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■IF■

九十九 一
【1779】【葛城・伊織】【針師】
ここではないどこか

今の話かも知れないし
今ですらないかも知れない

こう選択していたら
あの時選んでいたら

似ている世界
全く違う世界

夢うつつ
平行世界
まほろば


それすなわち『もしも』の世界

「もしこうだったらとか考えた事ある?」
「……そうだな、ああ言う出会い方してなかったらどうなってたんだろうとか?」
「何で疑問系?」
「いや、そっちはどうなんだよ」
「そうね……」
 少し考えてから。
「年齢が逆だったら面白かったのに」
「………それで喜ぶのはごく一部だろ」
「……あなたは?」
 話しかけたのは別の相手、急に話を切り替えられ驚きはしたが。
「そうだな、人だったらとか……考える、もしくは俺と同じでも良い」
「人をワーウルフにする気か?」
「なんだって良いんだ、別に」
「私は、あの時から術が使えてたらはっきり言えたのかも何て思ったり」
 それは、他愛のない会話。
「何の話をしてるんだ?」
 顔を出した相手に、同じ問をかけてみる。
「………度去年の万年遅刻ライターが真面目に仕事してくれたらいいとは思いますよ」
「うわ、痛」
 最後に、もう一つ。
「どんなもしもが見てみたい?」
 問いかけられたのはあなた。
 どう、答える?

IF 〜家族編〜


 とある街のとあるご一家。
 多少不思議なようなそうでないような家族の、変哲のない日常。


 朝。忙しく支度を済ませ、階段を下りた羽澄にかけられるいつもの挨拶。
「羽澄ちゃん、おはよう」
「おはよう、ママ」
「コーヒー一杯だけ飲んでいく?」
「そうする」
 これから出かける先でご飯を食べる予定ではあるのだが、何も食べないでいくのは体に悪い。
 椅子に座って、リリィママに出されたコーヒーを一口。
「ん、おいし」
 砂糖とミルクの控えめなコーヒーはスッキリと目も覚めるのにとても飲みやすい。
「おっ、おはよう羽澄。どこかでかけるのか? 今日は一段とかわいいな」
 ドアから出て来るなりかなりの親ばか発言をしたのがりょうパパである。
「おはよう、パパ。所で仕事はもう終わったの?」
 すっかり慣れた対応で羽澄が返す。
「うお……ま、まだ……」
 がくりとうなだれ溜め息を付く。
「今日は外でご飯食べてくるから」
「友達とか? あんま遅くならないようにな」
 確認するりょうパパにリリィママが苦笑する。
「心配性ね、羽澄ちゃんなら大丈夫よ」
「帰る時にちゃんと電話するわ」
 ニッコリと微笑む羽澄に、トタトタと階段を下りる足音。
「おはよう」
「おはよ、お兄ちゃん」
「おはよう、ナハト」
「ああ、おはよう。そうだ、何ならナハトに送ってもらったらどうだ?」
「どこか出かける……みたいだな。車ならいつでも出せる」
 りょうパパとナハトの提案にやんわりと首を振る。
「大丈夫よ、それに駅で待ち合わせだから遠回りになっちゃうし」
「ナハトも仕事でしょう、時間はいいの?」
「………」
 リリィママに問われ沈黙。
「まあとにかく、変な男に気を付けろよ」
「解ってるわ、いってきます」
 飲み終わったコーヒーカップを流し台に置き、羽澄は家を後にした。



 そして、数時間後。
「ちょっとビックリしちゃった」
「そりゃ刺激的だな」
「何時もドキドキしてるのよ」
 目の前の相手…伊織にクスクスと笑う。
「何時彼氏がいるってばれるんじゃないかって」
「はっきり言えたらいいのにな」
 秘密にしているのは忍びないと笑う伊織に。
「私も言えたらいいと思うんだけど……パパもお兄ちゃんも心配性なのよね」
「凄いらしいよな」
 方や親ばか……もっと的を射るような言い方をするのならバカ親かも知れないし、兄であるナハトのほうも遺憾なくシスコンぷりを発揮しているのだ。
 お陰でガードが堅くて、こうしてあうのもなかなか大変なのである。
 その点リリィママは薄々感づいている所があるのか……今朝のようにこっそりと協力的なのが嬉しい限りだ。
「ええと、な。それで考えたんだ」
「………伊織?」
 口ごもる様子に首を傾げた羽澄に、伊織は意を決したように真っ直ぐに目を合わせる。
「俺、やっぱりしっかり言いたい。本当に羽住が好きなんですって、家族の人に認めて貰いたいんだ」
「……えっ!?」
 カァッと赤面する羽澄の手を取り、真剣に伊織が告げる。
「今日はきちんと言おうと思ってたんだ」
 朝からずっと考えていたのだと……指輪の入ったケースを渡す。
「結婚しよう、羽澄」
「………!」
「それできちんとお付き合いしてますって言いたんんだけど……駄目か?」
 嘘偽りのない言葉に、羽澄の返答は……想像通りの事。
「……はい」
 こくりとうなずいた。



 そして………プロポーズを受けた日とはまた別の日。
 返りにそのままいったのでは眉を潜められるのは目に見えていたから、しっかりと準備をしたほうがいいと羽澄が提案してこの日になったのだ。
 しっかりとスーツを着て、髪も整えているのだから、後は普段より少し立ち振る舞いに気を付ければ文句の付けようもあるはずがない。
 先に羽澄が家に入り、様子を見て伊織が逝くと言う事で家の外で待っていたのだが……。
「パパ、紹介するわ」
 開かれたドアに羽澄に続いてて出来た家族に緊張しながら、礼をして前を名乗る。
「初めまして、葛城伊織です」
 目が合った瞬間、一瞬にして一部の気配が凍り付いたのがはっきりと解った。
 笑顔のまま固まっている辺りなんて解りやすいのだろう。
 まだ怒り出しては居ないようなので、続けて自己紹介をする。
「羽澄とお付き合いを……」
「……羽澄?」
 兄だと教えられた人物、ナハトにすごまれて慌てて訂正。
「羽澄さんと、です」
「……って、お付き合いーーーー!!!」
「なっ!!!」
 力の限り叫んだりょうパパと驚くナハトにリリィママがやんわりと宥めにかかった。
「りょう、落ち着いて。ご近所迷惑よ」
「うっ……」
「………」
 二人を沈黙させてから、リリィママが。
「いらっしゃい、どうぞ上がっていってね」
「ありがとう、ママ」
「おじゃまします」
 リビングに通され、ソファーに座る伊織に突き刺さるような二人分の視線。
 リリィママがお茶を入れている間、目の前であからさまにかわされる父と子の密談。
「どうするよ……?」
 何か良い案はないかと考えるりょうパパの方をナハトがポンと肩を叩き首を横に振った。
「……ナハト?」
「このまま追い返したら羽澄が悲しむ、だから……」
「だから?」
「駄目だと判断した時にどうにかしよう」
「………そうだな」
 もちろんこの会話はしっかりと伊織にも聞こえている。
 駄目だと判断された場合どうなるのかはずっと不明なままでいたかった。
「なに言ってるのよ、パパ、お兄ちゃん」
 当然のごとく羽澄に怒られる父と息子。
「ごめんなさいね、きっと二人ともビックリしてるだけなの、悪気はないから」
 お茶を出すリリイママがニッコリと微笑む。
「いえ、そんな俺も電話も入れずにおじゃましてしまって」
「そーだ、そーだ……ええと、げふげふ」
「パパ?」
「りょう?」
 二人に見られて呆気なく沈黙。
 この家では、これが普通らしい。


 全員が席に着き、改めて挨拶をする。
「改めて紹介するわね、恋人の伊織」
 これで温度が数度下がったか、一気に暑くなったかしたような気はしたのだがリリィママがいるから大丈夫と羽澄が続ける。
「パパとママとお兄ちゃん」
 話は事前に羽澄から色々聞いているが、一応だ。
「お世話になります」
「はい、緊張しないでね」
「頂きます」
 入れて貰ったお茶を飲み、緑茶の良い薫りにホッと息を付く。
「………本当に付きあってるのか?」
「そうよ、嘘なんて付いてもどうするって言うのよ」
「……うっ」
 ここでドッキリでしたなんて言う意味の方が解らない。
「羽澄さんとは、真剣にお付き合いしてます」
「……伊織」
 頬を赤く染める羽澄と目が合い、赤面した理由が自分なのだと思うと伊織もほんの少し笑みをこぼす。
「本当の事だから」
「うん……」
 そこに慌ててはいる声。
「って、待てーーーーー!!!」
 慌てて顔を前に向ける羽澄と伊織。
 バシバシとテーブルを叩くりょうパパ。
 事の成り行きを見守っていたナハトが唐突に口を開く。
「羽澄の好きな色は?」
「……え、お兄ちゃん?」
 何を突然……そんなふうに首を傾げた羽澄に変わり伊織がはっきりと答えた。
「薄い水色」
「この程度は解って当然。一問でも間違えたら………好きな食べ物は?」
「トマトソースのスパゲティー!」
「次、趣味は!?」
「料理、この間食べたお弁当は絶品だった……」
 和食が好きな伊織のためにと作ってきてくれたのである。
「って、あれかぁ!!」
「………つ、次。靴のサイズは!」
 僅かにりょうパパとナハトが思い当たる節があるらしく、がくりと落ち込むも更に問いは続けられる。
「23cm」
「視力は?」
「両目共に1.5!」


 突発クイズ大会が繰り広げられている横で羽澄とリリィママ。
 どうしたものかと思い始めた羽澄に、リリィママが苦笑して。
「色々葛藤があるのよ。もう少しだけやらせてあげて、そしたら止めましょ」
「うん、解ってるけど………」
 何かあったら伊織を助けようと考えつつお茶を飲む羽澄に、リリィママが。
「どう、彼は優しい?」
「………とっても。それに信頼出来る人よ」
 幸せなのだと誰もが解る笑顔は、まるで極彩色の花のような微笑み。
「羽澄ちゃんが信じた人なら大丈夫ね。色々、話し聞かせて」
「うん、ママ」
 母と子で弾む会話。

 すぐ横とは別世界である。

「だったら……スリーサイズは!?」
「…………はち……っ!」
 答えかけ、慌てて口を閉じる伊織。
 フェィントだ!
 答えたら危険だと思っての事だったのだが少し遅かったかも知れない。
「………」
「………」
 嫌な沈黙………。
「知ってるのか、知ってるのか!?」
「いや、それは、その……」
 衿を捕まれ、ナハトにすごまれ始めた伊織に羽澄が慌てて止めに入る。
「だめっ、お兄ちゃん!」
「……うっ」
 怒られてから手を離し、下がるナハト。
「……って、パパ?」
 椅子に座っていたのに突然いなくなっているのだ。
「どこに……?」
「………あ」
 部屋の隅に座り込んでいるのがそうである。
「……パパー」
「ほらほら、いじけないで」
「うう、でも羽澄が…羽澄がー」
「りょう、しっかりして、後でケーキ作ってあげるから」
「……リリー」
 どっちが子供なのか解らない有様だった。
 それほど受けたショックは大きいらしいと言うべきか……何というか。
「……ええと、とにかく。父さんはああだけど俺は、まだ羽澄と付きあうかに相応しいか見極めてる最中なんだ」
 この期に及んでずいぶんと理不尽な台詞である。
「お兄ちゃんたら、まだそんな事言って。私の信じた人が信じられないの?」
「ち、ちがっ! そう言う訳じゃないんだ羽澄っ!!!」
 首を左右に振って弁解するナハト。
 彼らにして見れば突然現れた相手に大事な娘と妹を持っていかれるか否かの一大事なのだから、気持ちは解らない訳ではない。
「じゃあなに?」
「それは、その……」
「羽澄、良いかな」
「……?」
「ちゃんと言っておきたいから」
「……うん」
 意図を察した羽澄がうなずく。
 予想が付いたのか、リリィママは笑顔で、りょうパパとナハトは怪訝そうな顔をしていた。
「二人とも、ちゃんと聞いてね」
「………」
 再び全員が席に着き、今度こそと伊織が決意を固める。
 今日は、この言葉を言いたくて来たのだから。
「俺は、羽澄を愛してます」
「………!」
「この世の誰よりも彼女を必ず幸せにします…お父さん! 娘さんを自分にください!!!」
 テーブルに手を付き頭を下げる伊織。



 沈黙。
 思い思い沈黙だった。
 きっとそれは、嵐の前の静けさ。



「なーーーーーーーーーーーーー!!!?」

 ご近所中に響き大きな声で二人が叫んだのは、30秒後の事。

「恋人ってだけでも………っ! なのに、なのにっっ!!!」
「あー、あー、あーー!!」
「お兄ちゃん、伊織を睨まないで! パパも今さら耳塞いで聞かなかった事にしないでよね」
 騒ぎを止めようと羽澄が試みるが、暫くは治まりそうにない。
「ごめんなさいね、騒がしくて」
「いえ……でも俺のあの言葉は本当ですから」
「約束よ」
「はい」
 全員に認めて貰ってから幸せになれるように頑張ろうと、伊織は固く心に誓うのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1282/光月・羽澄/女性/18歳/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【1779/葛城・伊織/男性/22歳/針師】

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《娘》光月羽澄
《娘の彼》葛城伊織

《父》りょう
《母》リリィ
《兄》ナハト

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったんだなんて思わないようお願いします。

IF依頼、ありがとうございます。
今回は同一にさせていただきました。
遊びすぎましたでしょうか?
ドキドキしてます。