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■ファイル1-心を盗られた人。■

朱園ハルヒ
【2291】【里谷・夜子】【高校生】
「変死体…?」
「いや、実際には、違う。生きているが、動かない…と言えばいいのかな」
 デスクを挟み、奥には槻哉。その前には早畝とナガレ。そして斎月が珍しく顔を出している、司令室。
 一つの事件の内容が記されたファイルを手に、槻哉がその二人へと、状況説明をしている所だ。
「…なんだそりゃ。病気じゃねーの?」
「病気の類であれば、僕のところにこんな書類なんて回ってこないよ、斎月」
 斎月のやる気の無い言葉に、槻哉は軽く溜息を吐きながら、書類の内容を二人に見せるかのように、デスクの上にそのファイルを置いた。
 クリップで止められた、白い紙と、数枚の写真。その写真には、『死体』とも呼べる、生気の無い人間が映し出されていた。
「被害者だよ。どれも同じような状態だろう」
 早畝が写真を食い入るように覗き込んでいると、槻哉が補足するかのように言葉を投げかける。
「ふーん…確かに事件の臭いだな。…っていうか、先に写真見せてから説明始めろよ、槻哉」
 斎月は写真を一枚手にしながら、そう毒づく。付き合いは長くも、二人はあまり、仲がいいという訳ではない。
「なんか、人間業じゃないよなぁ…変な気配感じるし」
 そう、口を開いたのは、早畝の肩に乗っているナガレだ。動物的な勘が働いたのか、写真に顔を近づけて、くんくん、と臭いを嗅いでいる。
「ナガレならそう言うと思ったよ。だから君も呼んだんだ。もうこれで…5人目。警察側の特捜部も、お手上げ状態らしくてね」
 手に書類を戻し、槻哉はそう言う。その言葉に何より反応したのは、早畝であった。
「…じゃぁ、俺たちが解決すればいい話だよな。あいつらには、負けない」
 警察組織自体を信用してない、早畝の心からの言葉。それを槻哉も斎月も、そしてナガレも、何も言わずながらも、その胸のうちに何かを感じ取りながら。
「……とにかくだ。此処に流れてきたからには、君たちの出番だ。よろしく頼むよ」
 パシン、と再び書類をデスクの上に軽く叩きつけるかのように置きながら、槻哉はそう言い立ち上がる。すると早畝も斎月もそれに習うかのように、姿勢を正して見せるのだった。

ファイル1-心を盗られた人。


「変死体…?」
「いや、実際には、違う。生きているが、動かない…と言えばいいのかな」
 デスクを挟み、奥には槻哉。その前には早畝とナガレ。そして斎月が珍しく顔を出している、司令室。
 一つの事件の内容が記されたファイルを手に、槻哉がその二人へと、状況説明をしている所だ。
「…なんだそりゃ。病気じゃねーの?」
「病気の類であれば、僕のところにこんな書類なんて回ってこないよ、斎月」
 斎月のやる気の無い言葉に、槻哉は軽く溜息を吐きながら、書類の内容を二人に見せるかのように、デスクの上にそのファイルを置いた。
 クリップで止められた、白い紙と、数枚の写真。その写真には、『死体』とも呼べる、生気の無い人間が映し出されていた。
「被害者だよ。どれも同じような状態だろう」
 早畝が写真を食い入るように覗き込んでいると、槻哉が補足するかのように言葉を投げかける。
「ふーん…確かに事件の臭いだな。…っていうか、先に写真見せてから説明始めろよ、槻哉」
 斎月は写真を一枚手にしながら、そう毒づく。付き合いは長くも、二人はあまり、仲がいいという訳ではない。
「なんか、人間業じゃないよなぁ…変な気配感じるし」
 そう、口を開いたのは、早畝の肩に乗っているナガレだ。動物的な勘が働いたのか、写真に顔を近づけて、くんくん、と臭いを嗅いでいる。
「ナガレならそう言うと思ったよ。だから君も呼んだんだ。もうこれで…五人目。警察側の特捜部も、お手上げ状態らしくてね」
 手に書類を戻し、槻哉はそう言う。その言葉に何より反応したのは、早畝であった。
「…じゃぁ、俺たちが解決すればいい話だよな。あいつらには、負けない」
 警察組織自体を信用してない、早畝の心からの言葉。それを槻哉も斎月も、そしてナガレも、何も言わずながらも、その胸のうちに何かを感じ取りながら。
「……とにかくだ。此処に流れてきたからには、君たちの出番だ。よろしく頼むよ」
 パシン、と再び書類をデスクの上に軽く叩きつけるかのように置きながら、槻哉はそう言い立ち上がる。すると早畝も斎月もそれに習うかのように、姿勢を正して見せるのだった。


「じゃあ、俺とナガレは組んで調査するから」
 早々にジャケットを着込みながらそう言ったのは、早畝だった。ナガレも彼に遅れを取らない様、肩に飛び乗って槻哉へと視線を送る。
「何かあったらすぐ連絡よこせよ」
 煙草を咥えたままで言葉を発するのは斎月だ。彼は一人で行動するらしく、早畝の頭を数回撫で繰り回し、そのまま司令室を後にする。
「じゃあ、行ってきます」
「気をつけて」
 見送ってくれる槻哉に背を向けながら、早畝もナガレとともにその場を後にした。

 時を同じくして。
 祖父に頼まれた者を先方へと送り届け、帰路を進む少女が一人。
 名を里谷・夜子(さとや・よるこ)。見た目はごく普通の控えめな少女であるが、その実は奥が深く、彼女の体に宿る力や『存在』も、相当なものだ。
「……………?」
 そんな彼女が、肌で感じた空気に誘われる。
 普段は通ることの無い道の先から、何か異質なモノを感じ取ったのだ。
 夜子はそれに躊躇う事無く、足を向けた。
 暫く進むと、目に付いたのはひっそりとした公園。彼女はそのまま公園内へと足を運び、辺りを見回した。
 何処と無く、全体を覆う、禍々しい空気。
 それを仰ぐように瞳を閉じて感じ取りながら、中心となるものを探る。
『…サビシイ…クルシイ…』
「!」
 空気に乗って。
 夜子の耳に届いたのは、そんな寂しい声だった。
 ゆっくりと瞳を開き、視線を送ると、その先に見えるのは一本の木。そして、その傍に佇んでいる存在に、体を向けた。
 それは、霊的な力が無い限りは視界に捉えることも出来ないモノ。
「……この空気は…貴方が生み出しているのですか…?」
 一歩一歩をしっかりと踏みしめながら、夜子はその存在へと近づき、声をかけた。
 僅かであるが、その形を崩し始めている…霊的存在。早い話が幽体だ。この場から動こうとしないところを見ると、地縛霊らしい。
 夜子の存在に気が付いたその霊は、ゆっくりと視線を動かした。
 禍々しさを含んだ、悲しげな瞳。
 夜子は怯む事無く、その存在を見上げる。こういう経験は、初めてではないからだ。
『ツライ…サビシイ…』
 もうどれくらい、霊はこの場に居るのだろうか。
 夜子は慈愛の眼差しで、霊に手をかざした。触れることは出来ないが、頬の辺りにそれを置く。
 同じ事を繰り返すその霊は、悲しみの世界に囚われたままで、自分ではどうすることも出来ずに居ると言った感じであった。生前にどんな事があったかまでは解らないが、夜子には霊の寂しさが手に取るように解る。
「…辛い目に遭われたのですね……でも、そんなに自分を追い詰めたりしないでください…」
 夜子がそう語りかけると、霊は静かに涙を流し始める。彼女の言葉は、確かに届いているようだ。
(……あら…?)
 霊の涙を掬い取ってやるように指を動かしながら、夜子は別の気配に気が付いた。
 それはこの霊の中から、感じ取れる。
 精神を研ぎ澄まし、集中すると、その気配が複数あるという事まで解った。そしてそれは…まだ『生きているもの』であると言う事も。
「………その方達は、貴方が捕らえてしまったのですか…?」
 ゆっくりと、間をおいて。
 夜子は霊を刺激しないようにと、声を掛ける。
 すると霊の瞳は、ゆらり、と揺れた。
「…あ、ナガレっあれ見て!」
「!?」
 背後で、突然響いた声。
 夜子はそれに驚き、肩越しに振り返る。
 すると彼女に向かって、一人の少年が駆けてくるのが見えた。…調査で此処までたどり着いた、早畝である。その後ろから、ナガレも彼を追って来ている。
「……貴方がたは…?」
「えっと、驚かせてごめん。俺は早畝・ラルフォード、こっちがナガレ。俺達、とある事件を追って、此処までたどり着いたんだ」
 早畝たちの出現に多少、警戒心を表に出している夜子だったが、彼が差し出した名刺代わりの特捜部の手帳に視線を落として、早畝の言っていることが嘘ではないと言う事を確認する。
「こんな組織が…存在するのですね。警察とは、また別口なのですか?」
「全然別だよ。俺達は俺達のやり方で、地道に事件を解決していくんだ」
 夜子の言葉に過剰反応したのは、早畝だった。彼女の目の前で握り拳を作り、視線を鋭くする。ナガレがそれをみて、『落ち着け』と小声で言っていた。
 それから、早畝たちはこれまでの経緯を、夜子に説明する。
 すると、夜子が接触していたこの霊と、彼らが追っている事件とがピッタリと繋がることが判明し、お互いに驚いて見せるのだった。
「…そうですか…それで、この方が…この場に居続けているのですね…」
 夜子は静かにそういいながら、再び霊へと視線を向けた。
 霊はその場から動くことは無く、攻撃的な感じも無い。ただ、自分を嘆き、そしてその悲しみから生まれた力で、人々の『心』を吸収しているのだ。
「その方達と、貴方とが互いに苦しみを増幅しています…そのままでは悪くなるだけです。…どうか、その方達を解放してあげてください」
 彼女の声音は、とても優しいものであった。
「……………」
 早畝は身近でその彼女を見つめながら、押し黙っている。ナガレも同様に。
 これは、彼女であるからこそ、起こせる行動なのかもしれないと早畝は思う。禍々しい空気の中で広がっていく、柔らかなもの。これは夜子から浮き出ている、心根のオーラ。
 霊が何も仕掛けてくることも無く、こうも穏便に事が運ぶというのは、珍しい光景であった。自分達でどうにかしようとしていたら、彼女のように上手くは出来ずに居たであろう。
『サビシイノ…ワタシハヒトリ…?』
「…いいえ、そんな事はありません」
『ドウシタラ、解放サレルノ?』
「悲しみに囚われたままでいないでください…。どうか、前を見つめて。
 これ以上、誰かを取り込んでも貴方は救われません。負の力がどんどん増えて、最後にはただの怨霊になってしまいます…その前に私は貴方を救いたい」
『……………』
 悲しみに暮れるままの霊へと、夜子の言葉が刻み込まれていく。
 早畝とナガレはそれを見つめたまま、素直に感心していた。
「…すごい」
「凄いな」
 自然と漏れた早畝の言葉に、ナガレも当たり前のように答えている。
 そこでふと、自分に何か出来ることは無いかと感じた早畝は、辺りを見回した。
 すると公園入り口から人の声が聞こえてきた。
「…やば……夜子ちゃん、ちょっとゴメン」
 そう言いながら、早畝は腰にある銃へと手を置いた。
 そして彼女達を隠すかのように前へと進み、空中へと銃口を向ける。
「……何を…!?」
「あー、大丈夫大丈夫。ごめんな、驚かせてばっかりで。あれ、人を傷つける銃じゃねーし、すぐ済むからちょっと我慢してくれ」
 早畝の行動に動揺を見せた夜子に、ナガレは素早く反応する。
 夜子は訳が解らずに、早畝の背を見つめていた。
「一定時間しか効果ないけど、大丈夫だよな」
 独り言のような言葉の後に。
 空へと向いたままの銃口から、光のようなものが飛び出した。それは早畝たちの頭上を瞬く間に囲み、足元まで包み込む。
「……ま、早い話がシールドみたいなもんだな。コレの外からは、俺達の姿が見えなくなるんだ。…騒がれたくないだろ?」
 いつの間にか夜子の肩へと移動していたナガレが、彼女にそう言う。
 夜子は驚きを隠せずに、呆けていた。
「…ごめん夜子ちゃん。もういいよ、続けて」
 早畝が銃を腰に仕舞いながら、笑いかける。そこでようやく夜子は、自分の意識を現実へと引き戻した。
「……おーっと、お前まで動揺することは無い。大人しく夜子の言葉だけ聞いてろ」
 それは、ナガレの言葉。
 夜子が霊へと視線を戻してみると、歪んだ空気が、彼女を覆うように迫ってきていた。それを、肩口に居たナガレが前足を突き出して、止めている。彼の能力、正真正銘のシールドによって。
「…コイツも驚いたんだろ。不安定な存在だし、焦ったんだろうな。危なくお前までコイツに吸収されるところだったぞ」
「すみません、ありがとうございます」
 ナガレは迫りくる霊から、夜子を守ったのだ。
 状況を素早く飲み込んだ夜子は、そこで一度深呼吸をした後に、ナガレへと微笑んで見せた。
『カナシイ…サビシイ…ツライ、クルシイ…ヒトリハイヤ…』
 ナガレのシールドの向こうで、霊が再び嘆きの言葉を発していた。大粒の涙を流しながら。それを見つめつつ、夜子はナガレにシールドを解除してほしいと頼む。
「大丈夫か?」
「…大丈夫です。お願いします」
 一度確認を取った上で、ナガレは自分の力を解除する。
 すると夜子は霊へと手を差し出して、ゆっくりと笑いかけた。
「……何も怖がる必要はありません。どうか、私の声を受け入れてください。貴方はもう、独りじゃない」
『………………』
 早畝もナガレも、完全に彼女に任せる形で。
 一歩下がって、夜子と霊を見守る。ナガレは彼女の肩の上で、動かないままでいた。
「ここに居続けても…貴方のためにはなりません…だからどうか、捕らえて方たちを解放して…そして、貴方自身も、解放してあげてください」
 夜子の言葉が、霊を癒していくのが見て取れた。
 徐々に緩やかになっていく、周りの空気。
『………アリガトウ』
 霊はそこで初めて、微笑んだように見えた。
 そして夜子の手をとりながら、その身を先端から溶かしてゆく。
「…早畝、回収」
「了解」
 頃合を見たナガレが、早畝へと声をかけた。
 すると早畝は予め用意していたらしい透明なケースを取り出して、霊が解放しようとしている、捕らわれた『心』を回収する準備を始めた。
「もう、大丈夫ですね…」
 最後にもう一度だけ、夜子は霊に向かい、そう問いかけると、それはこくりと頷いて彼女に笑顔を作っていた。
 それからゆっくりと…その霊は、その場から音も無く消えていくのだった。
 

 早畝の銃の効力が消える頃には、公園内も普段の穏やかさを取り戻していた。
「偶然だったけど、夜子ちゃんがいてくれて助かったよ。さんきゅ」
「…私、ああいう状況を放って置くことが出来なくて…でも、早畝さんたちのお役に立つことが出来て、良かったと思います」
 早畝がにこにこしながら夜子に礼を言うと、彼女のほわ…と笑い返してくる。
「このまま帰るの? 特捜部に行ったらお茶くらい出ると思うけど…」
「いえ…お誘いは嬉しいのですが、私もお使いの途中ですので」
「そっか…」
 夜子はそこで、早畝たちとは別れるようだ。
 本当は槻哉と顔を合わせさせたいのだが、強要はしない。いずれまた、再び会えることもあるだろうから。
「それじゃ、私はこれで失礼します」
「ああ、気をつけてな」
 夜子は礼儀正しく、早畝とナガレに向かい、頭を下げる。
 そして彼らが見送る中、彼女は公園を後にし、その姿を消した。
「……なんか、最近凄い能力者サンに出会う確率高いよね」
「そうだなぁ…意外に、世間ってモンは、狭いのかもしれないな」
 夜この後姿が見えなくなるまで見送っていた早畝とナガレは、視線を動かすことの無いまま、そんな会話をする。
 それから彼らも、無事に回収し終えた『心』を片手に特捜部へと戻るため、その公園を後にするのだった。




【報告書。
 12月19日 ファイル名『心を盗られた被害者達』
 
 心を盗み取っていた犯人はこの世に未練を残したままの地縛霊であった。
 現場に駆けつけた早畝、ナガレは、里谷夜子嬢の協力の下、被害者たちの心を無事回収することが出来た。霊も彼女の説得により、成仏した模様。
 その後、被害者たちは全員普通の生活に戻れたと確認済み。
 協力者の里谷嬢には、後日謝礼を送り届けることとする。

 
 以上。

 
 ―――槻哉・ラルフォード】



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            登場人物 
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【整理番号 : PC名 : 性別 : 年齢 : 職業】

【2259 : 里谷・夜子 : 女性 : 17歳 : 高校生】

【NPC : 早畝】
【NPC : ナガレ】

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           ライター通信           
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 ライターの桐岬です。今回は『ファイル-1』へのご参加、ありがとうございました。
 個別と言う事で、PCさんのプレイング次第で犯人像を少しずつ変更しています。

 里谷・夜子さま
 初めまして。この度はご参加有難うございました。
 夜子さんの優しさをきちんと表現出来ていればいいのですが…。争いごとも好まないと言う事でしたので、全面的に説得の方向でお話を進めさせていただきました。
 少しでも楽しんでいただければ、嬉しいです。

 ご感想など、聞かせていただけると幸いです。今後の参考にさせていただきます。
 今回は本当に有難うございました。

 誤字脱字が有りました場合、申し訳有りません。

 桐岬 美沖。