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■文月堂奇譚外伝 〜ウサミミぱにっく再来〜■

秋篠みなみ
【1252】【海原・みなも】【女学生】
「そろそろ、これをなんとかしないといけないわね…。」

 古書店文月堂の店の中で一冊のしまい込まれた『人中魔妖』と表紙に書かれた本を見て佐伯隆美(さえき・たかみ)は小さくため息を付いた。
その本は以前呪いの封印が解けかけて、その本の周りにいた全員にウサミミを生やすという珍騒動を引き起こした呪いの封印が掛かった本であった。
そしてその時の最初の被害者が誰を隠そう今ため息をついた隆美であった。
彼女はその本にできるだけ触るのを避けながら、近くにいた義理の妹である佐伯紗霧(さえき・さぎり)に声をかける。

「と、いう訳で、私はこの本の再封印を神社に頼んでくるけど、その時の対応は紗霧あなたに頼むわね。」
「ええ?わ、私に頼むって、ひょっとしてお姉ちゃん逃げるの?」
「え?そ、そんな事はないわよ、多分その日は約束がありそうなそんな気がするのよ。」

 珍しく紗霧の勘があたり、どう聞いても言い訳にしか聞こえない事を話す隆美の嫌がる気持ちは確かにわかるのだが、と思わず心の中で苦笑してしまう紗霧であった。
前に隆美の話した通り手続きは全部隆美が整え、再封印を頼むその日がやってきた。

 最初は文月堂に縁の深い秋篠神社に頼もうと思っていたのだが、丁度手のはなせない事件があるとの事で、秋篠神社からの紹介で松原神社という神社を紹介してもらいそこの巫女、池永すみれ(いけなが・−)がやってくる事になった。

 その当日、禊をすませたすみれが文月堂の裏手にある小さな庭に小さな祭壇を作り、そこにすみれは『人中魔妖』を収める。
そしてまずは一旦こじれた封印を一時的に解き再封印をする為に祝詞を唱えはじめる。
すみれが祝詞を唱え初めてしばらくして『人中魔妖』がぼうっと光り始める。
それを見たすみれは、『ふうっ』と一息つく。

「これで一応封印の解除は出来たわよ。
何か呪がこんがらがっていて少し大変だったけど、無事に出来たと思うわ。
でも、隆美さんが言うような事は何も起きないじゃない。」
「で、でもあの時は本当に大変だったんです。」

 本の事を隆美に任された紗霧は、その時の状況をすみれに本日になってから何度目だかの説明をはじめる。
すみれはその言葉に『さすがにもう良いよ』という感じで紗霧に手を振った後、何気ない気持ちで『人中魔妖』を覗き込む。

 まさにその時であった。
『人中魔妖』の中から一匹の光の兎が飛び出しすみれの中に入っていったのは。
そして、そのほかにも光が数本『人中魔妖』から建物の外へ飛び出して行き、その中の光の筋の一本が紗霧に入っていった。

 そして光が収まった頃にその場には黒いウサミミの生えた紗霧と、白いウサミミを生やしたすみれが走って文月堂から出て行き裏山の方向へ向かって行くところであった。
走っていくすみれのお尻には紗霧には無い、可愛い兎の尻尾らしき物が生えているのが見えていた。

 そして街では、先ほどの光が当たった人の頭にウサミミが生えているという騒動がおきていた。

 その騒動の間をすり抜ける様に、普段の彼女から比べるとやけに早く、そして時々道に迷いながらも裏山に向けて走って行くすみれの姿と、彼女の後を追う様にかなり離されて走る『人中魔妖』を片手に持った紗霧の姿があった。

「す、すみれさん、待ってくださいよ。急に駆け出してどうしたんですか……。」

 すみれの後を追いかける紗霧は急に駆け出したすみれについて、訳が判らないといった様子でとにかく後を追いかけるのであった。

To Be Continued...

(原作・OP文章:藤杜錬さん)