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■スケープゴート?〜月を愛でませんか?■

葵 藤瑠
【1252】【海原・みなも】【女学生】
「月を見て跳ねるのは、何でしょう?」
 へらりとしまりのない笑みを浮かべた宇都波の質問に、真亜は動きを止めた。
 真意を確かめるように浮かべられた笑みをじっと見て、それから何事もなかったようにビーカーに珈琲を注ぐ。
「飛び魚」
「飛び魚は月じゃなくても跳ねてるよ。――ありがとう。うさぎだよ。うーさーぎー」
 淹れて貰った珈琲を受け取り、宇都波は嬉しそうに笑った。
「もうすぐ満月でしょ?」
「兎と満月とどういう関係があるんですか?」
 宇都波との会話が成り立っているような成り立っていないような、曖昧さはいつものことだ。
「月見をしないかい?」
 壁に掛かったカレンダーには、もうすぐ十五夜だということが示されている。
 すすきを立てて団子を飾り、月見と洒落込むのは別段問題は無いが、どうしてそこに『兎』が出てくるのか。
 そういえば、と真亜は記憶を思い起こす。
 ここ数日、宇都波は何やら研究中ではなかっただろうか。
 部屋から出てきたのは……。
「今度は何を作ったんですか?」
「うさぎと狼になれる薬」
「……狩る者と狩られる者ですか……」
 月見所じゃないだろう。
 妙な所できっちりしている宇都波の作った物ならば、性質すらその動物になりきってしまうはずだ。
 なんて恐ろしい物を作るのかと恐れ半分呆れ半分、言葉を失って真亜は宇都波を見る。
「姿形が変わるだけで、害はないよ。月の光を浴びている時だけね。真亜くんが希釈液を作れば良いんだし」
「どうしてもっと他のことに情熱を傾けないんですか」
 道楽ばかりに気を向けて、世界に認められるような研究は一つもしたことがない。
「真面目にやったって面白くないしつまらないし、第一真亜くん付き合ってくれないでしょ?」
「……」
「今回は僕が募集要項貼ってくるから、後はよろしくね」
「ちょっと待って下さい。俺が希釈液を作らず原液を飲んだら、どうなります?」
「狼や兎の姿で、人語を話すよ。団子の串が持てないね」
「……すみません、そこまでして月見をする意味は?」
「凄く可愛いと思わない? バニーちゃん」
 最悪だ。

「ちょっと待って下さい。薬の成分と材料は?」
「それは自分で調べること。真亜くんのことだから直ぐに判ると思う」
 テストを兼ねているといわんばかりの宇都波の言葉に、真亜は怪訝そうに眉を顰める。
「助手より右腕の方が聞こえは良いよ」
「どちらにせよ教授の尻拭いじゃないですか」
「あはは」
 そうとも言うね、と朗らかに笑いながら、宇都波は出ていく。
 信頼されていると思って良いのか試されていると気を引き締めた方がいいのか。
 いずれにせよ、早々に手を付けた方が良さそうである。



 月見て跳ねる兎や、月見て興奮する狼になって、一緒に月見を楽しみませんか
                                     』
 
××××××××

こんにちは、葵藤瑠です。
ぶっちゃけて言えば兎耳や狼耳を付けて、一見「コスプレ月見会」をしましょう、て感じです。
ほのぼのとした雰囲気で。
スケープゴート?〜月を愛でませんか?

 狼と兎の外見になれちゃう薬を、道楽で作り出した羽柴教授。
 今回は実験をするのではなくてただ単に月見を愉しみたかっただけである。
 月に関係する動物になればもっと楽しくなるだろう、という安易な考えで実行されたそれは、天気が味方をしてくれたようで、その日は朝から晴れが続いていた。
 そのまま飲んでしまったら人語を話す動物へ変身してしまうその薬の希釈水は助手の真亜が作ることになってはいるようですが……?

 ◆ ◇ ◆

「こんばんは」
 何やら大荷物を持って、海原みなもが羽柴邸を訪れたのは夕刻。
「はいはーいっと、海原さん。久しぶり、元気そうだねえ」
 出迎えた宇都波は以前の実験に付き合ってくれたみなもを覚えていた。
 また会えて嬉しいよ、と普通に聞けばキザったらしい科白も、宇都波では子供の素直な感想だ。
「はい、羽柴さんもお元気そうで何よりです。ところで今回は月見と聞いて来たのですが……」
「うん、中秋の名月って奴を愉しもうって企画。で、その荷物は?」
「お団子作ってきたんです。あとお茶と……浴衣も持ってきたんですけど、着替える所とかありますか?」
 きらん、と宇都波の目が輝く。
「浴衣っ! 部屋は沢山あるから好きな所使って良いよ」
 浴衣でウサギ耳。
 それにお団子まで付いている。

 妄想して、宇都波は幸せそうに笑った。



 前回お茶会をしたテラスのテーブルを廃し、気分が出るようにと縁台が置かれている。
 視界を遮る巨木もなく、晴れ渡った空は段々と闇色に染められていく。
 早速浴衣に着替えたみなもは縁台に持参した団子を並べた。
 普通の白い団子と草団子風の緑色、あんこ入りの三種類。
「これ、海原さんが作ったの?」
「はい。集まる人数が判らなかったので多少多めに作ってきたんです。お茶も持ってきたんですが……」
 グラム千円くらいの普通の奴なんですけど、と大きめの魔法瓶を持ってみなもは少し困ったように眉を下げた。
 台所の場所が判らず、湯飲みの用意が出来なかったのだ。
「有り難うございます。今回はそういう準備、全く出来なくて」
 責めるように宇都波を一瞥し、お盆に湯飲みを人数分持ってきた真亜は何故か頭にタオルを巻き付けている。
「あ、ありがとうございます」
 妙に機嫌が悪そうに見えるが、以前会った時も無愛想だった真亜だ。みなもは礼を言ってお盆を受け取るとお茶を淹れる。

「こーんばんはー」

「あぁ、お客様のようですね」
 来客を知らせるチャイムと呼びかけの声に、真亜は後をみなもに任せると玄関へ行く。
「ペットの兎連れてきたんですけど、大丈夫ですか?」
「酒が飲めると聞いて来た」
 人の良い笑みを浮かべて青いリボンの兎で窺うシオン・レ・ハイと、流飛霧葉が連れ立って立っていた。
 どうやらこの二人も宇都波の張り紙を見て来たようだ。
「……あぁ、えぇ、はい。大丈夫です」
 まだ薬は出回っていないはずなのに、と驚愕したようにシオンの連れてきた兎を凝視していた真亜は、数秒思考が飛んでいたが直ぐに我に返った。
 シオンはペット、と言っていたのだから薬をうっかり飲んじゃった人では無いのだ。
 安心すると同時にそっと頭に巻いたタオルに触れる。
「月見の話で、酒盛りも入っていました?」
 どう見ても未成年に見える霧葉の言葉に質問を返しつつ、二人を案内する。
「書かれていなかったけど、月見酒は基本だ」
「日本酒で良いですか?」
「飲めるなら何でも」
 法律に厳しい輩が居るわけでなし、自分も相伴に預かろうと真亜は酒の準備をする。


「こっちの青いラベルが狼、こっちの赤い方が兎です」
 各ラベルの貼られたコップが三つずつ並べて盆に置かれていた。
 同じ盆にはラベルの貼られていないコップも乗っている。
「これはまだ原液です。無味なんで水と変わらないんですよ」
 ラベルの付いた方も無色透明で、水と言って出されても何の違和感もなく飲んでしまいそうだ。
「流石ウサギっ! 月見て跳ねてるね〜っ」
「いや〜、連れてた甲斐がありますよ」
 シオンの連れてきた兎が放されてぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
 嬉しげな宇都波とシオンは、真亜の説明を聞いていない。
 草むらで何かを見つけたのか、兎は鼻をひくひくさせている。
「じゃあ、私は青い方を貰いますね」
「俺は赤」
 手を伸ばして青いラベルの付いたコップを手に取り、みなもはその水面を眺める。
 毒では無いのは判っているが、ただの水でもないことも知っているので少しためらいがちに口に運ぶ。
 一方、霧葉は何の感慨もなくぐいっと一気に飲んだ。
 味は無い。
 酒を飲む前の胃馴らしのようだ。
「……」
 別段何の違和感も感じられず、我が身に起こった変化は肌では感じられない。
 だが、何とはなしに頭に伸ばした手が、長い耳を引っ張った。
「……月見酒」
 くれ、と。
 兎耳を見事に生やして、霧葉は真亜に手を差し出した。  

「私はこっち貰いますねー」
 喉が乾いたと言いながら、シオンはラベルの付いていないコップに手を伸ばす。
「あ、シオンさんそれは……っ!」
 真亜が言い終わる前にぽん、と軽い音がしてシオンが立っていた場所に兎が現れた。正確には、シオンが兎になってしまった。
 シオンが連れてきていたペットの兎が、現れ出たお仲間を確かめるように匂いを嗅ぐ。
「面白いですねー、本物の兎だ」
 宇都波に鏡を向けられて全身を確かめ、シオンはぴこぴこと長い耳を動かしてみる。ペットの兎はご主人様を仲間だと認めたのか、寄り添って同じように耳を動かして見せた。
「あれ? そういえば古手川さん何か言いかけてませんでした?」
 ペットの兎と一緒に飛び跳ねていたシオンが思い出したように真亜を見る。
 くりくりとした円らな瞳が、愛らしい。
「いえ、別に」
 本人が楽しそうなので、真亜はもう何も言うまいと口を閉ざす。言葉使いと声はシオンなのに、外見は愛らしい黒兎のミスマッチにも目を瞑る。
「はい、兎さん達もお団子どうぞ」
 くすくす笑いながらみなもは皿に乗った団子をシオンの前に置いた。
「お、これはどうも有り難うございます」

 兎の手は、串を持つのには向いていない。

 苦心して両手で一本の串を持つことに成功し、不安定にぷるぷる震える串を口元にどうにか運んでシオンは気付いた。
 兎は出っ歯だ。加えて口の周りは毛だらけだ。
 口を開けて団子を囓ろうと首を捻った瞬間、串は団子の重みに耐えかねて地面にぼたりと落ちる。
「………っ」
 団子を食べにやってきたというのにこの仕打ち。
 さっきまで元気いっぱいに立っていた耳が、情けなく垂れ下がった。
 心なしか肩もがっくりと落ちている気がする。……肩があるのならば。
「シオンさん、これ」
 堪りかねて真亜は希釈水をシオンに差し出す。コップは持てないので、真亜が飲ませてやる。
 またまた軽い音がしたかと思うと、人型に戻れたシオンは目を瞬かせた。
 自分の顔を触ってみて、頭に付いた耳を引っ張って、
「痛っ!?」
「えぇ、痛覚はありますよ。普通より聞こえやすいでしょう?」
 飾り物ではなく、本物の兎の耳だ。本人の意思を感じ取って、ちゃんとぴこぴこ動く。
「えぇっ!? 何で海原さん狼なの!?」
「え? 狼なら、積極性だとかも身に付くかな、と思いまして……」
 女の子の浴衣で兎耳なバニーちゃんを勝手に期待していた宇都波は、狼の耳と尻尾をゆぅるりと動かすみなもに、あからさまに落胆した。
「──まあいいや。僕もお揃いで狼になって、兎な真亜くんを追い回そう」
 気落ちするのも早ければ、復活するのも数秒だ。

 雲が懸かれば朧月。
 余計な灯りを点けなくとも、月明かりだけで充分明るい。
 縁台に腰を落ち着けて月を見上げながら杯を傾ける霧葉は、人の気配を感じて顔をそちらへ向けた。
「隣、良いですか」
「………」
 明確な答えはせずとも、少し横へ寄ったことで了承を現してくれたのだと知れる。
 自分の分を杯に注ぎ、真亜の持つコップにも一升瓶を傾けて中身を注ぎ、霧葉はタオルの巻かれた真亜の頭を眺める。
「お前は飲まないのか?」
「飲みましたよ、間違えて」
 どうせ変わるなら狼、と希釈水をどうにか作った後に試しで飲んでみた。
 灰色の長い兎耳が生えた。
「どうして隠す?」
 真っ白な兎耳の片方を細かく振り、霧葉は首を傾げた。
 自分で見せられないような物を人に飲ませたのか、と。何となく責められているようだ。
 霧葉としては単純な疑問だったろうが、何処か後ろめたい真亜は勝手に罪悪感に駆られてしまう。
「……えぇ、そうですね。性別は男だから狼だろうという先入観を持っていました」
 けれどシオンも霧葉も進んで兎を選んだし、女性であるみなもは狼である。
 隠すのもバカらしくなって、真亜は巻いていたタオルを取り外した。
「なかなか似合う」
「お世辞でも余り嬉しくないです……」

 可愛い、などと言われるよりはましか。



 こんな機会は滅多にない。
 気が向かなければ作ることすら考えないわけだし、なかなか好評のようだと宇都波は満足そうに実験の成果を眺める。
「記念に一枚、撮りませんか?」
 妹からデジカメを借りてきたのだと、みなもが切り出す。
「良いですねえ。こんな機会滅多に無いですから」
 ペットの兎と色違いの長い耳を付けて一緒にお月見なんて、この先出来るかどうか判らない。
 団子とお茶に舌鼓を打ちながら、にこにことシオンが頷く。
「僕が撮ってあげようっ」
 はたはた尻尾を振りながら、宇都波が手を挙げた。
 兎耳を生やした男性三人に囲まれて、狼の耳を生やした女性が一人。
 何とも奇妙な組み合わせである。

 シオンや霧葉と違ってあまり記念に残したくないらしい真亜が、それ以降のカメラマンを申し出た。
 人のカメラなのでそう制限無く撮ることは出来ないが、それでも数枚、撮らせて貰う。
「そういえばこの効果、いつまで続くんでしょう?」
 数時間経った頃、みなもが思い出したように問う。
「永久にってわけにはいかないかなぁ。強いて言えば月明かりを浴びてる間?」
 かなぁ、と、制作者の割に宇都波の返答は曖昧だ。
「月光を浴びてる間だけって、まるで月下美人と同じですねえ」
 シオンの言葉に、宇都波はぽんと手を叩く。
「じゃあこの薬、『月下美人の妙薬』と名付けよう!」
「効果的に詐欺ですよ」
 狼と兎の耳と尻尾が生えてくるのが月明かりを浴びている間だけだから、と何とも安易な命名だ。
 しかも月下美人のように甘い芳香を身に纏うわけでもないし、月下美人の花とは大分かけ離れすぎである。


+  +  +


 真夜中を過ぎた頃、月見会はお開きにしようかという話になった。
 いつの間にか耳と尻尾が消えている。
「あ、古手川さん。この薬ってこの後どうするんです?」
 月見をするために作られた薬は、狼になる薬の原液がまだ少し残っている。兎の方の原液はシオンが飲んでしまっていた。
「他に使い道はありませんし、処分するかお蔵入りだと思いますけど……。必要ならば差し上げますよ」
「え? 良いんですか?」
「えぇ、海原さんにはお団子とお茶を持ってきて戴きましたし、この薬、悪用しようとしても無理ですから」
 姿形が変わるだけで、特にこれと言った特別な変化が無い。それに、みなもが悪用するとは思えなかった。
 本当は狼の扮装を作れそうなら教えて欲しいと思っていたみなもだが、複数の薬を混ぜて薬を作り出すのは少し難しい。
 希釈水で薄くした薬を、みなもは分けて貰った。
 宇都波に許可は取らなくても良いようだ。やはり此処の実権は真亜が握っているも同然である。
「お団子、お土産に貰って行っても良いですか?」
「良いんじゃないかな。海原さんが沢山作ってくれたから」
 五人で食べてもまだ団子が残っている。
 種類を混ぜて、シオンは鼻歌交じりにお土産にとパックに詰める。
 明日の彼の朝ご飯になるのかもしれない。
「じゃあ、俺も……」
 団子を食べるより酒を飲む方が多かった霧葉も、お土産に団子を貰うことにした。
 酒のつまみに、帰宅後頂くつもりらしい。
「それでは、お邪魔しました」
「ご馳走様でした」
「世話になった」
 それぞれお土産を手に、羽柴家を後にする。
「それじゃあ、またね〜」
 近くまで一緒らしい真亜がみなもを送ることになったので、片付けは宇都波が任された。
 が、普段の雑用を真亜に任せている宇都波はそのことをすっかり忘れて皆を笑顔で見送った後、清々しい眠りの世界に落ちたのであった。

 次の日、真亜がいつものようにやってきてその有様を目にしたら………。


 ご愁傷様、と言ってあげると(ある意味)泣いて喜ぶかも知れない。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)     ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【 1252 / 海原・みなも   / 女 / 13歳 / 中学生 】
【 3448 / 流飛・霧葉    / 男 / 18歳 / 無職 】
【 3356 / シオン・レ・ハイ / 男 / 42歳 / びんぼーにん(食住)+α 】

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■         ライター通信               ■
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この度は「スケープゴート?〜」にご参加ありがとうございます。
初めましてとこんにちはです、葵藤瑠です。

みなもさん:二度目ましてです♪ 「浴衣でバニーちゃん」は宇都波の夢と消えましたが(笑)狼の耳や尻尾も意外と似合うと思います。困ったように耳を伏せられたら、男性はイチコロだと思います(ぇ)

霧葉さん:明瞭簡潔なプレイングに感動すら覚えました。無口キャラは好きなのですが、存在を巧くアピールさせようと修行中です。どうでしたでしょうか。霧葉さんは、気負い無く動かせたつもりはあるのですが……。

シオンさん:バニーおっさん、にウケました(爆)個人的にはシオンさんの兎耳姿が一番美味しいと思います(本気) 人語を話す、姿形は完璧な黒ウサギとなって頂いたシオンさん。書いていてとても楽しかったです。

男性PCのお二方は兎、女性PCの方が狼という、少し予想外な展開でしたが、書いていてかなり楽しめました。
有難う御座いました。
また何処かの世界でお会いできましたら、どうぞ宜しくお願いします。