■I’ll do anything■
九十九 一 |
【1316】【御影・瑠璃花】【お嬢様・モデル】 |
都内某所
目に見える物が全てで、全てではない。
東京という町にひっくるめた日常と不可思議。
何事もない日常を送る者もいれば。
幸せな日もある。
もちろんそうでない日だって存在するだろう。
目に見える出来事やそうでない物。
全部ひっくるめて、この町は出来ている。
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飾り付けは薔薇の花
チャイムを押し、直ぐにインターホン越しに答えが返ってくる。
『はい』
「こんにちは、リリィ様。瑠璃花です」
『瑠璃花ちゃん、ちょっと待っててね』
直ぐに開けられる扉。
「いらっしゃい、どうぞ入って。メノウちゃんももう来てるの」
「おじゃま致します」
「瑠璃花ちゃん、こんにちは」
「こんにちは、メノウ様」
中から出てきたリリィとメノウに、軽く会釈し、持ってきたバスケットを差し出す。
「おみやげのマロングラッセです、サクサクで、とても良く出来ましたのよ」
「ありがとうございます、瑠璃花ちゃん」
「これもみんなで一緒に食べようね」
「はい、楽しみです」
瑠璃花はふわりと暖かくなるような表情で微笑みかけた。
約束したのは少し前。
一緒にお菓子作りをしようと言う約束をして、それが今日という訳だ。
今日のメニューは薔薇のロールケーキ。
「レシピは悠也おにーさまに書いていただきましたの、薔薇の香りが優しく広がってとても美味ですのよ」
「うわぁ、楽しみ」
三人で必要な道具を揃えようとレシピを見る。
「きれいな紙」
「字もきれいですよね」
薄紅色の和紙に丁寧な字で、必要な道具から材料。調理の手順やコツや注意が必要な事までもきちんと書かれている。
「ありがとうございます、おにーさまに言っておきますわね」
素直な言葉に、自分の事のように嬉しくなった。
ふわりふわりと甘い香りの漂う中、楽しそうな声と楽しげで華やかな雰囲気。
「瑠璃花ちゃんのエプロン可愛い」
「ありがとうございます」
今の服装は瑠璃色のワンピースにエプロン。
リリィは白いフリル付きの物で、メノウはチェック柄。
それぞれ動きやすいようにしっかりと整えてある。
このロールケーキを作る時に使う材料は簡単に揃えられる物ばかりなのだが、ここになかった道具や直ぐに揃いそうにない材料……薔薇のジャムだけはあまり見ないから、それは瑠璃花が用意した。
「生地作りからですね」
「うん、材料はこれでいいのよね」
薄力粉と全卵と牛乳、それに砂糖とバター。
それぞれレシピに書かれた通りにキッチリと分量の通りに揃える。
「最初に入れるのは卵と牛乳と砂糖ですね」
「それを暖めてからかき混ぜて……」
メモを読み上げるメノウに瑠璃花とメノウがボウルの中に材料を入れて、リリィがかき混ぜ始めた。
「どれぐらい混ぜればいいの?」
「言葉で説明するのは難しいのですが……少し重くなったりまぜる感触が変わったら言って下さいね。わたくしが見ますから」
「解ったわ」
その間にシロップ作り。
「水と砂糖を入れて沸騰するまで………ですね」
「火の扱いには気を付けて下さいね」
「はい……」
ジッと紙を見つめながらのメノウに、手元が危うげなのが気になってハラハラしつつ見ていたのだが……何とか平気そうだった。
「あとは焦がさないようにすれば大丈夫です」
「……何分ぐらいでしょうか?」
「沸騰して泡が立ったらですから、直ぐですわ」
平気そうだと思った瑠璃花に声がかけられる。
「これでどうかな」
「そうですわね、いい出来ですわ」
「良かった、次は薄力粉を入れて、バターも入れて混ぜてから……四角く焼けばいいの?」
「ゆっくり一つずつやっていきましょうね」
「うん」
「あの、ええと……これでいいんですか」
フツフツと音を立て始め、甘い香りを立て始めたシロップ。
確かに平気そうだと瑠璃花が見に行く。
そんな感じでレシピ通りに作業は進み、いよいよ最終工程。
ロールケーキではここが肝心な所でもある。
「最初に生地にシロップを塗ってから、薔薇のジャムを塗ります」
丁寧に、けれど手慣れた様子で塗り終えたら今度は巻く作業だ。
「このまま巻きましたら形が崩れてしまいますから、コツがあるんですの」
巻きながらもシロップを塗っていくのである。
「こうすると生地が柔らかくなってきれいに、巻きやすくなるんですのよ」
そっと手を動かしながら丁寧に教えていく。
「なるほど……」
頷くリリィとその横で必死にメモをとるメノウ。
「後はクリームを塗って、薔薇の花びらを飾って出来上がりですわ」
薔薇の替わりが漂う中で、瑠璃花はふわりと微笑んだ。
甘い香りがふわりと部屋に満ちている。
テーブルもきれいに片づけ、テーブルの上に乗った薔薇のロールケーキはとても良い出来だった。
フワフワのスポンジケーキに巻かれた鮮やかな薔薇のジャム。
真っ白な生クリームの上に飾られた薔薇の花びら。
白と優しいピンクのコントラストがとてもきれいなロールケーキ。
出来上がったロールケーキを食べやすい大きさに切り分け、これから食べるものと持って帰る物とで分けていく。
これから食べる分はお皿に。
持って帰る分は可愛らしいレースのペーパーを敷いた箱に詰めていく。
「これでよしっと」
「今ので最後ですね」
詰めた終えたリリィとメノウに声をかける。
「リリィ様、メノウ様。お疲れさまですわ、お茶に致しましょう」
トレイに乗せたお茶をテーブルへと置くと紅茶の良い香りに、更に場が華やぐ。
出来たての薔薇のロールケーキと瑠璃花が持ってきたマロングラッセ。
席に着いたら自然と始まるお喋りとお茶の時間。
「おいしい〜。あっ、ありがとう」
幸せそうなリリィに2杯目のお茶を注いでから、瑠璃花もティーカップを口に運ぶ。
「いいえ、喜んでいただけで良かったですわ」
「お姉さん喜んでくれるでしょうか?」
そんなメノウの問に瑠璃花とリリィが声を揃えて言う。
「もちろんですわ」
「もちろんよ」
瑠璃花も解る。
気持ちを込めて作ったものなら、きっとそれは渡した相手にもちゃんと伝わるのだ。
こんなにも上出来で、優しい気持ちのこもったケーキならなおの事。
「きっと、とても喜んでいただけます」
渡した時に帰ってくるありがとうの言葉は、とびっきりのご褒美なのだから。
「そうですよね、私も楽しみです」
一緒になって嬉しそうに笑いながら、他にも色々な事を話す。
ケーキを誰に渡すとか?
いま好きなものとか。
「そうだ、二人はお洋服どうしてる?」
「……?」
首を傾げる瑠璃花とメノウに、こくりとリリィが頷いた。
「うん、可愛いなぁって思ってて」
「そうですね。わたくしの服は母が用意してくれているのが半分で、後は父が選んでくれたり自分で選んでくれたり、プレゼントなどで頂いたものです」
今日は料理をするためだから普段よりは控えめだが、いつもはもっと沢山フリルの使ったふわりとした服を好んできている。
「メノウ様とリリィ様は?」
「私はお姉さんと……一番多いのはお母さんの趣味が多いですね」
「私は自分でだったり、りょうと一緒に買いに行ったりかな?」
三人揃って的可愛らしい服を着る事が多いから、話も服の話題が中心になるのも自然だろう。
「冬服何買おうかなと思って迷ってて」
「なにをお買いになるんですの?」
「欲しいコートがあるんだけど、ちょっとまだ一つにきめられなくって」
「それは悩みますよね」
悩み始めたタイミングに重なるように、鍵の回す音。
「あっ、りょう帰ってきたみたい」
「一緒にご相談されては如何ですか?」
「うん、そうする……」
帰ってきたら迎えに行くのがいつもの事なのだろう、当然のように玄関に向かったリリィが小さく悲鳴を上げる。
「なに、どうしたの? また何かやったの!」
「あのなぁ……」
そんな会話に瑠璃花とメノウは目を合わせて何かあったのかと首を傾げてから、同じく玄関へと向かう。
理由はすぐに解った。
「どうかなさったのですか、りょう様?」
「………」
帰ってきたりょうがいきなり怪我をしていたのなら、誰でもこう言いたくなる。
「いやぁ、まあちょっとな。悪いな、物騒なもん見せて」
「怪我の手当てしなきゃ」
「あー、そうそう」
手の擦り傷を気にしながら上がるりょうに瑠璃花がニコリと微笑みかける。
「わたくしが治して差し上げますわ」
「いいのか?」
「はい、もちろんですわ」
ソファーに座ってもらってから、光の精霊の力を借りての治癒に怪我が瞬く間にふさがっていく。
「……これでもう大丈夫ですわ」
暖かい日だまりのような光が治まる頃には、すっかり怪我は完治していた。
「よかったわね、りょう」
「本当に凄いですね、きれいに治ってます」
「ありがとな。でも平気なのか、この力……」
前に秘密にすると言った約束はしっかりと覚えて、それを律儀に守ってくれてたのだろう。
確かにあまり使わないようにとも言われてもいるが。
「りょう様や周囲の方には使っても構わないと悠也おにーさまがおっしゃってくださいましたから」
「へぇ、そりゃまたなんで?」
何気なく聞き返された言葉に。
「よく事故に遭われる方ですから『奇蹟を大盤振る舞いで、ちょうど釣り合いが取れるぐらいでしょうから……構わないでしょう』と」
「………」
バタリとソファーに倒れるりょう。
「りょう様? どうかなさいまして?」
一体何があったのかと首を傾げた瑠璃花は、慌ててりょうに尋ねるのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1316/御影・瑠璃花/女性/11歳/お嬢様・モデル】
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■ ライター通信 ■
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発注ありがとうございました。
今回はお菓子作りと言うこともあって
とても華やかで楽しく書かせていただきました。
りょうの怪我も治していただけてありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
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