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■ぼくとご主人さま。■

瀬戸太一
【1936】【ローナ・カーツウェル】【小学生】
 俺?見てわかるように、黒コウモリだ。
何で昼間でも飛んでるかって?俺ぁ、こう見ても魔女の使い魔なんだよ。
但し、とんでもなく未熟モンの魔女だけどなっ。

で、なんでこんなとこうろついてるかっていうとだな…
あの魔女が、いっちょまえに雑貨屋なんぞ経営してんだがな、一向に客がこねえんだよ。
だからこの俺様が、カンユーとかしてやってるわけ。
主人想いだよな、俺もっ。

つーわけで、そこのアンタ。
うちの店来てみねえ?歓迎するぜっ。
どーゆう歓迎されるかは知らねえけどな、ケケケ。
アンタの日ごろの行いが良けりゃ、悪い結果にはならねーと思うぜ。

あこがれのまほうつかい。

「Wow!Youはなんでbackに羽根なんてついてるの?しかもblackダヨ!」
「……………。」
 俺は思わずがくーんっと肩を落とした。
折角久しぶりに、やる気を出して勧誘をはじめてみたらー…このざまだ。
慣れないことはやるもんじゃねえな、うん。
もういーや、帰ろ帰ろ…。
「Hey you!なんでmeのことdisregardするネ!?話しかけてきたのはyouのほうよ!」
「うっせぇなぁー。こちとら暇じゃねえんだ、ガキは大人しくママのおっぱいでも飲んでな!」
「ひどい、ひどいよ!meはもうkidsじゃないね!」
 俺の言葉に衝撃を受けたのか、ガーン!と固まる目の前のガキ。
…そう、何をトチ狂ったか、俺が声をかけてしまったのがこのガキなわけで。
俺は始終宙を飛んで移動してるもんだから、目標の高低さが上手くとれねえんだよな。
このガキの後ろ頭を見つけたときは、周囲に人もいないし、この金髪頭は日本人じゃねえから、
絶対カモになると思ったんだけどなあ。ガキじゃ仕方ねえよ。第一こいつまだ小学生ぐらいじゃねえか。
しかも外国人のガキ。…最悪だ。
「あー、はいはいわかった。立ち止まらせて悪かった。
すまん。ほら謝ったからさっさとお家に帰りな、嬢ちゃん」
 俺は苦笑して手をさっと振った。
やっぱり気まぐれに勧誘なんざはじめるもんじゃねえ。さっさと帰って夕飯のつまみ食いでもしよう。
俺がそう思っているとー…。
「No thanks。心配には及ばないよ!meはただyouが浮かんでるわけを知りたいだけー…」
「だ・か・ら、話はもう終わりなの!何度いったら分かンだこのガキっ!」
 目の前のガキがにっこりと笑うのにつられて、俺は思いっきり怒鳴った。
こっちの心中全く察してねえ!
「がきって言うケド、youも大して変わらないヨ!meにもちゃんとしたnameがあるんだからね!」
 俺の怒鳴り声には全く動じず、何故か胸を張るガキ。
「俺はお前の名前なんかどうでもいいの。お前に声かけちまったのはただの人違いなの。
分かったか?オーケイ?わかったら…」
「meはローナ!ローナ・カーツウェルよ。youは?」
「俺?俺はリック…ってそうじゃねぇー!!」
 俺は思わず答えてしまった自分を呪いながら、ガッデムと叫んだ。
「リック?よろしくネ!Well…リックはなんでそんな羽根つけてるの?なんでflyしてるの?」
 俺の様子は全くお構いなしといった様子で、ガキ…いや、ローナは目を輝かせて早口でまくしたてた。
俺は今度は何て言ってやろうかと考えー…ふと思った。
 もしかしたら、もしかするかもしれねえじゃねーか。
俺は頭に浮かんだそれを確かめるために、俺を見上げて目を輝かせているローナをジッと見た。
クセのあるやわらかそうな金髪はショート、好奇心旺盛な青い目は期待に溢れている。
そばかすの残った顔はまだまだ幼く、目鼻立ちのくっきりした欧米人顔ということを除けば、どこにでもいる元気な子供だ。
だが身に着けているものは、決して高価ではないが丈夫そうなものだし、
顔にしても、そこらの下町のガキのような下品さはない。
…こりゃあ、もしかするかも。
 俺は心の中でにんまりと笑みを浮かべながら、羽根を動かすのをやめて、ローナの目の前に着地した。
「仕方ねえなあ、そこまで嬢ちゃんが知りてーんなら、教えてやらんこともねえぞ?」
 俺は、ふっふっふと何処かもったいぶった様子で腕組みをした。
さっきまで空を飛ぶために大きく伸ばしていたコウモリの黒い羽根は、元のサイズに縮めて背中で小さくなっている。
完全な人型にはなれないとはいえ、なかなかこれも便利だ。
 ローナは小さくなって見えなくなった羽根を捜して、首を伸ばしてきょろきょろしていた。
「Why?Lostしちゃったヨ、折角の羽根が!」
「すぐまたでてくるから心配すんな。ところでお嬢ちゃん?」
 俺は猫なで声を使いながら、ローナに話しかけた。
親切に目線を合わせるために少し背中を丸めてやる。
…つっても、俺の外見は10歳前半だから、大してローナを変わりないんだけどな。
「ママはこのあたりにいないのかなぁ?お嬢ちゃん一人だと物騒だろう?」
「Oh?ママなら家にいるよ。会いたいの?」
 俺の言葉に、ローナは不思議そうに首をかしげた。
俺は心の中で、チッと舌打ちをする。
「…じゃあ、お嬢ちゃん。あんたこういうの持ってるかい?
このぐらいの紙で、1000だとか10000だとか書いてる紙だぜ。
そんで表には髭はえたオッサンとかの絵が書いてんだ。わかるか?」
「Hnn…それってコレのコト?」
 ローナは、ポン、と手をたたいて、しょっていたランドセルを下ろした。
そしてランドセルの蓋を開けて、中に顔を突っ込んでいる。
俺はその様子をにやにやしながら見つめていた。…これは期待大だな。
「リック、コレ?こんなのどうするの?」
 怪訝な顔をしながら、ローナは一枚の紙切れを俺に手渡した。
その大きさは俺が思い浮かべていたのと同じぐらいで、表面にはオッサンの顔がー…。
…ってちょっとまて。
「………こども銀行…?」
「パンダ支店で使えるの。meたちが今日作ったのよ」
 得意な顔をしてローナが言う。だがすぐに表情が変わり、
「But、リックは何に使うノ?もしかしてマニア?」
「ンなわけあるかぁーーッ!!!」
 俺は思わず叫び、手にしていたこども銀行の紙切れをびりびりと破いた。
ふッざけんじゃねーっての!!!
「あーもうッ!期待した俺が馬鹿だったっ!時間の無駄話の無駄っ!
さっさと帰って飯食うぜ、ったく!」
 俺はぷいっと背を向けて、頭をぼりぼりと書いた。
ちょっといいトコの嬢ちゃんだと思って期待するんじゃなかったぜ!腹も減ってきたしー…。

    ぐいっ。

 ローナのことは放って飛んで帰ろうと思った俺は、何かの力によって後ろに引っ張られていた。
それも斜め下方向に。
…かなり嫌な予感がする。俺はおそるおそる振り返った。
「Hey you!ひどいよ、cruelだヨ!破ったのはどうでもいいとしても、disregardは許さないネ!
Manのwindwardにも置けないね!」
「嬢ちゃん、どこでそんな言葉覚えたっ!」
 俺は思わず涙目になって怒鳴った。
ローナは俺の黒いジャケットのすそを両手で握って、精一杯の力で引っ張っていた。
その顔は真っ赤で眉はつりあがっている。
…はっきりいって、かなり怖い。
(そーいやオンナは怒ると怖いって、銀のおっさんが言ってたっけ…!)
 ただのガキと見くびるんじゃなかった。
このままでいると、俺の気に入りのジャケットが破けちまう!
「だーっ!わかった、わかったからっ!ローナの希望は聞く!だから離せっ!」
「Realy?」
 俺の言葉を聞いて、ローナはぴたりと止まった。
俺は内心胸をなでおろすと、彼女の指をジャケットから離す。
そしてローナと向き直り、はぁぁとため息をついた。
仕方ねえ、ちゃんと相手したほーが楽だ、絶対。
「ンで?あんたは何が聞きたいだって?」
「その羽根!wingよ!」
 ローナは待ってました、というような顔で俺を指差した。
…いや、正確に言うと、俺の背中を。
俺はやっぱりか、と思い、頭をぽりぽりと掻いた。
 別に何も秘密にしているわけじゃないし、知らないヤツに教えちゃだめなわけじゃない。
ただ俺が説明するのが面倒なだけだ。
…まあでも、このガキなら、難なく受け入れられそうだ。
「あー…これね」
 俺は暫し考えて、周囲を見渡した。
人影はなし、通りかかる様子もなし。ここが人気のない横道で助かったぜ。
そうして俺は、背中に意識を高め、ふんっと念を込めた。
途端に広がる背中の黒い羽根。
「Wooow!!!」
 その光景に見惚れているのか、目の前のローナは目を真ん丸く広げて感嘆の声をあげていた。
俺は内心少し調子に乗って、更に念をこめた。
「……ふぅ。これでどーだ?」
 俺はふふん、と鼻で笑って手を腰にあてた。
…実は背中で大きく広がった羽根がとんでもなく重いんだが、それを顔に出すのは野暮ってもんだろ?
俺の背中の羽根は、まるでドラゴンのそれのように大きく、そしてたくましくなっていることだろう。
ここまで大きくしたのは久しぶりだ。俺一人が飛ぶだけには、これの一回り小さい程度で十分だもん。
俺がバサッと羽根を動かして、前に風を送ると、ローナの髪の毛が逆立った。
当のローナは目を丸くさせたまま固まっている。
…やべー、ちょっとやりすぎたか?
「おいローナ?大丈夫かっ?」
 俺は急に不安になって、彼女の目の前で手を振った。
するとローナは一転して目を輝かせ、
「Greaaaaaaat!!!すッごいよ!!!wonderful!!unbelieved!!」
 と叫んだ。興奮が最骨頂に達したのか、ローナは首をぶんぶんと振った。
「…そっ、そうか?」
「Wow!me初めてみたよ!リックは魔法使ったの!?」
「ま、魔法?」
 俺は思わずうろたえる。…うむ、ばれたか?
「えーと…その…」
 暫し言葉に詰まりながら宙に視線を泳がす。
だんだんと背中の羽根が重みを増してゆき、俺の力じゃ支えきれなくなっていた。
仕方ねえ、もう十分堪能しただろうし、戻すとするか。
「Oh!また羽根が消えていくよ!もったいないよ!」
「重いんだよ、こうみえてもな!」
 俺は苦笑しながら、背中を覗きこんだ。
羽根は元のコウモリの大きさに戻り、俺の背中でちょこんと納まっている。
よし、いつもどおりだ。
「いーだろ、もうあれで十分だろが」
「まだSatisfactoryしてないよ!リックが何を使ったのか教えてないよ」
 …まあ、そうくると思ったけどな。
俺は苦笑して腕を組んだ。
「俺自身は何も使ってないの。俺は魔女の使い魔だからな、言わばこれはそいつの魔法ー…」
「まほーつかいっ!!?」
 俺の台詞をさえぎって、ローナが目を輝かせて叫んだ。
…もしかするとこいつ、こーいうのが好きなのか?
好きなんだな、多分。もうこりゃ子供の好奇心の域を超えてらぁ。
 俺は心の中で妙に納得して頷きながら、
「あー、この先の角曲がったとこにいるぜ?
オチコボレだけど、正真正銘の魔女がな。…まだ魔女じゃねーけど。
どーする、行ってみっか?」
 俺はニヤリと笑って、道の先を親指で指した。
ローナの返事はというと。

 …勿論、聞くまでもねえだろ?











            ★



「Hello!nice to me to you!Witchは何処?」
 店に入るなり、興奮しきった声をあげるローナ。
俺は苦笑しながら彼女の頭に手を置き、
「わりーけどもう少し静かにしてくんねーかな。
今多分、あいつ昼寝中なんだよ」
「Oh!了解!」
 ローナはびしっと手を頭に置き、敬礼のポーズをとった。
俺は思わず噴出しそうになりながら、店の奥を覗き込む。
 店の中には誰もいなかった。
ここの店主ー…ルーリィは、今の時間は奥で寝てんだろーけど、
あいつがいないときは必ずいるヤツの姿がない。
「あいつも散歩いってんのかな?俺にうるさく言っといてオッサン自身も不真面目じゃねーか」
「きみと比べるな、ゴミ出しに行っていただけだ。あとオッサンじゃない、私はまだ若い」
 俺がぶつくさ呟いた瞬間、俺の頭の上のほうから冷ややかな声が飛んできた。
俺は思わず飛び上がって振り返る。
「ぎ、銀っ!いるならいるで、返事ぐれーしろ!」
「だから今しただろうに。本当にきみは不満ばかりだな、珠には肯定の意見ぐらい述べたら如何だ?」
「うるせーなぁ、今は関係ねーだろ!」
 俺は思わずぶーたれて、すたすたと店を闊歩する銀の後姿を睨んだ。
銀…銀埜のオッサンは、俺に対しては大概いつも説教口調だ。
だからオッサンだっつーんだよな、全く。そのうち銀髪じゃなくて白髪になるぜ!
「…む?」
 俺の心の声が聞こえたのか、カウンターのあたりまでいっていた銀埜がおもむろに振り返った。
俺は思わずびくっと固まるが、ヤツの視線は俺じゃなくて、俺の斜め下に注がれていた。
「如何しました、可愛らしいお嬢さん。道にでも迷われましたか?」
 そう言って、にっこりと微笑みやがる。
俺は横を向いて、ウゲーと吐く振りをしてやるが、ヤツには全く通じないらしく、
「それとも何かお探しですか?私で良ければお相手致しましょう」
 銀は微笑を浮かべたまま、つかつかと歩み寄る。
そしてローナの前でしゃがんで、ん?と首を傾げた。
「Oh, It is gentle!リックとは大違いね!」
「うっせーうっせー」
 言われると思った言葉が、予想通りに帰ってきて、俺は顔をしかめた。
「My name's ローナ。Witchに会いにきたのよ」
「ローナさんですか。私の名は銀埜と申します。ウィッチ…ルーリィのお客様ですか?」
「Witchはルーリィというの?meは彼女に会いたいね!どこにいるの?」
 そう言ってきょろきょろと辺りを見渡す。
銀埜はそんなローナを見て微笑み、
「そうですね、今は奥にいますが…呼んできましょう。そろそろ起きる頃ですし」
 そう言って一礼し、カウンターの奥に引っ込んでいった。
「はぁ、あいつのホテルマンみてーな笑顔、なんとかならねーかな…」

  くい、くいっ。

 俺が一人ぶつぶつと呟いていると、ジャケットのすそを引っ張られる感触。
俺は、んあ?とローナのほうを向いた。
「ねえ、リック。銀埜はWitchのhoneyなの?」
「は?はにー?」
 俺は思わず眉をしかめた。そしてその言葉の意味を考える。
…こいつもしかして、銀埜とルーリィが…できてるとかいってんじゃねーだろうなっ!?
「ぷっ、くくく…はーっははは!ンなわけねーじゃん!」
 俺は思わず腹を抱えて笑った。
あいつらがデキテル?ンなことあったら、俺ァ徒歩でイングランドに帰ってもいーぜ!
「Wow?笑うことないよ!」
「笑うってーの!ありえねー、あいつもタダの使・い・魔!
見かけはでかい兄ちゃんだけどなぁ、あいつもホントはただの犬っころなんだぜ?」
「Oh!Realy?じゃあリックは?」
「俺はただの黒コウモリ。人型のがやりやすいことも多いから、時々なってるだけでー…」

「…ちょっと、犬っころっていうのは、少し酷いんじゃないかしら?」

 突然、店の中によく透る声が響いた。
聞きなれた声だ。笑い転げてた俺も思わずぴたりと止まる。
店の奥を見ると、カウンターの横に見知った少女が立っていた。
 そいつはにっこりと笑いながら首を傾げた。
「銀埜は立派な番犬よ。リック、心にも思ってないことを言うのは良くない癖ね?」
「……!ンなことねーっての」
「そう?私は知ってるわよ、リックはちゃあんと銀埜のこと認めてるってねー…あら?」
 くすくすと笑いながら言っていたルーリィは、ぴたりと止まって俺のほうを見た。
「あなた?ローナちゃんは。こんにちは、いらっしゃい。私に何か御用かしら?」
 微笑みながらゆっくりと歩み寄り、ルーリィはスカートを抑えてしゃがみこんだ。
…おいおい、寝癖ぐらい取ってから来いよな。丸見えだっつーの。
「Oh!You're witch?」
 ルーリィはローナの言葉に、一瞬目を丸くしたが、すぐに微笑んで言った。
「Yes,I'm a witch. some ... is it search?」
 ローナはその言葉を聞いて、俺のとき同様に目を輝かせる。
「Wow!本物!?meは感激!」
「あら、日本語もできるのね?良かった」
 ルーリィはニッコリ笑って、俺を見上げた。
「珍しいわね、リックがお客様を連れてくるなんて」
「はん、客じゃねーよ。ただ遊びにきただけっつーの」
「そう、でもそれでも私にとってはお客様よ?
リック、まさかあんた、こんな可愛らしい子からお金取ろうなんて思っちゃいないわよね?」
ルーリィに軽く睨まれ、俺は思わず目を逸らした。
…別に直接的に金せびったわけじゃねーからな、俺は悪くねえっての。
「…で、ローナちゃん?今日はどうしたの?」
「So、meはwitchやmagicianやmagicとかが、だいだいだぁーい好きなのっ!
me、ルーリィに会えて嬉しい!」
「あら、そうなの?それは照れるわね」
 へへ、と照れ笑いを浮かべているルーリィを尻目に見て、俺はケッと毒づいた。
「よく言うぜ、半人前のくせして」
「What?witchじゃないの?」
 ローナがショックを受けたように青ざめる。しかもほんのり涙目だ。
ルーリィは慌てて取り繕うように、
「ち、違うのよ?確かに半人前で見習いの身分だけど…でもちゃんと魔法は使えるのよ?
だからローナちゃん、泣かないでね?」
 ね?とぽんぽん、と頭を撫でる。
あーらら…こりゃ後で小言言われるな、俺。
でも仕方ねえ、とりあえず一言言いたいのが俺の性分なんだよ。
なんつーか、口挟むの好きっつーか。
どうしてもやめられないものってあるだろ?それが俺にとってはこれなわけ。
ルーリィたちに言わせると、それが成長してない証拠だっていうんだけどな、余計なお世話だっつーの。
 俺がぶつぶつとそんなことを考えていた間に、どうやらローナとルーリィの間で進展があったらしい。
ローナが俺の服のすそをくいくい、と掴み、嬉しそうに目を輝かせて、
「聞いて!ルーリィがmagic見せてくれるのよ!」
「あーはいはい。良かったなー」
「What!?リックは嬉しくないの?」
「つっても俺はいつも見てるしなぁー」
 俺は面倒臭そうにあっちの方向を向いて言った。
これは本心だった。確かにローナにとっては、感激するような代物だろう。
でも俺にとっちゃ、それこそ生まれたときから傍にあるようなもんだから。
「………それはリックだからだよっ!」
 今までと違うローナの声がして、俺は不思議に思い、ふとローナのほうを向いた。
彼女はどことなく哀しそうな顔で、俺をキッと睨んでいた。
「meは見たくても見られなかったね!それこそ夢を使ってでも見たかったよ!
環境が違うから仕方ないけど…リックは贅沢だよっ!」
「おい…んな大げさに言うなよな、俺はただ…」
 今にも泣き出しそうなローナが、力いっぱい俺を睨んでいた。
俺は思わず後ずさりしたくなる気持ちを抑え、その視線を真っ向から受け止めた。
 …贅沢?俺が?
「あーあ。こんな可愛い子泣かせちゃったぁ」
「まだ泣いてねぇっ!!」
 今度はルーリィまでもが、揶揄するように言いつつじろりと睨んでくる。
…俺が、一体何をしたっていうんだよっ!!
「あーその…贅沢つーか…」
 俺は頭をぽりぽりと掻きながら、ローナを見下ろした。
ローナは顔を真っ赤にして、俺を睨んでいる。
「まあ…うん。俺が悪かった、無神経でした。
俺も一緒に見るからさ、んな睨むなよ?」
「…ホントウ?」
「ああ。嘘ついたって仕方ねーだろ」
 俺がぶすっとしながら言うと、ローナの顔がぱぁぁっと明るくなった。
「Yes!それでいいのよ!」
「そうそう、リックももっと素直になりなさいね?」
「うるせえ、お前は関係ねーだろ!」
 便乗してにやにや笑いを浮かべているルーリィを一蹴して、俺はふんっと鼻息を荒くした。
「んで!?魔法すんだろ?やるなら早くやれよなっ!」













「じゃあ、いくわよー」
 ルーリィがそう言って、右腕をまっすぐ前に突き出した。
俺とローナは、先ほどルーリィが虚空から呼び出した椅子に座っている。
ルーリィの目の前には、彼女の腰のあたりぐらいの高さの机。
そしてその上にちょこんと乗っているのは、見覚えのある大きな熊のぬいぐるみ。
…確かあれは、村にいるルーリィの幼馴染のリースが、半分嫌がらせで贈ってきたやつじゃなかったか?
銀埜が、ただでさえ狭い住居部分がもっと狭くなる、とぼやいていたような気がする。
ルーリィは、そのでかいぬいぐるみの上に右手を広げ、手のひらを下に向けた。
そして目を閉じて、なにやらむにゃむにゃと呟いている。
「アンクル、コーシア、カルカツィア。偉大な村の創始者たちよ、遠い東の異国にいる貴女の子に力を貸してください」
 俺の隣では、ローナが「あれって呪文?」やら小さな声で聞いてくる。
呪文といえば呪文だが、別になくてもどうにでもなる。
魔女の村に伝わる魔法の多くは、己の魔力を消費して使用するものだから、あれは単なる言霊だ。
どうせ失敗しないように願掛けでもしてるんだろう。
つまり、その程度の言霊だってことだ。
最も、もっと大きな魔法を使うときには、それ相応の『言霊』が必要になってくるわけだけど、
今のあいつにそんな大掛かりな魔法は使えっこねえ。
「リック!すごいよ、bearが光ってるよ!」
 ローナが興奮して、俺の服のすそをぐいぐいと引っ張る。
だから破れるからやめろってーの!
ローナは俺の心中など知ったこっちゃねえという感じで、目の前の熊に釘付けだった。
ルーリィの手のひらから光がこぼれ、熊のぬいぐるみに注ぎ込まれている。
ぬいぐるみはその月の光にも似たそれを存分に浴び、吸収しー…よっこらせ、と掛け声をあげるように立ち上がった。
無論、隣にいるローナの興奮はもうやばいぐらいだ。
俺はもう椅子から転げ落ちそうだぜ。こんな小さな体のどこに、これほどの力があるんだ!?
 …神様、どうか俺のジャケットが無事で済みますように。
「Woooooow!!歩いてきたよ!リック、歩いたよ!」
「あーわかった、わかった!わかったからお願い、ジャケット放してっ!」
 俺は椅子の背に掴んで必死に耐えながら叫んだ。
マジでやばい。ローナに掴まれているところが悲鳴を上げている気がする。
「Wonderful!生きてるみたい!」
 光が止み、それと同時に、俺を引っ張っていた力がふっと止んだ。
俺はおそるおそるジャケットのすそを見て、ほっと胸をなでおろす。
いくらなんでもつぎはぎは勘弁だからな!どうやら助かったようだ。
 俺が安堵して目の前を見ると、何故か…自由に動いている熊とローナが相撲をとっていた。
俺は唖然としてそれを眺めていると、
「ふふっ、久しぶりに頑張っちゃった。ああいう大きなものを動かすのは大変ね」
 いつの間にか横に立っていたのか、ルーリィが額の汗を拭きながら笑顔で言った。
「……何で相撲とってんだ?」
 俺は目の前で繰り広げられている異様な光景に釘付けだ。
「あらあら、ローナちゃんもあんなにうれしそうに。張り切った甲斐があるってもんよね、そう思わない?」
「だから、相撲っ…!」
「ああ、大丈夫よ心配しなくても。魂がはいってるわけじゃないから、30分ぐらいで効き目はとれるわ。
私に魂をいれる術なんて使えるわけないでしょ?あれは昇格試験になるぐらい、難しいものでー…」
「そういうこと言ってんじゃねえんだよ!!な・ん・で相撲とってんだ!」
 俺はついにブチ切れて、叫んだ。
だがルーリィは慣れた様子で、あはは、と何故か爽やかな笑顔を向ける。
「そんなの、私にわかるわけないじゃないのよ、もうっ」
「あーもう、こいつらはーっ!!!」

 そしてそれから延々と30分、ローナの甲高い笑い声をBGMに、延々と異様な宴が開かれていたのだった。




 その間、俺は心の中で何度も叫んだものだ。

     




         ――――「この能天気な奴ら、どうにかしてくれっ!!」






   End.




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1936 / ローナ・カーツウェル / 女性 / 10歳 / 小学生】


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■         ライター通信          ■
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 ローナさんとは初めましてですね。こんにちは、瀬戸太一です。
発注どうもありがとうございました(^−^*
ローナさんのお母さんのことを思いながら、楽しく書かせて頂きました。
プレイングを踏まえつつ、私なりに楽しいノベルになるよう書いたつもりです。
気に入っていただけると大変嬉しいですv

リックですが、大変口の悪い子で申し訳ありません(汗
出会った当初はどうか分かりませんが、
後半ではきっとローナさんを妹のように感じていたと思います。
また何かの機会があれば、どうぞ仲良くしてやってくださいませ。

では、ご意見ご感想等ありましたら、お手紙のほうお気軽にどうぞ。
遅くなるかもしれませんが、返事は必ず書かせて頂きます。