■かわうそ?と愉快な仲間達1■
滝照直樹 |
【2276】【御影・蓮也】【大学生 概念操者「文字」】 |
貴方の机に程よい厚みのある新書のような本が置いている。
内容はというと、織田義明や、長谷茜。かわうそ?……などの誰かと楽しく過ごしているもしくは喧嘩をしている物語。笑いあり涙あり、そう言った手合いだ。
彼らと一緒に過ごした思い出を書き留めたいなら、思い出すがよい。
その本は厚さに関係なく、白紙を埋めていく事だろう。
そう、思い出はいつもあなたの心にあるのだから……。
|
∞宿命を操るものとして
天空剣道場で、完全にボロボロ、ボロ雑巾の御影蓮也が突っ伏していた。
「だから止めた方が良いと」
友人の義明が、右手を三角巾で固定して溜息をついている。
「う、うるさい……! な、可能かコトできな……」
と、蓮也は言い返そうとするのだが、苦痛と疲労で気絶した。
「師も手加減しなくてはいけないじゃないですか? 順序がありますよ」
「本人の希望で特別だ。手を抜いたら信用してココの門を叩いた蓮也に失礼だ。お前だって飛び級だろう、義明」
エルハンド、師範代織田義明の落ち着いた言い合いは気絶している蓮也にも僅かに聞こえていた。
「何? 天空剣を」
「神格はなくてもやれる事はやっておきたいから。奇蹟をこの手に引寄せる為にも」
「うーむ」
蓮の間で蓮也はエルハンドに本格的に弟子入りを志願していた。ただ、いつも真面目なエルハンドは溜息をつく。
「運斬の完全消滅という事、そしてお前の恋人の定めを動かす為に習う事が動機。其れは分かる。もちろんお前が御影という運命自体を書き換える特殊能力者である」
「だから……」
「私が天空剣は、単に剣でなくそこに込める力に極意がある。お前が習うのは天空剣で最も恐ろしい“壊の技”の習得だ。人間だと間違いなく死ぬ」
すっぱりと言い切る。
「どうして?」
神に“最も恐ろしい”と言わせる技があるとは……。
「理屈で分かるとおもうか? 一定空間いや、世界に対して影響を及ぼす全ての事柄を“書き換える”もしくは“破壊する”。技の反動と世界の抑止力がお前を全て無に帰すだろう。私だってこの技は滅多に使わない……“世界を斬り裂く”事はしても、“世界を破壊”はしないと言うことだ」
「……其れは似ていませんか?」
「似ていない。何どうなるのか実戦でやるか。胴着は要らないな」
善は急げと言うのか、エルハンドはてきぱきと小太刀木刀二振りを異空間倉庫から引っ張り出し、一気に蓮也を連れて転移した。もちろん場所は長谷神社・天空剣道場。
其れが事の発端である。
それで、身をもって知ったこと。
“壊”と彼の“必殺技”は違うと身をもって痛感した。
“壊”は本当に運斬で運命の糸を斬り、それ以外の法則さえも斬り、そのあと編み直している。
構えた瞬間、吹っ飛ばされたのだ。神が一気に踏み込み打ち負かしたのではない。
「俺が“彼に踏み込んで一撃を与える”運命がまるっきり無い……」
そう、既にエルハンドは“壊の技”で運命を斬っていたのだ。
「これが運斬の基礎だろ?」
「あ、ああ」
「更には、全ての要因から来る構築式は蓮也自身に跳ね返るように書き換えた。何が起こったのか皆目見当着かないだろう?」
「げ! 卑怯!」
「それが、“壊”だ。一振りで森羅万象、運命という万物を塗り替え断ち切る」
エルハンドは息を荒くしていないが、力が無くなっている。抑止力が働いているのだろう。しかし其れも可能な限りで“壊”で書き換えて抑止力を無力化しているのだ。
「では次に“世界を斬り裂く”をお前に当てる……」
その言葉で蓮也は凍り付いた。
「あ、あの〜……それってやり……すぎでは?」
「実際にお前お力がどんなとんでも無いものかを知るには……実戦という事だよ」
エルハンドは、冷たく木刀で独特の構えをとった。
「う、わ、分かった」
構え直す蓮也。
可能性は見えている。ただ、其れを読み込んでエルハンドに立ち向かえる糸を見つけるも……。全ての要素が其れを絡め、隠し、見えなくしてしまった。つまり奇跡が起きない限り……、
「あの糸を引っ張り彼に面さえも与えられないのか……?」
「まぁ運良くすればかする程度と言うことだ」
「う……」
「そう言った先見能力がある分、厄介であろう……来い」
「……はい!」
構える。
「はじめ!」
義明が号令をかけた。
蓮也はあの糸が只隠れただけで“必ず当てられない”訳ではないのだと。
――“ワールド・スレッシング”
その言葉で一気に世界が変わってしまった。
「え?」
ある法則が書き換えられ、運命の糸も概念操者の能力が見えない普通の人になってしまった蓮也がそこにいる。
「あ、あまり変わらないんですが……? “壊”と……うわ!」
でも、違った。抑止力が働いていない。ココまで強大な技になぜ反応しないのか。
そして、エルハンドの残った技の剣圧で吹き飛ばされ、道場の壁にイヤと言うほど叩きつけられた。
「うう、いて……どうして?」
「書き換えたのは個々の世界の一部、つまりお前の能力を一時だけ見えなくしただけだ。それは1を0に書き換えただけ。ただ、“壊”はその1か0ではなく、規模の大小関わらず世界の大元全てを思うようにしてしまう。“世界を斬り裂く”に抑止力は働かない。其れは世界が“抑止力”と認めているためだ。ノアの箱船や数々の英雄が持った武器の力が根本にあるから“抑止力の一”なのだ。しかし“壊”の技は……世界の構築式にさえ手を加え破壊するのだ。つまり、先ほど私が抑止力を抑えていたのもある」
「む、難しいです……」
「同時に自分を抑止力からの驚異を抑え、物事を好きに書き換える事は神系列でも一部しかいないと言うことだ。人間が“壊”を使えば、抑止力を抑えて一時の世界に対し無敵状態になっても、目の前の相手には勝てない。世界を抑えたあとは力を使い果たした使用者だからな……」
「う……」
「少ししたら、お前の能力は回復する」
抑止力が働いてきたのか、珍しくエルハンドの顔に疲労の汗がにじみ出ており、義明と会話しているところで蓮也は気を失った。
で、その後。
一人で起きあがって身体の確認をする蓮也。時間治癒でもしてくれたのか身体には何の影響もない。しっかり基礎能力“概念”も“糸”も見えている。
「な、なんかエルハンドに諦めろと言われたようなそんな感じだ」
がっくりする蓮也。
「しかし、彼の言葉をしっかり理解できれば……何かつかめる」
「さて、そうというなら一般基礎技の模擬戦だ。」
抑止力から解放され、回復したエルハンドが木刀を持った。
構えて頷く蓮也。
そして、エルハンドは普通の剣術で、蓮也は己の力を全部引き出し、模擬戦に打ち込んだ。
「ああ、まだだ、もっと魂を研ぎ澄ますんだ。俺に神の力はない、なら神に無い力を魂の力を!」
「確かに神とて万能ではないが……単に絶対神は多元宇宙に存在しないだけだ」
軽くあしらわれ、叩きつけられる。
神格発動していない神の剣技は流石剣聖と言われるだけあり、若い蓮也を軽く(しかし厳しく)いなしている。結果、毎日ボロ雑巾。
「あだ名が増えたな。ボロ雑巾と」
「だまれ! 天然! しかもメモるなよ!」
「あーその元気があったら、師匠がもっと教えてくれるさ」
まだ三滝との戦いで右手を癒している最中の義明。
「よっぽど辛いのか?」
「反動だ。抑止力と思えば、ね。あの技は“壊”に近かったのだろう」
「うーむ」
人間の身にして神の力を持ってしまった不安定な友人をみて、
「こうしちゃおれないな!」
蓮也は立ち上がった。
そして、7日たつ。
ボロ雑巾が休憩中に考え事。エルハンドはシャワーを浴びているし、義明はある人とデートでいない。
その間にわかったのは、幾ら奥の手で運斬の効果を付与したとしても自分が上手く立ち回れるよう運命の糸を斬ろうとしたが糸は切れなかった。
「む、難しい」
壊の一部と言われたこの運斬。下手に扱えば、抑止力の餌食。抑止力自体はイレギュラーなのでその糸が見えない。
「ということは〜、あの英雄云々っていっていた“世界を斬り裂く”か……」
何かが届いた気がした。理屈でなく感覚。
「さて、また始めるか」
汗を流してきたのに、再開すると宣言する剣客。胴着ではなく、戦闘のマント姿だった。
「はい」
「それとだ、公式に門下生になるなら、師範もしくは先生と言え。あと義明を呼び捨て禁止だ。あれも一応師範代だからな」
「は、はい! 師範!」
そういって、お互い構える。
しかも、エルハンドはパラマンディウムを持っていた。
しかし、蓮也にはそんなことはどうでも良かった。
本気で来いと言う合図なのだ。
「行きます!」
踏み込む。
すんなり受け止めるエルハンド。力は使っていない。剣聖は愛剣を持てば、その力は更に増してくる。つまり。
蓮也の剣術は、この短い期間で、神の技に近づいている証という。神格が無くても、三つの技「斬、封、解」を使えるほどに。
間合いを開けたエルハンドは何と、“世界を斬り裂く”の構えをとった。
「そこで、その技!」
あの剣とセットで来た場合……死んでしまうのではと思うだろう。しかし蓮也にはそんなことはどうでも良くなった。
無の境地。
「その技は出させません!」
――ワールドスレッシン……
エルハンドの剣を、小太刀の木刀十字で受け止めている蓮也。
「防いだな。蓮也」
「え? ありがとうございます」
剣を収めた(というか消した)エルハンドは、蓮也の頭をポンポン軽く叩く。
「この技を受け止めるのは至難だろうに、良くやった」
「え? でも」
態と構えただけでは……? と言いたくなったが止めた。
本気で向かうはず。
技は何度も見せるものではないから。それ故に必殺技なのだ。
刀礼をして、ひとまず七日間の修練は終了した。
「ふむ、気付いていないな……。義明と変わらない」
蓮也の後ろ姿を見送るエルハンド。
今までの模擬と言うより“戦闘”レベルの修練で、あそこまで昇華出来たのは一重に恋人の運命を変えたいから。その結果、無の境地を得たのだ。
エルハンドは本気で“世界を斬り裂く”を使おうとしていた。
そこで、蓮也は、手元にない運斬で彼の技を少し遅らせた。そう……斬れないはずの“エルハンドに倒される糸”を傷つけて受け止めたのだ。
よって、その効果がご覧の通り。
技を出す前に、受け止められた。
「世代交代という事だな」
エルハンドは、遠くでごはんよーという可愛い巫女さんの声を聞いて、そっちに向かっていった。
蓮也は全く気が付いていない。
自分の手に、入れ墨の如く……『運斬』と書かれていることを。
其れは小さく、奇蹟への……力。
End
■登場人物
【2276 御影・蓮也 18 男 高校生 概念操者】
【NPC エルハンド・ダークライツ 年齢不詳 男 正当神格保持者・剣聖・大魔技】
【NPC 織田義明 18 男 神聖都学園高等部・天空剣剣士】
■NPC通信
エルハンド「ふう、茶が旨い」
茜「世代交代って、他に言いたいこと有るんじゃない?」
エルハンド「ない」
茜「ふーん」
エルハンド「前に言わなかったか? この世界で起きていることはその世界の者で解決せよと」
茜「ふーん」
エルハンド「勝手に思っておけ……(茶をすする)」
茜「まぁ負け惜しみ言う、エルハンドはエルハンドじゃないからね」
エルハンド「……」
|