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■決闘戦々■

凪鮫司
【1335】【五代・真】【便利屋】
RedMoonの地下室、そこには、巨大な武道場がある。
その中央で、長身の男が青龍戟を振るっていた。
一般人には持つことも出来ないそれを易々と振るうその男の名は、紅月満。
RedMoonの主人でもあり、無類の戦闘好きでもある。
ふと、紅月と君の目が合った。
「ん、見苦しいところを見せたな」
青龍戟を床に降ろし、一息つく紅月。
「それで、ここに来たという事は、私と一勝負したいのだろう」
紅月の顔に笑みが浮かぶ。
「どんな勝負がしたい?模擬戦か、それとも、真剣勝負か」
黒眼鏡の奥の瞳を光らせながら、紅月は言う。
「どちらにしろ、本気でかかってこい、こっちも本気で受けて立ってやる」
戦々決闘

 ブォン、という風切り音が、道場の中に響いて、消える。
 それを耳に感じつつ、五代・真は道場の中に一歩を踏み出した。
 巨大な剣を軽々と振り回す道場の主は、真に気づいてはいない。剣の間合いに入らないように近づいて、真は声を張り上げる。
「よう、こないだのケリつけにきたぜ!」
「む?」
 真の声に、中華服の男が動きを止める。剣を床に置くと、真の方を振り向いた。丸サングラス越しの視線が、真に突き刺さる。
「来ると思っていた」
「今度は負けねぇぞ、紅月」
 前回よりも鋭くなった真の視線に、紅月は満足げな微笑を浮かべる。二人の間に、徐々に緊張感が高まりつつあった。それを感じとって、道場の端に座っていた昇が表情を硬くする。
「で、レギュレーションはどうする」
「真剣勝負、殺す気でいくぜ」
「……そう、か」
 真のセリフを聞いて、紅月が浮かべた表情は、歓喜。真の心に、まるで、千年来の宿敵と対峙しているようなプレッシャーがかかってくる。
 しかし、ここで折れてはいけない。この武人を倒すには、相手を圧倒する気迫でかからなければいけない。
「武器は、あの剣か?」
「ああ」
 うなずくと同時に、右腕を胸の前にかかげる。腕に巻かれた封印の呪布を剥ぎ取ると同時に、右手に剣が現われる。
 魔を祓い、五行を操るその剣の名は、泰山。
「今回は、手加減抜きだ」
「ほぅ、あれは手加減だったのか」
 馬鹿にするような紅月のセリフ。しかし、真は全く同時ない。ほぅ、と紅月が呟き、笑みを深くする。
「そっちは何を使う?」
「ちょうど良い、こちらも剣にしよう」
 真の問いに、紅月は、床に置いてあった大剣を手に取る。刀身は一メートル五十センチほど、柄を合わせれば、二メートルにも達するかという剣を、紅月は軽々と持ち上げる。この骨董屋がウェポンマスターなのは知っていたが、ここまでいくと一般人とは身体構造が違うのかもしれない。
「この剣は、クレイモア、という。古のハイランダーたちの使った剣だ」
「そんなもの、普通に振り回せるのか?」
 今度は、こちらが馬鹿にしたように言ってみる。紅月が片眉を上げて、ふん、と呟く。その腕が翻り、大剣の切っ先が真の方を向く。
「この紅月の力、甘く見てもらってはこまる」
「そうこなくっちゃな」
 二人の間に漂う、張り詰めたような緊迫感。しかし、それに反して、二人は笑みを浮かべている。まるで、この戦いが楽しくてたまらないかのように。


 一定の距離をたもって、二人は相対する。両者が狙うのは、華麗なる一撃、それさえ与えられれば、勝てる。
「そ、それでは、始めっ」
 昇の声と同時に、真が紅月へ突進する。しかし、紅月はバックステップで距離を取った。
 次の瞬間、紅月のクレイモアが斜め上から振り下ろされる。
 泰山で受け止めようとした真の感覚が、無理だ、と告げている。ならば、と、ためらいもせずに力を解放した。
 五行の一、水の力により、泰山を軸に盾が形成される。流れる水の力により、クレイモアは受け流された。
 受け流されたクレイモアが床に突き刺さり、決定的な隙が生まれる。もちろん、それを逃す真ではない。
 泰山を構え、こんどこそ紅月に迫る。虚をつかれたはずの紅月の顔には、なぜか微笑が浮かんでいた。
「甘い」
 笑みを含んだ呟きとともに、紅月の体が宙を舞った。クレイモアを支点として空中に飛びあがり、泰山をかわす。
 真が振り向いたときには、既に紅月はクレイモアを構えなおしている。
 勝てない。そう心の奥底が囁くのを、意思の力でねじ伏せる。俺は勝てる、絶対に勝てる!
「たぁぁぁぁぁっ!」
 決死の覚悟で、泰山を大上段に構えて突進する。紅月が悠々とクレイモアを横に振りかぶる。胴を横凪にされれば、いかな真といえども無事ではすまないだろう。
 余裕の表情を浮かべる紅月の表情が、一気に険しくなる。
「ハァッ!」
 クレイモアが振り切られ、真の胴が真っ二つ――に、ならなかった。
 クレイモアが来る直前、真は床に飛び込む。真の背ぎりぎりのところを、クレイモアが過ぎ去っていった。
 紅月が体勢を整える前に、ぐるんと前転すると、座ったままの状態から、勢いをつけて飛び上がる。
「たあっ!」
「ぐっ……」
 泰山の刃に、紅い液体が染み込んだ。


「強くなったな」
「そっちが手加減したんだろ?」
 賞賛の言葉を投げ掛ける紅月に、いじわるく言ってみる。むぅ、と紅月がうなり、違う違う、とひらひらと手を振った。
「今回は武器の相性が悪かっただけだ」
「負けを認めろよ」
「断る」
 短く言い返すと、紅月は立ち上がり、治療の終わった体の感覚を確かめる。ちゃんと動くことを確認すると、真に視線を向けた。
「負けを認めれば、お前と二度と戦えないだろう」
「……いつでもやってやるさ」
 真のセリフに、紅月が驚きの表情を浮かべる。が、すぐに、ニヤリ、という笑みに変わった。
「次は、負けんからな」
「次も勝たせてもらう」
 お互いに笑い合う二人。友人とも違う、敵とも違う、二人の関係を表すなら、きっと。
 強敵とかいて“とも”と読む、なのかもしれない。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 1335/五代・真/男/20/便利屋/怪異始末屋
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