■魔女の館〜冷獄の監〜「CASE・1“雪月花”」■
鳴神 |
【3099】【ミナ・ロスト】【 】 |
“己は何者なのか?”
青年は、問う。
あの病院から搬送されて来て早や一週間…『魔女の館』という店に厄介になり、それだけでは悪いからと、店の経営方針である『実践魔術講座』の講師として手伝いもしている。
しかし、ふと思う事がある。
“己は、何者なのか…?” と。
自分自身に関する記憶はない。名前すらも、何処で何をしていたかも思い出せなかった。まるで、その辺の事だけが頭の中からすっぽり抜けている感じだ。
なのに何故…魔術に関する知識が失われていないのか?
自分の『記憶』の中に在っただろう魔術知識を反芻してみる。
それ等をノートに書いてみる。…此処まではいい。恐らく、以前の自分もこうしていただろう。だが…
魔術の発動は、できない。
青年は、『自分』の中に違和感を覚えた。
自分には、『魔力』が無い。
知識だけ有って、しかも それ等を有効に活用できない…
何なんだ、これは。
こんな状態では…自分は魔術師として失格だ。
俺は……
誰の役にも立てない。
そう、一緒にこの店に運ばれてきた…二階の寝室で寝込んでいる“彼女”…スタンウェル・パーペチュアルという仮の名を付けられた少女の事も。
彼女が自分にとって大切な存在である事は判るのに。
彼女だけではない… このまま店の方に居ても、ただ相手に迷惑が掛かるだけだ。
だったら、居ない方が……。
幾度となく繰り返す、ジレンマ。
青年は… 『イサーク』という仮の名を授けられた男は、焦っていた。
記憶が無いこと自体が悲しいのではない。
ただ… 自分が此処に居ていいのか、己の存在意義はあるのか、迷っているだけだ。
冷気の中に閉じ込められた街を徘徊して、色々と考える事に疲れたのか…イサークは、雪が積もり始めて人が居なくなった公園のベンチに腰を下ろした。
そこに、上の方から声がかかる。
「よぉ。気分はどうだ?呪術師」
「…!?」
目の前に現われたのは、豹の背に羽根が生えた悪魔に跨った男。
全身を包帯で覆い隠しており、表情は判らない。
この男に見覚えはない。しかし、男の方は自分を知っているかのような素振りだ。
イサークがそれを問いかけようとした途端、周囲の空気が淀み始めた。
それに合わせて、豹のような悪魔が吼える。
男は言った。
「悪いが、これも任務の内でね…。単刀直入に言おうか。死んでくれ」
淡々と、まるで、茶でも一杯貰おうか?ぐらいの軽い口調で告げる。
公園に集まってくる悪魔の群れ…10数体は居るだろうか、とてもじゃないが自分一人では対抗する手段がない。
どうする… どう動く?
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