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九十九 一 |
【1252】【海原・みなも】【女学生】 |
ここではないどこか
今の話かも知れないし
今ですらないかも知れない
こう選択していたら
あの時選んでいたら
似ている世界
全く違う世界
夢うつつ
平行世界
まほろば
それすなわち『もしも』の世界
「もしこうだったらとか考えた事ある?」
「……そうだな、ああ言う出会い方してなかったらどうなってたんだろうとか?」
「何で疑問系?」
「いや、そっちはどうなんだよ」
「そうね……」
少し考えてから。
「年齢が逆だったら面白かったのに」
「………それで喜ぶのはごく一部だろ」
「……あなたは?」
話しかけたのは別の相手、急に話を切り替えられ驚きはしたが。
「そうだな、人だったらとか……考える、もしくは俺と同じでも良い」
「人をワーウルフにする気か?」
「なんだって良いんだ、別に」
「私は、あの時から術が使えてたらはっきり言えたのかも何て思ったり」
それは、他愛のない会話。
「何の話をしてるんだ?」
顔を出した相手に、同じ問をかけてみる。
「………度去年の万年遅刻ライターが真面目に仕事してくれたらいいとは思いますよ」
「うわ、痛」
最後に、もう一つ。
「どんなもしもが見てみたい?」
問いかけられたのはあなた。
どう、答える?
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IF 〜変化の巫女〜
深い深い海の底 光も差さぬ深い場所
たゆたう心。流れる心
理通じぬ海の中
微睡み包む 乱れた褥
遠く遥か 響く歌声
永久に終わらぬ 毎夜の 秘め事
変わり続ける 泡沫の 夢
ゆるりと目蓋を開く。
水になびく髪を撫で体を清める事から始まる御方に使える日々。
それはとても幸福な事です。
御方のためにお仕え出来て、おそばにいられて、生きていく事が出来るのですから。
深淵の巫女……変化を司る『変化の巫女』として、あたし……みなもは、色々な変化を用いてお慰めできるのです。その事がどれほど幸運な事でしょうか?
数いる人魚の中から選ばれた事。
御方に触れられる事。
褥を共にし、肌を合わせ、満足させられる事だけが私の全てである事。
「……………」
名残を清め、私は水の流れと一つになる。
たゆたう流れに身を任せながら、変化の巫女としての勤め以外にもなすべき事はあり、そのために今こうして様々な感覚を理解していくのです。
日によって違う物ですから、それらを感じる事から始まり、理解し、制御する事。
万物の粒子を制御出来るからこそ任された大切な務め。
御方の眠りが心地良いものであるように、安らいであられますように……丁寧に変化させていくのです。
もちろん私だけでおこなう事ではありません。
御方のための大切な事ですから、あたしの他の……流転の巫女や、他の方々と協力しておこないます。
万物の流れを繰り、御方の安らぎを。
夜ごとに続く快楽を。
巫女としてのあたしは変化の力を用いて御方を悦ばせる事。
決して退屈なさらぬよう、様々に姿形を変えて夜伽に使わせていただくのです。
何に化するかはその時の御方の気分。
望みを叶える事が出来るように、些細な事からも目を離さず……少しでも楽しんでいただくよう、少しでも満たされていただくべくどんな事でもするのです。
時には美女に……。
飽きる事のない程滑らかな肌も、透き通る青い瞳も、撫でたくなるほどの艶のある髪も……柔らかで豊満な体も全て。
全て、好むまま。
触れる手に従順になりましょう。
乱れる事を望まれればこの体の全てを使って手の中で踊る事もさせて頂きます。
望むままに、願うままに、どんな事でも、何にでも変わりましょう。
幼い姿を望まれるのであれば幼女にも、逆を試してみたければ老女にも。
望まれれば殿方にも変化します。
時には獣の姿を形取る事もありますし、無機物の人形になり得る事すら致します。
そのためなら何も躊躇う事はありません。
変化の巫女としての能力を用い、時の理を紐解き、時の粒子を制し古今東西・現在や過去やのこと……ありとあらゆる知識を得て、御方に愉しんでいただくのです。
至上の快楽。
かわされ続ける夜の宴。
ありとあらゆる姿形で交わり、様々な知識のままに乱れ堕ちる。
留まらぬ事。
変わり続ける事。
変化無きこの深き海に抱かれし快楽の褥の中に在る些細な変化。
例え御方にとってはほんの些細な事であったとしても、あたしにはそれが全て。
御方のためだけに
それが、変化の巫女であるあたしの務め。
流動し続ける日々に流れ込んでくる知識。
様々な事をあたしは知っています。
古から続く言い伝え。
隠された秘伝の行いや、年月をかけて培われ洗練された技術。
御方にお答えするべくあたしは色々な事を学びました。無知である事よりも、知っていた方がお役に立てるのだと解ってからの事です。
ここではない場所の知識。
人の多くいる土地の出来事。
地上での光景。
巫女としての勤めを終え、まどろみの最中に考えるのです。
夢とウツツの間に見るのは地上での出来事。
大抵は大きな一つの物としてしか見ない人々の暮らしも、細かく見れば興味を引かれる事もあるのです。
日が昇る事。
小さな積み重ねで変わり続ける事。
目まぐるしい程の人の波と乱雑とした街並み。
ここにはない光の海。
人の波。
さざめきのように交わされる会話。
変わり続ける街の中で、変わらないなにか。
ほんの僅かな間に生まれては消えていく人間という命。
どうしてなのでしょう?
とても短い命のはずなのに、得られる物は少ないはずなのに……とても楽しそうにしている人もいるのです。
変わらぬ日常。
かわされる他愛のない会話。
そのささやかな日常が大切なのだという事は解りました。
何時もと変わらぬ日常が、平穏である事が大切なのはあたしも同じなのですから。
だから時々思ってしまうのです。
もし、自分があの場にいたら?
微睡みながら考えたのは此処とは違う場所で、違う事を繰り返すあたしの姿。
起きるまでは同じ。
けれどそこからは全く別の行動。
地上での暮らし。
御方のいない場所で繰り返される日常。
この激しい快楽を知らないままに暮らしていたとしたら?
眠りに付くまでの心地よい気怠さを知らなかったとしたら?
堕ちる事を知らないままだとしたら?
ぞっと、しました。
御方を知らないあたし。
何も知らない、人であるあたし。
ふうっと脳裏に浮かんだのは、地上の御伽噺に書かれていたお話。
地上に恋いこがれ、声を失ってまで願いを叶えたのに、泡となり消えてしまう人魚姫。
あたしには解りません。
この心地よい水の中を捨ててまで、どうして地上に行こうと思ったのでしょう。
それほどまでの何かが、地上にあったのでしょうか?
怖くはなかったのでしょうか?
全てを捨て去る程に地上に焦がれた彼女をと魅了してやまない存在であった地上その物に惹かれると同時に恐怖します。
だって、そうでしょう。
変化の巫女であるあたしは……御方のためだけにあるのですから。
今はもう何も考えずに寝てしまう事にします。
目を覚ませばお勤めが始まるのですから。
聞こえるのは歌声のような沈黙だけ。
静けさを子守歌に、あたしは静かに目蓋を閉じました。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1252/海原・みなも/女性/13/中学生】
・みなも/変化の巫女
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■ ライター通信 ■
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IF依頼へのご参加ありがとうございます。
もしもの世界、楽しんでいただけたら幸いです。
今回はこちらのほうが良さそうだとの判断で一人称で書かせていただきましたが、如何でしょうか?
また何かありましたらよろしくお願い致します。
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