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■I’ll do anything■

九十九 一
【1943】【九耀・魅咲】【小学生(ミサキ神?)】
 都内某所
 目に見える物が全てで、全てではない。
 東京という町にひっくるめた日常と不可思議。
 何事もない日常を送る者もいれば。
 幸せな日もある。
 もちろんそうでない日だって存在するだろう。
 目に見える出来事やそうでない物。

 全部ひっくるめて、この町は出来ている。


十一月の砂時計


 椅子に座ったままりょうは大きく背伸びをして、ゴキゴキと背中を鳴らす。
「………はー、眠…」
 パソコンの画面とカレンダーを見て愕然とする。
 〆切は今日。
「………」
 だが今はとても眠い。
 もう起きていられそうにない上に、心なしかキーボードを叩く手もおぼつかなくなってきている。
 画面に目線を戻し溜息を一つ。
「………よし、寝よう」
 ちょうどやっていたゲームも一区切り付いた所だ。
 ちなみに本来やるべき原稿はほとんどやっていないのは……まあ誰もが予想してしかるべき結果だろう。
 パソコンの電源を入れたまま上から布をかけて明かりを隠し、部屋の電気も消してそのまま部屋から出ようと。
「………?」
 足を止め振り返る。
 何か気配がしたのだがもちろん部屋には誰も居ない、居る訳が……。
 机の上にいつの間にか置かれた砂時計。
 気のせいでもなんでもない証拠に、静かな部屋の中ではサラサラと音まで聞こえる。
「………」
 自分が置いたものだろうか?
 そんな、はずはない。
 そこまで意識はもうろうとしていないし、不意に現れたあの砂時計はとても嫌な予感がするのだ。
 早くなる鼓動。
 周りを見渡し、そろそろと砂時計に触れようと手を伸ばす。
「それがなんなのか知りたいか?」
「―――っ!?」
 声と、鈴の音に指先が止まり、跳ねるように壁に背を押しつける程に後ずさる。
「なっ、なー!?」
 声は幼く、その姿は赤い着物に身を包んだ黒髪に赤い瞳の少女。
 つまりは九耀魅咲。
「………」
 呆然と上を見上げて沈黙する。
 今頭の中を駆けめぐっているのは、以前にあった色々な出来事。
 同じように締め切りがすこし過ぎた頃で、その時もそれはもう恐ろしい目にあったのだ。
 何があったのかは語るも恐ろしい。
 なにせあの事件の後『三月の赤い月』事件なんて名前を付けられたりしたのだから。
「のんびりしておる様だがの、良いのか?」
「……! な、なにが!?」
「話している間にも砂時計は落ちておるのだがのう」
「はっ!? えっ、なっ!?」
 ぎょっとして砂時計を凝視する。 
 サラサラと音を立てて落ちる砂時計が魅咲の持ってきたものである事は確かな事で、同時にそれは何かしらの理由があってと言う事になる。
「……落ちるとどうなるんだ?」
 恐る恐る。嫌な予感をヒシヒシと抱きつつ尋ねるりょうに、魅咲はクスクスと笑みを浮かべた。
「知りたいかえ?」
「うっ……」
「落ちた時が楽しみだのう」
「俺は楽しくないっ!!!」
「ならば早う仕事を終わらせる事だの」
 スウッと目を細められて言われては従うほかに選択肢なんて無い、魅咲はりょうの感じる『嫌な予感』を実現出来る少女なのだから。
「―――! 解ったよっ!」
 椅子に座りキーに手を乗せるもそこで手が止まる。
 砂時計も気になるし、手も動かない。
「もう少し追い詰めた方が良いと?」
 クスクスと笑みをこぼしつつ言う魅咲にガタリと椅子から立ち上がる。
「だーーー! もう無理ッ!」
「ほう? 良いのか?」
 砂時計は気になった物の……死にはしないはずだ。
 きっと、多分。
 達の悪い冗談か何かだと無理矢理そう思う事にしよう。
「……出来ない物は出来ないっ!!!」
 タバコを掴んで火を付けるなり外へと転移し逃走開始。
 時折後を振り返りながら、スリッパのまま暗い夜道を走り抜ける。



 追っても来ないし、何も起きない。
「………よしっ!!!」
 走り出し、靴はどうしようかと注意がされた途端に、何か大きな石を踏み痛みに眉を寄せる。
「……?」
 舗装されている道路なのに何故と思っていたのだが……。
「…………うわあ」
 なんの感情も込められてない声で、たったの三文字を口にする。
 目の前の光景はあまりにも直視しがたい物だった。
 一面の砂利や小岩。 
 枯れて今にも倒れそうな木。
 近くを流れる川。
 すすり泣きに、どこから聞こえる微かな歌声。
 名称を言葉にするのなら、賽の河原。
 呆然と立ちつくしていたりょうが、背中に異様な気配を感じ振り返る。
「………っ!」
 なぜ今まで気付かなかったのか?
 カチャリカチャリと石が触れ擦れる音。
 数え切れない程の子供達が一心不乱に石を積んでいる。
 思わず後ずさったりょうががらりと何かを蹴倒す。
 思いの外大きな音とそれに気付いて一斉にりょうを見た子供等に心臓が止まりそうになった。
「………」
『パパ?』
『おとうさん……』
「パパ、パパー」
 違うと首を振る。
 このまま石のように固まっていたらやり過ごせるかと思いはした物の、走ってくる子供に甘い考えなのだと勢い良く走り出す。
「やっべっ!」
 何とかしようとポケットを探りタバコを取り出そうと……無い。
「だああああっ!!!」
 走る走る。
 それしか出来ないのだ。
 足場の悪い場所だと言うのが信じられない速度である。
 もっとも後ろから付いてくる子供達もりょうと同様の早さなのだから、その程度と言う事でしかないのだろう。
 タバコもない。
 このままでは何処までも逃げ続ける事になる。
 なら、出来る事は一つ。
「……だっ、誰かっ!?」
 ダメ元て助けを呼んでみた。
 ここに誰がどうしてくるのだと思っていたのだが……。
「ずいぶん呼吸が上がっておる、タバコの吸いすぎが毒というのは本当のようだの」
 川を渡る船の上に座る魅咲。
 りょうのタバコを吸い、余裕の表情。
「そー言うことかーーー!!」
「なんの事だか」
「ここにっ、きたのっ、なんか……しただろうっ! 後タバコかえせっ!!!」
 なんの理由もなくこんな場所に来るなんて事ありえない。
「タバコを返すだけでよいのか?」
「あっ!? わーーー、帰るッ、帰る!!」
「仕事があっても?」
「……ええっと」
 浮かんだのはまっさらな原稿。
 ここも色々とアレだが、向こうも地獄のような気はしないでもない。
「……懲りぬのう」
「どわっ!!!」
 がしゃっ!
 突然足下にあった穴に蹴躓き倒れ込んだ。
「いっ……て」
 下は水たまりになっているのか、足下がグッショリと濡れたような感覚に包まれる。
「……げっ!?」
 ただの水たまりではなく、血だまりだったのだ。
 真っ赤に染まった足が気持ち悪い。
「…………」
 しかも足に何かが触れた気がして、慌てて立ち上がり走り出す。
 そろそろ追いつかれてしまう。
 捕まってどうなるかは考えたくない。
「何処か、遠くへ行きたい……」
「もう遠くでは無いのか?」
「ここは嫌だっ!!!」
「ならばもっと遠くのほうがよいと? 仕方ないのう、走って熱くなっただろうから涼しい所へ」
「わーー!! 嘘ッ、家に帰りたいっ!! 仕事するからっ!!!」
 一体どこに行くのか、力一杯叫ぶと魅咲がスッと目を細めて笑う。
「最初からそうしておればよい物を」
「ううっ!」
 ぐっと言葉に詰まるが何も言い返せない。
 色々あるのだが……もうそろそろ本格的に追いつかれそうなのだから、はっきり言ってそれどころではない。
「頼むっ! 早くっ、早くっ!!」
「そう急かすな……あと十秒は持つ」
 タバコを吹かし、どこから取りだしたのかお茶まで飲む余裕。
「急がないとまずいだろーー!」
 背中に小さな手が触れた気がしてぞっとした。
「今、いま触った!?」
「騒がしい事だのう」
「叫ぶに決まって―――っ!!」
 スッと手が挙げられるのを見てから、何かを返しかけたりょうは喉に言葉がつまる。
 走っていた足ももつれてバランスを崩しかけた。
「!?」
 周りの気配の変化に付いていけなく混乱しかける。
「………」
 ここが家の直ぐ近くだと、今は夜で誰も居ないと認識するのに成功するのには……ほんの少しの時間と深呼吸が必要だった。
 足下を見下ろす。
 血まみれになっていた足は何ともなっていなかった。
 走っていた時の息切れすらない。
「幻?」
 呟いても返事は帰って来ない。
 呆然と立ちつくしていたが遠くから聞こえた鈴の音にギョッとしてから、家へと戻る事にした。





 家に戻り、ようやくホッと息を付く。
 やたら周りの気配が気になったのは当然の事だろう。
 後を振り変わったり、視線を動かしたりしながら足音を抑えつつドアを開く。

 サラサラサラ……。

 大きな砂時計が部屋の真ん中に置かれ、大きな音を立てている。
 呆然とした顔がガラスに映っていた。
 無理矢理視線を他に移せば、周りにも置かれた数々の砂時計。
 それらが一斉に音を立てて落ちている。
 パソコンの周りを除いては。
「うそだろお……」
 ドアに手をかけたまま、その場にヘナヘナと座り込んだ。

 サラサラサラサラ……。


 余談だが、夜が明ける前に原稿が完成するという快挙を達成し。
 何かに急かされるようにアトラス編集部に倒れ込むように駆け込んむ事になったりょうは。
 そこに至るまでもに色々と『何か』に巻き込まれたとボロボロの格好で語る事になったのだが……。
 あくまでも余談である。
 



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1943/九耀・魅咲/女/999歳/小学生(ミサキ神?)】

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■         ライター通信          ■
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今回も楽しく書かせていただきました。
容赦のなさが流石だなぁと思ってます。
機会があったらまた何処かででも遊んでやってください。

それでは発注ありがとうございました。