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■出現!天下無敵の田舎娘!■

三咲 都李
【2181】【鹿沼・デルフェス】【アンティークショップ・レンの店員】
「お願いです! メイドさんでもなんでもやりますから!」
少女はそういうと草間武彦の前で土下座した。

ここは草間興信所。
ある者は知人の捜索のため、ある者は不可思議な事件を捜査のためにこの草間興信所を訪れる・・・のだが。

「東京で暮らしてみたいの〜!!」

泣きつく少女・名は水野琴子(みずのことこ)という。
どうやら東海地方のとある県から家出をしてきたらしい。
東京駅でうろうろしていたところを、誰かからこの草間興信所を紹介されてきたという。
「あのなぁ? おまえ、まだ学生だろう? 警察に突き出されたくなかったとっとと帰る事だ」
「あんなど田舎で暮らすなんてもうイヤなの! ね? お願いだから置いてよ!」
「ダメだ。俺ンとこにはそんな余裕はない」
草間が断り続けると、少女はついに開き直った。

「・・あ、そ。じゃあ大きな声出しちゃうもんね〜! おまわりさーーーん!! ここに女子高生連れ込んだ変態探偵が・・・モガモガ」

「脅迫するんじゃない!」
慌てて琴子の口を押さえた草間は弱りきった。
正直、草間興信所に人を1人住み込みさせるだけの余裕はない。
というか、未成年者略取というヤツで手が後ろに回りかねない。
だが、かといって強制的に追い出せば先ほどのように脅迫めいた事をされて草間興信所の名は失墜するだろう。

「・・・誰か、なんとかしてくれ・・・」
出現!天下無敵の田舎娘!

1.
「今・・・なんて言った?」

草間は、飲もうとしていたコーヒーを持つ手を止めた。
「ですから、琴子様は家事もお上手だそうですので住み込みのメイドさんとしてお雇いになっては・・・と」
にっこりと笑い、そう進言した鹿沼(かぬま)・デルフェス。
「俺は、おまえに、あいつをここから追い出してもらいたいんだが?」
手が微妙に震え、コーヒーの表面を波打つ。
なるべく冷静になろうという、草間の努力が感じられる。
鹿沼はフゥッとため息をついた。

「ですが、琴子様にこちらへ来るように言いましたの、わたくしですから」

「・・・おまえか! ここ教えたのは!」
鹿沼の衝撃の告白に遂に堪えきれなくなった草間がバンッ! と机に手をたたきつけて怒鳴った。
だが、そんな草間はどこ吹く風とばかりに鹿沼はにこりと笑った。
「先日東京駅を利用しました際に、琴子様にこちらをお教えしたのです」
「・・・確かにウチには人ではいくらあっても足りない時もあるが、普段はカツカツ生活の貧乏探偵なんだぞ? 大体、未成年者略取で後ろに手ぇ回ってたら洒落にならん」
後半、下を向いてボソボソと言い訳がましく呟く草間。
どうやら相当困っているらしい。

「・・・わかりました。わたくしも興信所の臨時所員として一緒に住み込み、琴子様のお目付役をしますわ」

鹿沼がそう言うと草間は顔を上げた。
「お、おい。うちはそんなにいっぱい居候は・・・」
「大丈夫ですわ。わたくし、飲食が必要ないので生活費は掛かりません。場所だけ提供していただけますか?」
ニコニコと笑顔の鹿沼に、草間は首を縦に振った。
「わかった。ただし、期限は1週間。それ以上は俺が我慢できん」

どうやら、鹿沼に期待をかける気になったようだった・・・。


2.
「あ! 東京駅で会った・・・」
問題の少女・水野琴子は鹿沼を見ると瞬時にわかったようで深々とお辞儀をした。
「草間様に頼まれて、あなたの指導を任されました鹿沼・デルフェスです。よろしくお願いいたします」
にっこりと笑い、鹿沼は会釈した。
「草間さんとお知り合いだったんですか! あの時は本当にありがとうございました。よろしくご指導お願いします!」
礼儀正しく、琴子は再び深々とお辞儀をした。

「琴子様、こちらおいくらでお買いになられましたの?」
その日から、鹿沼の小姑のような指導は始まった。
「あ、はい・・・えーっと近くのデパートで450円で・・」
「まぁ! そんなお値段で買ったのですか? 一駅先のスーパーまで歩けば150円で売ってましたのに・・・」
「一駅先を徒歩で行くんですか!?」
「当然です。なにせ、興信所は火の車ですの。あなたもお分かりでしょう?」
ニコニコと屈託なく笑いながらも、鹿沼は情け容赦なく過酷な節約術を叩き込む。
しかも、全てが超一級の情報ばかり。
50%オフ情報を始め○○商店の値切り方、果ては店主のマル秘情報まで・・・。
しまいには零まで鹿沼に指示を仰ぐほど素晴らしい節約術の数々を披露していった。

「・・・俺は節約術を叩き込めとは頼んでないぞ?」

草間がぽそりとそう呟いた。
「心外ですわ、草間様。興信所の厳しい生活費でやりくりし、都会の生活が琴子様が思い描いていた程エレガントではない事を身をもってわからせるためですのに・・・」
鹿沼が困ったようにそういうと、草間はなにやらいじけだした。
「・・・どうせ俺の稼ぎは悪いよ・・・」
どうやら彼なりに相当気にしているらしい。
「兄さん、そんな失礼なことを言ってはダメですよ。鹿沼さんは本当に素晴らしいことばかりを教えてくださってるんですよ。私、鹿沼さんを尊敬します」
キラキラとした瞳で零は鹿沼にそう言った。
「蓮様の情報網から少し情報を収集しただけです。でも、零様のお役に立ててよかったですわ」
蓮・・とは鹿沼の勤める店、アンティークショップ店主の碧摩蓮のことだ。
雑談する鹿沼と零を見つめ、草間はポツリとこぼした。

「本当にこんなんで、あいつを追い出せるんだろうか・・・?」


3.
その草間の予想は、実に的を得ていたといえる。
元々が田舎娘の琴子は、最初の頃こそ戸惑っていたものの鹿沼の情報を的確に吸収していった。
さらには・・・

「鹿沼さーん! 450円の大根、80円に値切ってきちゃいました〜♪」

・・・と、中々の節約術に目覚めたりもして・・・。
「おい、ホントーに大丈夫なんだよな?」
草間が鹿沼に疑惑の目を向けたのは、琴子が来て6日目のことだった。
「本当に、琴子様は物覚えのよい方です。わたくし、よいメイドに恵まれて幸せですわ」
「・・・おい・・・」
本気でそう言った鹿沼に、草間は恨みがましい声を出す。
「まぁ、ソレは冗談といたしまして」
こほん、と小さく鹿沼は咳払いをして場を仕切りなおした。
「明日で1週間ですから、奥の手も用意しております。・・・それでも駄目でしたらさらに奥の手もありますけれど・・・」
「本当だな? 約束だぞ? 破ったらハリセンボンのますぞ?」

だいぶまいっていらっしゃいますのね・・・。

子供じみた草間の発言に、鹿沼は少々同情した。
しかし、それは鹿沼が中々琴子を追い出さないせいであったのだが・・・。

明日までに出てかなければ、『アレ』を命じてみましょうか。

鹿沼はニヤリとその顔に似合わぬ邪まな笑顔を浮かべた・・・。


4.
「なんでしょう? 話って」

琴子が来て早1週間。
草間と鹿沼の間に交わされたリミットの期限である。
深夜、鹿沼は草間から間借りした一室に琴子を呼んだ。
部屋に入ってきた琴子はストライプのパジャマが幼さを全開にさせていた。
「わたくしがお教えしたことをよく理解し、ここまで頑張ってこられましたね」
にっこりと微笑み、鹿沼は話始めた。
深夜の空気はひんやりとして、草間や零が深い眠りについていることを教えてくれた。
「わたくし、とても感心しておりますの。とても厳しいことも言ってまいりましたけど、琴子様はとてもよくついてきて下さって」
「そ、そんな・・・じゃあ、私、ここにいてもいいんですね!?」
パアっと明るい笑顔で、琴子は訊いた。
「えぇ。わたくしから、草間様に頼んでさしあげますわ」
「う、嬉しいです! ありがとうございま・・・」

琴子が、全てを言い終わらないうちに鹿沼は琴子の手を引いた。

どさっとベットに倒れこむ琴子と鹿沼。
「え? え??」
琴子は訳が分からないまま疑問符を次々に口にする。
鹿沼はそっとその琴子の唇に人差し指を押し当てた。
「お静かに。草間様や零様が起きてしまいますわ」
「・・・」
鹿沼に言われるままに、琴子は黙った。
その素直さが、鹿沼の心にさらに意地悪な感情を芽生えさせた。
「琴子様が正式な草間興信所のメイドとなれば、こういった事も覚えておかなければなりませんわ」
「こ・・・『こういった事』って?」
震える声。
女の子は耳年増だという歌があったが、おそらく、琴子もなんとなく想像できてしまったのだろう。
それはあくまでも『まさか』の域を出ないものであっただろう。
だが・・・

「もちろん、『夜伽』ですわ」

鹿沼の声が、冷たい空気の中でさらに冷たく響いた。
「う・・嘘でしょ? だって、女同士・・・」
「優しくしてあげますから大丈夫ですわ。まだ、したことないのでしょう?」
鹿沼の手がそっと琴子の体に触ると、琴子の体がビクッと反応した。
「お、おまわりさ・・・!?」
叫ぼうとした琴子の口に鹿沼は少し強めに人差し指を押し付けて黙らせた。

「ご主人様を悦ばせるのもメイドの勤めですのよ」
鹿沼の妖艶な微笑と誘惑。

その言葉で、今まで保っていた琴子の理性が吹き飛んだ。

ドン! っと突き飛ばすと、ものの5秒もたたないうちに鹿沼の部屋を飛び出て自室に引きこもった。
さらに荷物をまとめたらしく部屋から出ると「お世話になりました!!」と言い捨て、脱兎のごとく駆けていった。
「・・・なんだぁ??」
寝ぼけた草間と目をこすって出てきた零に、鹿沼はいつもの微笑みで言った。
「お約束通り、琴子様に興信所から出て行っていただきました」

すこし、やりすぎてしまったかしら?

ほんの少しそう思ったが、鹿沼にはそれ以上の感情は湧いてこなかった・・・。


5.
東京駅―――
琴子の事などすっかり忘れた頃、鹿沼は所用でまたその場所にいた。
いつみても人が多いこの場所。
夢を持って辿り着いた人、夢に敗れて帰る人・・・色々な感情の渦巻く場所。
そんな思いが交錯する場所で、鹿沼は声を聞いた。

「あの、新発売のお茶です! どうぞお試しください〜!」

姿は見えなかったが、その声は間違いなく琴子のものだった。
ついさっきまで、思い出すこともなかった人物の声。
どうやら、彼女はまだこの街に夢を抱いて居座っているらしい。
サンプルの配布のアルバイトがまともかはわからなかったが、草間興信所にいるよりはよっぽどまともな仕事だろう。

わたくしにはもう何もしてあげられませんけど、せめてあなたがこの街で砕け散らないことを祈っております・・・。

鹿沼は姿の見えぬ琴子にそっとエールを送ると、東京駅を後にしたのだった・・・。


−−−−−

□■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■□

2181 / 鹿沼・デルフェス / 女 / 463 / アンティークショップ・レンの店員


□■         ライター通信          ■□
鹿沼・デルフェス様

お久しぶりです。
この度は『出現!天下無敵の田舎娘!』へのご参加ありがとうございました。
大変お待たせいたしまして申し訳ありません。
艶っぽいプレイングで微妙に小躍りさせていただきました。(笑)
換石の術にいたるまでにはならかなったし、草間興信所からも追い出せたので依頼自体は成功かと思います。
・・・でも、少し後味は悪いかもしれません。(^^;)
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。