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■茜の心を癒す人 【前編】■

滝照直樹
【2276】【御影・蓮也】【大学生 概念操者「文字」】
 雨の中で、彼女は佇んでいた。
 色々あったが、今まで支えて見守っていた幼なじみ織田義明に恋人が出来たこと。また、兄と思っていたが徐々に恋に芽生えつつある人物にも振られたこと。そして、己の運命が徐々に近づいてくる。

 ――「長谷神社の後継者」としての修行。

 この状態では彼女はこの運命を受け入れられないだろう。
 大きな事件が終わり、彼女は一人何かを考えるために家出してしまった。

 暫くした後、家出をし知った長谷平八郎は必死に愛娘を捜していた。

 茜は、知っている人の場所により着かず、路地裏で悪霊を退治していた。それはどう見てもやるせない気持ちを悪霊に当たっているだけにしか見えない。其れに隙が出来、悪霊の攻撃を受けて、倒れる茜。
 あなたは、「危うい彼女」に出会った。
茜の心を癒す人 前編

 雨の中で、彼女は佇んでいた。
 色々あったが、今まで支えて見守っていた幼なじみ織田義明に恋人が出来たこと。また、兄と思っていたが徐々に恋に芽生えつつある人物にも振られたこと。そして、己の運命が徐々に近づいてくる。

 ――「長谷神社の後継者」としての修行。
 この状態では彼女はこの運命を受け入れられないだろう。
 大きな事件が終わり、彼女は一人何かを考えるために家出してしまった。

 其れを知った長谷平八郎は必死に愛娘を捜している。

 茜は、知っている人の場所により着かず、路地裏で悪霊を退治していた。それはどう見てもやるせない気持ちを悪霊に当たっているだけにしか見えない。其れに隙が出来、悪霊の攻撃を受けて、倒れる茜。
 あなたは、「危うい彼女」に出会った。


 運斬が折れた事を実家に報告したあと、自宅に戻る、御影蓮也。
 そのとき、聞き覚えのある女の子の声を聞く。
「あれって、まさか!?」
 蓮也は走り出した。
「あ、茜!?」
 路地裏にいるのは間違いなく友人の茜。
 天空剣士の織田義明の幼なじみ。
 たしか、茜は家出をしたと言うことを聞いた。本当だったとはと少し驚く。
 もっとも、驚いて隙を見せるほど蓮也も修羅場をくぐっていない。
「茜大丈夫か!」
 彼は、傘を使って茜を襲う悪霊を追い払って間をあける。
 尽かさず、傘に浄化経典の一節を一気に書いて、其れを投げた。
 悪霊は只の傘と思いこみ、気にせず突進するも、傘の先が刺さったとたん、もがき苦しんだ後、悪意が取れたのか“成仏”していった。
「ふぅ、何とかなった」
 小太刀の運斬が有ってもなくても、臨機応変に対応できる蓮也である。
「だいじょうぶか、おい! 茜」
 茜は気を失っており、かなり衰弱していることが判る。
「なにも食ってないんだな」
 蓮也は彼女をおんぶし、荷物をもって自宅に帰るのである。
「ま、色々あったから仕方ないよな」
 と、彼は呟いた。


 茜は気が付くと見知らぬ天井を見ていた。
「知らない天井……」
 力が入らない事と、疲労から、久々のふかふかの布団に無意識にくるまってしまう。
「どうしたんだろうなぁ……」
 と、自問自答するが結局答えがでない。
 和室、どこかの客間なのだろう。
 何となく悪霊退治で危うくなったところを助けてくれたのだと判る茜。
 ふすまが開いた。
「あ、起きたな」
「御影くん……」
 思考が止まってしまった。
 関係者に会いたくないから、かなり離れようとしていたのに。しかし神聖都の生徒で有れば東京23区内は近いも同然である。
「ま、ここは俺と叔父さんしかいないし、その叔父さんだけど、職業が考古学者で全然家にいないから適当に使って良いぞ」
 と、茜の家出の事情も聞かず、自分の家の状況を説明して、雑炊を近くに置いた。
「……ありがとう」
「なに、気にするな。只外に出ても、夜には必ず帰ってくる事は約束だからな」
 蓮也はそういって茜の返答を待つ。
「わかった」
「よし」
 と、蓮也は満足そうに笑って、部屋を出る。

 茜は溜息をついた。
「何ていったらいいのかなぁ……」
 かなり自己嫌悪する。
 しかし、雑炊の良い香りで腹の虫がなって、自分が何も食べていないことを思い出した。
「さめないウチに戴こう……」
 久々の食事は暖かく、美味しかった。
「おいしい、う、うっうぅ……」
 とたんに涙が溢れ泣いてしまう茜だった。
 自室で彼女の泣き声を聞いている蓮也。しかし、今はそのままにした方が良いのだと思い、今まで“相棒”を置いていた場所を眺めていたのだった。
 その夜茜は風呂を借りて綺麗になってからから、居間でTVゲームをしていた蓮也に、
「ありがとう」
 と一声かけた。
 彼女の湯上がり姿に蓮也は綺麗だと感じてしまって、赤面してしまう。
 男物しかないパジャマでだぶついているのだが、うっすらと身体のラインが見えるし、濡れた黒い長髪の鮮やかな艶がより一層彼女を“女性”と思ってしまう。
「あ、勝手に使って良いって言っただろ?」
 赤面を隠すようにそっぽを向いて言う蓮也。
「うん……お休み」
「ああ、お休み」
 蓮也、一生の不覚。
 まぁ無理もない。女性の湯上がり姿なんてそうそう拝めないのだから。それに可愛いのだから尚更である。


 数日が経ったが、彼女はずっと眠りっぱなしだった。
 蓮也が食事を置いておくと一応しっかり食べているので食事の方は問題ないようだ、と彼はおもった。
 しかし、肝心の心の方は元気がない。
 いまなら“見える”ので分かる。彼女の運命の糸がかなり絡んでいる迷路に閉ざされた迷子だ。
「幾ら御影の血をひいていても、人の定めを見てしまうのも難儀だな」
 苦笑する蓮也。

 今は“其れ”を動かせる力もない。
 大体そんなことをして何になる?
 本来道を選ぶのは彼女の意志だ。
 つまり、茜自身の問題だ。
 ただ、一人で解決できないし、友達だから助けてあげたいのだ。色々な事件で助け合ったり、バカ騒ぎしたりした友達だから。
 友達だからだ。

 有る夜のことまだ寝るには早い時間。
 ふすまを仕切にして、蓮也は茜を
「茜、起きている?」
「おきてるよ……御影くん。どうしたの」
「ホントはもっと早く言いたかったけど、義明の隣にいられないことが不安か?」
「……」
 沈黙している。
 肯定と受け取って良いだろう。
「運命は迷路みたいなモノ。あいつは自分で進む道を決めた。茜は分かれ道で迷ってる。散々迷えばいい。どちらを選ぶかじゃない、大切なのは選んだ先で何をするかさ。て受け売りだけどな」
 照れながら、頬をかいている蓮也。
「エルハンドに教えて貰ったんでしょ」
「そ、そうだな。茜はエルハンドと親しいから彼がそう言いそうって分かるよな」
 苦笑して立ち上がる蓮也。
「要望・愚痴ならいつでも聞くぞ。友達だろ」
「ありがとう。今は一人にして欲しいの」
「分かった」
 そのまま去っていくところ、
「まって」
「何?」
「君の恋人にどう説明するの? この状況」
「事情をいってとことん謝るさ」
「うん、分かってくれるか、それともヤキモチ妬くかもね」
 クスクス笑う茜。
「う、後者の其れは怖い」
 苦笑するしかない蓮也。
 それから、お互い「お休み」と言ってそれぞれの夜を過ごすことになった。

 雨はまだ降り続く。
 蓮也はこの雨は彼女の心と宿命の顕れなのだと思った。
「さて、あいつに何て謝ろうかな」
 逆に悩み事を背負った感じだが、心地よいものだった。

 ――人を助けるのは悪くないから。


To Be Continued

■登場人物紹介

【2276 御影・蓮也 18 男 高校生 概念操者】

【NPC 長谷・茜 18 女 神聖都学園高等部・巫女】

■ライター通信
 滝照直樹です。
 『茜の心を癒す人』に参加して下さりありがとうございます。
 これから先、蓮也さまがどういう振る舞いをするかで、彼女の心の傷が癒され、成長するかになりますし、平八郎との対峙もあると思います(一寸でてきていますが)。茜の背景は異空間書斎〜東京怪談で起きた事件と同じですが、このノベルだけはパラレルです。今後中編、後編の行動次第で、茜との友情がより一層深まっていくでしょう。もしくは……“トンデモナイ”トラブルもあるかも知れませんが。

 では又の機会があればお会いしましょう。

 滝照直樹拝