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■【狭間の幻夢(ゆめ)】魔人の章■

暁久遠
【2863】【蒼王・翼】【F1レーサー 闇の皇女】
―――――それは、ある日の午後のこと。


貴方はなんとなく町を歩き回っていた。


空の頂点には太陽が爛々と輝き、地に佇む貴方を照らす。


―――今日もいい天気だ。


そんなことをぼんやりと考えたその時。



――――――――ザァッ。


貴方の頭上に、唐突に大きな影が被さった。


「!!」


貴方が驚いて目を見開いている間に、その影はあっという間に貴方の頭上を通り過ぎ、何処かへと消えていってしまった。


逆光の為しっかりと判断することは出来なかったが、どうやら大きな鳥のようなものが頭上を通りすぎたらしい。
いや、鳥の羽のようなものを持った…『人間』か?


奇妙な影の正体に頭を悩ませる貴方。
しかしその目の前に、ひらひらと何かが舞い落ちてきた。


反射的に手を伸ばしてそれを捕まえると、その正体は―――大きな、ヤツデの葉。


自分の掌を軽く超えるほどの大きなその葉は、少なくともこの辺りに生息している木ではないのはすぐに見て取れた。
不思議に思って裏返してみると、そこには文のような物が。


『・招待状・
  ただいま我々は非常に困っております。
  しかし、それを解決するためには、どうにも人手が足りません。
  これを読んだ方、どうかお手伝いお願い致します。
      喰魔山管理役より』


「…『喰魔山<くらまやま>』?」


聞いた事がない名称に眉を寄せる貴方。
しかしその疑問は、すぐに解消されることになった。


……すとん。


―――軽い音と共に、貴方の目の前に看視者が到着したからだ。


「あ…」
驚く貴方を他所に、看視者はふっと貴方に目を向け―――ぴたりと、貴方の手の中にあるヤツデの葉に目を留めた。
そして何か考えるような仕草をしてから―――貴方の腕を掴み、地面を蹴った!

とん、と軽い音と共に高々と飛び上がる貴方と看視者。
戸惑いの声をあげる貴方すら半分無視状態で、看視者は貴方の片腕をしっかり掴んだままとんとんとビルや屋根の上を軽やかに飛んでいく。

一体何がどうなっているのかと目を白黒させる貴方にちらりと視線を向けた看視者は、ぽつりと呟いた。


「――――――あのヤツデは、『招待状』だから…」
「『招待状』?」


その言葉に不思議そうに首を傾げる貴方を見ながら、看視者は簡単な説明を行う。


このヤツデは『喰魔山管理役』なる者からの招待状なのだ。
それは無差別に撒き散らされるが、文章を読むことが出来るのは能力者のみと言う変わった術が施されているもので。
何が起こるかわからない場所ゆえ、安全のために超常現象にある程度対処できる力を所持する能力者のみを招待する運びになっているのだそうだ。
…まぁ、看視者の場合は統治者からの依頼も兼ねているので、行きたくなくても行かなければならないらしく。
貴方を発見した時、丁度同じ招待状を持っているのだから連れて行ってもいいだろう、と半ば巻き込む形で拉致することにしたのだという。
…要するに、貴方は行く行かないの選択肢を選ぶ前に、強制的に拉致された、と言うことだ。


そのことで恨めしげに看視者を睨むが看視者達はさらりとその視線を受け流し、黙々と進む。
そして視界は二転三転。
人が多く雑多に建物が立ち並ぶ街中から少しずつ建物がぽつぽつと減っていき、気づけばどこか懐かしい雰囲気漂う大きな山が目に入った。
ぽつぽつと点在するビルや家に囲まれるようにして、しかし全く揺らぐ様子がないように、堂々と鎮座するそれ。
驚いて目を見開く貴方だが、看視者は止まらない。
そのまま田んぼの脇道を軽く蹴って高く飛び上がると―――――そのまま、山の入り口へと着地した。

「ここは…」
「ここが『喰魔山』だよ♪」

呆然とした貴方の疑問に答えたのは、看視者ではない、少女のような…それでいて少年のような、不安定な声。
驚いて声のした方―――山の入り口へと目を向けると、そこには二人の『人』が立っていた。


――――――いや、『人』ではなかった。


「どーも初めまして♪俺たちが届けた招待状、受け取って貰えたみたいだねv」
「其方も忙しいところに呼んでしまってすまなかったな」


入り口に立っていた二人には―――『羽』があった。
黒い脇辺りまである髪をポニーテールにしてあり、くりっとした大きな瞳は右が金、左が金の変わった色彩<いろ>を持っている。
チャイナと膝丈の着物を混ぜたような変わった服にスパッツ、膝まである編み上げブーツを着た少女なんだか少年なんだか判別しかねる子供の腰から、真っ白な蝙蝠のような奇妙な翼があった。
そしてもう一人。
黒く足首まであるややたるませた長い髪を腰辺りで縛り、切れ長の瞳は射るような冷たさを帯びた白銀色。
陰陽師の式服のような衣装に、草履。
和風スタイルの落ち着いた青年の背からは、漆黒の翼が生えていて。折りたたまれたその両翼のそれぞれの中間点には、直径十センチくらいの緋色の石が埋め込まれるように点在していた。


――――どちらも、姿からして、やはり人ではなさそうに感じた。


しかしこの二人、見る限りではどうにも兄弟が親子にしか見えないのだが…それよりも、むしろ何故こんな格好で、それもこんな人里離れた山の中にいるのだろうか。
訝しげな貴方の視線に気づいたのか、子供の方がにこりと笑うと、貴方に向かって握手を求めるように手を差し出す。


「俺は神翔<かしょう>だよ。
 こっちのひょろ長いのは鳴<なる>ってゆーんだ」
「ひょろ長い言うな」
どげしっ。
「あ」

笑顔の神翔の説明に不満を持った鳴からの蹴りツッコミが神翔の背中にキレイに入った。
顔からずべしゃぁっ!と見事にスライディングをかます神翔。
驚いたように目を丸くする貴方の目の前で、神翔はがばぁっ!と体を起こした。
ちょっと鼻の頭がすりむけている辺り、結構痛そうだ。

「なんだよ鳴!ホントのことじゃんかぁ!!」
「人に変な印象を持たせるような紹介はやめろといつも言っているだろうが!!!」
きゃんきゃん吠える神翔と怒鳴り返す鳴。
最初の印象とは違い、どうにも漫才コンビの印象が拭えない。

どうすればいいのだろうと戸惑っている貴方とじーっと見ている看視者に気づいたのか、二人ははっとして佇まいを直す。
そして『こほん』とわざとらしい咳をすると、鳴は真面目な顔で口を開いた。


「まぁ、私達の名前はこれで知ってもらえたと思うが。
 私達の素性についてなど色々と気になることもあるだろうが、とりあえず我々の住居へと案内させてもらう。
 話はそれからだ」


その言葉に頷いた貴方と看視者は、前を歩き出す神翔と鳴に着いていき、山の中へと足を踏み入れるのだった。


***


「――――――そういうワケで、私達はきちんと『統治者』から許可を貰って暮らしているわけだ」

先ほどの邂逅から約一時間後。

数十分ほどかけて木や草をきちんと避けられた一本道を真っ直ぐに通った先にあった古風な一軒家の中。
外見の割には意外と近代的な内装の家の中に入り、鳴に入れてもらった茶を飲みながらの話の締めくくりが、これ。

―――鳴の無駄に長い話を要約すると、こうだ。

神翔と鳴は純正のあやかしだが、ここの森に住む他のあやかし達は大抵が何かしら半端な部分を持つ者達らしい。
それゆえ戦闘能力もほとんどの者が皆無に等しく、人と争う気も持たない者ばかり。
だからこそ黒界では攻撃や蔑みの対象になることが多く、それを回避する意も込めて、統治者がこの『喰魔山』にそれら半端なあやかしたちを集め。
そして用心棒も兼ね、人界で暮らしたいと思っていた神翔と鳴の申請を『喰魔山の管理役になる』と言う条件でもって受けたのである。

「ここの山はなんだか不思議な力があるみたいでね。
 純正のあやかしは近づくことすら難しいみたいなんだ」
あ、俺達は看視者から喰魔山の気の影響を受けない術を施して貰ってるから平気なんだけどね☆と笑い、神翔は話を続ける。

「それにここの山の草木は全てが純正のあやかしにとっては普通の人間にとっての『毒』に等しいほどの威力を持ってるんだ。
 草木の汁や木屑の欠片が付着しただけでもアウト。被れたりそのだけ腐ったりしちゃうみたい。
 ついでに言うと、食べれば下手すれば即死、ってトコだね」

あー、でも黒界のあやかしにしか威力がないみたいだから、結局のところ黒界以外の存在に対してはほとんど無力なんだけど。
そう言って笑顔を向ける神翔。


「…そういうわけで、この喰魔山は半端者の孤児院のようなものであると同時に、対あやかしの能力を持つ天然の要塞も同然、と言うわけだ」


だからこそ、ここに住まう半端者達は皆健やかにすごせる。
そう言ってしめくくる鳴を見ながら、貴方は口を開いた。


「…それじゃあ、『困ってる』って…?」


その疑問に、神翔と鳴は苦虫を噛む潰したような表情を浮かべる。
そして少々の沈黙の後、神翔が困ったように眉尻を下げて口を開いた。


「……それがさぁ。どっかの開拓業者がこの山を開拓の対象にしてるみたいなんだ」


その言葉に、貴方は驚いたように目を見開く。

「この山がなくなれば半端者達の行き先がなくなる。
 そうなれば、ヤツらは黒界に戻るしかない。
 …そうなると、また半端者に対する虐待が酷くなるだろう…」
できればそれだけは避けたいと悲しげに目を伏せる鳴を見て、貴方は戸惑うように視線を看視者に向ける。
しかし看視者はただ話を静かに聴いているだけ。どうやら話が終わるまで動く気はないらしい。

「何度か人のフリして此処の開拓は止めてって適当に理由でっちあげてお願いしたんだけど、あっちは聞く耳持たず。
 とにかくそんな事情は知らぬ・存ぜぬ・今更開拓止められぬ、の一点張り」
「このままでは喰魔山が崩されてしまうのもそう遠くはない」
「だから…」

そこで言葉を切った神翔は、がばぁっ!といきなり立ち上がる。
驚いて目を見開く貴方を他所に、神翔はぐっと拳を握りながら声を荒げた。


「――――こうなったら俺達で開拓を無理矢理やめさせるしかないって、決めたんだ!!」


「……は?」
あまりにも唐突な発言に、貴方は完全に目が点。
いきなり何を言い出すんだと言わんばかりの表情に気づいたのか、鳴が呆れたようにコーヒーを飲みながら口を開く。


「…要するに、奴らが此処を開拓したくないと思わせればいい、と私達は考えたわけだ。
 とは言え、我々には財力はないからな。金での交渉は不可能。
 ……となれば、最終的に残るのは実力行使、と言うわけだ」

「だから俺達がその開拓業者に対して徹底的にイタズラや嫌がらせをして、ここの山を開拓しようとしたら祟りが起こるとでも思い込ませればいい!
 俺はそう考えた!!!」

「…とりあえず最終的な交渉はしてみるつもりではいるが、恐らく希望は持てまい。
 その時は徹底抗戦だ。
 私は必要な機材の破壊や、威嚇も兼ねたギリギリ直撃しないように調整して人間達へ攻撃。
 神翔は他のあやかし達を先導して悪戯の限りを尽くす。
 悪いとは思うが、相手の都合よりこちらの都合。
 二度とそのような考えが湧かぬよう、容赦はしないつもりだ」

「それで他の業者にもその話が広がれば、俺達としては万々歳だしね!!
 この山が開拓されないようになれば、それでいいわけ♪」


交互に為されるトーンもテンションも違う言葉に少々混乱しかけながらも、貴方は大方のところを理解した。
要するに、開拓をやめさせるため、業者達に嫌がらせや脅しを行えばいいわけだ。
直接人間に危害を加えるつもりではないようだし、彼等の住処になり得るところが此処しかないのなら、仕方がないだろう。

此処まで聞いてしまった以上、放っておくわけにもいくまい。
既に今回の行動について話し合いを始めている看視者と鳴・神翔を見ながら、貴方は面倒なことになったかもしれないと、深々と溜息を吐くのだった。


――――――――勝負は明日の昼間から。
           はてさて、喰魔山が開拓されぬよう、どうするか。






どうも初めまして、もしくはこんにちは。暁久遠です。
微妙なOPでごめんなさい。全看視者に対応したOPにしようとすると何かと描写に制限がかかるので…(汗)
この異界での第3回目のゲームノベルは、イタズラ系(笑)にしました。
いまだに戦闘してませんが、そこはご容赦くださいませ…(滝汗)
看視者達や神翔・鳴ら特殊NPCや世界観については、異界の「狭間の幻夢(ゆめ)」を御覧下さいませ。

今回のシナリオは、大雑把に言えば「魔人・看視者(一人)と一緒にイタズラ及び実力行使で工事の立ち退き要請!」となります(をい)
出会った看視者・鳴(立ち退き最終要請及び実力行使)と神翔(イタズラし放題)のどちらと一緒に行動をとるか・看視者が二人組の場合、どちら(一人)が一緒に来るか・どんな行動をとるか―はお忘れなく書いて下さい。勿論、属性についての明記も必須ですよ。(属性名か、お任せか)
複数人数打ち合わせの上での同時参加の場合は、その旨をお書きください。
喰魔山の気になることや、看視者達の気になることなども聞きつつ、思いっきり実力行使しちゃってください☆(笑)

参加人数は特に決めておりません。期間内は開けっ放しの可能性高し(をい)
ではでは、ご参加お待ちしております。
【狭間の幻夢】魔人の章―鬼―

●喰魔山●
チッチッチッチッチッ……。

壁にかけられたアナログ時計の秒針が動く音が静かな室内に響く。
「…」
蒼王・翼は無言で自分で入れた紅茶を飲んでいる。

チッチッチッチッチッ……。
……カチャ。

「……遅いな…」

カップをソーサーに置いて、翼はぽつりと呟いた。

―――翼は、人を待っていた。
      己の姉弟である、冷泉院・蓮生のことを。

確かに彼は、今日自分の家に遊びに来ると言っていたのだ。
翼はもうろくしていない自信があるので、その記憶は間違いない。


…が、彼が到着する予定だといった時間からは、既に二時間近く過ぎているのだ。


翼の知る蓮生ならば遅刻など滅多にしないし、少なくとも遅くなりそうならば電話なり何なりで絶対に連絡をいれる人間だったはず。
なのに連絡がない。


――――――何かに、巻き込まれたのだろうか。


ふと、翼の中に不安がよぎる。
幾ら特殊な能力を持ってるとはいえ、蓮生はまだ子供なのだ。
流石に二時間ともなれば不安も募る。
……それに、待ちすぎるのは性に合わない。

「…探しに行ってみるか」

ぽつりとそう独りごちた翼は、ゆっくりと立ち上がるのだった。

***

「…ここは…」

風に尋ねながら蓮生の足取りを追って行った翼は、ある山の前に辿り着いていた。
周りの町並みは都会からすっかり離れた田舎の雰囲気を醸し出している。
立ち並ぶ家々の中心にどしりと鎮座するようにたったその山は―――普通ではない『何か』を感じさせて、翼は思わず眉を寄せた。

「……しかし、蓮生はこの中に入っていったようだしな…」

風が蓮生がここに入っていったと言うのだ、入らないわけにも行くまい。
そう判断した翼が一歩踏み出した瞬間―――――。


「どちらさまなのらー?」


――――――何時の間にか目の前にいた点と三角だけで描かれたような落書きの顔がついた風船から、声をかけられた。


「……キミ、は…?」

驚きに固まりかけた翼だったが、辛うじて声を絞り出してそう問いかける。
すると落書きの顔がついた風船はくるりと空中で一回転して、楽しそうに声を上げた。

「ボキはふーせんおになのらー」

風船鬼。
聞いたこともない名前だ。
…よくよく見ると、四肢の代わりだろうか。四箇所からモヤシみたいな物体も生えている。
それに恐らく天辺に当たるだろう部分からは、尖った三角形が二つくっついていた。
…確かに、鬼といわれれば見えなくもないが…とてもじゃないが恐怖を煽ることはできないだろう。

思わず引き攣りそうになった口を気合で推し留め、翼は口を開く。

「…それじゃあ、此処に金髪の少年が来なかったか?
 僕の知り合いなのだが、会う約束の時間を過ぎても中々来ないので心配でね…」

恐る恐るそう問いかけると、風船鬼は少し考えるようにくるんと一回転した後―――ぽみ、とモヤシ…恐らく手、を叩いた。

「きんぱつのおとこのこ、たしかに来たのらー。
 かしょサマとなるサマがごしょーたいしたオトモダチなのらー。
 みさきサマとおにぎりサマもいっしょだったのらー」

「…『御先』と『鬼斬』も?」

聞きなれない名前と一緒に、聞いた覚えのある名前が聞こえてきて、翼は思わず問い返す。
すると風船鬼は嬉しそうにモヤシのような手をぶるぶるとまるでデンデン太鼓のように振って声を上げた。

「おにぎりサマとみさきサマのオトモダチなのらー?」
「…まぁ、そんなところだけど…」

「ならボキがあんないするのらー。
 いまごろみんなかしょサマとなるサマのおうちでそーだんしてるのらー」

「…相談?」
「くわしくはどーちゅーでおはなしするのらー」

思わず眉を顰めた翼に間の抜けた声で返し、風船鬼はふよふよと漂って進み始めた。
…どうやらこの森は本当に普通の森ではないらしい。
なんとなく嫌な予感がしつつも蓮生がいる可能性が高いのならば帰ることもできず、翼は気の抜ける漂い方をしながら進む風船鬼に、渋々ついていくことにするのだった。


***


―――――道中、翼は風船鬼から大雑把に事情を聞いた。
        この山は『喰魔山』と言い、半端だったり弱かったりするあやかし達の棲家であること。
        この山が開拓の対象になってしまっていること。
        それを打開する為に鳴と神翔と呼ばれるあやかし達の代表格が、実力行使…分かりやすく言えば『悪戯』を決行することにしたこと。
        また、その手伝いの為に看視者や能力者から手伝いを募集し、蓮生が偶然その正体を受けたらしいこと。


慣れてみれば中々可愛らしい風船鬼を腕の中に抱きかかえながら、翼は思わず溜息を吐きそうになった。

「…悪戯、ねぇ…」
「そーなのらー。
 いっぱいいっぱいイヤなことしてぎょーしゃさんにかえってもらうのらー」
翼の独白に呑気に返す風船鬼に、翼は思わず苦笑を返してしまった。


悪戯くらいで業者がそう簡単に諦めるとは思えない。
何せ世の中には陰陽師やら某怪奇探偵(本人は否定しているが大抵はその関係の事件に関わることが多いし)やら、自分や知人を含め、そういう怪奇事件を請け負っている人間などごまんといる。
たとえどれだけ脅したとしても、そういった人間達が呼ばれてしまえば話はさらにややこしくなることは目に見えている。
そう簡単にはいかないだろう…と言うか、成功しそうな気がしないかもしれない。


「あ、あそこがかしょサマとなるサマのおうちなのらー」


つらつらととりとめのないことを考えている翼を知ってか知らずか、風船鬼が目的地を見つけて嬉しそうな声をあげた。
そこにあったのは――――古風な一軒屋だった。

「ここが…」

確かに中から蓮生に似た気配がする。
…おそらく、本人だろうが。
「なかにはいるのら。
 きっとみんなよろこぶのらー」
何時の間にやら協力者扱いになっているらしい。
あまりにも平和的な発言をする風船鬼に苦笑しながら、翼は勝手ながら家の扉を開けて中に入る。
どうやら概観に反して、中身は意外と現代的な造りになっているようだ。


―――――――と。


「みさっ…!?お前まで何をするんだ!?
 クソッ…2人とも離れろ!!!」
「「イ・ヤv」」


…中から、よく聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「…蓮生の声、だな…」

イヤと声を上げた方の片割れも聞き覚えがあるが、もう片方は知らない声だ。
恐らくそちらが『神翔様』か『鳴様』なのだろう。
とにもかくにも、声のお陰で大体の方向はつかめた。
早く合流してしまおう。
そう結論付けて、すたすたと優雅に、しかしやや早足で進んだ翼はドアに手をかけ、ゆっくりと開いた。

……ガチャリ。

そして目に入ったものは―――――。


「…離せと言っているだろうッ!!!」


―――――御先と見知らぬ少女のような少年に抱きつかれて必死にもがいている、蓮生の姿。



「―――――――――何をやっているんだ?蓮生」



―――思わず、呆れたような声が出た。
その声に驚いてばっとこちらを見た蓮生が、翼の姿を見て目を見開く。


「……つば、さ…」
「到着が遅いと思って探しに来てみたんだが…。
 どうやら、変なことに巻き込まれてたみたいだな」


ふぅ、と溜息を吐きながら肩を竦めると、視界の端っこで我関せずといわんばかりの態度で茶を啜る、鬼斬ともう独りの青年の姿が目に入った。


●交渉●
結局このあと一体どうしてあんな状況になっていたかと言う事情説明を自己紹介も兼ねて詳しく聞き。
その後翼も開拓ストップ運動の話し合いに交えられ(巻き込まれ)て一通り話し合った後、色々と対処方を挙げて行動に移してみることにした。
そして何かとやっているうちに日が暮れ、とりあえず今日は泊まっていけと鳴に言われ、翼と蓮生はその厚意に甘えることに。

――――翌日、彼らは業者と話し合うべく森へと入っていた。

…とりあえず二手に分かれることにしていたので、全員一緒、と言うわけではないが。

表の開拓者泊り込み専用のプレハブに直接殴りこみと言う名の直談判をしに行くメンバーは、翼・蓮生・御先・鳴の四人と、話し合いの際に役に立つかもしれないと連れてきたあやかし数匹。
先ほどから蓮生や翼の周りをぴこぴこ飛び回って気が散って仕方がないが、本人達に悪気はないのでなんとも言えないのが難しいところだ。
とりあえず説得しやすいように鳴が人の格好をしているのが唯一の救いだろうか。


「…あれが開拓業者達の本拠地だ」

「なんかその言い方ものものしいよねー」
「茶化すな御先」
「まぁ、確かにものものしいのは確かだがな」
「うー、レンレンとなるるん意地悪だぞー」
「「変なあだ名で呼ぶな」」

「そこでじゃれてる三人、人が出てきたから静かに」

草むらの影からプレハブを見つつ蓮生・御先・鳴が軽口を叩き合っていると、中から出てきた人を見つけた翼が小さくたしなめた。

がやがやと中から数人の人が出てくる。
中々ガタイのいい男達だが、数人の顔色が悪い。
耳を澄ましてみると、『俺もうイヤですよ…』とか『この森絶対呪われてますって!』などと聞こえてくる。

その会話を聞いて、蓮生がじとりと鳴を睨みつけた。

「…俺たちが来る前に何かしたのか?」
「何もしていない。
 ただこの森に住んでいるあやかし達は多いから何度か見られたかもしれないし、夜に活動的になるあやかし達の声を聞いたりしたのかもしれないが」

蓮生の言葉に鳴が肩を竦めながらそう返す。
それを聞いて、蓮生は眉を寄せた。

つまりはこちらの意図していないところで既に人間を怯えさせてしまっていた、と言うこと。
まぁ、不可抗力なら統治者とて無闇に諌めたりはしまい。

そう判断した蓮生が視線を戻すと、元締めらしき男がプレハブから出てきた。

小太りでスーツを着た、いかにもと言った感じの男である。
少しずつ吹き出てくる汗をふき取りながら、イライラした様子で声を張り上げた。

「こんな森に何を怯えているんだ!?
 こっちは金を出してるんだぞ、キリキリ働け!!!」

どうやら中々作業を始めない作業員達にすっかりお冠らしい。
その声に触発されたらしく、渋々ながら作業をしようと動き出す男達。

「…交渉するなら、今だろうな」

ぽつりとそう呟いた鳴を見て、蓮生が一番に立ち上がった。
がさり、と大きく草を揺らしてわざと注目を集めるように立ち上がった蓮生に、その場にいた全員の視線が集まる。

『!?』
「だ、誰だ貴様!?」

唐突に現れた見知らぬ子供に、男達は驚いて目を見開き、元締めが声を張り上げる。


「俺達はここの森と、その周りに住んでいるものたちの為にお前達と話がしたくてやってきた」


敢えて具体的に言わず、抽象的に話して誤魔化す話し方を始める蓮生。
そのままゆっくり歩みだすと、後ろに控えていた残りの三人も立ち上がって後についていく。

唐突に現れた四人の人間に戸惑いを隠せないらしい元締め。
しかしそんな様子を意に介せず、蓮生は話し始めた。


「――――まず、これを見てもらいたい」


そう言った蓮生は、手に持っていた何かの書類を元締めに手渡す。
元締めはうろたえながらもその書類を受け取り、ぱらぱらと目を通し始める。

「…ん?んん…??」

一枚一枚読み進めるごとに、元締めの眉間に皺が寄っていく。
そして最後の一枚を読み終わったところで―――険しい表情の元締めが口を開いた。

「……これは、一体どういうことだ?」

心なしか声のトーンが下がった元締めの問いかけに、蓮生はしれっとして答える。


「…この山の開拓に反対する一般の人たちの署名。
 それと、この山の所有権は正式にはそちらにないことを証明する書類一式だ」


――――――昨日の作業と言うのは、このことだった。


山から下りて付近に住む住人に開拓の話をし、自然保護を…反対する気があるなら署名をしてくれと声をかけ。
この山の権利はきちんと開拓業者が持っているのかということに関して翼に調べてもらったのだ。

その結果、一般の人たちからは人数の関係からあまり沢山ではないが、全員の署名を得ることができ、開拓業者はきちんとした手順を踏んで所有権を得ているわけではない…つまり所有権を持っていないということも明らかになった。
こんな辺境ならばきちんとした手順を踏まずともよいだろうと考えたのかもしれない。
確かに、ここまで都心や人里から離れていれば、少しくらい手を抜いても後で書類は幾らでも作り上げることが出来るだろうと考えたらしい。
随分と性質の悪い業者だ。


…まぁ、こちらからすれば好都合なことには変わりなかったが。


「付近の住民からはこの開拓に関する反対が多い。
 それに、そちらの所有権獲得が正式には行われていないことから、俺達としてはこの開拓を止めて頂きたい。
 昨日のうちにこの山の付近に住む人々に木に関しての書類とともにいくらかの募金を行って貰った。
 また、完全と言うわけではないが、この山の木々全てを立木として登録し、不動産とした上で付近の住人達一人に数本分の所有権を分割してある。
 …この山の開拓がしたいのならば、この付近にいる住人全員から所有権を譲り受けるか、正式に申請して木を購入して貰いたい」


ざわっ…。
更に新しい書類を広げながら蓮生が言うと、周りにいた作業員達がざわめき始める。
「あ、そうそう。
 この方法に関してはきちんと法律で定められている方式に乗っ取って行われているから、君たちがどうこうしようとしても無理だよ」
翼がそう付け足すと、作業員達のざわめきが一層強くなった。

時間が足りなくて完全には終わっていないが、作戦自体は中々悪くなかったらしい。
色んな意味で、効果は抜群のようだ。

「きゃー、レンレンとおねーさんかっこいー!」
「御先、茶化さないでおけ」
「そうだ。僕と蓮生は真面目にやっているのだから」

ちょっとギャラリーが煩いが、蓮生は気にしないでおくことにする。

「…さぁ、今すぐ開拓を止めてくれ」
「……」

元締めはぷるぷると肩を震わせると――――ビリィッ!!と大きな音を立てて書類を破り捨てた。


「…っふざけるな!
 そんな書類などで諦められるわけがなかろう!?
 こちらとて大量の投資を行って開拓の準備をしてきたんだ!!!
 貴様のような子供如きに不意にされてたまるか!!!」


「うわー…あのオジサン急に怒り出してるよ…」
完全にお冠で周りを省みずに騒ぎ出す元締めに、鳴が深々と溜息を吐く。

「…やはりこの男の頑固さ…いや、がめつさは筋金入りのようだな…」

こうなったら実力行使に出ても仕方あるまい。
暗にそう言った鳴に、蓮生は少し焦りだす。

「しかし、まだ交渉が完全に決裂したわけでは…」
「ほとんど決裂したも同じようなものだ。
 これ以上の交渉は無駄としか思えぬ」
「だが…!」

草むらの中で待機させているあやかし達を呼ぼうとする鳴に流石に焦る蓮生。
御先は我関せず状態で癇癪を起こしている元締めを楽しそうに見ているだけだ。…こういう時に限って役に立たない。

あやかしを呼ぼうとする鳴とそれを止めようとする蓮生。
癇癪を起こす元締めにそれを楽しそうに見ている御先。
完全に暴走している雇用主に戸惑う作業員達。


――――――もうしっちゃかめっちゃかだ。


「…おい…」
「いい加減に諦めろ!」
「そんなことは出来ん!!」
「ちょっと…」
「金がパァになるなんて絶対に許さんぞ!」
「…オジサーン、あんまり怒ってると血圧上がって倒れちゃうよー?」
「………」


――――――――どごん!!!!
            …ぴたっ。


…唐突に後方から聞こえてくる破壊音に、全員の動きが一斉に止まる。
音のした方向にぎこちなく首を動かすと――――まるで女神のようににこやかに微笑む翼の姿。

……ただし、彼女が横に思いっきり振ったらしき右腕の先にある、真っ二つに折れた大木も付属で。


さーっ、と青ざめるその場にいる全員を微笑んだまま見渡してから…翼は、ゆっくりと口を開いた。


「―――――この山は、僕が買い取る」


間。


『……は?』


「だから、この山は僕が買い取る。
 そちらの準備にかかった資金も全て込みで、だ」


―――――なにか、問題でもあるかい?


柔らかく微笑んだまま威圧感だけたっぷり発揮して紡がれる翼の言葉に――――業者達はおろか、御先や鳴、蓮生までもがこくこくと勢いよく頷いた。


●あやかしの山●


「――――――で、結局翼さんが喰魔山を買い取るってことで話がついたわけだ」


「…まぁね」
そう言った神翔の声と視線に、翼が苦笑気味にそう返した。

結局あの後業者との詳しい話し合いは後日に回し、翼たちは家に戻ることにした。
…家に戻ってきたとき、優雅にお茶会してる神翔と鬼斬を見て思いっきり毒気を抜かれたのはちょっとしたご愛嬌だが。

「にしても俺驚いちゃったなー。
 まさかおねーさんが『買い取る』なんて言い出すとは思わなかったんだもん」
「なにかとテレビで騒がれている人間なのだから、資産は沢山持っていても不思議ではないだろう」

もう気を取り直したのか呑気に茶を啜りながらそういう御先に、鬼斬が冷静にそう返す。
そんな呑気な雰囲気の中、鳴が所在なさげに視線をさまよわせてから、ぽつりと切り出した。

「…とにもかくにも、だ。
 お前のお陰でこちらは山の心配をする必要はなくなった。礼を言う」

そう言って頭を下げる鳴に、翼はふっと笑う。
「別にたいしたことはしていないよ。
 元々考えていたことだったし、それが現実になっただけだからね」
こくりと茶を一口飲んでそう言うと、何故か御先が目をキラキラさせながら翼を見る。

「おねーさん…カッコイイ…vv」
「はは、有難う」
「…頼むからそんな恋する乙女のような目をするのはやめてくれ」

うっとりとした表情で翼を見る御先に呆れた蓮生が、御先の首根っこを引っつかんでこちらに引き寄せながらそういった。
「なに?レンレンってばやきもち?
 だいじょーぶ俺にはレンレンだけだからっvv」
「なっ…!?誰がやきもちなんて焼くか!!抱きつくなっ!!コラッ!!!」


「…蓮生、そろそろ帰ろうか。
 結局一泊してしまったし、流石に2日も世話になるわけにはいかないだろう?」
「…あぁ、そうだな」

部屋にかけられた時計を見ながらぽつりと呟いた翼に、なんとか御先を引き剥がした蓮生も頷く。
そして2人同時に立ち上がると、他の四人も一緒に立ち上がった。

「仕事もこれで終わったことだし、俺達もそろそろ帰ろっかな」
「じゃあ、途中まで一緒に行こうか?」
「いいの?」
「勿論」
「…では、そうさせて貰おう」
「一応山を降りるところまでは一緒だろうしな」

んーっ、と伸びをしながら疲れたように言う御先にふっと笑った翼が提案し、その提案に他の三人が乗る。
神翔と鳴は立ち上がると翼をしまい、人の姿になって歩き出す。

「私達は付近の住民に事の顛末を説明して回ることにする」
「優しい知り合いがここの山を買い取ってくれたから開拓はされないよーっ、って教えてあげないとね☆」

鳴の言葉に重ねるように、楽しそうに笑ってウィンクする神翔。
その様子に小さく笑いながら、6人は一緒に歩き出した。

**


なんだかんだと結局騒ぎに巻き込まれてしまったが、悪くはなかったように思う。
この山に住まう様々なあやかしに触れ合うことも出来たし、翼としては騒ぎがややこしくならなうちに納められてよかったし。
蓮生だってなんだかんだ言っても御先のことはそれなりに気に入ってる…と、思われるし。


「…このまま真っ直ぐ進めば山の出口だ」

不意に立ち止まった鳴と神翔に視線を向けると、鳴が静かにそう告げる。
「どうして最後まで一緒に行かないんだ?」
「一番遠いトコから行く予定だから、キミ達と一緒にいくよりあっちから回った方が早くつけるんだよね」
だから俺達はここでお別れー、と笑う神翔に、蓮生と翼はそうか、と頷く。


「…それと、これは私達からの礼代わりだ」


鳴がそう言ってから顎でしゃくると、何時の間に来ていたのだろうか、二本足で歩く小さな狐が大きな何かを抱えてとことこと歩み寄ってきた。
一体何時の間に、とかよりもむしろ二本足で歩く狐の首に巻かれたマフラーと、両手につけられた手袋が妙に気になる。
これではまるで、あの昔話の――――。

「わぁ、ギンギツネだ!!
 なつかしー、この森にギンギツネの子供いたんだねぇ」

御先がひょこりと狐の前にしゃがみ込んでそう言う。
……やっぱりそうだったか。
なんとなく苦笑した翼と呆れたくなった蓮生を他所に、ギンギツネは恥ずかしそうに頬を染めると、とことこと小走りで2人の元へ走り寄り、腕に抱えていた何かをそっと差し出した。


―――――――それは、人の顔を軽く超えるほどの大きな面積を持つ、澄んだ深緑色の八手の葉。


「これは…?」
どうやら一人に一枚手渡されたらしい。
ギンギツネは八手を手渡すと恥ずかしいのか一目散に逃げ帰ってしまった。
蓮生と一緒に受け取ってまじまじと見つめながら問いかけると、神翔が笑いながら口を開く。


「この山の『通行手形』代わりだよ。
 翼さんの場合はちょっと特殊だったみたいだけど、この山の子達は入ってきた人たちを警戒するように言ってあるからさ。
 幾らなんでも来るたびに警戒されたらイヤでしょ?
 この通行手形は俺達の術力が付与してあって、これを持ってるとイコール俺達の知り合いでお友達、ってことになるわけ。
 それに、急な用事がある場合はこれに念じれば一瞬で喰魔山にこれるような仕掛けになってるんだ。
 山の子達も気を張らなくて済むし、様子が見たければいつでも来れるし、一石二鳥でしょ?」


ね?と笑いながら言う神翔に、2人はまじまじと八手の葉を見た。
ひっくり返してみれば、何故か葉脈の形が『通行手形』と言う字によく似た形に歪んでいる。
…とてもじゃないが、そんな凄い力を持っているようには見えないのだが…。

「八手は別名『天狗の葉の団扇』と言うそうだ。
 ……私達によく合っているだろう?」

ふっと笑いながら冗談を言う鳴に、2人も思わず小さく笑う。
なるほど、この葉は有翼人である自分達と天狗をかけたちょっとした茶目っ気の産物なわけだ。

蓮生と翼が笑ったのを確認して、鳴と神翔は先ほど指差した方向へと体を向ける。

「ではな」
「んじゃ、縁があったらまた会おーね!!」

そう言って軽く頭を下げて歩き出す鳴を追って、ぶんぶんと最後まで腕を振っていた神翔も歩き出す。
ほんの数歩歩いた次点で――――まるで幻の映像がブレて消えるかのように、2人の姿は掻き消えた。

「…ここは結界を基盤として様々な術が入り組んでいる山だからな。
 大方あそこの道はどこか離れた空間に繋がっているんだろう」

少し驚いたような表情を浮かべる蓮生と翼に、鬼斬が冷静に言う。
なるほど、と先日から仄かに感じていたこの山の違和感の正体を知った2人は呟き、歩き出す。


――――――くだらないことを話しながら歩いていると、目の前に山の出口が見えてきた。


「ここから出ればいいんだな?」
「多分ね」
蓮生と翼は軽口を叩きながら出口に向かって歩いていく。


そのまま山と道の境目から道に向かって一歩踏み出した瞬間―――――。


ぞわり。
まるで唐突に水から水面に飛び出したような。
ぬるぬるとしたゼリーの壁から這い出したような――――そんな、奇妙な感覚。


背筋を這い回るようなその感覚に驚いて2人同時に振り返ると…確かに、山の入り口はそこにある。


――――――しかし、山の入り口の山側にいるはずの2人の姿が、ほんの少しだけぼやけて見えた。


まるで薄いガラスを通して見ているような、奇妙な視界。
周囲を見渡せばクリアなのに、山の入り口に立つ2人を見ようとするとぼやけて見える。


――――――これが、きっと鬼斬の言っていた『結界』なのだろう。


確認するようにちらりと視線を向ければ、腕を組んでこちらを見る鬼斬と、にこやかに笑いながら手を振る御先の姿。
なんとなくつられるように手を振り返すと――――シュンッ、と僅かな音を立てて、鬼斬と御先の姿が消えた。

…一足先に帰ったのか。

誰に教えられたわけでもなく、不意にそう思う。
それはそれで別れの挨拶のようなものは済ましたのだし、別にいいだろう。

そう判断した翼と蓮生は、顔を見合わせた後に歩き出した。

「…きちんと山の問題が片付いたら、また来ようか?」
「……あぁ、そうだな…」


また来よう。
鬼斬や御先に会えるとは限らないけど。
ただ、なんとなく、お互いにそう思って。


―――――再度顔を見合わせてくすりと微笑みあった二人は、ゆっくりと家に向かって歩き出した。


<結果>
交渉:成功(?)
記憶:残留。
報酬:通行手形(笑)―(喰魔山に自由に出入り出来るようになり、且つ用がある時は念じれば一瞬で喰魔山一口へ辿り着くことができます)


終。

●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●
【整理番号/名前/性別/年齢/職業/属性】

【2863/蒼王・翼/女/16歳/F1レーサー兼闇の狩人/光&闇】
【3626/冷泉院・蓮生/男/13歳/少年/光】

【NPC/鬼斬/男/?/狭間の看視者/闇】
【NPC/御先/男/?/狭間の看視者/光】
【NPC/神翔/両性/?/喰魔山管理役/地】
【NPC/鳴/男/?/喰魔山管理役/風】
■ライター通信■
大変お待たせいたしまして申し訳御座いませんでした(汗)
異界第三弾「魔人の章」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
今回は前作に比べて皆様の属性のバリエーションが広がっており、ひそかにほくそ笑みました(をい)
しかし、今回も残念ながら火・地属性の方にはお会い出来ませんでした。…残念!(をい)
また、今回は参加者様の性別は男女比較的バランスよくなりました。なんか嬉しいです(をい)
今回、ついに無事全看視者個別指定入りました!ばんざーい!!!(をい)なんだか無性に嬉しいです。いや、ホントに(笑)
なにはともあれ、どうぞ、これからもNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)

NPCに出会って依頼をこなす度、NPCの信頼度(隠しパラメーターです(笑))は上昇します。ただし、場合によっては下降することもあるのでご注意を(ぇ)
同じNPCを選択し続ければ高い信頼度を得る事も可能です。
特にこれという利点はありませんが…上がれば上がるほど彼等から強い信頼を得る事ができるようです。
参加者様のプレイングによっては恋愛に発展する事もあるかも…?(ぇ)

・翼様・
ご参加どうも有難う御座いました。また、鬼ペア(と言うか御先ですか(笑))をご指名下さって有難うございます。
蓮生様とのリンクノベルと言うことで、楽しく書かせていただきました。
話の八割はリンクしてます。翼様が現れるまでの蓮生様の動きはそちらのゲームノベルでご確認くださいませ☆
風船鬼は実はひっそり気に入ってます。とぼけた喋り方とか、見た目とか(笑)
説得に関しては…微妙なところです。法律に明るくないので上手く表現できなかったのですが…如何でしたでしょうか?
と言うか翼様強硬手段に出させてしまいました…だ、大丈夫でしたでしょうか?(汗)

色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。