■決闘戦々■
凪鮫司 |
【1564】【五降臨・時雨】【殺し屋(?)/もはやフリーター】 |
RedMoonの地下室、そこには、巨大な武道場がある。
その中央で、長身の男が青龍戟を振るっていた。
一般人には持つことも出来ないそれを易々と振るうその男の名は、紅月満。
RedMoonの主人でもあり、無類の戦闘好きでもある。
ふと、紅月と君の目が合った。
「ん、見苦しいところを見せたな」
青龍戟を床に降ろし、一息つく紅月。
「それで、ここに来たという事は、私と一勝負したいのだろう」
紅月の顔に笑みが浮かぶ。
「どんな勝負がしたい?模擬戦か、それとも、真剣勝負か」
黒眼鏡の奥の瞳を光らせながら、紅月は言う。
「どちらにしろ、本気でかかってこい、こっちも本気で受けて立ってやる」
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決闘戦々
「ここ……どこ?」
きょろきょろ、と辺りを見回す五降臨・時雨の声を聞いて、抜刀術の練習をしていた紅月が振り返った。
「高いな」
「ん?」
「いや、背が」
紅月もそこそこ背が高いほうだが、時雨のそれは人間の限界に近付いていた。ぱっと見て二メートルはあるだろうか。赤い瞳と髪の毛に相まって、人間離れした容姿を形作っていた。
「今度の客はお前か?」
「え……客?」
自分を指差し、時雨はきょとん、とした表情を浮べる。それを見て、紅月が苦笑を浮べた。
「お前、私と戦いに来たのだろう?」
「戦い……?」
小首を傾げる時雨。噛みあわない話に焦れた紅月が、時雨の背の刀を指差した。
「そんな物騒なものを背負って、昼寝に来た、とは言わないよな」
「あ……うん」
時雨が何か言おうとするも、紅月の気迫に押されて口を閉じる。
「どんな理由があって来たか分らんが、武器を持ってここに来たなら勝負の気有りと見なす!」
何を言っても、紅月は引いてくれない。それを悟って、仕方なく時雨が背の刀を抜き放った。
「お前、それを片手で持つのか」
「ん……普通……でしょ?」
ぱっと見て刀身七尺はある長刀を片手で軽々と持つ時雨に驚く紅月。対する時雨はまるで当たり前のような顔で呟く。
「武器はそれだけか?」
「あ……これも」
笑顔と共に取り出されたのは、長刀よりは小振りの刀。しかし、その刀に厄介な性質が仕込まれている事を、紅月は感じ取る。
「血桜って……いうの」
「ほう」
ふと、紅月は風の噂にそんな妖刀があったことを思い出す。確か、詳しい能力まで聞いたことがあったのだが、それは思い出せなかった。しかし、目の前の青年が普通の人間ではないという事は分る。
「お前、只者ではないな?」
「うん? ……タダじゃ……ないよ?」
「いや、そうではなく」
惚ける時雨につい突っ込みを入れつつ、紅月は時雨を観察する。惚けているように見えて、時雨の体には隙がない。それに、ぼんやりとした雰囲気の奥底には、確かな殺気が流れているように感じた。
「正直言おう、私はお前に勝てる気がしない」
「え……そう?」
時雨が少し嬉しそうな顔をする。前言撤回したい気を必死に抑えて、紅月は言葉を続ける。
「そこで、だ。今回のレギュレーションは真剣勝負の上で時間制、でどうだ?」
「時間制……?」
「三分の宣言時間の間に、お前が私を倒せれば勝ち、私が生き延びれば私の勝ち」
紅月の提案を理解しようとするかのように何度か首を傾げてから、時雨はゆっくりと肯いた。
「それでは、私の武器はこれだ」
壁掛けから手に取ったのは、鎖。
「鎖?」
「万力鎖といってな。捕物道具の一つだ」
説明しつつ、紅月は万力鎖の握りを確かめる。
「しかも、この万力鎖は、強い"想い"がこもっており、簡単には斬れない」
「へぇ……」
説明が退屈だったのか、時雨が長刀を床に突き刺した。普通の刀では切れない床の中に、長刀が沈んでいく。
「前言撤回、その刀なら斬れそうだ」
「えへへ」
長刀を引き抜きつつ、時雨は照れたような笑みを浮べる。その笑みに、うすら寒いものを覚えた紅月だった。
「それでは、始め!」
昇の合図と共に、二人は戦闘態勢に入る。右手に長刀、左手に血桜を持った時雨に対し、紅月は両手で万力鎖を構えたまま距離を保っている。
「えっと……攻めていい?」
「そういうのは聞かなくて宜しい」
「んじゃ……いきま〜す」
気楽な声と共に、時雨が一瞬にして紅月に近付いた。その速さに一瞬付いていけなかった紅月だが、瞬時に刀筋を見切ると、身を逸らした。
ブンッ!
突き出された長刀は、紅月の服の袖を切り裂くだけに留まった。しかし、その刺突の鋭さに紅月は内心舌を巻く。つい注意が長刀の方に向いていた瞬間、左手の血桜が迫っていた。
「っ!」
顔を後ろに引いた目の前を刀が通り過ぎていく。頬が薄く切り裂かれた。
「ボク……強い?」
ここが攻撃のチャンス、という時に斬撃を止め、時雨が笑みを浮べてくる。それを挑発と受け取って、紅月が動いた。
ギャンッ!
甲高い金属音と共に、時雨の血桜が万力鎖に絡め取れれた。そのまま刀を奪おうと、紅月が力を入れる。
「あ……危ないよ」
心配そうな時雨の顔を見た瞬間、紅月は血桜の妖力を思い出した。しかし、手を引くのが一瞬遅れる。
「っ、くぅ」
高熱を発する血桜の刀身から、万力鎖を伝わって熱が届く。右手はどうにか引いたが、左手は赤く爛れている。もちろん、万力鎖は地に落ちた。
「降参……する?」
意地悪く、というよりは、紅月を心配するように時雨が問う。しかし、紅月の目にはまだ戦気があった。
ヒュ。
小さく風を切る音と共に、時雨の左手に痛みが走った。見れば、柄に小さな布の付けられたナイフが、手首に刺さってた。
「痛い……っ」
言葉ほどには痛みを感じていない動作で、時雨はナイフを引き抜く。神経をやられたのか、使い物にならない左手を無視して、右手の長刀一本で紅月と対峙した。
「私の柳葉飛刀を受けた感想は?」
「痛い」
「いや、まあそうなんだが」
どうにも時雨には挑発が効かない。それを悟った紅月は、懐から取り出した匕首を構え、防御の体勢を取る。匕首が壊れるのを覚悟で防御に回れば、時間切れで勝てる可能性があった。
「じゃあ……そろそろ」
「ん?」
「本気……いくよ?」
ほわん、とした時雨の台詞。それが消えるか消えない内に、数え切れない程の鋭い衝撃が紅月を襲った。自分がどうなったのか分らない内に、壁に叩きつけられる。
「魔神剣……今日は……半分だけ」
自分が高速で斬られたのだ、と理解した瞬間に、紅月の意識は闇に沈んでいった。
「全く、急所を外してくれなかったら今頃先代の元へ旅立っていた所だった」
「えへへ」
治療を受け、一服する二人。紅月がここまで完敗したのは久しぶりだった。まだまだ鍛錬が足りないな、と苦笑を浮べる。
「紅月」
「ん?」
「楽しかった」
ニコリ、と笑みを向けられて、紅月は反応に困る。とりあえず微笑み返すと、満足げな笑顔が返ってきた。
「それじゃ……またね」
立ち上がって、時雨が歩き出そうとして止まった。何事か、と紅月が視線を向ける。
「ここ……どこ?」
時雨の惚けた呟きに、今度こそ紅月は転んだ。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1564/五降臨・時雨/男/25/殺し屋(?)
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■ ライター通信 ■
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どうも、渚女です。
決闘戦々、いかがでしたでしょうか?
今回は時雨様の力勝ちといった所。能力を封じて戦うと、また違うかもしれません。
それでは、また次の物語でお会いしましょう。
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