■茜の心を癒す人 【後編】■
滝照直樹 |
【2276】【御影・蓮也】【大学生 概念操者「文字」】 |
まだ止まない雨の中、親子は会った。
然るべき運命が近づいているのだろう。
「茜……気分はどうだ?」
「決まったよ……お父さん」
「そうか、なら良いのじゃ」
父親は安堵の溜息をつく。
突然平八郎はあなたに振り向く。
「娘が世話になった。しかしお主は娘をどう思っているのだ?」
と、訊いてきた。
今までの短い間に彼女との日々をどう大事にしていたかを訊いているのだろう。
「どうであれ、儂の神社にある“純真の霊木”が知る。お主は茜が“長谷神社の後継者”の試練を見ることを見る権利を得た。その時、本心を聞く」
と、言い残し彼は去っていった。
「明日、神社に戻るから」
茜は“危うさ”は見えない。完全に何かを決意したのだろう。
あなたは、どうする?
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茜の心を癒す人 後編
まだ止まない雨の中、親子は会った。
然るべき運命が近づいているのだろう。
「茜……気分はどうだ?」
「決まったよ……お父さん」
「そうか、なら良いのじゃ」
父親は安堵の溜息をつく。
突然平八郎はあなたに振り向く。
「娘が世話になった。しかしお主は娘をどう思っているのだ?」
と、訊いてきた。
今までの短い間に彼女との日々をどう大事にしていたかを訊いているのだろう。
あなたは、どうする?
1.
ピクニックの帰りから直接神社に向かう二人。
そして、対面する父娘。
そして、
「俺にとって茜は長谷川茜という1人の女の子。胸を張って誇れる大切な親友です」
御影蓮也は父親にそう言った。
「ふむ……」
平八郎は、その真っ直ぐな瞳を持つ彼を見て、納得している模様。
「儀式は明日だ。泊まっていくんじゃ」
平八郎は背を向けて神社の奥にある自宅に入っていく。
その直後
「どうなることかと思った〜」
緊張していたのか、蓮也はそう言った。
汗だくである。
隣で茜は笑っている。
「な、何かおかしいか?」
「ううん。別に〜。早く入ろう。風邪引いちゃうよ」
「あ、ああ」
と、二人は神社の奥にある茜の家に向かった。
2.
「成る程そう言うことが、あったのか」
3人でとる食事。
家出のことを咎めない父親に不思議がる蓮也。普通なら平手の一発は飛ぶだろう。しかし、今こうしてのんびり食事をしている。親子愛は形に色々あるというものだろう。
――もしかすると、怒る必要がないのか? 色々考えて、決意を持って戻ってきたから。
蓮也はそう思う。
「で、少年。確か御影蓮也、じゃな」
「はい」
「娘は可愛いだろう」
「え、はい可愛いです」
「お父さん何言ってるの?」
「朝は強いやつなんじゃが、寝ぼけ眼がとても可愛いじゃろ?」
「え? そ、それは、はい」
緊張気味で返答する蓮也
一緒に住んでいた話を聞いたので平八郎は茜がどんなことをしていたか訊いてくるのだ。
そして、
「親友ではなく〜いや何でもない」
平八郎が何かを言おうとしたとき、茜が父親を睨むので止めた。
「……」
蓮也が緊張する中でトンデモナイ発言をするつもりだったのだろう。
――溺愛??
この人の思考は読めない。そう思った青春少年であった。
雨の降る中、茜は霊木の前に立っていた。
「ただいま」
霊木は“お帰り”とサワサワ枝を動かせる。
「ずっと考えてた。明日宜しくね」
茜は踵を返し、家に戻る。
「何してたんだ? 茜」
「蓮也」
玄関先で蓮也がまっていた。
「また家出したと思ったじゃないか」
「そんなんじゃないもーん。霊木に挨拶していただけ」
フグ面になって反論する茜。
まったく、面白い女の子だ。
表情が豊かで正直で、色々あっても笑顔で元気に振る舞う。
蓮也は、彼女の手を取った。
「どんな試練なのか俺にはわからないし力も貸せないと思う。でも世界に自分を『長谷川茜』の存在を見せつけてやれ。『世界の中の茜』じゃなく『世界と共にある茜』を。例え周りが否定しても共に戦ってきたみんなが茜を信じて認めてる。もちろん俺も。だから胸を張って挑めばいい。ここで信じ見届けるから」
茜は少しビックリしたが、微笑んで。
「ありがとう♪ 蓮也」
と、握りかえした。
暖かな感覚。
「二人とも明日は早いからイチャイチャするのは後にしろ」
遠くで初老の男の声がする。
「え? あ、はいすみません」
「イチャイチャじゃないよーだ!」
それぞれの反応。
「たまにはワシとデートを……」
父親は何か戯れ言を言っている。
「デートするならエルハンドか蓮也がいいもん。お父さん厳しいもん」
「う………」
沈黙する父親。
「俺か? うれしいけどさ……“アイツ”に見付かったら……」
かなり不安な顔をする蓮也。
「一緒に行けば問題なでしょ?」
と、対照的に明るい茜だった。
「仲が良いな」
「まぁね、生まれてからずっとお父さんに色々教わった。師匠でもあり、親でもありだから。ちょっと娘離れはまだみたい」
「そうか」
あの厳しい男が、彼女を溺愛しているのは会話でも分かるが、想像出来ない。
「さて、明日の儀式見ててね」
「ああ、信じる」
3.
早朝、雨はすっかり止んで、快晴だった。
儀式が始まる。
霊木の前に茜が立つ。
平八郎が何かの言語にて霊木と交信している。
その3歩後ろに蓮也がいた。
「世界の加護を……長谷家の伝承儀式試験を行う……」
平八郎の最後の渇で、霊木全体が霊的爆破を起こした。
「ここは?」
「霊木の精神世界じゃ。正確なことはエルハンドが知るだろうが」
蓮也と平八郎が謎の球体に囲まれ景色を見ている。
樹海を思わせる森だが、光はしっかり差し込んでいる不思議な空間。
「木は、世界から力を得、そして世界に力を与える送受信の役目を持つ。その力は絶大であるが、護る者がなければ、朽ちる。故に人か超越者が社を建て、護ることが常となった。そうなったのはいつからなのか分からないがの」
「霊長が世界の連鎖頂点に立ったためでしょうか?」
「そうとも言える。しかし真実は分からぬ」
平八郎と蓮也の会話。
「いま、茜は戦っている」
「茜……」
平八郎の指さすところに茜が半透明の幽体で霊木の“核”に触れている。
目がとても良いわけではないが、茜はかなり苦しんでいることが分かる。汗だくになり徐々に幽体が消えていきそうだった。
「茜……信じているから」
蓮也は拳を握りしめる。
バカ騒ぎしたり、ドキマギしたり、楽しい日々。茜はどうなっても茜。意地悪な所も、いつも明るいことも。そして幼なじみや異界の神に対しての絶対的信頼など。
「幾ら継承しても、“茜”は“茜”なんだ」
蓮也はそう呟く。
平八郎は満足そうな笑みを浮かべていた。
「良き友を持ったな、茜。ワシとしては少し悲しいがのう」
「冗談言っている場合ですか……」
よよよと泣き崩れる親ばか爺さんに、軽く突っ込み入れてしまう蓮也だった。
茜はそれどころではない。
今は己との戦いだ。
今まで逃げていた、現実から。
今此処で、長谷家の血筋である為の証を手に入れる。
純真で、高潔さをもち、“抑止力の一”の霊木から加護を得るために。
木の核から出ている大きな精神情報に頭痛を起こし、汗だくになる。
絶叫したいが、食いしばる。
「私は、私。継承者になっても……私のままだ」
――いい答えですね……茜。
「伝承者になるのは義務であるなら権利もある」
――それは?
「今までと同じ暮らしを続けられるって事。例えほんの少しでも出来る権利はある」
――貴女らしい。
「よしちゃんや、親友と言って信じてくれている蓮也と一緒に! 自分の道を切り開く!」
茜は力をこめて叫ぶ。
「霊木よ! 我が契約答えろ! 我が名は霊木を護る者長谷家長女、茜!」
――了承……。
魂の叫びがまた世界を包んだかのように見えた。
4.
「ふぁ〜眠い」
あれから1日経った。
儀式が終わった後、茜は眠り姫のように眠っていたのだ。
しかし、5時辺りに起きるのは習慣の模様。
寝ぼけ眼で、どこかで見たようなヤギさん模様のパジャマを上だけ着て(言っておくが下着は着けているぞ、念のため……)で、とてとてと洗面所に向かう茜。
そこでばったり、歯を磨いていた蓮也と鉢合わせ。
「うわああああああ!」
「きゃああああ!」
叫び声と共に、心地よいハリセンの音が聞こえた。
「お前そんなにだらしないのかー?」
たんこぶ作って嘆く蓮也。
茜は変わってないのか、実はずぼらなのか分からなくなる蓮也。
「儀式の後ってぼけーっとなるものとは分かっていたけど……これほどとは……まだねむい……」
大あくびする、ハリセン娘。
「ったく、俺が台所借りるから、お前はまだ寝ておけよ」
ポンポン頭をなでる蓮也。
「ありがとーふぁああ」
しかし着替え終わってからの茜は先ほどのぼけぼけな女の子ではなかった。
普段着であるが、意志の強くこれからを生きていく女性としている。
「さて、今日は……久々に家出していた分の掃除を……むむ、こんな事で倒れてたら……」
流石にまだ眠たいようだ。
「無茶はするな。制御法は習っているだろう」
父親が、ヒョッコリ顔を出して言う。
平八郎は式服を入れている鞄と武器袋を持って出かけるようだ。
「長谷家継承。おめでとう、茜」
「はい、お父さん、お仕事行ってらっしゃい」
ニコリと微笑む親子。
茜がまだ茜であることを、そして、正式に継承者になった事を実感した御影蓮也は……、
――次は俺だな。
と、心の中で誓った。
End
■登場人物紹介
【2276 御影・蓮也 18 男 高校生 概念操者】
【NPC 長谷・茜 18 女 神聖都学園高等部・巫女】
【NPC 長谷・平八郎 65 男 長谷神社宮司】
■ライター通信
滝照直樹です。
『茜の心を癒す人』に参加して下さりありがとうございます。
はい、またもトンデモナイことが有りましたが、恋人の反応が楽しみですねぇ〜(マテ)
めでたく、親友として信じ茜は無事継承者となりました。おめでとうございます。
あとは、蓮也さんの道を切り開いて下さい。
異界での説明通り、『かわうそ?と愉快な仲間達』により多少の設定を本編移行し、事情の差し替えで相互相関が可能となります。
では又の機会があればお会いしましょう。
滝照直樹拝
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