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■人形博物館へようこそ!■

日向葵
【2334】【セフィア・アウルゲート】【古本屋】
 東京某所にあるアンティークドール博物館――かつては個人所有だったものをそのまま人形博物館として使っているそこは、雰囲気たっぷりの白い洋館で周囲のレンガ塀には蔦が覆っていて、昼に見れば綺麗だけど夜はちょっと恐いかも……。

 一見すればただの博物館。けれど、実はここには十人の動くお人形さんが住んでいます。
 普段はきちんと展示物のお人形さんをやっている彼女たちだけれど、実はみんな退屈しているのです。
 もちろん、下手に騒ぎを起こして幽霊だのなんだの言われたくはないですから、退屈でも我慢してじっとしてます。
 ときどき、夜中に抜け出したりもしてますけれど。

 でも……もし、妖怪だとか幽霊だとかを信じていて怖がらない人が目の前に現れたら。
 そうしてその人が話しかけてくれたら。
 お人形さんはきっと返事をかえしてくれるでしょう。
 だって、一日中ずぅっと喋らないでじっとしてるのって、結構大変なんですよ?
人形博物館へようこそ!

 セフィア・アウルゲートは悩んでいた。
 その原因は、先日起こった人形博物館での騒動である。
 アデライトという名のお人形が、人間を恨むあまり元より博物館にいた人形たちの意識を封印してしまったのだ。
 なんとか騒ぎは収められ、アデライトは人形博物館に居付くこととなった――元々展示品として連れてこられたから、勝手にいなくなられると盗品騒ぎになるのだけれど――の、だが。
「嫌われてたらどうしましょう……」
 ミニセフィアがぽつりと呟く。
 どうしてもアデライトが気になって仕方がなかったセフィアは、騒ぎの時、アデライト側についたのだ。
 今は両者の間は一応和解しているとはいえ……感情論は別物。
「でも、みんなと仲良くしたいですよね」
 そう答えたのは別のミニセフィア。――現在小さな分体が三人いるのだ。
 面と向かって「嫌い」だなんて言われたら、ショックで十年以上は棺桶の中に閉じこもってしまいそうだけど……。
 だけどその後どうなったのかも気になるし、いろいろと協力してくれた館さんにお礼も言いたい。
 それからそれから、やっぱりアデライトも含めてお人形さん皆と仲良くなりたい。
「お人形さんたちと仲良くできて、館さんにもお礼できる方法、思いつきましたっ」
 しばしの沈黙ののち、ミニセフィアの一人がぽんっと笑顔で両手を打った。
「なあに?」
「どんな方法?」
「お掃除ですっ!」
 そう。
 館が綺麗になればきっと館さんは喜んでくれるし、お家を綺麗にしたら人形さんたちも喜ぶだろう。
 それからさらに、計画を煮詰めるために話し合った時間は半日ほど。
 ミニセフィア二人は、こっそりと人形博物館に向かったのであった。

◆ ◆ ◆

 ――夕方の人形博物館。
 平日だし、そろそろ閉館時間であるということも手伝って、中にいる人間は従業員くらいのものであった。
「こそっと……こそっと……」
「こっそり……こっそり……」
 そろそろと見つからないように気を付けながら、お人形さんがいない部屋の窓に向かう。
 幸いにもまだ鍵はかけられておらず、入って行くのは簡単だった。
「頑張ろうね」
「うんっ」
 ぐっとガッツポーズをしたその時。
「……あの……」
 遠慮がちにかけられた声に、二人はぱっと振り返った。
 ちなみに、セフィア’sが入ってきたのは、人の気配のない事務室。当然人形がいるはずもない場所なのだが……。
「……なんで隠れるんですか?」
 困ったように問いかけてきたのは、黒髪のストレートに藍の瞳を持つ少女の人形――アデライトであった。
「アデライトさん」
「えーっと……」
 どうしてお人形さんがここにいるんだろう。
 不思議に思ったセフィアが質問するより前に、アデライトがにこと、だがどこか戸惑ったようなふうでちいさな笑みを浮かべた。
「私のお部屋、まだないの」
 来たばかりのアデライトの展示室はまだできていないということだ。
 どうしようかしばし考えこんだセフィアたちは、だがすぐにばれちゃったのなら仕方がないという方向になった。
「えーっとですね」
「お掃除をしに来たの」
「お掃除?」
「うん、お人形さんたち皆と仲良くしたいなあって」
 この前の騒ぎのことは口にせず、簡単に説明すると、アデライトはこくんと首を傾げて尋ねてきた。
「……私も、お手伝いして良い?」
 断る理由など何もない。
 アデライトだって他のお人形さんたちと仲良くしたいと言っていたし。
 行動で誠意を示すのは良い事だと思うし。
「うんっ」
「一緒に頑張ろう〜」
 にこにことどこかのんびりとした雰囲気で。ミニセフィア二人はアデライトの手を握った。

◆ ◆ ◆

 話している間に、いつの間にやら従業員も帰ってしまったらしい。
 ごそごそと動く気配のする展示室は仕方がないので避けて、それ以外の――それでいて人の手が届きにくい細かい所を中心に、三人はせっせこせっせと掃除を始める。
 しかし。
「こんばんわ、お掃除ですか?」
 にこりと優雅に優しく笑んで、いつの間にやらすぐ傍にまでやって来ていたのはアイリスである。
「えっ、えっと、あのっ」
「はい」
「…………」
 ミニセフィア二人とアデライトの答えに、アイリスはますます楽しそうに、笑みを深くした。
「エリアルとグラディスもセフィア様に気が付いているみたいです。まあ、エリアルは意地っ張りですから、顔は出さないでしょうけど。グラディスはそのうち遊びに来るかもしれませんわ」
「遊びに?」
 嫌われているかもしれないと悩んでいたセフィアは、アイリスの言葉にちょっと嬉しくなって聞き返した。
 普通、わざわざ嫌っている相手のところに遊びには行かないだろう。
「はい」
「私もいるのに?」
 アデライトの問いに、アイリスはまた頷いた。
「グラディスはあまり引きずる性格ではありませんから」
「良かった……」
 ほっと安堵の息をついたのはアデライトである。もちろんセフィアもほっとしたのは同じであった。
「わたくしもお手伝いして良いですか? いえ……せっかくですから大掃除でもしましょうか。みんなでやれば早く終わりますわ」
 本当はこっそりと屋敷をぴっかぴかにして喜んでもらおうと思ったのだけど……。
 おろおろと答えに迷うセフィアに、アイリスはさらに言葉を続けた。
「一緒にやれば、仲良くなるきっかけにできるかもしれませんし」
 確かに、アイリスの言うことももっともだ。
 結局。
 お掃除大作戦はアイリスによりばらされて、いつのまにやら全員参加の大掃除となったのだった。

◆ ◆ ◆

 そして掃除が終わる頃。
「あら?」
 別行動だった分体セフィアの最後の一人は、全員仲良く掃除をしている姿にちょっとだけ首を傾げた。
「どうなってるのかな……」
 皆が集まっている玄関ホールに入って行くと、お掃除組のセフィア二人が手を振ってきた。
「途中でばれちゃったの」
「でも、みんな仲良くできたから良かった」
 簡単な説明を受けて、セフィアは嬉しそうに笑って可愛くラッピングされた袋を十一個、取り出した。
「じゃあ……これは、皆で頑張った記念かな……」
 すぐには無理かもだけど。
 みんなが仲良くできるといいなと……そんな願いでプレゼントして買ってきたのは十一人分のリボン。
 リボンは結ぶものである。
 だから……このリボンが、お人形さんたちとセフィアとの友情とか絆とか言うものを結んでくれたら嬉しいなと思ったのだ。
 可愛いリボンに大はしゃぎのお人形さんたちに、ミニセフィアたちは顔を見合わせてにこりと笑った。
 自分は嫌われていないみたいだし、どうやらアデライトとも上手くやっていけそうな雰囲気だ。
「良かった……」
 ほっと息を吐いて呟いたのは誰だったろう。

 真夜中の人形博物館。
 その玄関ホールは、和やかな雰囲気に包まれていた。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

2334|セフィア・アウルゲート|女|316|古本屋

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         ライター通信          
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 いつもお世話になっております、日向 葵です。

 このお掃除をきっかけに、11人みんなが仲良くなれればよいなあと思います。
 楽しくも嬉しいプレイングをどうもありがとうございました♪