■心を込めて花束を■
瀬戸太一 |
【3994】【我宝ヶ峰・沙霧】【摂理の一部】 |
「そろそろクリスマスかあ…」
私は読んでいた本をばたんと閉じて、顔を上げた。
私の台詞を聞きつけたリックが、ばたばたと駆け寄ってきて嬉しそうな顔を見せる。
「え?パーティ?パーティすんのか?」
「……………。」
多分今、この子の頭の中には、パーティで出される絢爛豪華なご馳走しか浮かんでいないんだろう。
「…パーティ、ねえ」
無論、それも良いだろう。だってクリスマスなんだから。
………でも。
「パーティじゃなくてね。私たちにしかできないことが、あると思うの。どう?」
私は首を傾げて尋ねてみた。
「えー、それじゃ食い物くえねーじゃん」
つまんねぇ、とぶーたれるリックは放っておいて、銀埜に声をかける。
「銀埜はどう思う?」
「そうですね…まがりなりにもうちの店は雑貨屋なのですから。
クリスマスフェアというものは如何でしょう?
中々嬉しいと思いますよ、魔女の祈りが込められた品物というものも」
くす、と笑って銀埜が言う。
私は目を丸くした。さすが銀埜、歳食ってるだけあるわ。
「そうね、それ、いいかも。
ふふ、腕が鳴るわね。忙しくなりそうだから、リックもちゃんと店番してね?」
「へーへー、了解しましたっと」
「あと、お客さんに食べ物ねだっちゃだめよ?」
「……へーへーへー」
びくっと一瞬固まるリック。
…やっぱり図星だったか。
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心を込めて花束を〜愛しのマイ・フェア・レディ
「うー、寒い寒い。銀埜、ミカン頂戴」
「昨日買い置きが切れました。最近食べすぎですよ、ルーリィ」
私は暖かいウールのひざ掛けを羽織り、赤々と燃える暖炉に手を翳しながら首を曲げた。
私の要望に苦笑して、銀埜は空になったダンボール箱を掲げて見せる。
12月に入って急に冷え込んだ昨今、私のミカン消費量はうなぎのぼりだ。
本音を言えば、コタツに入ってほおばりたいところだけど、生憎この家にまだコタツはない。
仕方がなく暖炉で暖まりながら、ミカンで体内の水分を補っているというわけ。
日本に来てからの、私の一番幸せな時間だ。
でもその、肝心の水分の元が切れてしまったという。
私は頬を膨らませながら言った。
「じゃあ仕方ないなあ…。明日買っておいてね?」
「はい、6個入りのものを買っておきます」
「6個じゃダメよ、2日でなくなっちゃうじゃない」
「ですから先程申し上げたように、貴女は少し控えたほうが…」
カラン、カラン…
そんなのんびりした会話をしていたところ、店の玄関に取り付けておいた鐘が鳴った。
私は木彫りの大きな椅子に、膝を丸めてひざかけに包まっている体勢のまま、
銀埜は空のダンボール箱をめしめしと言わせながら畳んでいる状態のまま、玄関のほうに顔を向けた。
「…もしかして、今休憩中だったかな?」
玄関のドアを開けたまま固まっている女性は、苦笑してそう言った。
私は慌てて立ち上がりー…その際にひざかけを暖炉の中に落としそうになり、慌てて拾い上げー…首をぶんぶんと振った。
「ご、ごめんなさい!今お客様がいないものだから、気が抜けてたの。
うちは勿論営業中よ、いらっしゃいませ」
「なら良かった。表の張り紙が気になってね」
そう言って彼女は、パタンとドアを閉め、かつかつと靴を鳴らして店内に入った。
私と銀埜は、張り紙という言葉を聞いて顔を見合わせる。
「張り紙って、この前張ったあれかしら?」
「あれしかないでしょう、それ以外に何も張ってないのですから」
そうこそこそと囁き合ったあと、私は改めて彼女のほうを向いた。
表に張ってある張り紙はー…この私自身が書いて、張り出したものだから、勿論内容は熟知してある。
12月に入った当初に作った、クリスマスフェアのお知らせだ。
私はこう見えてもイベント事が大好きなものだから、今年は張り切って、
クリスマスプレゼント用の品物を作ろうと思って、企画したものだったんだけどもー…。
「ええっと…クリスマスフェアに興味がおありなのかしら?」
私は、店の中央ほどの棚に並んだ絵本を、何気なく手に取っている彼女に言った。
彼女は、そうよ、と頷き、
「だって何だか面白そうじゃない。それに、丁度贈りたい相手もいるしね…って何?
私の顔に何かついてる?」
彼女は、自らにかかる視線に気がついたのか、私のほうを向いて怪訝そうな顔をした。
私はというと、言いかけた言葉が喉につまり、いつの間にか彼女の顔を凝視していた。
玄関先に立っていたときは、距離があったからわからなかったけども。
漆黒の髪と、それと同じ色に輝く瞳。身長はすらりと高く、華奢な体には大きめの白いコートを羽織っている。
髪の長さも、瞳の輝きも、何より醸し出す雰囲気がまるで真逆なのに、何処かあの女性を思い出してしまう。
あの学園で出会い、妹のことを楽しげに語った彼女を。
私の目の前にいる彼女は、ああ、と思いついたのか、苦笑して言った。
「もしかして、姉の知り合い?」
「…姉」
「ええ、似てないのに似てるってよく言われるの。
私は妹の沙霧よ、我宝ヶ峰沙霧(がほうがみね・さぎり)」
「ああ、やっぱり」
私は納得して、ポンと手を打った。成る程、似ているはずだ。
…ということは、この沙霧が、あの…愛の篭ったマフラーを、照れているので受け取らない妹か。
私はぱちぱちと瞬きをしながら沙霧を見上げた。
…確かに、彼女の作るようなマフラーは、似合いそうにない雰囲気を持っている。
でも同時に、あまり照れるようには見えないんだけども。
「…とりあえず、椅子でもご用意致しましょうか」
私が手を打ったはずみに落ちたひざ掛けを拾い上げ、銀埜は沙霧に向かって笑いかけた。
「申し遅れました、私は此処の従業員、銀埜と申します」
私はそこで、いまだに自己紹介をしていないことに気がつく。
「あ、そ、そう!私はルーリィ、此処の店長です。自己紹介、遅れちゃってごめんなさい」
私は慌てて、ぺこんと頭を下げた。
そしてちらりと目線を挙げると、沙霧はニッと笑みを浮かべながら私を見ていた。
「いいわよ、別に。それはそうとして、そこの暖炉、暖かそうね」
あたっても良い?
そう私に言う彼女に、私はこくこくと頷いた。
「勿論。美味しいお茶もあるの、ご一緒してもらえたら嬉しいわ」
★
「良ければどうぞ、オリジナルブレンドですが」
「有り難う、頂くわ。うん、いい香り。あなたが調合したの?」
「いえ、私のそんな技能はありませんので。近所の紅茶店で買ったものです」
暖炉の前に小さな丸いテーブルを置き、その上に銀埜が、湯気が上がる紅茶の入ったカップを設える。
沙霧は軽く礼をして去っていく銀埜の背中を見て、私に言った。
「えらく礼儀正しい人ねえ。どこかの執事みたい」
「そう?でもあの性格は元からのものよ。元から忠実な性格だから」
「ふぅん。まるで犬みたいね」
私はその言葉に、内心どきっとしながらも苦笑する。
「あ…あはは。よく言われるわ」
犬みたいも何も、本当に犬なんだけどね。
そう心の中で付け加えながら。
私は暖かい紅茶のカップを両手で支えながら、沙霧に尋ねた。
「そういえば」
「うん?」
沙霧はテーブルの上に載っている、お茶請けのクッキーに手を伸ばしながら応えた。
私はクッキーの皿を沙霧のほうに引きながら、
「さっき、贈りたい相手がいるって言ってたじゃない?
ということは、今日はうちの店に、何か求めてらっしゃったの?」
「ああ」
沙霧はクッキーをつまんで、口に放り込んで頷く。
そして口の中のクッキーを紅茶で流し込んだあと、何処となく疲れた風な笑みを浮かべて言った。
「あなた、ルーリィだっけ。うちの姉を知ってるのよね」
「ええ、前に一度お会いしたことがあるの」
「なら話は早いわ。あの人、毎年毎年この時期に、私にマフラー贈ってくれるもんだから。
今年は珍しく、何かお返ししてやろうと思ってね」
「成る程、ね」
私は沙霧の言葉を聞いて、うんうんと頷いた。
そういえば、彼女も毎年妹にマフラーを編んでいると言ってたっけ。
…の割りには、全くつけてくれないと溢していたが。
でもそんなお姉さんのためにプレゼントを贈るなんて、沙霧さんも可愛いところあるじゃない?
「…何?くすくす笑っちゃって」
「え?う、ううん、何でもないの」
私は思わず顔に出ていたにやにや笑いを抑えるために、頬に手を当てた。
そして未だに手にしていた紅茶のカップをソーサーに戻し、私は沙霧に笑顔を向けた。
「てことは、お姉さんへの贈り物なのよね。何かご希望はある?」
「そーねえ…とりあえず色々見せてもらおうかしら」
沙霧はそう言って、カップをソーサーに戻して立ち上がった。
私も椅子を引き立ち上がり、沙霧を手招きする。
「お姉さん、どんなものがお好きなの?」
私は壁側に置いてある、長いテーブルのほうに行き、そこに並んでいる品物を刺しながら言った。
「こういうのも綺麗でいいと思うわよ。香水の瓶なんだけどね、少しアンティーク風で」
「ふぅん、綺麗だとは思うけど…。やっぱり可愛いものが良いかな。
あの人、結構そういうの好きだから」
「へぇ、可愛いもの好きなんだ。そうよね、そういう雰囲気だったもの。
可愛いもの、ねえ…でも度が過ぎちゃうと、子供っぽくなっちゃうわよね」
私は顎に手を当て、うんうんと唸った。
なかなかプレゼントを選ぶというのも難しいものだ。
悩んでいる私をよそに、沙霧は鼻歌を口ずさみながら、楽しそうに店内を巡っていた。
棚に所狭しと並んでいる、私の趣味が溢れた品物を手に取りながら。
「何だか面白い店ねえ。やっぱりこれ、あなたの趣味?」
沙霧は、売り物ではない飾り物のランプに手を伸ばし、色々弄りながら言った。
私はハッと我に返り、苦笑して頷いた。
「うん、そう。ごめんなさいね、変なものが多くて」
「そんなことないわよ、結構私、こういうの好きよ?」
そういいながら、沙霧はアクセサリー類が陳列しているガラス張りの棚の前に立ち、その中の物を物色していた。
「へえ、ここアクセサリーも置いてるんだ。こういうのもいいかな…これ、中のもの触っていいの?」
「え?うん。ご自由にどうぞ?」
私はとてとてとその棚のほうに行き、鍵の掛かっていないガラス張りの戸を開けて、沙霧に見せた。
沙霧はニッと笑い、興味深そうに並んでいるアクセサリーの数々を手に取りながら眺める。
私は楽しそうなその姿を見て、にこにこと笑みを浮かべながら、
「そういえば。お姉さん、マフラーつけてくれないって悩んでたわよ?
どうしたの、照れてるの?」
私の言葉に、沙霧はぴたりと動きを止めた。
そして振り返って、肩をすくめる。
「ルーリィにも言ってたの?そりゃあ、確かに贈ってくれるのは嬉しいわよ。
大切にもしてる。…つけたことはないけど。でもねえ」
そう言って、沙霧はハァとため息をついた。
「あののんびりボケボケな姉の趣味全開のマフラーは、私には似合わないわけよ。
だから、目下のところ保管用なの」
「ああ…そうなんだ」
私はなぜか妙に納得し、頷いた。確かにこの沙霧にー…あの彼女が編んだマフラーは合わないだろう。
似合う似合わないの問題ではなくー…雰囲気に。
姉には姉の事情があり、妹には妹の事情があるということか。
なかなか、人間関係も複雑ね。
「まあ…その…ごめんなさい。変なこと聞いちゃって」
「いや、良いわよ。それより、これなかなか良いわね。これにしようかな?」
そう言って沙霧が手に取ったのは、白銀に光る腕輪。
細い輪が二本組み合わさっているタイプのもので、細かな装飾がされており、私自身なかなか気に入ってたものだ。
あの彼女の細い腕には、なかなか似合うことだろう。
私はにっこり微笑んで言った。
「でしょ、落ち着いた雰囲気だけど、結構可愛いわよね。これにする?」
私は沙霧から腕輪を手に取り、傷がないか確かめながら言った。
沙霧は満足そうな笑みを浮かべながら頷き、
「ええ、お願いするわ。いいものがあってよかった」
「私も気に入ってもらえてよかったわ。あ、そうそう、言い忘れてたんだけど」
私は正常な状態の腕輪を片手に持ちながら、首を傾げた。
「うちの店の特別のサービスでね、贈り物に『祈り』を込めることができるの」
私の言葉を聞いて、沙霧は不思議そうな顔をする。
「その祈りは、きっと奇跡を起こすわ。どう?あなたも一つ」
私はそう言って、笑顔で薦めてみる。
…我ながら胡散臭いとは思うけども。
だが沙霧は、何か察しがついたというように、にやりと笑みを浮かべ、
「成る程、奇跡云々は私は信じてないけど、あなたが何か仕込んでくれるのね?
道理で、何かこの店に変な魔力を感じると思ったわ。
なかなか面白い趣向を凝らしてくれるじゃない?」
「あはは…まあ、そういったところよ。
何でも良いわ、何かこの腕輪でしてみたいことがあるなら、言ってみて?」
私はそういいながら、内心不安だった。
果たしてこの沙霧が、どんな『祈り』を希望してくるのか。
でもやっぱり、実の姉へのプレゼントだもの、物騒なことは言わないわよね。
そう内心ドキドキしながら沙霧を見つめていると、彼女は何か思いついたように、にやりと笑った。
「そうそう…この間贈ってくれたマフラーで…マジで死にかけるほどの思いしたのよねえ。
あのお礼、まだしてなかったわ、そういえば」
私はその言葉を聞き、さあっと青ざめた。
…マジに死に掛けたマフラーって。それはもしかして、もしかしなくても、この間のー…。
私は、以前会ったときに彼女が編んでいたマフラーを思い出した。
夜な夜な夢に出てきそうな、悪夢を編んだマフラー。
…それを私が手助けしたことは、沙霧には秘密にしておかなくては。
だって、今の彼女の目はー…冷たく光っているのだから。
正直言って、かなり、怖い。
「そうねえ…ルーリィ、『嵌めようとすると小さくなる』っていうのは出来る?」
「…………え。でもそれだとー…」
嵌められないじゃない、そういおうとした私は、沙霧の笑みを見て固まった。
「いいのよ、『お返し』だもの。使えるものなら、使ってみろってヤツ」
お願いね?
そうにっこり笑う沙霧の笑みを見て、私はこくこくと頷くしかなかった。
「……うう…いいのかなあ、ほんとに」
私は知らないわよ、そう一人で呟いて、私は魔法を掛け終わった腕輪をカウンターの上に置いた。
そんな私を気遣うように、銀埜がそっと梱包剤と、腕輪のサイズに合わせた透明なプラスチックケースを置いてくれる。
「…人それぞれなのですよ、ルーリィ」
「そうよね…ありがとう。で、その沙霧さんは何処に?」
私は魔法をかけるために、カーテンの奥に引っ込んでいたから、当然のように店の中をうろついていると思ったのだけども。
パッと見る限り、沙霧の姿はなかった。
私がいない間、沙霧の相手を任されていた銀埜が、暖炉の傍の机を指差した。
「あそこですよ。メッセージカードは如何ですかといったら、嬉々としてお書きになっておられます」
「へえ…愛情はあるのにねえ」
でも、これなのよね。
私は梱包剤と共に詰められた腕輪を見下ろして、ため息をついた。
一体これは、嫌がらせなのか感謝なのか。
「…どちらも込められていると思いますよ」
私の心を読んだように、苦笑して言う銀埜。
「まあ、そんなものです。特に身内というものは。
…最も、彼女たちの場合は少々特殊のようですがね」
そう言って、呼んできましょうとカウンターを離れる。
私は複雑な気持ちで、プラスチックケースの中の腕輪を見下ろしていた。
「ルーリィ、これもこれも。中に入れて頂戴」
にこにこと笑いながら、沙霧が小さなカードを片手に駆け寄ってきた。
「あ…うん。ねえ、沙霧さん」
「可愛くラッピングしてね。そうだ、リボンは赤かピンクがいいかな」
「あの…それは勿論いいんだけど。ねえ、本当にこれでいいのね?」
「うん?」
沙霧はきょとんとした顔をして、私の顔を見た。
そしてこくん、と頷く。
「私に二言はないわ」
「…一応言っておくけど、あとのことは、私は責任持たないわよ?」
「そんなこと分かってるって、あなたって結構心配性ねえ」
「心配性というかー…ただ純粋にあとが怖いだけなんだけど」
愛する妹からの贈り物を、嵌めようとした瞬間手が通らないときの彼女の心境を思うとー…。
私は胸が痛くなるのと同時に、非常に薄寒いものを感じる。
「まあ…いいや。ラッピングは可愛くすれば良いのね?」
「ええ、お願い。姉の心をくすぐるような、ね」
沙霧は、にこにこと笑いながらカウンターに手をつき、言った。
私はもう何も言うまいと観念し、プラスチックケースを傍に居た銀埜に手渡す。
「うん、じゃあ…お願い」
「畏まりました、リボンは赤かピンクですね。ピンクは今切らしているので赤に致しましょう」
銀埜はそう言って、カウンターの下にもぐりこんで、薄い桃色の包装紙を取り出した。
そしてプラスチックケースを、沙霧が書いたメッセージカードを包み込み、器用にラッピングを始める。
その様子を見て、沙霧が不思議そうに言った。
「何だ、ルーリィがしないの?」
「ええ、私こういうことには向いてないの。銀埜のほうが、手先は器用だからね」
「ふぅん…」
沙霧はそう言って、銀埜の手元をジッと見つめていた。
そして、なるほどね、と納得したように頷く。
私はその沙霧を見ながら、思い出したように言った。
「そういえば…これはどうする?沙霧さん、自分で届ける?」
「…………私が?」
沙霧はそこで初めて、ぴくりと耳を動かした。
やはりさすがの沙霧でもー…これを手渡しするのは怖いのか。
「ええと…それをわざわざ聞くってことは。この店、配達もしてくれるの?」
私は、苦笑して言った。
「…ええ、一応、ね。でもほら、こういうのって直接渡したいじゃない?
だからやっぱり沙霧さん自身がー…」
「あ、でも、私結構忙しいのよね!頼めるならルーリィに…」
「え、でもでも、やっぱり沙霧さんからもらったほうが、お姉さんも嬉しいと思うの!」
「…何を不毛な言い争いをしているんですか、貴女たちは」
銀埜が手を止めて、呆れながら私たちを見た。
そしてハァとため息をこぼして言う。
「お客様である沙霧さんがおっしゃってるんですから、ルーリィが届ければ良いでしょう。
沙霧さんもそれを望んでいるんでしょう?」
「ええ、そうよ。銀埜、話わかるじゃない!」
「…まあ、私が届けるんじゃないですからね」
銀埜はそうしれっと言い、綺麗にリボンがつけられた箱を目の前に出した。
「こんなものでどうでしょう?もっとゴージャスにしますか?」
「ううん、これで十分よ。これなら姉もー…ふふ。
ルーリィ、どうしたの?」
沙霧はそう言って、床にしゃがみこんで足を抱えている私を見下ろした。
私はというと、好き勝手なことを言っている二人をよそに、ぶつぶつと呟いていた。
「酷い…私ばっかりにおしつけて…」
私だって、中を見たときの彼女の顔は見たくない。
彼女は温厚でのんびりしているから、私だって好きだけどー…
でも、ああいう人こそ、変貌が激しいんだから。あんまりだわ!
「沙霧さん!」
「な、何よ」
私はがばっと立ち上がって、意気込んで沙霧の手を握った。
沙霧は目を白黒させながら私を見ている。
私はずいっと近づいて、真剣な顔で言った。
「……お線香だけは上げて頂戴ね」
「…はぁ?」
★
そして、数日後。
私は片手に、例の包みを持って、彼女の元を訪れていた。
私の気配を感じたのか、目を伏せたまま顔を上げる彼女。
「…ルーリィちゃん。お久しぶり」
「お久しぶり、元気にしてた?」
私はそうにこやかに挨拶を交わし、改めて彼女の姿を眺めた。
その艶やかな黒髪も、穏やかな雰囲気も、以前あったときのままだ。
私は、にっこり笑いながら、彼女の手に、包みを握らせた。
「…ルーリィちゃん、これは?」
彼女は、首を傾げて手の中のそれを掲げた。
私は内心の動揺を隠しながらー…最も、目の前の彼女には隠しきれていないだろうがー…。
笑みを絶やさずに言った。
「ええ、貴女の大事な人からの贈り物。…だ、大事にしてね」
そして、重要なことを一つ付け加える。
「包みは、私が帰ってから開けてね?絶対よ」
彼女は、きょとんと私を見つめていたが、こくんと頷いた。
私は内心胸をなでおろしながら、彼女の手をそっと握って囁くように言った。
「…メリークリスマス。あなたに幸せな聖誕日が訪れますように」
その後の、この姉妹がどうなったかはー…ご想像にお任せしよう。
End.
改行(二行目には必ず改行を入れてください)
本文(文章のタイトルを一行目に入れ、改行後、二行目からが本文になります。)
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3994 / 我宝ヶ峰・沙霧 / 女性 / 22歳 / 摂理の一部】
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■ ライター通信 ■
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沙霧さん、初めまして。ライターの瀬戸太一です。
今回はクリスマスイベントに参加して頂き有り難う御座いました^^
以前お姉さんのほうにお世話になったということで、
ところどころ影を思わせながら書いて見ました。
気に入って頂けると幸いです。
そして願わくば、新たな姉妹間闘争の火種になりませんように。(笑)
ご意見ご感想等ありましたら、お気軽にお手紙のほうお送り下さいませ。
それでは、またどこかでお会いできることを祈って。
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