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■花唄流るる■

草摩一護
【2479】【九重・蒼】【大学生】
【花唄流るる】

 あなたはどのような音色を聴きたいのかしら?

 あなたはどのような花をみたいですか?

 この物語はあなたが聴きたいと望む音色を…

 物語をあなたが紡ぐ物語です・・・。

 さあ、あなたが望む音色の物語を一緒に歌いましょう。



 **ライターより**

 綾瀬・まあや、白さん(もれなくスノードロップの花の妖精付き)のNPCとの読みたい物語をプレイングにお書きくださいませ。^^

『 花唄流るる ― 目覚める刃 ― 』


「かしら、かしら、かしら、そうかしら。【神薙ぎの鞘】の妹を手に入れて、どうするの、顔無しちゃん?」
「かしら、かしら、かしら、どうかしら。【神薙ぎの鞘】との戦闘を有利にするためかしら、顔無しちゃん?」
「「人質、人質、人質。【神薙ぎの鞘】への人質。うざったい【闇の調律師】への人質」
 闇の人形は少女に抱きつく顔無しにけらけらと笑う。
「違うよ。【神薙ぎの鞘】なんてどうでもいい。あんな奴はさっさと殺して、私は私の望みである【神薙ぎ】を復活させるんだから。でもね」
「「でも?」」
「新しい玩具を見つけちゃったから」
 顔無しは少女の胸に顔を埋めて、くすくすと笑った。
 ひとつの体を共有する人形の二つの顔は互いの顔を見合いあい、そして小首を傾げた。



 +++


「まあやさんか、妹が誘拐された。顔無しの人形に」
『そう。どういうつもりかしら? こちらにアドバンテージを取ったつもりなの?』
「わからない。だけど、俺が切れそうだというのは確かだ。【蓬莱山】は、まあやさんは顔無しの動向は何か掴んではいないのか?」
『落ち着きなさい、と言っても無理よね。だけどいずれはこういう日が来るとは想ってはいたわ』
 携帯電話の向こうから聞こえてきたその彼女の声に俺は下唇を噛んだ。
「妹が【神薙ぎ】を癒す【風の巫女】だから…か?」
『ええ、そういう事ね。顔無しは【神薙ぎ】なのだから、【風の巫女】に惹かれるのは当然だもの』



 顔無しは【神薙ぎ】で、
 妹は【風の巫女】。
 故に二人はまた、惹かれあう。



「くそぉ」
 俺はボロボロに荒れ果てた家の壁を叩きつけた。
 今から30分前、この妹の部屋で俺は顔無しの人形と戦闘をした。
 だが勝敗は完敗だった。
 俺は手も足も出なかったのだ。
 人形は俺の【竜術】も、【桜火】もすべて無効化し、
 そして俺は人形が生み出した怪異には敵わなかった。
 人形は俺をも越える力を持っていったのだ。
 そう、【神薙ぎの鞘】の九重蒼のままでは敵わない。
 力が足りない。
「まあやさん、俺に【蒼月】を渡してくれ」
『…………本気で言っているの?』
「ああ。もうこれしかない。俺では顔無しには敵わない」
『ええ、そうね。でもだからと言ってあなたが【蒼月】を受け取るという事は…、あなたがあなたではなくなるということよ? あなたひとりでは敵わずとも、それでもあたしや【蓬莱山】の総力を合わせれば、顔無しには』
「いいや、無理だよ。それでも敵いはしない」
『言い切るのね』
「…見てしまったから、過去を」
『………とにかく、合流しましょう。こっちのミッションを手伝ってくれない。取りあえずは【風の巫女】は大丈夫よ。殺されるような事は無い』
「って、そんな事を言われても、何かが手につく訳が無い!!!」
『急がば回れ。あたしが追ってるのは、その人形の怪異なのよ』



 +++


 その人形は、個であり、群。
 ひとつの体を二人で使っている。
 陰と陽。
 光と影。
 かつては人であったのに、顔無しの玩具とされたもの。
 だけどそれらは道化を演じながら、
 機会を伺っていた。
 自分たちのすべてをトレースさせた怪異を扱って。
 その怪異の名前はスケアクロウ。つまりは案山子だ。
 案山子は鳥を追い払うのが役目。
 鳥から農作物を守り、その農作物が育つのを見守る。
 そのスケアクロウが追い払うのは人間で、
 そして見守るのは双子の子ども。
 スケアクロウの瞬かない瞳は双子を見守っている。



 +++


 甘い匂いがそこには漂っていた。
 桃とか梨、そういった果実が熟れて腐る寸前のようなそんな甘くたい匂い。
 顔無しはそんな香りがする湯に人形のようにその艶やかな黒髪に縁取られた美貌にしかし感情の欠けらも浮かべてはいない少女の身体をつけて、艶かしい動きで少女の身体を摩っていた。
「綺麗にしてあげるよ、【風の巫女】のお姉ちゃん。肌を磨いて、髪を洗って、綺麗な着物を着せて、化粧をしてあげる。そしてずっとずっとずっと私の下に居てね。私の」
 そして顔無しは物語を紡ぐ。
 母親が布団の中の幼い我が子に話して聞かせるように、物語を紡ぐ。
 暗鬱で、血生臭くって、愚かで、エゴの塊で、そしてとても可愛そうな男の子と、女の子の話を。



 昔、昔、昔、この風の国、日本には【神刀の一族】がおりました。
 その一族は神仙達が住む【蓬莱山】から採れる鉄を使い、刀を作っておりました。
 その刀には魔を切る力がありました。
 故に魔と対峙する者達は【神刀の一族】が作り出した刀を欲しました。
 一説に寄れば、徳川家康が恐れ、徳川家に害を成す刀であると忌み嫌った【村正】を作り上げた一族もまたその血を引く者であるといいます。
 どのように科学が進んでも、その科学では到底解明できない世界、魔の世界。
 それは確かにあり、人が住む世界の裏にある。
 表裏一体。光と影。それは同一の物。
 【蓬莱山】の神仙達が使うのも【神刀の一族】の刀、武器。
 そう、神仙の扱う【竜術】と、【神刀】とが合わされば、それはまさに最強なのです。
 ですが世界には必ず天敵というモノがいるのです。
 神仙にとっての天敵とは【神薙ぎ】。
 【神薙ぎ】の作り出す刀は、【神薙ぎの刀】として最高の力を持ち、それは不老不死であるはずの神すらも殺す。
 そう、そこに【蓬莱山】が【神刀の一族】を見張り、【神刀の一族】が神を見張ると言う図が出来、故に両者は上手くいっていったのでした。表面上は。
 【神刀の一族】はただ【神刀】を作るしか脳が無かった。
 だけど、稀に【神刀の一族】の中に生まれてくる【神薙ぎ】は別。それは生まれながらに凄まじい力を持ち、術を扱う。



 そう、まさしく【神薙ぎ】とは人と言う神の神。



 故に【蓬莱山】は怖れた。
 そしてその【蓬莱山】に住まう者達の怯えの心が寄り集まって、ひとりの女を作り上げた。その女の名は須磨子。
 須磨子は、かつて最強の【神薙ぎ】と謳われた男の孫の下に訪れた。
 その男は当時は21歳で、未来溢れる良い男であった。
 しかし須磨子はその美貌と豊満な体とを使い、そしてその男の心の隙間に入り込み、それを堕とした。
 そうしてその男に、作らせようとした、【神刀の一族】の歴史に残る最強の【神刀】である【蒼天の刀】を越える【神刀】を。
 ―――――【蒼天の刀】を使って。
 そして彼は祖父の墓石の中に埋められていた【蒼天の刀】を取り出し、それを溶かして、鉄を打ち、刀を作り出した。
 須磨子はそれをじぃーっと笑いながら見ていた。
 そうしてそれは起こった。
 十六日目の夜、男はいつの間にか焼けた鉄を素手で持っていて、そしてその鉄に槌を打ちつけていたのだけど、その鉄を持つ手と鉄とが融合し、最後の一振りを刀に叩き込み、それを水に入れた瞬間に…男自身がその刀と融合して、一振りの刀となった。
 ―――――――その刀の名を、【十六夜】。



 それとほぼ同時に、【神刀の一族】の里に忌み子が生まれた。
 わずか十と六日で、生まれた、忌み子が。
 その女は生娘であったというのに、十六日前に妊娠し、そしてわずか十六日で子どもを生んだ。双子の子どもを。
 その忌み子の名前を蒼と呼びます。
 もうひとりは女の子で、緋菜。



 では、須磨子はどうなりましたでしょうか?
 須磨子は【十六夜】を手に取り、そしてそれを振るった。刃を振るい、【神刀の一族】を殺しまくった。
 それが須磨子の性なのだから。
 須磨子の持つ【十六夜】は【神刀】を越える【神刀】。
 【神刀】を作る【神薙ぎ】の魂と、その孫の魂と、そして須磨子の血、それらが合わされて作られたそれは【魔神刀】。



 母親はその腕に二つの命を抱いて走りました。
 ひとりは男の子。蒼。
 もうひとりは女の子。緋菜。



 その前に現れたのは、闇の調律師。
 彼は須磨子と戦い、
 しかし重症を負った。
 母親はその男に、蒼を預け、
 彼は蒼だけを連れて、逃げた。



 そして母親は須磨子に殺され、
 須磨子は緋菜を喰らい、
 顔無しとなりました。



「何を泣いているの、お姉ちゃん? 誰のために泣いているの?」
 顔無しは少女の頬を伝う涙をぺろりと舐めて、小首を傾げました。



 +++


 あたしの師匠は20年前、ひとりの男の子を助け出し、
 その子が須磨子…いえ、顔無しに見つけ出されないように隠した。
 でもその子はやはり運命の因果によって風の巫女と出会い、戦いに身を投じてしまった。
「大丈夫かしら?」
 そうでないのは訊くまでも無い。だけどそう訊いてしまった自分にあたしは苦笑いを浮かべた。
「ああ。冷静だよ」
「そうね。無理してでも冷静なふりをしていられるのなら、それはそれでマシ。あたしの隣に置いておいてあげるわ」
「偉そうに」
 くすっと笑った彼。
 あたしはわずかに眼を細め、そしてくすっと笑った。
「あの人形どもはおそらくは誘拐した双子に己が魂を移そうとしてるんでしょうよ。だからそれを阻止するわ。そして人形から顔無しの居場所を聞き出す」
「ああ」
 そしてあたし達は、その廃病院に突入した。



 +++


 一年前、【太陽の神】と【月の神】の擬似魂は顔無しの手に落ちて、それは人形となった。
 それから一年。またあの人形が動き出し、【蓬莱山】は【世界の雛型】が発動する事を恐れ、彼らは兵を出した、廃病院に。



 +++


「かしら、かしら、かしら、そうかしら?」
「かしら、かしら、かしら、どうかしら?」
 スケアクロウは男の子と女の子の双子を眺めている。
「許せないのは何かしら?」
「許せないのは、我らが偽者だということ」
「この双子の偽者」
「蓬莱山に作られた偽者」
 ひとつの体を共有する二つの顔は互いの顔を覗き見合う。
 ――――――――どうやらスケアクロウは自分の事を造物主である人形だと想っているらしい。



「「我らは偽者。作り物。だから欲しいんだわさ、本物の魂と体が」」



 かぱぁっ、とスケアクロウの口が開く。
 双子達は恐れあい、互いを抱きしめ、そして、スケアクロウの影から飛び出した怪異が双子を襲い、双子の影から飛び出した怪異がそれを襲う。
 だが、スケアクロウの怪異は双子の前で散りとなって消えて、
 双子の怪異はスケアクロウの怪異を散りと消した。
「かしら、かしら、かしら、そうかしら?」
「かしら、かしら、かしら、何かしら?」
「さすがは本物。モノホン。我らの怪異は敵いはしない」
「「だからぁ――――――――」」
 スケアクロウはその双子に襲い掛かろうとした。
 しかし…
「「ぐぅぎゃぁ――――――」」
 そのスケアクロウの体は壁に縫い付けられた。
「ふざけた事してんじゃねーよ、このプロトタイプ野郎が」
「そうよ。あんた達がまた余計な事をしてくれたせいで、あたし達がこんな小汚い場所に来させられて。ほんとちょぉー、迷惑だわ」
 スケアクロウは首を180度回して、自分達の体を壁に縫いつけた人物達を見た。そこには15、6歳の男女がいた。銀髪の少年と金髪の少女。二人とも髪を腰まで伸ばし、その髪に縁取られた美貌は同じだ。つまりが双子。
「【蓬莱山】からの兵?」
 そしてさらに上がったその声に二人はにたにたと笑いながら背後を振り返った。そこにいたのは九重蒼と綾瀬まあやであった。
「【神薙ぎの鞘】と」
「【闇の調律師】ね」
 蒼は腰の【桜火】に手をかけるが、それらはそれと同時ににやりと笑う。
「やめときなよ、【神薙ぎの鞘】よ」
「そうよ。あたしらのプロトタイプにも敵わない貴方が、あたしらに敵う訳は無いわ」
 蒼は下唇を噛み締めるが、まあやは肩を竦めた。
「あなた方はあたしたちの敵ではないでしょう。とにかくこれでミッションは終了なのかしら。誘拐された太陽と月は取り戻し、た……ちょっと待って」
「どうした、まあやさん?」
 急に大きな声を出したまあやに蒼は怪訝そうに眉根を寄せた。
「擬似魂は本物には敵わない。だけどならばこの子たちはどうして人形たちに誘拐されたのよ?」
 まあやはニュータイプ達が倒したプロトタイプの人形を見た。だが彼女の眼が大きく見開かれる。その人形は童話の人魚姫のように泡となって溶けて消えていた。しかも…
「ぎゃぁー」
「どうした?」
 スケアクロウを串刺しにしたニュータイプの太陽が悲鳴を上げたのだ。スケアクロウを串刺しにしていたのは彼女の右手の人差し指の爪であった。だがその爪がどす黒く変色していき、そしてそれは墨汁に垂らしたティッシュのように変色していく。
 そして!!!
「しゅがぁー」
 突然に全身が真っ黒に変わったその太陽は傍らの月を押し倒して、頚動脈に噛み付いて、そして一瞬で月は真っ黒になった。
 立ち上がった二人は無論、
「どうなっているんだ、まあやさん、これは?」
「あたしに聞かないで」
 蒼は【桜火】を鞘走らせ、そしてまあやはリュートを取り出した。
「とにかくここは俺が。まあやさんは二人を連れて逃げろ」
「いえ、逃げるのはあたし達だけよ。なぜなら、事の仕掛け人はそこにいる双子なんだから」
「なに?」
 蒼はまあやを見、そして双子を見た。
 双子はくすくすと笑っている。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんはどうだい? お兄ちゃんなら、僕らの仲間にしてあげるよ」
「ええ、わたしたちと同じ忌み子のあなたなら、わたしたちと行動も志も共にできるでしょう? こんな世界は滅ぼしてしまいましょうよ」
「お兄ちゃんもお母さんを殺された」
「そして【神刀の一族】の生き残りに九重家に引き取られる前まで居た教会の孤児院の人たちも殺された」
「お兄ちゃんの生きてきた道も」
「その来た道も」
「「転がるのは死屍累々屍の山」」
「だったらさ、おいでよ、お兄ちゃん」
「そうよ。共に来て。そしてわたしたちの剣となって。このスケアクロウのように」
「醜い擬似魂に作られた三流品のスケアクロウを僕らが作り直してあげたんだ」
「お兄ちゃんも、わたしたちがさらに強くしてあげるよ♪」
「望む力をあげる」
「なんだったら【世界の雛型】を発動させる?」
「スケアクロウから情報を聞き出したからわたしたちは何でも知ってるの」
 蒼は首を横に振った。
「俺には帰るべき場所がある。だから俺はそのために【桜火】を振るう」



 +++


「【桜火】一の型 一見炸裂【桜花爛漫】」
 放たれた技はしかし、くすりと笑った月の前に現れた鏡を持つ怪異によって跳ね返された。
「闇の旋律の前に散りなさい」
 奏でられたリュートの音もしかし、太陽の力で無効化される。
「ちぃぃ。擬似魂であろうが、これは神。ならば人間には敵わない」
「そういう事かな」
 とんと蒼はまあやと背を預けあう。
「覚悟を決めたかい、まあやさん?」
「…………鞘から刃を抜かねば、ならないか」
「ああ」
「ええーい、もう」
 そしてまあやは振り返った。その手には懐剣が握られている。【蒼月】だ。
「もう一度訊くわ。いいのね、蒼さん。鞘から抜けば、その刃はもう二度と、元には戻せないのだからね」
「ああ」
 そしてまあやは小さく溜息を吐き、顔を俯かせて、【蒼月】で蒼を刺した。



 +++


 それはぞくりと鳥肌が浮かんだ肌を見てくすくすと笑った。
「【蒼月】は蒼を殺せる刀。それはウイルスのようなモノ。蒼を殺すために刃を振るえば、それは蒼を殺すし、そして蒼を鞘から抜くために扱えば、それは鍵となる。さあ、もうひとりの【神薙ぎ】のお目覚めだ。十数年ぶりに【不浄の神薙ぎ】が目覚める」



 
 +++


「蒼さん?」
 まあやは祈るような声で彼の名を呼んだ。
 【蒼月】は蒼の中に溶け込んでもう無い。
 そして太陽と月が蒼に襲いかかる。
 だが彼はそれを剣風だけで打ち倒したのだ。
「擬似魂が俺を倒せると? この【神薙ぎ】を?」
 ぞくりと空気がその冷笑に震えた。
 太陽の神と月の神は震えていた。
 その二人に蒼は刀を持った右腕を真っ直ぐにあげる。
 【神薙ぎ】にとって神を薙ぐのは本能だ。
 故に蒼は擬似魂を無慈悲に滅ぼしたし、そして人間としてこの世界に降りてきた太陽の神と月の神にも平気で刃を振るえる。
「う、うわぁー」
 月から生まれた怪異が蒼に襲い掛かるが、しかし蒼は【桜火】の一振りでそれを斬り捨てた。
「そ、蒼さん」
 まあやは蒼に手を伸ばしながら絶望的な響きを持つ声を出した。だがそれで彼が振るう刀を止める事はなく、月は、【桜火】の一撃によってくずおれた。
 その月に太陽が覆い被さる。
「やめてぇー」
 太陽が悲鳴をあげた。
 しかし蒼はかまわない。刀を再び振り上げ、
 ――――――――――打ち下ろす。



「なんのつもりだ、まあや?」



 双子に向けられて振られていた切っ先は止められた。黒髪に触れる瞬間に。
 まあやが双子の前に両腕を開いて立ったからだ。
 蒼は眼を鋭く細める。
「蒼さん、【神狩り】の力に負けないで」



 負けないで――――



 その声に蒼は顔を歪めさせた。
 そして妹の名前を口にして、
 それから【桜火】で己が右腿を突き刺した。
「ぐぅ」
「大丈夫、蒼さん」
 まあやが蒼に駆け寄る。
 蒼はぐったりとした顔をしながらも彼女に微笑んだ。
「ああ」
 頷いた蒼。だがその眼は大きく見開いた。
 なぜなら…
「【神薙ぎの鞘】からとうとう【神薙ぎ】になったんだね、蒼。おめでとう」



【ラスト】


 その場に断末魔の悲鳴が上がった。それは二つ。
 重なり合ったその余韻を打ち消すのは冷淡で無慈悲で、無機質で、一定のトーンの声。
「でも私には敵わない。だって蒼は【神薙ぎの鞘】として生まれてきたんだもん。いかに鞘から抜いたといっても、その刃が私に敵う訳が無い。そう、純粋な【神薙ぎ】として生を受けた私に。それと…」
 蒼は刀を構えた。
 その蒼に、須磨子……緋菜………顔無しは刃を振るった。
 上がった鋼の音色。
 しかし……
「【桜火】がァ」
「刀の違い。【桜火】はただの【神刀】。でも私の【十六夜】は【魔神刀】。あなたに勝ち目は無い」
「顔無し」
 途中で刀身が砕け散った【桜火】を握り締めながら、蒼はそれでも刀を構える。
 その彼に顔無しは肩を竦め、そして…
「待っていたんだよ。あの日、【神刀の一族】の生き残りが蒼を殺そうとするのを阻止し、そのショックで記憶を蒼は無くしちゃったけど、でもその時に見せた蒼の忌むべき【不浄なる神狩り】の力に私はぞくりとしたから、だから待っていたんだ。【風の巫女】の争奪戦と行こう。【風の巫女】を得た時に、私達のどちらかは最強の【神狩り】となる。楽しみにしてるよ」
 それだけ言って顔無しは消えた。
「もはやあれは蓬莱山の悪夢である須磨子でもないわ。完全なる別の物。無垢なる混沌と言うのであれば、あの女の方。あれの性は飽くなき進化を願ってる。そして退屈を嫌ってる。その退屈を紛らわすためならば…」
 まあやは血の水溜りの中で沈んでいる双子を見つめながら唇を噛んだ。
「顔無しは…俺が倒す」
 蒼はどっと重い声を押し出した。



 その日、須磨子によって世界と世界の狭間、魔界とも言うべき世界に封印されていた神刀の一族の里が復活した。



 ― fin ―



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】



【 2479 / 九重・蒼 / 男性 / 20歳 / 大学生 】


【 NPC / 綾瀬・まあや 】





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■         ライター通信          ■
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こんにちは、九重蒼さま。
いつもありがとうございます。
このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。


次回にて、長い間任せていただけたこの連載形式のお話も最終話でございます。^^
本当に任せていただけてありがとうございました。
こちらもものすごく楽しくやれました。


今回の物語で、謎のほとんどは解けましたね。><

蒼さんの過去、出生の秘密、顔無しとの関係。【神薙ぎの鞘】の意味・・・
・・・実はこれにはもう少し意味が。^^
ラストはどうなるのでしょうか? 本当に僕も楽しみです。

そうそう、スケアクロウは双子たちに洗脳されていたのです。
そしてあの双子たちはやっぱり太陽と月ですから、酷い目に遭っていて人間不信になっていたのです。
そしてスケアクロウを得て、だけどそれを媒介にして顔無しの闇に触れてしまって、だからあのような運命に・・・。


プレイングに書かれていた戦友、秘密なんかも織り交ぜておきました。^^
まあやが蒼さんに関わった理由は師匠からそれを引き継いだのですね。
無論、最初の理由はそうだったのでしょうが、今は戦友としての蒼さんを守るべく戦っているのでしょう。


それでは、今回はこの辺で失礼させていただきますね。
本当にありがとうございました。
失礼します。