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■ファイル-2 神隠し。■

朱園ハルヒ
【2259】【芹沢・青】【高校生/半鬼?/便利屋のバイト】
 電話が鳴り止まない、という光景自体、この司令室では珍しい事であった。受話器を置いた瞬間に再び鳴る、電子音。
「…………」
 呼び出されたはいいものの、司令塔である槻哉がこの状態では、話の進めようが無い。
 斎月も早畝もナガレも、槻哉が電話対応に追われているのを、黙って見守るしか出来ずにいた。
「…商売繁盛?」
「そーゆう問題じゃないだろ…。こりゃ、電話機増やさないとダメかもな」
 へろり、と槻哉に力の無い人差し指を指しながら、早畝が言葉を漏らすと、ナガレがそれに突っ込みをいれる。
 斎月は黙ったままで、咥えた煙草に火をつけて、テーブルの上に置かれていた資料に目を落としていた。
「……はい、これから調査いたしますので、そのままお待ちください」
 その言葉を最後に、電話の呼び出し音は一応の落ち着きを取り戻す。見かねていた彼の秘書が、内線を切り替えたらしい。
「ふぅ…。三人とも、待たせてすまなかったね」
「…事件はこれだな?」
 槻哉の表情は半ば疲れているようであったが、彼は三人に微笑みながら、言葉を投げかけてきた。すると斎月がいち早く反応を返す。
「…そう、今回はこの事件を担当してもらう。さっきからの電話は被害者のご家族からなんだよ。警察の怠慢さも、程々にしてもらいたいね…」
 槻哉の言葉は、何処と無く冷たいものであった。その言葉尻からも読み取れるように、『今回も』警察尻拭い的な、事件であるらしい。
「カミカクシ?」
 早畝は斎月が持ったままの資料を覗き込みながら、首をかしげる。昔はよく起こっていた事件らしいのだが、近年では稀なほうであり、早畝はそれを知らないようであった。
「前触れも無く突然、行方不明になってしまう事を言うんだよ。その後、その人たちが発見されない事が多いから『神隠し』と言われているんだ。昔話なんかにも、出てくるんだよ」
「犯人は天狗、とか言う奴だろ」
 ナガレはいつものように早畝の肩口から資料を覗き込んでいた。この中で一番永く生きている彼にとっては、気になる事件の一つのようだ。
「まさか今時、その『天狗』なわけじゃねぇだろ? 場所が場所だしよ」
「そうだね、この都会の真ん中では、それは有り得ない存在だろうね。…どうやら誰かが故意的に、次元の歪みを作り出しているようなんだ」
 槻哉がそう言うと、まわりの空気がピン、と張り詰めたように思えた。
「…また厄介な事件だな…」
「それを解決していくのが、僕らの仕事だろう?」
 斎月が独り言のような言葉を漏らすと、それに反応したのは槻哉だった。そして皆が視線を合わせて、こくりと頷く。
「今回も、よろしく頼むよ」
「了解」
 三人は資料を手に、調査に出向くための準備を始めた。
ファイル-2 神隠し。


 電話が鳴り止まない、という光景自体、この司令室では珍しい事であった。受話器を置いた瞬間に再び鳴る、電子音。
「…………」
 呼び出されたはいいものの、司令塔である槻哉がこの状態では、話の進めようが無い。
 斎月も早畝もナガレも、槻哉が電話対応に追われているのを、黙って見守るしか出来ずにいた。
「…商売繁盛?」
「そーゆう問題じゃないだろ…。こりゃ、電話機増やさないとダメかもな」
 へろり、と槻哉に力の無い人差し指を指しながら、早畝が言葉を漏らすと、ナガレがそれに突っ込みをいれる。
 斎月は黙ったままで、咥えた煙草に火をつけて、テーブルの上に置かれていた資料に目を落としていた。
「……はい、これから調査いたしますので、そのままお待ちください」
 その言葉を最後に、電話の呼び出し音は一応の落ち着きを取り戻す。見かねていた彼の秘書が、内線を切り替えたらしい。
「ふぅ…。三人とも、待たせてすまなかったね」
「…事件はこれだな?」
 槻哉の表情は半ば疲れているようであったが、彼は三人に微笑みながら、言葉を投げかけてきた。すると斎月がいち早く反応を返す。
「…そう、今回はこの事件を担当してもらう。さっきからの電話は被害者のご家族からなんだよ。警察の怠慢さも、程々にしてもらいたいね…」
 槻哉の言葉は、何処と無く冷たいものであった。その言葉尻からも読み取れるように、『今回も』警察尻拭い的な、事件であるらしい。
「カミカクシ?」
 早畝は斎月が持ったままの資料を覗き込みながら、首をかしげる。昔はよく起こっていた事件らしいのだが、近年では稀なほうであり、早畝はそれを知らないようであった。
「前触れも無く突然、行方不明になってしまう事を言うんだよ。その後、その人たちが発見されない事が多いから『神隠し』と言われているんだ。昔話なんかにも、出てくるんだよ」
「犯人は天狗、とか言う奴だろ」
 ナガレはいつものように早畝の肩口から資料を覗き込んでいた。この中で一番永く生きている彼にとっては、気になる事件の一つのようだ。
「まさか今時、その『天狗』なわけじゃねぇだろ? 場所が場所だしよ」
「そうだね、この都会の真ん中では、それは有り得ない存在だろうね。…どうやら誰かが故意的に、次元の歪みを作り出しているようなんだ」
 槻哉がそう言うと、まわりの空気がピン、と張り詰めたように思えた。
「…また厄介な事件だな…」
「それを解決していくのが、僕らの仕事だろう?」
 斎月が独り言のような言葉を漏らすと、それに反応したのは槻哉だった。そして皆が視線を合わせて、こくりと頷く。
「今回も、よろしく頼むよ」
「了解」
 三人は資料を手に、調査に出向くための準備を始めた。


 早畝とナガレが、先に司令室を後にしようと扉に向かったときに聞こえた、ノックの音。それに立ち止まると、奥で槻哉が『どうぞ』と言葉を投げかけた。
「すいません、早畝とナガレ、いますか?」
 開かれた扉から覗かせた顔は、早畝たちも見知っている、者。
「…あれ、青?」
「…、ビックリした…目の前に居るから…」
 扉を開けたすぐに早畝の姿があり、それを予想できなかった青は、少しだけ驚いた表情で、そう口を開いた。
「芹沢くんじゃないか。此処に、何か?」
 槻哉がデスクを離れ、早畝たちの元へと歩み寄ってくる。すると青は扉を閉めて、槻哉に視線を移した。
「…実は、ちょっと協力してもらいたくて…俺、今特別なバイト請け負ってるんだけどさ…」
「とりあえず、此処に座って。詳しい話を聞かせてもらえないかな」
 青の言葉に眉根を動かした槻哉は、青をソファへと導き、その場に座らせる。
 自然と早畝やナガレも、そのソファの後ろ側に回り込み、話を聞く体制になっていた。
 斎月は彼らに動ずる事も無く、資料を片手に『お先に』と言いながら司令室を出て行った。
「……慌しくしていてすまないね。こちらもこれからある事件の調査に向かうところで…」
「それって…人が消えるって、事件じゃない?」
「!」
 斎月を見送りつつ、こちらの状況を説明した槻哉に、青はそんな言葉を投げかけてくる。
 それに、槻哉も早畝らも、過剰に反応して見せた。
「芹沢くん…特別なバイトって…」
「やっぱり…こっちにも流れてるんだ。そうだろうと思って、俺だけじゃどうしようもなさそうだし、此処に来たんだけど。
 …追っている事件、多分同じものだよ、槻哉さん」
 青は淡々とそう言葉を吐きながら、槻哉の目の前に自分が持っていた資料のようなものを差し出した。それに目を通すと、彼らが関わっている事件と、青が持ち込んだものは、全く同じものだった。それに、こちらでは流れてこなかった情報まで、纏めてある。
「こっちは家族からの依頼だったんだけど…。丁度動けるのが俺しかいなくて、請けたバイトだったんだ」
「青のバイト先って…」
「ああ、俗に言う、便利屋」
 早畝の言葉にも、サラリとそう答える青。
 槻哉は何かを考え込んでいるようで、眉間に皺を寄せたまま、暫く黙り込んでいる。
「……どうする、ボス?」
「…そうだね、これは協力しあって解決したほうが良さそうだ。早畝とナガレを、君に同行させよう」
「ありがとう」
 ナガレが促すように槻哉に言葉をかけると、意を決したように彼は顔を上げ、簡潔にそう言った。
 早畝もナガレもそれに納得したようで、お互い顔を見合わせ、頷く。
「またよろしく、青」
「…よろしく」
 ゆっくりと立ち上がった青は、早畝の言葉に振り向きながら、軽く笑って見せた。

「そっちって、何処から情報流れてきてる?」
「え? あー…何処なんだろう。槻哉、その辺の事、何にも教えてくれないし」
「ふぅん…」
 肩を並べて歩きながら、ふと疑問に思ったことを口にした青に、早畝は首をかしげながらそう答える。
 答えを聞いた青は、遠くを見ながら言葉を返して、会話を切った。何かを、考えているようにも、見える。
「あ、あのさ…青は、犯人、どんなヤツだと思う?」
「……そうだな…次元の歪みとか作る奴なんだから…人間じゃないのかもしれない」
 沈黙が嫌いな早畝は、会話が途切れた時点で、慌てて青に言葉を投げかける。すると青も、間を置いてではあるが、きちんと早畝の質問に、そう答えてみせた。
「オバケかなぁ…」
「それは無いと思うけど…でも、近い存在であるかもしれないし」
「………………」
 ナガレは二人の足元で、彼らの会話を黙って聞いていた。
 青が純粋な人間ではない事は、ナガレくらいにしか解らない事。本人がそれを明かさない以上は、こちらから何も言うつもりも無い。こうして上手く、『ヒト』の社会の中で生き抜いているのだから。過去にどんな事があろうとも。
 いまいち、ヒトを信じきれていな雰囲気を持ち合わせる青も、早畝に対してはまだ温和なように思えるから、ナガレは特に気に留める事も無く、彼らを見守っているのだ。
「普段から、そんな危ないバイトしてるんだ?」
「…人のこと言えないと思うけど…。早畝だって、こうして危ない仕事、してるんだし」
「まぁ…そうだけど。俺達みたいな事してる人が、他にも居るんだなぁと思ってさ」
「物好きなだけ、だよ。…多分」
(……いいオトモダチ、みたいに見えるじゃん、二人とも)
 ナガレはそう、心の中で呟くと、たん、と地面を蹴り、早畝の肩へと飛び乗った。
「気ぃ抜くなよ二人とも」
「わかってるって」
 ナガレの言葉に、早畝はそう応え、青は軽く頷いてくる。
 そして三人は、現場となっている地へと向かった。

 辿りついた場所は、大きな池を中心にした森林公園のような場であった。犯人が潜むには、十分な場である事は間違いない。
「…次元の歪みが作られているって話だけど…こっちから歪みの空間に掛からないと、被害者も犯人も見つけられないだろうから。…罠にでも嵌ってみようか」
「大きな事言ったな、青」
 現場に付いた途端、青は一歩二歩先に進み、辺りの様子を探りながら、早畝たちにそんな事を言う。場慣れしているものの、物言いだ。
「…あの、池の周辺。僅かだけど別の空間と繋がっているような…そんな気配がするんだ。あれ、ぜったいわざと呼び寄せるように、作ってる」
「あ、俺にも見える。あれじゃ、皆なんだろうって、寄っていくよな」
 青が刺した指の先に視線と移せば、彼が言ったとおりに、その先がおかしな歪み方を見せていた。力の無いものでも普通に見えるに仕掛けてあるようで、おそらく近づけばあの奥へと取り込まれてしまうのだろう。
「……そう言うわけで、俺達もあれに入ってみよう」
「え、マジで?」
 青は常に冷静で、行動を起こしていた。早畝が止めに入るより先に、彼はどんどん池のほうへと進んでいく。その後姿を二人は慌てて追いかけていった。
「あ、青…っちょっと待って…」
「…ほら、もう相手の領域内だ」
 ある程度歩いたところで、青がいきなり早畝たちを振り向いた。そしてそう、軽い口調で言葉を伝える。
「…………マジですか…」
 青の行動の素早さに、呆気にとられる一方、この場が既に犯人の作り上げた次元の歪みの中であるという事に、頭の整理が追いつかなく、目を回しそうになっている早畝。
 それに比べ、ナガレは動物の勘と言うものの働きが鋭い分、落ち着きを見せていた。
 そうしているうちに、外界への繋がる道が、閉ざされていく。
「俺達を帰す気は、無さそうだぞ」
 ナガレがそう言うと、早畝も漸く腹を括ったのか、こくりと頷いて見せた。
「……やっぱり…これは、人間の力じゃない」
「青?」
「ナガレなら、感じるだろう?」
「…ああ、こりゃ人外の気配だ」
 淀み、何処が境目なのか解らないような周りの景色。
 その中で、青とナガレは、人ならぬ気配を、肌でビシビシと感じ取っていた。
 早畝は僅かながらにそれを感じ取られるだけだ。
「青…人間じゃないって…相手はどんなヤツなんだ…?」
「……妖(よう)の類だろうね。解りやすく言えば、妖怪だ。……そうだろ?」
「!!」
 早畝に問われた言葉に応えながら。
 青は前方を見据え、まるで言い当てるかのように、そう言った。
 すると暗い闇の中から、何かが蠢くような気配が、する。
「…あー…また低俗な…」
 のそり、と姿を現せたものは。
 間違いなく、異形のもの。
 その姿を見て、ナガレは深い溜息を吐いた。
『獲物…獲物だ……お前の生気を寄越せ…!!』
 人の倍の大きさを持つ体が、唸った。口を開けば、牙が見え隠れし、だらしなく涎がそこから零れ落ちている。
(……先に取り込まれた被害者たち…大丈夫なのか…?)
 ナガレは身構えながら、そんなことを考え始めた。
 この手の生き物には、過去に数回目にかけているが、どれも低俗な上に獰猛で、人の話などは全く聞こうとせず捕らえた獲物は全て喰らってしまうという共通点があった。
 青が言う妖も、おそらく同じ眷属のものだろう。
「…早畝、…覚悟しておいたほうが、いいと思う…。被害者たち、死んでるかもしれない」
「……、マジで…!?」
 青も、ナガレと同じ事を思っていたようで、それをそのまま早畝に伝えていた。そして彼もゆっくりと迫ってくる犯人に、身構えてみせる。
 早畝も遅れを取らぬよう、腰の銃を取り上げて、その場で構えた。
 そんな、時だ。
「た、助けて…ッ!!」
 妖の脇から突如現れた、女性がいた。髪を振り乱し、早畝たちに向かって掛けてくる。
「! …まだ希望はありそうだな…ッ」
 そう言いながら飛び出したのは、ナガレだった。
 足元をすり抜けようとしている女性に気が付き、妖が雄叫びを上げ彼女に襲い掛かろうとしている、その瞬間だ。
 ナガレが間に入り込む形で、シールドを張る。
 それと、妖の長く大きな爪が振り下ろされるのは、同時であった。
 空間内で、大きな地響きが、広がる。
「……あ…あぁ…」
 あまりの衝撃に、足元を掬われた女性が、此方にたどり着く前にへたり込んでいる。
「…立てる? それと、貴女以外に、囚われてる人は…!?」
 早畝はナガレが飛び出した直ぐ後に、女性に向かい駆け出していた。彼女の腕を掴んで、引っ張るように立たせると、再び元の場所へと引き返す。
「……私のほかに、何人か…あのバケモノの後ろにいます…っ 倒れている人も、いました…」
「……………」
 どうやら、被害者全員を救い出すには、遅すぎたようだ。
 早畝は女性を妖から離れた場まで連れ出した後、銃口を空に向け、そのまま引き金をひく。
「………きゃ」
 女性は突如現れた光に、目を覆う。
「即席なものだけど、盾の役割をしてくれる。俺が戻ってくるまで、此処から動かないで」
「は、はい…」
 早畝の銃は、また彼自身が改造を施したものらしく。
 今度はナガレのシールドをヒントに、短時間でも放った周辺を外敵から守るように作られた、ものだった。
 不安そうにしている彼女をその場に残しながら、早畝はナガレや青がいる妖の元へと、全力疾走する。
「…ナガレ、離れて…ッ」
「了解…!」
 妖が居る場では。
 ナガレがシールドを挟みながら、妖との力比べを続けている最中であった。
 そのナガレに、青が合図を出すと、一瞬だけ、空間内が強い光に包まれる。
「……うわっ」
 バチバチ、と音を立てて、早畝の頬を掠めたものがある。
 それは青が妖へと放った彼の能力。雷光が跳ねた物だった。
 この妖の領域内では、外での扱いと、多少の違いがあるようだ。
「早畝、怪我は?」
「へーきっ 青たちも平気?」
 青の表情は、あまり良いものとは言えなかった。雷光が上手くコントロール出来ずに、少しだけ苛ついているようだ。
「……ちっ…場所が悪い…」
 そんな独り言は、空気に溶けて消える。
「ボケっとしてんなよお前らっ! 次来るぞ!!」
 ナガレがそんな青と早畝に、怒鳴りつけてきた。その背後には、雷を落とされ、益々怒り狂った妖が、怒号を吐いてる。
「ナガレ、俺あいつの後ろに回るからっ まだ人が居るんだ…ッ」
 早畝はそう言いながら、再び駆け出した。
 するとナガレも青も、無言で頷いてみせる。
 此処はまかせろ、と。
「――お前の相手は、此処だ」
 早畝の後姿を見ながら、青が右腕を上げる。その手の先には、雷光が作り出されている。
 妖はその青に、ギロリ、と視線を移した。
「…サポートは任せろ、青」
 ナガレはそんな青の、直ぐ近くに控えていた。
 早畝を妖の後ろに回りこませるには、あれの気を此方に向かせるしかない。
 単純な脳しか持ち合わせていない妖は、すんなりと青の言葉に乗る。
『お前かぁぁ…喰ってやる…喰ってやるぞぉぉ……!!!』
 その大きな体の何処に、軽さがあるのかは解らないが。
 逆上した妖は先ほどとは違い、スピードを上げ、青に向かって走ってくる。
 青は怯むことなく、その妖に、雷光を再び投げつけた。
「……、…」
 背後で雷の音を聞いた早畝は、一瞬だけ振り返り、彼らを確認する。自分のために青やナガレが妖をひきつけてくれたのだ。失敗は出来ない。
(気をつけて、青…)
 心の中で呟いた後、早畝はその奥に居るだろう、生存者を救うために、姿を消した。
『ギャアァ…ッ 熱い…熱いィィ…!!』
「お前に中ててるんだ、当たり前だろ」
 青は叫びを上げている妖に向かい、そんな口調で言葉を投げつける。やはり、相手の空間では自らの力も上手く引き出せないようで、彼の機嫌は良い様には見えない。
(…キレると暴走するタイプだな…青は…)
 ナガレはそんな彼の、サポートについている。青の態度を見て、心の中でそんな事を呟きながら。
『…お前なんか、殺してやる…殺してやるぞぉ!!』
「……、ガタガタうるせぇなぁ…そんなに死にたいか下衆!」
 妖が形を崩しながら、再び青に襲い掛かってくる。
 手の中の雷光の様子を見ていた青だったが、その眼光を、妖へと向けるとバチバチと音を立てながら、また新たな雷を作り上げていた。
「ナガレ、吹き飛ばされんなよッ
 …これで最後だっ くたばれバケモノ!!」
 重いものを投げつけるような、勢いで。
 青は今までで一番大きな光の塊を作り上げ、妖へと殴りかかるかのように、それを飛ばす。
「…………!」
 さすがのナガレも、その強い光に、顔を逸らす。その際、ちらりと見た青の顔は、実に楽しそうに口の端を上げていた。

 ―――ズズン!!

「…うわ…?」
 遠くで感じた、地響き。
 それに体制を崩しながら、早畝は青たちがいる方向へと、顔を向けた。
「なんだ…またあいつが来るのか…?」
「大丈夫だから、俺から離れないで。仲間がもう、仕留めてる」
 早畝の周りには、姿を消した被害者と思われるもの達が五、六人程、いた。男女問わず、あの妖が食事用にと取り込んだものらしい。
 そして、その傍らには。
 既に息絶えているものも、数人転がっていた。生気を吸い取られ、亡骸は見るも無残な姿になっている。
 もう少し早く、この事件を知る事が出来たのなら。
 今更思っても仕方のないことだが、そう思わずにはいられない。
 早畝は生存者を自分の身を挺して守りながら、瞳を曇らせていた。
「あ、あれを見ろ…!」
 一人の男が、頭上を指差した。
 それに釣られて早畝も視線を送ると、ビシビシ、と大きな音を立て、無限とも思われるような空間に罅が入っていく。
 青とナガレが妖を倒して、この異空間も、解除されるようである。
「…もう大丈夫。此処から出られるよ」
 ふぅ、と溜息を漏らした後、早畝が被害者達にそう言うと、彼らは小さな歓声を上げながら、喜びを見せていた。
 事件は、解決した。
 早畝たちが全員、元の公園に出られた頃には、辺りは日も落ちすっかり暗くなっていた後だった。



「ご苦労様。芹沢くんも、お疲れ様だったね」
「……はぁ…どうも…」
 槻哉が青の背中をポンポンと、軽く叩いている脇で。
 斎月と他の特捜員たちが、救い出した被害者達を車に誘導させていた。おそらくこれから直属の病院へと搬送されるのだろう。中には衰弱している者もいるようで、担架も数台運び出されている。
 彼らは治療を受けたあと、おそらくこの事件での記憶は消されてしまうのだろう。槻哉の力によって。
「何落ち込んでんの? 青」
 スポーツドリングをがぶ飲みしながら、早畝がそう問いかける。
 青はかっくりと肩を落とし、視線を下に向けたまま、なのだ。
「……早畝、青も疲れてんだ。ゆっくりさせてやろうぜ」
 そんな青と早畝に、口を挟んできたのは、満身創意な状態になっている、ナガレだった。
 あの、爆弾の様な雷光が放たれた後――。
 妖は跡形も、断末魔の叫びも許されない間に、消し去ってしまったのだが。
 その爆風に巻き込まれ、ナガレも数メートル飛ばされてしまったのだ。受身を取っていたので、大した怪我は負うことも無かったのだが。
「ナガレ…本当に、ごめん…」
「大丈夫だって。死に掛けたわけじゃないんだし、気にすんな」
 青はナガレに視線を持っていくと、本当に申し訳無さそうな顔をしていた。
 我に返った青が、飛ばされていくナガレの姿を見て、何も感じない訳では無かったのだ。慌てて彼を追いかけ、その小さな身体を抱き上げ、何度も謝罪の言葉を投げかけた。
 しかしナガレは今のように軽く笑いながら、青を元気付けるだけで、何も変わらない様子を見せている。
 どうやら青は、怒らせると見境が付かないほど態度が悪くなるようだ。過去にもこれで失敗しているのか、正気に戻った彼の落ち込みようは、酷いものだった。
「芹沢くんはまだ若い。訓練をつめば、力のコントロールくらい、すぐに身につけることが出来る。それに今回だって、我々は君の力で救われたんだよ、もっと自分の力に自信と誇りを持ちなさい」
 槻哉が青に、静かながらしっかりとした言葉を伝えると。
 ゆっくりとながら、青はその顔をあげる。
「ボスの言うとおりだぜ。お前のその力は、誇れるものだ」
「……そう、かな…」
「ああ」
 呟くそうなその言葉に、ナガレが笑うと。
 青も、うっすらとだが、表情を崩して、槻哉とナガレに穏やかな笑顔を作り上げ、見せた。
 槻哉がその笑顔に、微笑を見せながら、頷く。
「…………」
 そんな彼らを黙ってみていた早畝も、ほっと胸を撫で下ろしながら、にこっと笑っていた。
「迷ったら、いつでもうちに来るといい。僕でよければ、君の力を見てあげることも出来る」
「……ありがとう」
 槻哉の言葉に、青は素直にそう言葉を返しては、頭を下げる。
 そして、自分もまた報告に帰らなくてはならないことに気が付き、慌てて携帯電話を取り出しながら、その場を後にするのだった。
「またな、青!」
 早畝の言葉に、青は背中を向けながら、片手を上げて、応えてくれていた。
「…おい、槻哉!」
「今行くよ、斎月」
 青を見送っていると、遠くから斎月が呼ぶ声がした。
 それに振り返りながら、槻哉は踵を返す。
 そして早畝とナガレも、それに続いて、歩き出すのであった。
 


【報告書。
 10月09日 ファイル名『神隠し』

 次元の歪み内を住処とする妖怪の類が引き起こした『神隠し』事件は、協力者、芹沢 青氏、そして早畝、ナガレの元、犯人である『妖』を消滅させる事により、解決。
 取り込まれていた被害者達を全員無事に取り戻す事が、最大の目的であったが、『妖』が捉えた者を食べるという生態を持っていたために、犠牲者もあった。
 最も反省すべきことではあるが、事件が表沙汰になるのが遅すぎた等の理由もあり、遺族の方々には理解してもらう外に無いと言える。その点も含め、我々に全てを任せてきた『組織』には、諫言することとする。
 
 以上。

 
 ―――槻哉・ラルフォード】 

 
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            登場人物 
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【整理番号 : PC名 : 性別 : 年齢 : 職業】

【2259 : 芹沢・青 : 男性 : 16歳 : 高校生+半鬼+便利屋のバイト】

【NPC : 早畝】
【NPC : ナガレ】

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           ライター通信           
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 ライターの桐岬です。今回は『ファイル-2』へのご参加、ありがとうございました。
 個別と言う事で、PCさんのプレイング次第で犯人像を少しずつ変更しています。

 芹沢・青さま
 再びのご参加、有難うございました。
 なるべく忠実にプレイングを生かせればよいなと思いつつ書かせて頂いたのですが…。如何でしたでしょうか?
 少しでも楽しんでいただければな、と思っています。

 ご感想など、聞かせていただけると幸いです。今後の参考にさせていただきます。
 今回は本当に有難うございました。

 誤字脱字が有りました場合、申し訳有りません。

 桐岬 美沖。