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■CHANGE MYSELF!〜DeepStageEXTRA〜■

市川智彦
【3296】【アーサー・ガブリエル】【テロリスト 魔術師 主教】
 異能力者を覚醒させる謎の集団『アカデミー』。その日本支部は切り立った崖の上に建つ古城にあった。中では主に能力を導き出すために選ばれた人間である『教師』が次の手を考えている。彼らの目的は異能力を世間に認めさせ、正しい社会的地位を確立することにあった。そのための活動は決して終わらない。それが実現するまで、教師や教頭、そしてたくさんの能力者は戦い続けるのだ。
 そんな彼らと改めて出会ったなら……あなたはどうするだろう? その価値観を壊すために戦うのだろうか。それとも行動を共にするのだろうか。すべてはあなたの心次第。あなたが変わらぬ信念を持って彼らと接するのか、それとも戦いの中で自分の心が変わったことを彼らに伝えるのか。

 今、それを伝えるステージを君に与えよう。君だけの物語を、ここから始めよう。その名は「DeepStageEXTRA」……
CHANGE MYSELF!〜DeepStageEXTRA #02〜


 異能力者を覚醒させるために活動する謎の集団『アカデミー』。その日本支部は切り立った崖の上に建つ古城にある。そこでは平凡な人間として生きる者から能力を導き出す使命を帯びた選ばれし人間『教師』が次の手を考えていた。彼らの目的は異能力という存在を世間に認めさせ、正しい社会的地位を確立すること。それが認められるまでは決して活動は終わらない。教師や教頭、そしてたくさんの能力者はいつまでも戦い続けるのだ。
 そんな彼らと改めて出会ったなら……あなたはどうするだろう? その価値観を壊すために戦うのだろうか。それとも行動を共にするのだろうか。すべてはあなたの心次第。あなたが変わらぬ信念を持って彼らと接するのか、それとも戦いの中で自分の心が変わったことを彼らに伝えるのか。

 今、それを伝えるステージを君に与えよう。君だけの物語を、ここから始めよう。その名は「DeepStageEXTRA #02」……


 さまざまな国籍や人種が集まる国際空港。今日も人が列をなし、ごちゃ混ぜになって一方向へと歩く。もうしばらくすれば、彼らは本当の意味で日本の土を踏むことになる。出口に向かう人の列は整然としているが、その顔は皆どこか楽しそうだった。きっと「観光」が入国の目的である人間が多いのだろう。もしそれが「ビジネス」であったとしても、そんなに悲観することでもないはずだ。それを証拠に、ビジネスマンたちも気楽に仲間たちと談笑している。
 そんな中、入国の理由を「布教」と偽る人間がいた。彼の名はアーサー・ガブリエル。確かにその生真面目な服装と年を重ね安らぎの増した笑顔は管理官を頷かせるには十分なものだった。彼は許可を受けると一礼し、小さなかばんを抱えて今度は荷物を取りに向かう。

 彼の素顔はテロリストだ。「Pillr of Salt」という名のテロ組織を率いている。最終目的は彼の仮の姿である英国国教会の主教の考えを色濃く映し出しており、その論理の中にも『主』という言葉がでてくるのだ。
 彼はひどく嫌悪するものがある。それに耐えきれず、早くあの列から抜けたいと歩き出したのかもしれない。
 重ねて言うが、彼は人間だ。だが、彼は人間を愛していない。神が愛して止まない人間たちを敵視し、それに向かって立ち向かう日々を過ごしているのだ。彼は人類を『地球に巣食う寄生虫』と定義し、それを排除しようとしている。主や自分が愛する自然と地球を守るためにはそれしかないと考える彼の来日にも当然ながら目的があった。それはテクニカルインターフェース社がアヴァロンの園と呼ばれる魔術結社から奪った魔道器を奪還すること……超のつく巨大企業を相手に、また新たなる戦いを起こそうとするアーサーなのであった。


 彼はキャスターの付いたかばんを引き、街中へ出るためタクシーに乗ろうと正面玄関に設けられた自動ドアの前に立った。透き通るくらい美しい青空がガラス越しに見える……それだけよく清掃が行き届いているのだろう。その空には一点の汚れもなかった。それを見たアーサーはほんの少し微笑んだ。

 「空の美しさは、この地球ならどこも同じか。」
 「てっきり『ここは日本だから』とケチをつけるのかと思っていたが、そこまでアレルギーに感じているわけではないようだな。安心した。」

 開いたドアの向こうから嫌味が飛んでくる。どうやら今までずっと建物を支える柱に身を倒し、横柄な姿でアーサーの到着を待っていたらしい。ようやく本人のお出ましということでその柱から離れ、その人物は静かに彼の元へと歩き出した。
 男物のスーツを着てはいたが、その長く赤い髪を見れば女性だということは一目瞭然だ。彼女は目から下を仮面で覆い隠している。無礼な態度は解いたが、その仮面を外すことはなかった。アーサーは短く息を吐き、お前の相手するのも面倒だとばかりに言葉を放った。

 「主の御心を理解し、残りわずかとなった時間を静かに受け入れる。それが人間の残された唯一の使命だ。」
 「いや、違うな。私は精霊とともに生きることを部族で学んできた。お前と論理が食い違うのは仕方のないことだ。おっと、自己紹介が遅れた。アカデミー日本支部の教師を勤めているリィール・フレイソルトだ。どう呼んでもらっても構わない。」
 「アカデミー……ヨーロッパでも活動しているというあの存在か?」

 どうやらアカデミーは日本だけでなく、その土地柄に合わせた対応ができるよう各支部を設けて活動を行っているようだ。アーサーが反応を見せたということは、情報収集などを行う経過で少なからず『アカデミー』という存在を小耳に挟んでいたのだろう。しかしそれを聞いても、彼の態度はそっけないものだった。どうも、最初からアカデミーに関心がないようだ。しかしやりにくい相手を口説き落とすのがリィールの教師としての仕事である。彼女は倍くらいの年齢差のある男性をアカデミーに引き込もうと相手に合わせて歩きながら話を続ける。ふたりは近くに設置された公園に向かって歩き出す。そこはあまり広くはないが地面は芝生で整備されており、中心にもささやかな噴水があった。心地よい音が無口なふたりを包み込んでいる。

 「有史以来、人間は常に己の特殊な力を出世や権力として扱ってきた。そして社会もそれを認め、重く用いた。それが当たり前だった。だが時代は変わり、今は何の力も持たぬ無能な人間が世界を自由に動かしている。これでは本当の力を持って生まれた人間が意味もなく不幸になってしまう。そう、お前のような人間が多く増え、能力者は不気味な存在として扱われ、排除されることになってしまう。我々は未知なる能力を持つ者が認められ、彼らが実権を握る世界を再び世に生むために活動している。そこで魔術師でありテロリストであるお前の実績を買い、声をかけたという訳だ。日本支部でとはいわない。とにかく我々に協力してもらいたい。」
 「……………断る。」

 長々とリィールにアカデミーの説明させておきながら、彼はあっさりとその申し出を拒否した。その時の表情は話を聞く前よりも冷たく、瞳はまっすぐに彼女の方に向いていた。それに圧倒されたのか、リィールは思わず身構える。

 「君たち人間が自ら主に選ばれたが如く振る舞うその傲慢さ……まさに唾棄すべき愚行と言えよう。」
 「そこまで私たちをけなした人間も初めてだ。そこまで言い切るということは、それなりの覚悟はできているのだろうな?」
 「誰もお前やアカデミーだけを指して言ったのではない。この人間社会そのものがそれに値すると、まぁただそれだけだ。」

 静かな水面に雫が注がれるたび、その飛沫と音が周囲に撒き散らされる。しかし今はそれに心動かされる余裕などリィールにはなかった。ただ目前の男の真意をつかむので精一杯だった。あらわになっている額に汗がにじむ。彼女も必死だった。それを評価したのか、アーサーはまた静かに口を開いた。

 「審判の日は近いうちに訪れる。否、主の代理人たる私がその日を呼ぶのだ。だが、主も私もこの地球を心から愛している。だから愚かで増えすぎた人類にだけ滅んでもらうつもりだ。次の箱舟に乗る資格を……人類は持たないのだ。」
 「お前が決めたことになど、誰が従うか! 死んで自らの愚かさを思い知るがいいっ! うおおおおぉぉぉーーーっ!!」

 やはりリィールは教師の中では一番説得に向いていないようだ。結局『死霊の空蝉』の能力を使い、今は亡き存在を身にまとってアーサーに襲いかかる! 白く染まった死霊はその骨を槍のようにして突き出す!

 「人間の生きる価値は……我らアカデミーが決める!」
 「愚かな。自ら虎口に、いや火口に足を踏み入れる人間がそれを語るなど……情けないにもほどがあるぞ?」
 「な、なんだと? なぜ、なぜ私の足元が……うぐわぁっ!」

 あの平穏な公園はすでに地下にマグマを蓄えた火山口へと姿を変えてしまっていた。これがアーサーの力なのだろうか……リィールはとっさに岩肌をつかんで落下を阻止した。しかし赤い悪魔は容赦なく獲物を、いやすべてを葬り去らんと動き出す! さすがのリィールもこれには焦り、ダイヤモンドに似た固さを持つ太古の力を発動させて全身をそれで覆った!

 「噴火だ……噴火す」

 リィールが言うまでもなく、火口からは燃える弾丸と化した岩石が無数に飛んできた! 自分の防御はすでに完了しているが、彼女はどうしてもアーサーが気になった。こんな無茶をするくらいだ、おそらくは防御する術を持っているのだろう。それを確認しようと上を見た……すると、彼は自由に分厚い岩壁を作ったり、気流を操作して自分に岩石が命中しないようにしているではないか。これにはリィールも舌打ちするしかなかった。

 「ぐっ、ムチャクチャな奴だ……!」
 「いきなり私を襲っておきながらそんなことが言えるのか。愚かなのはどちらかわかっただろう。ひとりの相手をするのも飽きた。私は行く。そろそろ仲間に助けてもらいたまえ。」
 「な、なんだと……ということは風宮が近くに?!」
 「もう少し私のことを知ってから話に来るがいい。だが、私はお前のいう組織には入らないがな。」

 アーサーは大いなる力で再び地面を元通りにすると、地面を這うリィールを一瞥した。そしてまったく別の方向に目をやる……するとそこにはタキシードを着た男が立っており、うやうやしく礼をするではないか。おそらく彼が風宮という男なのだろう。アーサーはきびすを返し、タクシーの元へと急いだ。彼には行く先がある……そこへ向かって歩き出すのだった。