■【女の子だって叫びたい!】力の限り不満を叫ぶ?■
秋月 奏 |
【3069】【藤菜・水女】【高校生(アルバイター)】 |
かなり。
かなりその日は、二人の人物もぐったりとしていた。
別に何かがあったと言うわけではない。
ただ春と言うものは全てが目まぐるしく変わるものなのだ。
「何かですね、爺やと母さまが色々言うんです〜」
と、弓弦・鈴夏が言えば。
「あー、やっぱ? あたしもこの時期さぁ、天狗に逢わせてという人を断るのに難儀するんだよねえ」
特にこの時期、興味と言うか好奇心だけで逢いたいって、奴多いし……。
ぶつぶつ、ぶつぶつ。
二人の少女が、ひたすらにぼやきあっていても、心がスッキリする筈もなく。
「…よし、叫ぼう!」
「えええっ!? さ、叫ぶんですか?」
「うん、きっとスッキリすると思うんだ。無論、お悩み相談室もかねてさ♪」
「なるほど、それは良い考えですね! では早速募集を」
そう言い、鈴夏は紙になにやら書き始めた。
「募集。
日々の鬱憤を叫んでみたい人は居ませんか?
もし宜しければ、叫ぶ場所とその悩みについて話せる場所を提供いたします。
詳細は、弓弦・鈴夏及び、真鶴・ほくとまで。
PS.叫びたくても叫べない女の子も是非、どうぞ♪」
――女の子だけなのか?
そんな、ほくとの無言の問いかけを、あえて見ないようにしながら
鈴夏は数枚の用紙を貼ってくると言い、にっこり――いいや、にやりと
微笑んだように、ほくとには見えた。
「(色々と)…溜まってるんだね、鈴夏も……(ぼそっ)」
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【女の子だって叫びたい!】力の限り不満を叫ぶ?
『見てくれが悪い』と言う言葉を時に人は使う。
見てくれ。
――何だか解らないけれど腹が立つ言葉だと、常々思う。
アクセントさえ、変えてしまえば自らが「ちゃんと見てよ!」と言うような言葉に出来るだけに、尚更。
(理不尽ですわ)
――見た目が悪い、だけで料理の腕が決め付けられるなんて。
+
藤菜・水女は、アルバイトをする傍ら、学校へ行っている。
……こう言うと、何だか学業よりもバイト優先!と言う職業人間のような気がしないでもないが……実際は少しばかり、違う。
学校も無論大事だ。
大好きな親友は居るし、楽しいし。
ただ。
自分で足らないものを補えるところが学校ではなく――アルバイト先にあったと言うだけの。
水女はあまり、感情を上手く出す事が得意はない。
笑う事は出来るが、何処か自分にとって演技している様にしか出来ず、また上手い具合に微笑む事が出来なくて、接客業で少しでも!と頑張っているところなのだ。
此処最近は、最初の頃に比べたら随分と顔が動くようになってきたように思うし、少しずつ、責任のある仕事も任されてきて。
そんな時だ。
「叫びませんか?」と言う、何処か奇妙なチラシを学校で見つけたのは。
(叫ぶとは……これは、また……)
原始的な手段――と、言えなくもないが中々面白い。
愛用の扇を、パチンと鳴らし、水女は微笑を深くする。
チラシをよくよく見れば、何がしかのコンタクトは取れるようになっているようだし……。
「そう、ですね……行くのも悪くはないでしょうか」
そして、水女は手ぶらで行くのは良くない――と言う、行儀の良さでもってクッキーを作っていく事にした。
料理には自信がないが、お菓子は良く作る上、良い味見役も居るので自信があったから、でもある。
細かく刻んだココナッツを混ぜ合わせたり、砕いた胡桃を入れたり……種類を作るのも楽しいもので。
今はどの様なものを入れたら、美味しいだろう。
水女は、足取りも軽く、その場所へ行く時の事を考えていた。
+
『だから、絶対可笑しいだろう!』
『何が可笑しいと言うのです、良いですか、まず人に何かを言う時は理論的に論じていく事が大事なのであって……』
『……いや、こう言う物体を前にして理論的に論じろ、とか言うのはな……月と太陽が逆転するくらい、無理』
『なっ……!!』
くすくす、くすくす。
二人の会話を聞いて微笑うのは、二人共通の友人であり、水女にとっては大切な親友。
見えないところで楽しむのが楽しいのよ〜と言う親友はやはり、一人優雅に腰かけ、二人の動向を見守っているつもり、らしいのだが……困ったように水女は、視線を親友へと向けた。
『何が可笑しいのです?』
『んー? だってさあ……二人の会話聞いてると、何て言うか……』
また、耐え切れないと言うように笑い出す。
二人とも、どうしていいか解らないまま、笑い出してしまう。
が、心に沈んだ言葉が消えるには、時間がかかる。
"月と太陽が逆転するくらい、無理"
見てくれが悪いと言われるのと同じくらい、不愉快で。
そして、如何しようも出来ない――願いが叶う護符を、いつも持ち歩いて料理の練習もしているが…一朝一夕に上手く行くものでもない。
例えば、包丁を一つ持つ事でも、今日は上手く行っても次の日も上手く出来るかと言うと、そうでもない。
指が包丁を持った瞬間に強張ってしまって、昨日、どう言う風に持ったかどうかも忘れ、千切りは乱切りになるし、みじん切りは、ざく切りになる。
しかも、煮込んだりとかすると色がどす黒くなる事が多々あったり……味付けが濃すぎるのだ、と言われた事があるけれど、確かに適量…量って入れてるはずなのに……全部全部、本の通りにしているのに……。
なのに、どうして上手く行かないのだろう?
(……全く以って不思議です)
何時かは、ちゃんと美味しく作れると良いのだけれど……ああ、でも、その前に。
包丁を上手く持てるようになる事、が、一番の先決なのかもしれない。
+
そうして。
水女は、その後素早く連絡を取り、叫びたい事があるのだと告げ……
「迎えに行きますよ?」と言われたのを「お邪魔するのですから、これ以上のご迷惑は」とやんわり、断って教えられた場所を頼りに「見える」かもしれない門を探す。
突如として見えることがあるだろうから、「気をつけてくぐってきてくださいね?」と、携帯電話の向こう、柔らかな声に言われ「はい」と頷いたのだが……
如何にもこうにも、これは……
(突如過ぎますわね)
ある所から突然に見え出した白い、門。
風景と溶け合うどころか、目立ちすぎていて逆に怪しい……けれど、普通は見えないのだから、この位目立ってないと見過ごしてしまうものなのだろう……多分。
息を吸い込み、水女は、門をくぐる。
一瞬、空気が揺らいだような気がしたが――振り返っても何の異常もない。
ただ、前を見れば、ただっぴろい庭園があるだけの。
いきなりの場所転換に、自分がアリスになったような気持ちになるが……と言う事は向こうにいる彼女たちは、マッドティーパーティで……って、違う、違う、こう言うことを思いたいのではなくて……水女は、ゆっくり、お茶を飲んでいる少女ふたりへと近づく。
「お邪魔します」
この日一番の、晴れやかな、笑顔を浮かべながら。
+
「初めまして。手土産としては軽いのですが、クッキーを持ってきました」
「そんな気を使ってもらわなくても良かったのに」
快活そうな、黒髪の少女が申し訳なさそうにクッキーを受け取ると「じゃあ、このクッキーでお茶にしようか?」と、傍らに居た少女に聞いた。
自然、傍らに居た少女の顔が綻び「はい」と言う声に、水女は「ああ」と納得した。
はいと返事した方が、コンタクトを取った主だ。
という事は、あちらが彼女が言っていた「真鶴さん」だろう。
柔らかなお茶の匂いを感じながら、水女は勧められるままに席につき、ふと浮かび上がった疑問をあげてみる事にした。
「そう言えば」
「はい?」
「叫ぶことと言うのは何でもよいのでしょうか? 例えば、料理の事とか……」
「勿論。結局鈴夏も便乗して叫びたいだけだから、何でも良いよ? 料理でも焦がした、卵の殻を入れて何が悪いーー!!でも良いし」
「ま、真鶴さん……其れじゃあ私が、皆さんを利用しているようじゃありませんか……」
「そうは言ってないけど。えーと……藤菜さん、だっけ? 鈴夏から名前聞いたんだけれども」
「ええ。藤菜と申します…ですが、どちらでも呼びやすい方で呼んで頂ければ」
差し出されたお茶と一緒に、持って来たクッキーを口にしながら水女は微笑んだ。
「じゃあ、水女ちゃんかな? まあ、こう言うので良ければ是非叫んでいってよ」
「うぅ……真鶴さんが苛める……」
「あらあら……」
頭を抱えながらも、クッキーを摘む鈴夏に「其処まで落ち込まずとも」と言い、宥めながら水女は、
「叫びたいこと。そうですわね……ねえ、少しばかり料理の腕が劣っていても、命に別状が無いのだから良いのではないかと思うのですよ、私は」
「うん?」
「はい?」
一体、何を言うのだろうと考えているだろう、ほくとと鈴夏を見つめながら言葉を続ける。
そう、見た目が悪くても味が濃かろうとも食べれない事はないのだ。
――水分を多く取れば、ちゃんと完食も出来るのだし……
なのに、それなのに。
ぐぐぐっと、拳に力を込めてしまい、カップが、ギギッ…と、悲痛な音を立てた。
何気なく漂う不穏な空気に、食べかけのクッキーを口に持っていくことも忘れ、二人は水女を見つめ続けた。
「それなのに、こちらが頼んだわけでもないのに味見を引き受け、あまつさえ、人の作った物に手を付け文句を言うのは可笑しいですよね!?」
「ああ……まあ……そう、かな?」
「で、ですね!! 一応、食べれるというのであれば……ええ」
二人の言葉を聞き、水女は安心したように息をつく。
誰に言おうとも「可笑しいのは料理の腕が上達しない事じゃ……?」と返される(いや、きっと良く味見をする面々なら言うであろうと断言できてしまう)のが解っているだけに、今まで誰にも言えずじまいで。
「とは言え、水女ちゃん、お菓子作りは上手じゃない?」
このクッキーも良く出来てるし、と、言うほくとに鈴夏も同意を示すよう、大きく頷く。
けれど、当人である水女は落胆を顕にし、
「はい、お菓子は慣れで……それに作る楽しみもあるので」
「……ええと。其れじゃあ料理もそう考えて作れば、上手く……」
行くのでは?とまで鈴夏が言う事も出来ないまま、
「其処ですわ!」
びしっ。
人差し指を勢い良く立て水女は、其処が問題なのです!と、叫んだ。
ほくとが「え、何処?」と聞きながらも、
「料理に関して楽しもうと思うよりもまず……ッ」
何故、ああも色んな切り方があるのですか!!?
笹垣切り、千切り、みじん切り、いちょう切り……言っているだけでも眩暈がしそうなほどの切り方の種類。
そして「調理のさしすせそ」とか、それ以外にも様々な言葉があったり……ああ、もう、どうしてどうして。
作る事を覚える前に、それ以前の覚える事が大量にあるのだろう?
「藤菜さん?」
「水女ちゃん?」
落胆が益々深まった、水女を心配したのか、そっと声がかかる。
可笑しい訳でもないのに、笑いが出てしまうのを止められず、水女は、その艶やかな緋色の髪をかき上げ、大丈夫だという事を示す。
けれど、何と言っていいのか……いや、違う。
実際言える言葉は「失礼だ」と思う以外に他にもある。
ただ、言っていいのか、ずっとずっと解らなかっただけ。
心の中、沈みこんだ言葉は、此処にこそ、あったのだ。
「本当に、もう……」
文句ばかり言われると、やってられませんわよねえ?
叫び、と言うよりは呟きに近い形の言葉を口にしながら、水女は。
何時になれば、上手になるだろう料理の腕を考えながら、「もう一杯宜しいでしょうか」と、紅茶のお替りを所望した。
「勿論」
笑顔と同時に返って来る言葉に、こう言う事を言える知り合いが出来たのも、また良いかもしれないと思いながら。
―End―
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■ 登場人物 ■
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【3069 / 藤菜・水女 / 女 / 17 / 高校生(アルバイター)】
【NPC / 弓弦・鈴夏 / 女 / 16 / 高校生】
【NPC / 真鶴・ほくと / 女 / 17 / 高校生】
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■ 庭 園 通 信 ■
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こんにちは、初めまして。
ライターの秋月 奏です。
今回は、こちらのゲーノベに参加してくださり、有難うございました!!
久しぶりのゲーノベに私自身、緊張しっぱなしだったのですが……
何処か、一部分でも楽しんで頂けたなら幸いです(^^)
けれど、本当に素敵なお嬢さんで、叫びたい事も、
「ありますよね、ありますよね!」と頷きながら
読ませて頂きましたり……物凄く楽しく書かせて頂きましたし
プレイングの最後にかいてあった言葉も本当にありがたくて!
藤菜さんらしさと言うものが出ていましたら良いのですがv
それでは、この辺にて……。
また、何処かにてお逢いできる事を祈りつつ。
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