、“壁”たして配置されていたドヴェルグより小柄だが更に強力な魔力を帯びた騎士1人と上級吸血鬼2体、黒装束で顔が無い仮面を被る存在がいる。
『其れが入れ物か?』
 黒装束が訊く
「そうではない。我が神になるための布石よ。かつて師であった者のなれの果てだ、“顔無し人形”」
『師か?』
「魔道の探求の果て、我は人を止めた。其れに後悔はない。しかし、この状態で無いが出来ると思う? 只己の巣穴で新しい知識を得られず、侵入者の魂を取り込むだけという存在に成り下がったのだ。我はそうはいかぬ」
『なにを望む? 人を止めて、更に上を目指すに?』
「いや、半神と成れば信者を集め、力を付ければ、此処での忌屍神となろう。知識を得、力を付けていく最高にして純然たる存在だ。“禍”も“虚無”も喜ぶぞ」
『……全て無にする私とは異なるぞ?』
「何、元は禍にしても神と同じ。司るモノが異なるだけではないかな? 神とは多く存在する。バランスを無視した破壊神群“禍”まさに下層の存在にぴったりだ」
 カラカラと笑う三滝。
 “顔無し人形”はそれから何も言わなかった。
「なかなかやりますな……あの連中」
 騎士が口にした。
「其れもそうだ。力は義明に匹敵する神格保持者の智恵美と上回る星船がいるし、デルフェスの力も伊達でない」
「……捨て駒ですからな。中にいる者は」
「そうだ」


 智恵美が格闘術でかわし、闘気と神格をもってドヴェルグの防御膜を破壊・解呪していき、亜真知が天聖弓で射撃、確実に機動停止させる。概念操縦にて運斬で受け流しつつ、“紙切れ”と書いた札を鎧に貼り付ける蓮也。その後にヴィルトカッツェが高周波ブレードで鎧だけ一刀両断する。
 ドヴェルグは虚無の境界が作った小型の機動兵器であり、対魔防御力を持って術を封じ物理攻撃も遮るが、流石に神や其れに近い力、エヴァと零の連携攻撃で弱まっていくのだった。中にいるのは己を過信し欲に駆られたか三滝に忠誠を誓った霊力がBランクの人間であった。彼らの攻撃は、神の力を得ているデルフェスの身体にかすり傷を付けるだけに留まるし、亜真知の理力障壁で後ろの“切り札”達に傷一つ負わせられなかった。
 歳のために疲労を隠せない智恵美に、流石に戦いで傷を負った蓮也達の前には、機能停止の禍々しい生体鎧の躯と、狂気で狂い死んだ人間だけだった。
「まさか、虚無の境界がこんなものまで……」
 と、あまり見かけないドヴェルグを見て驚く蓮也。
「他にはシルバールークと同じぐらい強力なのがあるわ」
 ヴィルトカッツェが生きている者が居ないか確認する。しかし、この鎧を纏って生きて帰るモノは少ない。着用した者はほぼ例外なく此の鎧と共に死を迎えると、彼女は聞いている(何か柵があれば外せるそうだがそう言う考えは虚無にないだろう)。
「しかし、これでかなりの力を使ってしまいました。かなりの腕前でしたわ」
「だね……魔力、霊力のつぶし合いだもん……」
 少し息切れしている亜真知、零にエヴァにデルフェス。
「こっちは全力でやって、道を作っていく役目だ。義明と撫子さんは切り札だからな。ついでと言えば、そこの色ボケ……」
「緊張感無くすあだ名を言うなぁ!」
 茜からハリセンを拝借して蓮也を叩く、御柳紅麗、別名色ボケ。
「いて! 何すんだ! 怪我人に……ん?」
 しかし、動くと痛む傷が回復している。
「なんだ? 傷が治っている?」
「このハリセンは武器以外にこうやって回復する事も出来るんだ……一回俺も……」
 と、死神は遠い目をしていった。彼にも、何かあったのだろう。
「勝手に人のものを奪わないで!」
「いてー!」
 今度は紅麗が茜のハリセンで叩かれた。
 流石に、女性にはそんなこと出来ないので、蓮也だけハリセンで治癒させ、先を進んだ。


 ――奴らは馬鹿だ……。
 ――……
 遠くで見ている三滝達は眉間を抑えて笑いと苛立ちをこらえていた。


2.DEMON
「おいおい、コイツ等さえアイツの壁?」
 そこには、本来使役は出来ないであろう、混沌よりいずる存在デーモンが遮っていた。周りは熱で恐ろしく暑い。バルログ種が2人、此方には分からない言語で話している。
「デヴィルであれば、“真の名前”で服従され強制帰還できますが、デーモンに其れはないと……」
 智恵美が敵の行動が正解と知り、唇を噛んでいる。
 デーモンの“真の名前”を知ってその名で喚ぶと、勝手に現れる事もあるのだ。デヴィルとは正反対である。
「今度は傘持ちの代わりに俺がでる。他は先を急げ、道は俺が開く」
 紅麗が斬魂刀を抜いた。
「ちょっと、まってよ?」
 ヴィルトカッツェとエヴァが止める、紅麗が珍しく真剣な顔をしていた。幾ら異世界の存在であれ、このブレードや武器はかなり聖別されて傷を負わせるだろう。ただ、先ほどのドヴェルグ戦で疲弊している以上休めとの合図だった。コレは頷くしかない。
「さぁ、デーモン! 俺の刀の錆になれ! 」
「愚かな……死神とて半神並ではないか。返り討ちにしてくれる」
 6尺もある燃える剣と真っ赤なムチを持ち、紅麗だけを敵として認識。立ち向かう。

「紅麗」
「なんだ、天然」
「必ず追いつけよ」
「分かってる!」

 義明はそう言葉を交わしただけ、紅麗を残し全員は戦いの場から離れた。

「さて、気兼ねなし戦えるって事だな」
「なぬ?」
「お前等は確かに霊威1級だろうが、個人個人の性能に甘んじているだけ。奈落のデーモンってのは群れるのは好きではないって聞いたぜ。なら俺には勝てねえな」
 余裕を見せる紅麗。
「ははは、その傲慢さ、永遠に続く底なしの世界に引きずり落としてくれる!」
 嘲笑するデーモンは雄叫びをあげて、死神に向かっていった。

 デーモンの剣技はかなり手強い。力任せに叩ききると思いきや、ムチで相手を捉えようとする。そのムチ魔術要素があるのか意志を持っているかのように、紅麗を狙いに来る。更には魔術にて自分を強化しているし、紅麗に其れをぶつけ来る。
 紅麗が思っていたとおり、デーモンにはコンビネーションはなく、個々の思った通りで動いているだけ。チームワークはないが、お互い牽制してこの小僧を先に殺し、魂を弄ぶかを競っているのだ。
「やっぱりな」
 自分の世界で行った特訓は様々な集団攻撃をしてくる。強さはコイツらに匹敵する。
 自分の間合いを掴み、刀で斬った。
「ぬぅ!」
 デーモンが怒る。
 大きな一振りもムチの絡め取りも紅麗は何とかかわしていく。ただ、この奈落から湧き出るデーモンの業火の環境は幾ら死神の彼にとって酷だった。
「そろそろ、決着だ……こっちも仕事があるんでね!」
 正眼の構えの紅麗。今まで出し惜しみしていたわけでなく、大技に踏み切れなかっただけ。早く行かないと、義明と三滝の戦いが始まる。気合いを込めるためこの場に残ったのだ。
 仮面を外す紅麗。
 そして、その構えから袈裟に、剣筋を伝う。
「霊狩、大鎌之弧之如!」
 斬魂刀は、魂を狩ることを目的とした日本刀。故に其れに特化した技を用いれば、肉体を持つものだろうが、魂を斬られる。
 今まで戦っていた1体が、大きな爆発と共に消えた。紅麗は大技を出したため其れをもろにうける。
「あちぃ! しかし!」
 と、振り下ろした剣をそのまま、襲いかかってくる1体デーモンに向けて……。
 もろに紅麗は攻撃を喰らってしまった。
「修行足りねぇ!」
 吹き飛ばされ、火傷を負いながらも、なんとか身を起こす。
「助かった。さっきより熱くない。一般人だと死んでっけどな」
「この死神が!」
 デーモンは乱撃にでる。
 紅麗は、
「見切った!」
 最小限の動きでその乱撃をかわし、斬魂刀をデーモンの心臓に突き刺した。
 仮面を外し……。
「封殺!」
 と叫んだとたん。デーモンの肉体が斬魂刀に吸い込まれるように消えた。
 床に落ちる刀の金属音と一つの真っ赤な燃える宝石が転がっていた。
「俺の切り札完成ッと」
 力を使いすぎたが、コレの力さえ使えば三滝と禍との戦いでも役に立つだろう。
 ゆっくりと確実に紅麗は仲間の場所に向かった。


3.LASTBATTLE
 ――きたか。

 既に、12メートル先に三滝と義明達が対峙している。
 騎士が三滝を守り、上級吸血鬼が少し前にでて己の僕を呼び出す。生前がゾンビ使いだったのか、そのゾンビは様々な肉体を付け合わせ禍々しさを増していた。その大きさは像、龍のごとき爪をと顎をもち、この世の幻想種の全てを取り込んだと思われる最高傑作と誇示している。
「其れが本当の姿か? 三滝」
 義明は、半透明の幽霊のような男に訊いた。
「まぁ、元の肉体は滅んだ者よ。投影と同じよ。それに既に知っておろう?」
「ああ、弱点が何処にあるか。お前の“命”さえ叩き壊せばいい」
 義明は構える。
 仲間もそれぞれの“役目”で構えた。
 まず、義明を三滝の前まで向かわせる事だ。他の雑魚を抑えなければならない。

 既にゾンビが襲いかかってくる。

「わたくしがゾンビと吸血鬼を抑えます」
 亜真知が言う。
「じゃ、あたしはそれらとあのドヴェルグ改だね」
 高周波ブレードと直ぐに抜けるように銃をチェックする。
「盾になります。ヴィルトカッツェ様」
 デルフェスが言う。
「治癒などは任せて下さいね」
 智恵美がにこやかにいった。
「私たちはいつもの通りだね」
 霊鬼兵姉妹が再武装する。
「俺は……奥義を使う」
「行きましょう、義明くん」
「ああ、行こう!」
 蓮也と撫子、義明が駆け出す。
 同時に、神秘の力がぶつかり合った。
 蓮也が“3人のゾンビと吸血鬼と戦う”定めを運斬で断ち切ったため、ゾンビも吸血鬼も時が止まったのか彼らの姿が見えなかった。

「!?」
「わたくしが相手です!」
 デルフェスがゾンビの前に立ちはだかる。ゾンビは強力な爪で攻撃するが、神格を帯びた彼女のボディに傷を負わせられない。
 その背後から、サブマシンガン2丁をもって飛び上がり乱射するヴィルトカッツェ。弾丸には旧教から聖別された水銀が使われている。過去に所属していた洋菓子しか食わない枢機卿が残した物らしい。ゾンビはその威力によって弱体化するなか、デルフェスの換石の術で固まった。そのままヴィルトカッツェが不意をつかれた主を素通りし、小柄なドヴェルグに向かっていった。直ぐにデルフェスが後を追う。
 亜真知がいとも簡単に天聖弓の力にてゾンビの主である吸血鬼を屠ったあと、無動作無詠唱で対魔法結界を零、エヴァにかけての総攻撃の手助けをする。幾ら上級吸血鬼でも、この2人にかなうはずはなかった。
 破壊したゾンビから、異形の粘体生物が現れ、亜真知、零、エヴァ、智恵美の足を止めてしまったのだ。
「なによこれ〜!」

 既に、3人が騎士と対峙しているが、三滝と騎士の連携攻撃でなかなか前に進めない。
「いきなり、氷の壁か! 忌屍騎士にドヴェルグを着せて更に強化したってヤツか!」
 義明が毒づく。
 彼の剣技は鮮やかで、如何にも主を守るための誇りをもっている気迫がある。こういう者ほど厄介なことはない。
 後ろで、三滝が呪文を飛ばすなか、蓮也が何とか運斬で“当たる”定めを斬り避けている。しかし、間に合わなくて何発か魔法の力を受ける3人。
「此処はあたしが!」
「ヴィルトカッツェ!?」
 サイキックアローと、サブマシンガンを乱射して加勢してくるNINJAとデルフェス。その攻撃で怯む騎士。
「舐めるなぁ! 生ある者が!」
 騎士は恐ろしいほどの熱量を持つ爆発呪文を何の動作無く発動した。
「火球呪だと!!」
 義明達は轟音と高熱の固まりにそのまま其れに包み込まれていく。
 ――萌様!
 デルフェスが彼女を庇った。
 

 顔無し人形は黙したままだった。あの状態では助けようにも助けられない。
『蓮也……エヴァ……皆』
 心の中で思った。
 この存在はエヴァと蓮也を知っているようだ。いや殆どの人物を知っている。
 ――此処で生きていれば、いや無理だろう。
 ただ生き残っているのはおそらく義明ぐらいだと、溜息をついた。


「この粘体……!!」
 エヴァたちは、徐々に肉体のみを侵蝕される。この粘体は殆どの力を吸収する厄介なもののようだ。
 亜真知の力さえも吸収して巨大化している。
「信じられない!」
 たしか、多元宇宙では小さな浮遊ブラックホールの様な生き物が存在する。それは如何なる力も無に帰すというものだ。これは力を無にするのでなく餌としている。何か弱点は無いものか……。理力変換でさえ、この異形に効かなかった。
「禍のペットか……ならコレだな」
 聞き慣れた聞いた声がする。
 紅い宝石が粘体に吸い込まれたと同時に、爆発炎上した。
「紅麗さん!」
「よう、間に合ったか。禍の下層階層の中で厄介なものだ。純粋な下層エネルギーの魔力をぶつけないと屠れないやつさ」
 傷を負いながらも2体のデーモンを屠った若い死神が立っていた。

 
 宿命をねじ曲げられる者はイレギュラーとなる。
「因果断絶残り一つ……」
 蓮也が咄嗟に絶対防御でこの攻撃を凌いでいた。3人分の“運”を一気に斬るのだから奥義を使うしかなかった。故に5人とも業火の中で無傷である。
「人間が……そこまでの時間を操るなど!」
 三滝は驚く。
 撫子を庇うように義明が伏せっていて、その真後ろに石像が2つ。立っていたのは蓮也だけだ。
「間に合ったようだな」
「ありがとうございます……義明くん、蓮也様」
 義明は撫子を起こし立ち上がる。
「なんとか間に合ったようですわ」
「うーん……まだ目がちかちかする〜」
 石化を解けデルフェスは萌を支えている。
「……」
 騎士は何も動じていない。三滝の動揺にすら。
「ご安心を。奥の手を使わせることが私の使命故」
 騎士は、又剣を構えた。
『私もでる』
 仮面を被った黒装束“顔無し人形”がふわりと現れる。
『多勢に無勢だろう』
 5体3となった。


「さて、この吸血鬼も狩っておくか」
 紅麗の見事な剣捌きと自由になった霊鬼兵姉妹で残った吸血鬼を屠る。魂は直ぐに封印され復活不能にした。
 意外にも先ほどの粘体で、皆が傷ついているため茜と智恵美は治癒作業で大半の力を使ってしまった。
「後は此処で残っているんだ」
「えーそんなぁ! 三滝を殴らないときが済まないよ!」
 エヴァがまた紅麗にちかよる。出遭ったときのように顔を近寄らせて。
 紅麗は首を横に振る。顔を真っ赤になりながら。
「あのな、お前は他の仲間を守れ。姉を引きずり込ませるし、迷惑かけっぱなしというのをわすれるなよ!」
 と、なんとか一息で言う。
 しかし、赤面は止まらない。青春真っ盛り。
「ブー」
 正直彼女もいまの身体の治癒だけで精一杯だ。姉や母親代わりをしてくれる智恵美を置いていくわけも行かない。
 戦闘続行できると言えば、亜真知ぐらいだろう。
「行きましょう」
「ああ、決着付けなくては。それに俺には仕事がある」
 2人は、まだ続く戦場を見てかけ出した。


 蓮也にしつこくつきまとう“顔無し人形”、かなりの剣捌きで蓮也を苦戦させる。徐々に義明との距離を離されるのだ。
「この剣捌き……? どこかで?」
 蓮也は奇妙な感覚に囚われる。
 そこに隙が生じ、“顔無し人形”の刀で斬られた。
「痛っ!」
 蓮也は跪く。
 黒装束は無言で立っている。
 傷はぎりぎり急所を外れているが、蓮也にはどうしても相手が態と外したと思ってしまった。
「お、お前は?」

 騎士は壁の如く立ちはだかり、義明と撫子を三滝まで後数歩を進ませない。
 デルフェスとヴィルトカッツェは三滝の召喚したアンデッドの群れで苦戦している
「アイツの力は底なしか!」
 義明は叫ぶ。幾ら神に近い魔力を保持できる三滝でも此処まで持つのはおかしい。
「よしちゃん!――“頭蓋の知識”が!?」
 念視術でみたのだろう。茜の念話が届いた。
「そうか! “頭蓋の知識”アレの本能を操っているわけか!」
「其れは何ですか?」
 騎士の攻撃をかわしながら、撫子が訊く。
「三滝が本来なる、忌屍者の最強最悪の存在。宝石に人の魂を取り込み魔力と知識を得ていく者だ。三滝は、アレになるのがイヤだったんだ。まだ人間としてのせっかちさを持ってるなんて皮肉なもんだ」
 一度間合いを離れ説明する義明に一緒に離れる撫子。
「……では、それを壊せば……」
「その前にこの騎士だけどね」
 苦笑する義明。
 既に右手にヒビが入っている。神格全開中なので蝕み始めているのだ。
「仕方ない……撫子さん……アレを行きます」
「まさか! 無茶な!」
 焦る撫子。
「三滝の騎士、俺の最大奥義を受けてみるか?」
「……ふ、助力なしでか。面白い」
「義明くん!」
 止めようとしても彼は止めない意志を構えで顕す。
「わたくしも既に天位覚醒をしていますのに……あなたはいつも……」
 撫子は三滝がどうでるかを見張るしかなかった。

「この数を始末はむりです!」
 デルフェスの肉体は幾らエルハンドから作り直されたものとしても限界があった。構築式さえも書き換えての無茶な転生とも言えるのだ。人間で行えばデルフェスは少し長生きする程度の無力な霊鬼兵になっていただろう。
 神格で砕いても、無数のアンデッドの群れ。もうヴィルトカッツェも疲弊しているため換石の術でなんとか庇っている。
「自分に換石をかけろ! 雑魚をぶっ飛ばす!」
 乱暴な口調がデルフェスに届いた。
 何とか石化した後、彼女が見たモノは……
 ――修羅の如く刀を振るう死神であった。その刀は大鎌の如く大振りで隙があるはずなのに、すでに次の太刀に移る。燕返しと呼ばれるモノ全般ににている。
 魂を狩るに長けるモノにとってアンデッドは忌まわしきもの。簡単に無に出来る術を知っていてもおかしくはないだろう。
「大丈夫ですか?」
 換石をといた2人に亜真知が理力で疲労と傷を回復させる。
「助かりました。あとは……あの……」
 
「禍が蓮也と戦っているな……くそ、助けないと」
 紅麗が宿敵に向かう。
「私たちは、三滝を」
「うん」
 デルフェスたちは、三滝を睨む。
「“知識の頭蓋”を破壊すれば道は開けます」
 と亜真知が言う。
「あ、確かに持っている。宝石を埋め込んだ頭蓋骨を」
 其れを破壊すれば三滝を……
 3人は瞬時に作戦を立てた。

 義明の天魔断絶の構えに対し騎士は、
「ならば私も……奥義“ライフスティーラー”をもって神の子を倒す」
 と、いって構える。
 義明と騎士は奥義の構えで一歩も動かない。
「名を聞こう」
「ソール」
「覚えておこう……いくぞ……」
 神の剣と、忌屍の剣の力が交錯した。闇と光が混じり合う。
 義明の勝利だった。
 片口をかすっただけだが、その部分が土気色になっている。
 天魔断絶は剣圧と神格障壁も兼ね備える。故に究極奥義と言われるのである。
 ドヴェルグの生体鎧は深々と切り裂かれており、中から本来の姿であろうアンデッドが出てきた。
「流石……神の子……。しかし、これで……我が役目も終わった」
 ソールは満足げに灰となっていった。
 義明は疲弊して目の前に三滝と対峙する形になったのだ。
「先を考えてのことか? それとも既に諦めた行動か?」
 三滝の嘲笑に、義明は苦笑するしかなかった。
 
 
4.MIRACLE

「禍!」
(『……! 兄上?!』)
 紅麗が、禍を刀で斬りつける。何とかかわす禍。
「傘! 早く義明んところにいけ! おれがコイツを引きつける」
「禍っていったな? 色ボケ?」
「話しは後でたっぷり聞いてやる! ささっと離れろ! 亜真知達がその傷程度回復してくれる!」
 かなりの剣幕で紅麗が叫ぶ。
「わかった……」
 と、紅麗の言う通りにその場を何とか離れる。
「さて、……俺は真剣でお前を倒すからな……」
『……』
 彼は知るはずもなかった、目の前の相手が……であることを。

 三滝は“知識の頭蓋”を掲げ、そこからほとばしる魔力を義明にぶつける。
 その時に、理力と換石の術、サイキックアローで、相殺された。
「姉様! 義明さんを!」
「はい!」
 直ぐに撫子が義明を庇うように伏せた。
 とたん、亜真知の天聖弓とヴィルトカッツェのサイキックアローの連射が三滝と“知識の頭蓋”向かう。
「跳ね返してくれるわ!」
 魔力を最大限でぶつけて相殺する三滝。身体は元から無いため気にもとめていないようだ。“知識の頭蓋”も邪悪なオーラを発している。
「2〜3つ見つけた……入れ物は何処だ……」
 蓮也が数メートル先で運命の糸をたぐり寄せている。
「こそ、どれも奥義でないと……後一つなのに……ええい!」
 その運命とは……
 ――いや、これって「三滝勝利」の最悪な運命か!コレさえ斬れば!
 彼は、運斬でこの強く太い“運命”を因果断絶2回で斬りつけた。
 同時に小太刀は粉々に砕けてしまった。

 いきなり“頭蓋”の魔力が暴走する。
「な、何事だ!」
 三滝は動揺する。
「動揺するというのは忌屍として恥ずかしいものだな……三滝……」
 撫子に支えられながら義明が笑う。
「だまれ! 死に損ない!」
 激怒する三滝。

『む……』
 禍の“顔無し人形”は何かを感づいたように気配を消した。
「な! いきなり逃げた? ……つか、助かったというべきか」
 かなりの霊威を持っている相手にサシ勝負は無謀だったかと後悔しかけていた紅麗だった。
「近くに居そうだが、三滝の敗北を悟って居るようだな……」
 と、その場所から走り出す。
『……三滝は完全に負ける……その死に様見届けよう』
 “顔無し”は甘えたかった死神の後ろ姿を見送ってそう思った。


 魔力の暴走は留まるところを知らず、床をえぐり、あらゆる残骸を破壊していく。
 今まで三滝の師匠がため込んでいた魔力が放出する、最終爆破のようだ。
「師め、あの杖さえこの身体に取り込んで居たのか!」
 忌々しく叫ぶ三滝。
 すでにアーティファクトの力を埋め込んでいるモノに太刀打ちは不可能と悟った三滝。
「その前に、義明の魂さえ奪い我がモノにすれば!!」
 と、頭蓋をそのまま絶対命中させる魔法の弾丸として放った。
 しかし、「勝利」と言う運命を斬られた彼に“絶対”はない。
 神の子を支えていた恋人が彼を抱きしめ庇う。
「撫子! むちゃな!」
 ――無想神格を使えば、2人ともアレから逃れられるのに……!
 ――いえ、あなたはわたくしが……。それに三滝を倒すのはあなたです。
 そんな心の会話、
「危ない!」
 亜真知は瞬時に複雑な印と、高速言語を唱える
 ――古の契約の名の元、榊船の名の下に天薙に力を託さん!
 暗黒の頭蓋は光り輝く撫子の身体に塵となった。

 亜真知の正装に似た姿になり、3対の翼をもった天薙撫子が、義明の前で立っていた。
「ば、ばかな! そんなことが!」
「三滝、あなたは終わりです」
 彼女の光は慈愛に満ちており、殆どの邪悪な念は浄化される。エヴァと零の怨霊生成さえもキャンセルされた。
「天使?」
 デルフェスや遠くで疲弊している仲間も呟く。
「コレで終わり、すでにあなたの魂の入れ物を発見しました。すでに義明くんに伝えています」
「龍晶眼……か! 忌々しい! 天薙に榊船め!」
 三滝は瞬時に“数多の火球”を放つ。しかし、駆けつけた紅麗と義明が撫子の前に周り、
「天空剣・鏡面反射!」
 正面で全ての火球を受け止めて其れを力に転換し、お互い刀を振る。
「天魔断絶改・光明滅影」
「霊狩、大鎌之弧之如!」
 2人の攻撃は実体もない三滝の肉体を斬り裂き、紅麗の攻撃は後ろの壁さえも破壊した。
 ――お、おのれぇ〜。
 しかし、義明の奥義は撫子の光より強烈であった。撫子が行った亜真知の仮契約さえも解除した。
 壁の中に入れ物があらゆる魔法によって保護されているのにもかかわらず、天魔断絶で斬り、入れ物を完全に破壊した。中には三滝の魂の情報とも言える巻物が宙に舞うが、光によって消滅したのである。
 しかし魂だけはかろうじて紅麗の斬魂刀により突き刺さる。
「これが、俺の仕事。すまんがIO2には譲れない」
 不敵に笑う紅麗。魂は人魂のようになっており刀に突き刺さったままジタバタ藻掻いている。
「わかりました。三滝は既に死亡したことになるから……“生きている”ならキャプターで捕獲するんだけど……」
 ヴィルトカッツェは紅麗に従うしかなかった。流石に彼らが居なければ特に義明が居なければ三滝は倒せなかっただろう。
 右手を押さえている義明に、普段の巫女姿に戻った撫子が駆け寄り、
「おわりましたね」
「ああ……おわった。撫子」
 と、義明は彼女の胸で気を失った。



ENDING
 紅麗が己の世界にある地獄の門を開き、その使者に三滝の魂を渡すことで、完全な勝利となった。
 紅麗の世界での地獄の門は巨大な骸骨の上半身が附き、鎖が幾重にも巻きつき、多数の呪符で封印されている大きな日本風の扉の地獄の門だが、三滝は元は人間、相応しい場所に送られたのだから文句を付けることは出来ないだろう。

 そのあと、エヴァや他の事情の諸問題だが、一応IO2に連れられた一行だが、隠岐智恵美が非公式ながらIO2特別顧問という身分を明かし、全責任を自分預けにするとか問題発言する。特別顧問の地位がどれ程なのかIO2関係者以外ではしらないし、所轄でも分からない。とりあえず、日本本部部長並の権限は有るのだろう。そういうことで、乱入扱いのエヴァ達と紅麗にはお咎めは無くなったようだ。

 “顔無し仮面”の正体は御柳狂華であった。全て墓場で怒ったことは気配を消し見ていた。
 本来なら傷ついた三滝と戦った者達の傷を“消す”所だったがそんな心配もいらなかったようだ。
 しかし、何より、複雑な心境なのが恋人を何でアレ傷つけてしまった。心が痛む。
 既に顔の表情は“消した”代償で無くなった、その技を使えば何らかの形で無くなるのだ。禍になったときに手に入れたもの。
 其れが元死神である彼女の立場。居候先の蓮の間にいる主とは実際敵同士。
『なんであれ……蓮也を傷つけてしまった……』
 顔には出なかったが、彼女は泣きたかった。
 しかし、失った顔に出る感情はない。


 数日後。
 蓮の間を掃除する狂華。誰もいなければいつもやっている事。
「狂華か?」
『エルハンド……』
 久々の部屋の主が帰ってきた。
「蓮也を傷つけたこと、まだ残っているのか?」
『……』
 全てお見通しなんだな、と思った狂華。
「狂華、お前は敵と戦った。それだけだ」
『……どういう意味だ?』
 首を傾げる。
「あまり気にするな、ということだ。それ以降は何を思っても同じ。順繰り返す」
 お茶を入れて一息つく神に、狂華は、
『そんなこと、わ、分かっている! でも、でも!』
 狂華は言葉を出せない、彼女は念話で意思疎通する。
 しかし何かが違っていた。
「奇蹟か……」
 エルハンドは笑顔で言った。
 狂華は、顔を崩し、涙を流して泣いていたのだ。
『わ、私が? な、泣いている?』
 無くなったはずのモノ。
 戻らないもの。
 それが、戻った。
 其れは奇蹟以外の何なのか?
「思いっきり泣くが良い」
『エルハンド……う、うわああん』
 彼女は喜びのあまり神に抱きついて泣いた。声は出ずとも泣いた。
 エルハンドは優しく彼女を抱きしめ、頭を撫でてあげた。

 彼女の宿命の糸ではこの事は瑣末なこと。しかし、彼女にとってこの数年間失った感情の回復は“奇蹟”そのものだった。


神の剣 忌屍者END


■登場人物

【0328 天薙・撫子 18 女 大学生】
【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【1703 御柳・紅麗 16 男 不良高校生&死神【護魂十三隊一番隊副長】】
【2181 鹿沼・デルフェス 463 女 アンティークショップの店員】
【2213 御柳・狂華 12 女 中学生&禍】
【2276 御影・蓮也 18 男 高校生 概念操者】
【2390 隠岐・智恵美 46 女 教会のシスター】


【1865 貴城・竜太郎 34 男 テクニカルインターフェイス・ジャパン社長】


【NPC 織田・義昭 18 男 神聖都学園高校生・天空剣士】
【NPC 長谷・茜 18 女 神聖都学園高校生・巫女】
【NPC 三滝・尚恭 ? ? 忌屍魔導師】
【NPC 茂枝・萌 14 女 IO2・NINJA】
【NPC 草間・零 ? 女 初期型霊鬼兵】
【NPC エヴァ・ペルマメント ? 女 最新型霊鬼兵】
【NPC 渡辺・美佐 20 女 IO2テロ対策室 シルバールーク】

■ライター通信
 『神の剣 忌屍者』参加ありがとうございます。
 色々と書きたいことがありますが、正直もうしあげますと、戦闘描写でかなり疲れました。
 しかし、エンディングだけ、殆ど個別になっているのでどういう事が書かれているか見比べると面白いかと思います。

 では、また義明達を宜しくお願いします。

滝照直樹拝