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■桜花神社のあやかし祭り■

天瀬たつき
【1252】【海原・みなも】【女学生】
「皆張り切っておるようじゃの」
都内某所に佇む<桜花神社>。入口の大きな鳥居の下。
満足げに頷くのは5歳くらいの少女。この神社のご神体【緋玉桜】の木霊、桜華である。
「普段、人から隠れるように暮らしている者たちじゃ。こうして大騒ぎすることもそうそうないからのぅ」
桜華の隣で微笑んでそう答えるのは桜華よりやや年上の少女。
神社の近くにある公園に住まうあやかしたちを取りまとめている水龍(すいり)だ。
「ねぇ、早くいこうよ♪」
2人の後ろから早く早くと急かすのは、彼女らの中間と見える少年。都内で普段は人として暮らしている妖狐、銀である。
そう急かすなとか、せっかちじゃと見た目の割りに年寄りくさい文句を言う桜華と水龍の話を聞く様子もなく2人の背を押し、境内の奥へと入っていく。

境内は提灯を下げた屋台が立ち並び、大勢の客でにぎわっている。
しかし、その客も、屋台を営む店員も、どこかしら人と離れた容姿をしている。
「わー、妖怪がいっぱいだね」
銀が同じような仲間がたくさんいることが嬉しいのか、きょろきょろと落ち着きなく左右を見回している。
「今日はあやかしの為だけに催した祭りじゃからの」
このお祭り、祭りごとの好きな桜華が友人である水龍と、彼女が面倒を見ているあやかしたちの息抜きにと提案したのだ。
「あら、3人一緒なのね」
立ち並ぶ屋台の一角から不意に声がかかる。そこにはここではむしろ目立つ、普通の人間の姿をした女性が手招きしている。
「おお、魔女殿か。今日は何を売っておるのじゃ?」
「魔術グッズを持ってきたけど、なかなかみんな買ってくれないわね」
金髪で、活発そうな容貌の女性、あやかし荘の近くで「魔女の館」という魔術グッズの店を営むアイリス・ロンドウェルは肩をすくめる。
販売している数々の道具はそこいらの占いグッズの販売品とは桁が違う。手を出せるほど裕福なものもそういないだろう。
まぁ、本物の魔女が売っている品々だと考えれば十分妥当な額なのかもしれない。
「そういえば、藤也お兄さん見なかった??」
アイリスの店の軒先に並ぶ札の数々を見回しながら、銀が不意にたずねた。
「店長さん? ああ、そういえばさっきまでいたけど、そっくりな顔の人が来てどこかに行っちゃったわね」
「そっくりな顔? 兄弟かなぁ?」
「藤也には兄弟はおらぬ」
首をかしげる桜華に「ああ、そういえば……」とアイリスが続ける。
「店長さんがその人のコト『ごとーしゅ』って言ってたわ」
「当主」。
その言葉を聞いた瞬間、桜華の表情からすぅっと血の気が引いた。
そして、それに気づいたのは彼女と特に親しい、水龍だけであった。
「まぁ、大方親戚が来たんじゃろ。あやつはあやつ、ワシらはワシらで楽しもうぞ」
取り繕うように笑顔になり、銀の手を引いて境内の奥へ奥へと歩いていってしまう桜華。
その後ろ姿を眺めながら、残された水龍とアイリスは顔を見合わせ、首をかしげたのだった。


その頃。<桜花神社>の社務所…。
「…ご用向きは何ですか? まさか、茶を飲みに来たわけではないのでしょう?」
そう尋ねる藤也の口調は、穏やかながらもどこか相手をはねつけるものがある。
「まぁ、確かにお茶を飲みに来たわけじゃないのですけどね」
一方の男。藤也とほぼ同じくらいの年恰好の青年は静かに答え、にこりと笑顔で返す。
「その様子では、大方の予想はついているのでしょう? 俺がここに来たのは、この神社に奉納されているご神刀、『緋桜』を借り受けるためだと」
「やはり……」
そういわんばかりの表情で藤也は目を見開いたのだった……。