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■超能力心霊部 ファースト・コンタクト■

ともやいずみ
【3364】【久遠・桜】【幽霊】
 ざわめく街角。
 帰宅中の学生。買い物をしている若者たち。
 そんな、日本のどこでも見かける光景。
 その中の、とあるファーストフード店。
 店内には若者が帰宅途中の休憩と言わんばかりに占めていた。

 そのファーストフード店の二階の窓際。
 店の外からも様子が見えるそんな場所に陣取っている高校生の3人組がいた。
 ボブカットの少女・高見沢朱理。
 ストレートの髪の美少女・一ノ瀬奈々子。
 気弱そうな表情で、二人の少女をうかがう外人のような少年・薬師寺正太郎。
 正太郎の差し出した一枚の写真を見遣るなり、奈々子は美しい眉を吊り上げる。
 奈々子の横に座ってジュースを飲んでいた朱理はたいして気にもしていない。
「あなたって人は!」
 ぎろりと正太郎を睨みつける奈々子を、朱理は横目で見る。正太郎はびくりと肩を震わせた。
「いくら私たちと同じ能力者といえど、私たちは『霊能力者』ではないのですよ? この写真にどういう意味があるのかきちんとわかるわけがないというのに……」
「ご、ごめん……」
 肩を落として謝る正太郎をチラリと見遣り、朱理は軽く笑ってみせた。
「まあいいじゃない。なんとかなるって」
「あなたはどうしてそんなにお気楽なのですか!」
「奈々子ほど真剣に考えてないだけだよ」
 平然と言う朱理に、正太郎は少しだけ安堵したような表情になる。
「正太郎だって写したくて写したんじゃないんだし、そんなにカリカリすることないって」
「あ、ありがとう朱理さん」
「いいっていいって。だってあたい、そういう霊とかいうもの、よくわかんないしさ」
 ケラケラと笑う朱理。
「何度言ったらわかるんですか! こういうものの中には、害がある場合もあるのですよ? 警告という形で写真に写ることもあるのです!」
「奈々子さん、落ち着いて……」
「そうそう。あんまり怒るとハゲるよ、奈々子」
「もう! どうしてあなたたちはそうなんですか!」
超能力心霊部 ファースト・コンタクト



 やっぱり、と桜は肩を落とす。
 どこを探しても見つからない。どうしてこんなことに……。
 桜は俯いたまま進む。
「お〜い」
 背後から聞こえた声にも桜は反応しない。今の自分は普通の人間の瞳には映らぬ、幻のような存在なのだから。
「お〜い、ってば! そこの着物のお姉さ〜ん」
 そこまで聞いて桜は顔をあげ、足を止めて振り向く。
 着物という限定までつけば、必然的に自分も範疇に入る。でもまさか、と思う。
 だって。
(私は人間には見えない……幽霊なのに……)
 声を出していたのは元気そうなボブカットの少女だ。駆け寄ってくる。しかも……手を振りつつ。
「あー、やっと止まってくれた」
 桜の手前で止まり、にっこり笑う少女に怪訝そうにする。もしかして……この娘は霊感があるのだろうか……。
「この写真に写ってるの、お姉さんだよね?」
 差し出された写真。桜は驚いて写真と、少女を交互に見遣った。
「あの……私が、見えて……?」
「ん?」
 笑顔で問い返されて、逆に桜は困惑してしまう。
「こ、こらぁ〜! なにおいて行ってるんですか、朱理〜!」
「朱理さん、待ってぇ〜」
 はひはひ言いながら駆け寄ってきたのは、長い髪の美少女と、少年だ。
 朱理と呼ばれた少女は振り向いて呆れる。
「足遅いなあ、二人とも」
「あなたが速過ぎるんです!」
 ギッと美少女が朱理を睨みつける。
 そのやり取りをどうすればいいのかわからず見つめていた桜のほうを、朱理が振り向く。
「そんな怒らないでよ、奈々子。ほら、このお姉さんでしょ? 写真に写ってるの」
 は、として美少女と少年が桜に視線を遣った。桜は困ったような笑みを浮かべたが、瞬間、二人とも「さー」と音をたてて青ざめた。
「あっ、あなたって人は! なに呑気に〜っ!」
「ええ〜? だってこの人じゃない。なんでそんな青ざめてんの?」
 写真を見返して、「ねえ?」と桜に同意を求める。桜はその写真に心当たりがあった。
 困っている自分に協力して欲しくて、カメラと見れば進んで写りに行ったものだ。特にこれは……。
(かなり最近のものですわね……)
 見つからなくて、かなり落ち込んでいた時のものだ。写真の隅で顔まで覆っていることから、それがわかる。
「あっ、朱理さん! こ、こ、このっ、この人、ゆ、ゆゆゆゆ!」
「落ち着きなよ正太郎」
「幽霊なんですよ! 朱理!」
 そう言われて、朱理はきょとんとして桜を見つめた。桜としては困った笑みしか浮かべるものがない。どうやらこの三人には見えているようだが、幽霊が苦手のようだ。
 朱理は真剣に桜を見つめていたが、ふいに首を傾げた。
「……幽霊? お姉さん死んでるの?」
「え、ええ……。享年35歳ですの」
 朱理は無言になるが、奈々子のほうを見てなんだか清々しい表情を浮かべた。
「奈々子! 幽霊だって! そうか〜、幽霊だったのか〜」
「なに納得してるんです、この馬鹿! しかもわかってないでしょう、実は!」
 怒鳴る奈々子の横で、金髪の少年が震えている。目まで閉じていた。
 朱理は肩をすくめる。
「いいじゃない、そんなの。この写真のお姉さんはかなり困ってる感じだし。まあ幽霊だろうがなかろうが、なんでもいいって」
「よくありません!」
「で、お姉さんはなんでこの写真に? 心当たりある?」
 怒鳴る奈々子を無視して桜と会話をしようとする朱理に、なんとなく苦笑してしまう。
(なんだか不思議なお嬢さんですわね……。でも)
 事情を話せばわかってくれそう。そう感じて桜は小さく微笑む。
「私、久遠桜と申します。この写真、心当たりがありますわ」
「やっぱり! あたいとツーショットだもんね」
 ツーショットとは言えないだろう写真をさらりとそう言う。どう見てもブイサインをしている朱理の背後……しかも隅で泣いているらしい着物の女性がぼーっと写っていればそれはツーショットではなく、心霊写真として怖がるはずだ。
「実は……大切な簪を落としてしまって……。探しているんですの、今も。見つからなくて悲しくなっている時の写真ですわ」
「へえ……落し物か。それは大変だね」
「落としたらしいところはかなり念入りに探したのですけど……。主人からもらった、大事な簪でしたからどうしても諦めたくなくて……」
 肩を落としてしまう桜を前に、能天気な表情だった朱理は真剣なそれになる。
「じゃあ探そう。手伝うよ、あたい」
 唐突に言い出した朱理の言葉に桜は思わず嬉しくなるが、彼女の背後の二人がぎょっとしたのまで見てしまった。
「あたい、高見沢朱理。後ろのは一ノ瀬奈々子と、薬師寺正太郎。とりあえずもう一回、落としたらしいとこ行こう」
「こ、こら朱理! 勝手に……!」
「そ、そうだよ朱理さん……」
「旦那さんからもらった大事な簪を探すのくらい、手伝ってあげようよ! なんだよ、ケチだなあ二人とも!」
 ケチとかそういう問題ではないのだが、朱理はもう手伝う気満々のようだ。奈々子は仕方なく肩を落とす。
「朱理は一度言い出したらきかないんですから……。わかりました。確かに探し物は大勢で探したほうがいいです」
「……もしかしてボクも……?」
「当たり前です! だいたいあなたの撮った写真が原因なんです。手伝うのがスジというものでしょう!」
 ずどーんと落ち込む正太郎に、桜が声をかけた。あまりにも不憫でならない。
「あ、あの……無理にとは申しませんから……。お気持ちだけでも十分嬉しいですし」
 正太郎は桜を見遣り、しばらく迷っていたようだったが渋々うなずいた。
「わかった。ボクも手伝います。久遠さんは悪い……れ、れ…………っ、悪いものには見えないから」
「よし! じゃあ行こう、桜さん!」
 元気よく言い放った朱理に、桜は嬉しそうに、小さく照れたように微笑んだ。



「落としたらしい道順をずっと来ましたけど、ないですねえ……」
 困ったように顔をしかめる奈々子に、桜は「ええ」と相槌を打つ。桜は普通の人にも見える幼い少女の姿だ。
「この姿の時に落としたらしいんですの……」
 しょんぼりとする桜に、奈々子と正太郎が顔を見合わせる。
「きっと見つかりますよ! 元気を出してください!」
「そうですよ!」
 励ましてくれる二人に、桜は頷く。こんなに探しても見つからないのでは、と、もはや諦めに気持ちは傾きつつあった。
 朱理が走って戻ってくる。
「交番行って来たけど、落し物にはなかったよ奈々子」
「そうですか……万が一ということも考えて誰か届けてくれたのではと思ったんですけど」
「誰かに踏まれても、破片は絶対落ちてるだろうしね。破片がないってことは、まだ無事なんだろうけど」
 正太郎が屈んで道の隅をじろじろ見遣った。
 朱理は「う〜ん」と唸ってから、桜を見つめる。
「道は間違ってないんだよね?」
「ええ。間違いないですわ」
 四人はとぼとぼと歩く。朱理は唇を尖らせた。
「奈々子のテレポートで落し物のとこまで瞬間移動できたらいいのに……ちぇー……」
「そう言うんでしたら、やってみます?」
 奈々子が朱理を肩越しに見つつ、冷たく言う。朱理は「言っただけ」と呟いた。
 だがそこで奈々子が気づいたように正太郎を見遣った。
「そうだ! 薬師寺さんの念写で見つけられるかも!」
「えっ?」
 正太郎が困惑の声、桜が歓喜の声を同時に出す。同じ言葉でも、声に含まれた感情が全く違う。
「あなたはどうせろくなものを写さないんですから、念写で見つけてください」
「ええ〜? む、無理だよそんなの〜」
「あ、あの、お願いできませんか? 少しでも可能性があるなら、ぜひ」
 期待している桜の眼差しを受けて「うっ」と正太郎が洩らした。やがてインスタントカメラを鞄から出して瞼を閉じ、意識を集中させる。
「桜さん、期待できるかもよ! 正太郎の念写ってさ、時々未来のこととか、過去のことも写しちゃうことあるから!」
「そうなんですの?」
 朱理と嬉しそうに言い合う桜の前で、正太郎がシャッターを押す。出てきたものをさっと奈々子が取り上げた。
 だが、奈々子が顔を引きつらせ、正太郎の襟首を締め上げる。
「あなたは〜っ!」
「ぐ……奈々子さ……く、くるひ……っ」
 奈々子の手から奪った写真を、朱理と桜が一緒に見てがっくりと肩を落とした。
 嬉しそうに簪を挿している桜の姿が写っていただけだ。
 それを眺めて桜は懐かしそうに写真を撫でた。写真の中の自分は簪を所有しているというのに……。
 首を絞められていた正太郎が誤って再度シャッターを押してしまう。出てきた写真はひらり、と桜の足元に落ちてきた。
 朱理はそれを拾い上げ、目を見開く。
「桜さん!」
 突然桜のか細い手を引っ張るや、朱理は彼女をおぶった。朱理の行動に奈々子と正太郎が目を剥く。一番驚いたのは桜だ。
「あ、あの? 朱理さん?」
 目を白黒させる桜をおぶったまま、朱理は猛烈な勢いで駆け出した。慌てて桜は朱理にしがみつく。
(ま、まあ……! こんな若いお嬢さんにおぶってもらうことがあるなんて……。死ぬ前には思いもよりませんでしたわ……)
 長い間現世にいると、思いもよらないことが起こる。
「ここだ!」
 朱理は急停止するや、桜を降ろして土手を駆け下りていく。いきなりで桜は仰天した。
「朱理さん!?」
 ここは探したはずだ。それなのに。
 朱理を追いかける桜は、朱理がためらいもなく川に入っていくのを見て足を止めた。
 道から小川まではかなりの距離がある。あんなところまで落ちるわけがない!
「朱理さん、何をして……」
 無言で川を探っていた朱理は、素早くあがってきて桜に向けてまっすぐ歩いてくる。
 桜の小さな手を開き、そっとそこに押しつけたモノ。
 懐かしい感触に桜は目を見開き、震えた。二つの玉飾りのこれは、見覚えがある。
「これ……は……」
「お礼なら正太郎に言ってよ」
 にっと笑う朱理は、桜に写真を見せる。そこには土手で野球をしている小学生が写っていた。その一人がボールをとるために後退しているものだ。だがその後ろ足に蹴り上げられて川に向けて飛ぶ光るものは……。



 ざわ、と風が吹く。桜の簪が揺れた。幼い姿でいた桜の姿が、闇に紛れるように消える。いや、見えなくなったのだ。
 そしてそこに居るのは、死んだ時の姿のままの、自分。
 彼女は小さく微笑む。
「ふふ……。機会があったら主人にも話してあげたいわ……」
 知り合いになった、あの三人のことを。
 いつかまた、彼女たちに会うこともあるだろう。
 なぜなら自分は死者。正太郎の撮る写真に必ず写る怪異そのものなのだから。
(写真にまた写ったら、きっと……)
 嬉しそうに微笑むその桜の姿こそ、正太郎が念写で写したものであったのだが……それを確かめられる者はここにはいなかった。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【3364/久遠・桜(くおん・さくら)/女/35/幽霊】


NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】


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■         ライター通信          ■
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 この度はありがとうございました。ライターのともやいずみです。
 桜さんの優しい雰囲気が出るようにと頑張りましたが、どうでしょうか?
 三人ともそこそこ仲良くなれたように思います。と言うより、桜さんの雰囲気にさすがの怖がりの正太郎でさえ罪悪感を覚えたのには私も驚きました。すごいです、桜さん!
 指定は特になかったので、朱理と一緒に写真に写っていることにしました。

 今回はご依頼ありがとうございました! 楽しく書かせていただき、大感謝です!
 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。