■茜の心を癒す人 【前編】■
滝照直樹 |
【3300】【楓希・黒炎丸】【かぶと虫型武者】 |
雨の中で、彼女は佇んでいた。
色々あったが、今まで支えて見守っていた幼なじみ織田義明に恋人が出来たこと。また、兄と思っていたが徐々に恋に芽生えつつある人物にも振られたこと。そして、己の運命が徐々に近づいてくる。
――「長谷神社の後継者」としての修行。
この状態では彼女はこの運命を受け入れられないだろう。
大きな事件が終わり、彼女は一人何かを考えるために家出してしまった。
暫くした後、家出をし知った長谷平八郎は必死に愛娘を捜していた。
茜は、知っている人の場所により着かず、路地裏で悪霊を退治していた。それはどう見てもやるせない気持ちを悪霊に当たっているだけにしか見えない。其れに隙が出来、悪霊の攻撃を受けて、倒れる茜。
あなたは、「危うい彼女」に出会った。
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茜の心を癒す人 前編
雨の中で、彼女は佇んでいた。
色々あったが、今まで支えて見守っていた幼なじみ織田義明に恋人が出来たこと。また、兄と思っていたが徐々に恋に芽生えつつある人物にも振られたこと。そして、己の運命が徐々に近づいてくる。
――「長谷神社の後継者」としての修行。
この状態では彼女はこの運命を受け入れられないだろう。
大きな事件が終わり、彼女は一人何かを考えるために家出してしまった。
其れを知った長谷平八郎は必死に愛娘を捜している。
茜は、知っている人の場所により着かず、路地裏で悪霊を退治していた。それはどう見てもやるせない気持ちを悪霊に当たっているだけにしか見えない。其れに隙が出来、悪霊の攻撃を受けて、倒れる茜。
あなたは、「危うい彼女」に出会った。
楓希黒炎丸は、路地裏で悪霊退治をしていた。実戦による武者修行と言うところだろう。
「世界制服にするにも、こう得体の知れない物があるとはな! 先が長い……ん?」
そんな時に、女の子の悲鳴を聞く。
「この霊気と妖気は只ならん」
急いで彼は走り出した
幸い路地裏なので、彼の姿を見て驚く者は居ない。
そこで、ポニーテールの少女が悪霊に襲われかけている所を目撃する。
「いかん!」
黒炎丸は魔刀『災機』を振るい、悪霊を引き離す。
「この少女、かなりの霊気だが……安定しておらん」
其れより、まずこの悪霊だな、と機械戦士は思った。
奥手の使うまでもなく、あっさり災機で悪霊を倒す。彼自身の属性とこの刀の魔力の呼応による物だ。
「さて、このままにはしておけないな」
彼は、少女と荷物を担いで、カブトムシのように雨の中を去っていく。
路地裏という陰気な場所に何故、この少女が居るのか分からなかった。
――まぁ、道場で治療すれば何れ起きるだろう。
彼の機械兵を育成する道場。その別室、つまりは客室。
布団もそこから借りてくる(なぜならごつごつした機械の身体では布団でなくメンテナンスルームだろう)。
「大した傷ではないようだ」
少し安堵した黒炎丸。少し絆創膏や包帯を巻いた程度だ。
「目覚めるまで時間はかかりそうだな」
と、彼は道場中央に向かって、新参機械兵の訓練や己の訓練に励むことにした。
気合いの声。
金属音。
何かが怒鳴る声。
「え?!」
茜は驚くように目覚める。
「も、戻された? エルハンドが探して? もしやお父さん??」
茜は混乱した状態で、荷物をまとめココから逃げようとする。
無理もない。自分の神社に「剣道場」があるなら、其の似たような声や音に敏感になるものだ。
「えっと、まだ“覚えている”呪文は……」
と、自分が今使える術を確認する。
廊下から足音。
「急いで逃げなくちゃ!」
と、呪文を唱えると同時であった。
黒炎丸がふすまを開いて、
「起きたのか? って何してんだ! おい!」
「……!?」
黒炎丸はいきなり怒っているが、茜は固まったまま。
目の前に大きな金属製プラモデル・ゴーレムが居るのだ。
しかも喋っている。
確かに友達には、かわうそ?と言うナマモノがいるのだが、このプラモデルもそうなのだろうか?
「あなたは……あなたは……」
一応、思考回路が戻りつつある茜、
「俺か? 俺はな……」
「SD(著作権の都合上中略)の1/1プラモデル?」
「違う!」
自己紹介する前に突っこむ黒炎丸。
「俺は、楓希黒炎丸だ! お前が危ないから助けたのだ!」
「え? 私、人工知能装備のプラモデル・ゴーレムに助けられたって事?」
「だから俺はプラモデルではない! れっきとした戦士だ!」
其れと、この少女に沢山そのへん(?)のことを訊きたい点があるのだが、今は置いておこうと考えながら怒る黒炎丸。
茜に小一時間、自分のことを説明する。
当然、礼儀としてお茶とお茶菓子は用意する。
「私は長谷茜。ありがとう黒炎丸。大体のことは分かったわ」
「なに、ついでだ」
何となくだが落ち着いた茜と会話している。
違和感はある物の、面白い。
異界の機械兵士であることとか、尊敬する人の事を話す。流石に世界制服の事は話さなかったが。
「機械世界はエルハンドから知っているけど、まさか本当にプラモデルが生命を持っている世界って驚き」
「だから其のプラモデルはヤメロというのだ」
どうも、茜は黒炎丸の事を生きているプラモデルとして認識してしまったらしい。
仕方有るまい、茜がぽつり、幼なじみがかなり子供の頃に持って組み立てていたのを見ている事を話していた事と、更には自分の父親も色々模型を持っている事も話していた。
「では、本題に入るが」
「何?」
「何故、大きな荷物を持ってまであんな危ないところに居たのだ?」
黒炎丸が訊くと、
「……」
茜は黙ってしまった。
少しは落ち着いたと思ったのだが核心の部分は言えないらしい。
「……事情を説明して貰わないと困るのだが」
「……ごめん、今は言えない」
「むう」
黒炎丸は考え込む。
彼を改造している人物にどういうものか訊きたいが、その人自体“いっちゃっている”し、“力”の属性が違うので相談相手には適していない。しかも紅い機体の腐れ縁や大鎌装備のライバルとでは馬鹿漫才(腐れ縁)か殺し合い(ライバル)になりかねない。
自分で判断するしかなかった。
「暫くココにいて、話したくなったら言ってくれればいい」
「ありがとう」
茜は礼を言った。
心からの感謝。
其れは黒炎丸にとって気持ちの良い物だった。
数日、彼女は眠り続けている。
黒炎丸と愉快な仲間達の考え方からすれば、
「我々でいうオーバーヒート状態で、かなりの休養、つまりメンテナンスかなんかで省電力モードになるロボ」
と言う事で落ち着く。
改造主さんから訊けば、
「その子疲れているから、そっとしておくのですよ〜。はい、薬と食事ですね〜。まさか、いきなり変な物渡さないですよ〜(苦笑)」
と、相変わらずの笑顔で黒炎丸に必要な物資を渡してくれた。
「人間の心や体とは難しいものだ」
黒炎丸は考え込んでいた。
ある日の朝である。
「目覚めたか? “死んだ”ように眠っていたぞ」
黒炎丸が起きている茜に言った。
「みたい、だね……。あれからどれぐらい時間経っているの?」
「……1週間だ」
「そっか……、アレが起動していたのね……」
「??」
「ううん、こっちの話」
「む? ならいいが……」
「あのね……」
茜は黒炎丸に悲しそうな、辛そうな顔で話を続ける。
「分かると思うけど、家出なの……」
そう、家出。
今の状態では幼なじみの織田義明、その友人、兄と慕う異世界の神・エルハンドや父親の平八郎の側にいられない。辛い為に。
その感情は、“世界”の“一つ”である“純真の霊木”にさえ及んでいる。
失恋したからと言うことで大きな心の空洞をもった状態では、自分の居るべき家には居られないのだとはなした。
「今はこれだけ、まだまとまらないから」
「いや、それだけでも話をしてくれて良かった。俺は戦士故に其の細かいことは分からないからな」
黒炎丸は、素っ気ない感じで言う。
「まだ本調子でないのだろう? 暫く休むがいい」
と、食事を置いて去っていった。
縁側を歩く黒炎丸は外をみる。
まだ雨は止まない。
「“世界”自身が涙を流しているというのか? 茜の話から察するに」
純真の霊木という強力な力を自分の主人に話せば嬉々としてそっちに向かいそうだが……。
――あっという間に神や父親に返り討ちに有って世界制服どころでなくなるから話さないでおこう。
それが、彼なりの主人に対しての忠義であった。
「世界は大きいな、そして人間の心も複雑だ」
黒炎丸は溜息をついた。
To Be Continued
■人物紹介
【3300 楓希・黒炎丸 5 男 異世界の戦士】
【NPC 長谷・茜 18 女 神聖都学園高等部/巫女】
■ライター通信
滝照です。
『茜の心を癒す人』に参加して下さりありがとうございます。
基本シリアスの流れが、妙な漫才になってしまったのは、思考混乱から来る茜の反応からです。
確かに私も昔はプラモデルを作っていましたから、その辺も融合していますけど。
今後中編行こうで黒炎丸様の行動次第で茜がどうなっていくか変わりますし、友情が芽生えるかどうかも分かります。
注意書きなど良く読んで、良き道を進んで下さい。
では、機会が有れば又お会いしましょう。
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