■心を込めて花束を■
瀬戸太一 |
【2287】【御風音・ツムギ】【医師】 |
「そろそろクリスマスかあ…」
私は読んでいた本をばたんと閉じて、顔を上げた。
私の台詞を聞きつけたリックが、ばたばたと駆け寄ってきて嬉しそうな顔を見せる。
「え?パーティ?パーティすんのか?」
「……………。」
多分今、この子の頭の中には、パーティで出される絢爛豪華なご馳走しか浮かんでいないんだろう。
「…パーティ、ねえ」
無論、それも良いだろう。だってクリスマスなんだから。
………でも。
「パーティじゃなくてね。私たちにしかできないことが、あると思うの。どう?」
私は首を傾げて尋ねてみた。
「えー、それじゃ食い物くえねーじゃん」
つまんねぇ、とぶーたれるリックは放っておいて、銀埜に声をかける。
「銀埜はどう思う?」
「そうですね…まがりなりにもうちの店は雑貨屋なのですから。
クリスマスフェアというものは如何でしょう?
中々嬉しいと思いますよ、魔女の祈りが込められた品物というものも」
くす、と笑って銀埜が言う。
私は目を丸くした。さすが銀埜、歳食ってるだけあるわ。
「そうね、それ、いいかも。
ふふ、腕が鳴るわね。忙しくなりそうだから、リックもちゃんと店番してね?」
「へーへー、了解しましたっと」
「あと、お客さんに食べ物ねだっちゃだめよ?」
「……へーへーへー」
びくっと一瞬固まるリック。
…やっぱり図星だったか。
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心を込めて花束を〜僕と君のビューティフル・デイ
「どうもこんにちは、お久しぶりです」
万華鏡を注文した少年が出て行ってから数十分後、店の鐘が来訪者を告げた。
そして聞き覚えのある声が、店内に飛び込んできた。
「あら、ツムギさん!」
私は玄関先に立つ青年の姿に、驚いて声を挙げた。
…すごい偶然だこと。
「いらっしゃい、今ね…」
月弥くんが来てたのよ。
そう言おうとして、私ははっと口をつぐんだ。
やっぱりこういうことは、秘密にしておいたほうがいいわよね?
「ううん、何でもないの。とにかく、いらっしゃいませ。店に来て頂くのも久しぶりね?」
私は、あははと苦笑して青年―…御風音ツムギ(みふね・つむぎ)を出迎えた。
ツムギは私の様子に首を傾げながらも、ゆっくりとした動作で店の中に入ってくる。
以前店で出会ったときよりも、穏やかで何処か自信のある雰囲気だ。
…きっと、斬さんとうまくいってるのね。
私は彼の中に眠る、まだ見たことはないもう一人の彼のことを思い、思わず微笑んだ。
「ええ、ご無沙汰してます。ところで、今はクリスマスフェアだとか」
ツムギはカウンターの中にいる私の前に立つと、そう言った。
私は目を輝かせて立ち上がる。
「もしかして、もしかして贈り物?」
「ええ、もしかしなくても贈り物ですよ」
ツムギは私の表情に少し慄きながらもそう言った。
「どうかしたんですか?」
ツムギに尋ねられ、私はハッと我に返った。
思わず、両思いさんね、と興奮しちゃった。いけない、冷静にならないと。
「こ、コホン。何でもないの、失礼しました」
私は取り繕いながら、笑顔を浮かべた。
ツムギはというと、いまだに訝しげな表情を浮かべながらも、仕方なく納得したようだ。
「そうですか…なら良いんですが。…何か企んでません?」
「ええ?そんなことないわよ、全然ないわ」
私はわざとらしい声を上げ、ぶんぶんと首を振った。
まずいわ、この人案外鋭いわね。
私はコホン、と咳払いをし、気を取り直してツムギに言った。
「それはいいとして。贈り物なのよね?当ててあげようか、相手はー…」
「ルーリィさんもご存知の月弥くんです。今年は彼と一緒に過ごす、初めてのクリスマスなので」
「……そ、そう。やっぱりね、そうだと思ってたのよ!」
といいながら、私は内心、チッと舌打ちした。
もう、先に言われちゃったわ。折角当ててみせようと思ってたのに。
「…月弥くんが何か?」
「ううううん、なんでもないない!そっか、月弥くんなのね。
いいわね、ラブラブで。羨ましいわ」
「いえそんな…らぶらぶだなんて。それに彼は、俺のことはまだ保護者だと…」
そういいながらも、頬を赤らめてみせるツムギ。
…このままだと、一気に惚気られそうだわ。
私は、うん、と大げさに頷いて見せ、
「まあそれはいいとして」
「…ルーリィさんが言ったんですけど?」
訝しげにツッコんでくるツムギの言葉を聞かなかったことにし、私はにっこりと笑みを浮かべた。
「贈り物でしょう?どんなのが良いのかしら。何かご希望は?」
「あ、そうそう。プレゼントですよね」
ツムギは私の言葉に、ポンと手を打った。
私はその素直な反応に、内心くすくすと笑いながら、
「何か希望があるならそれに沿うわよ。どう?」
「そうですね。先程も言ったとおり、彼と過ごす初めてのクリスマスなので、
何か記念に残るものがいいかな、と。あと長く使ってもらえるようなものが良いですね」
「ふぅん、ならば実用品ってところかしら」
私はそう言って、暫し頭の中を探った。
実用品…実を言うと、その類は、あんまり店には置いてないのよね。
一応雑貨屋だけど、飾って楽しむようなものが多いものだから。
しかも相手は月弥くんだというし。やはり可愛いものが良いのかしら?
「絵本なんかも良いと思ったんですけどね。やはりこう…いつも身に着けてもらえるような。
そんなものはないですか?」
「いつも身に着けるもの…うーん…うーん…」
私はツムギの言葉を聞いて、唸りながら考え込んだ。
身に着けるもの……といえば、洋服かしら?でもそんなの置いてないし。
というか私に洋服のセンスはないし。
あとは…手袋とかかしら?でもそれだと、冬のみよね。
日本は冬以外はそんなに寒くないし…うーん…。
「リュックなどは如何でしょう?ほら、以前ルーリィが仕入れていたでしょう。
黒チビにかなり馬鹿にされておられましたけど」
私は、唐突に横から聞こえた声に、ハッと顔を上げた。
いつの間に傍らに立っていたのか、銀埜が私を見下ろしていた。
「確かまだ倉庫に残っていたかと。あれもご自分用のおつもりだったでしょうが、
この機会にお売りになれば宜しいかと」
「…え?あったかしら、そんなの」
私は銀埜の言葉を受けて、再度頭の中で、倉庫の様子を思い浮かべる。
その間に銀埜は、カウンターの前に立っているツムギに向かって笑顔を浮かべて一礼していた。
「どうも、初めまして。私は此処の従業員、銀埜と申します」
「ああ、ご丁寧にどうも。俺は御風音ツムギといいます」
「ツムギさんですか、よろしくお願いします。以前主人がお世話になったようで」
「いいえ、お世話になったのは俺のほうですよ」
そんな和やかな会話が頭上で交わされているのを聞きながら、私はカウンターの椅子に座って頭を抱えた。
リュック…本当にあったかしら、そんなの?しかもリックに馬鹿にされたっていうし。
「…銀埜、ほんとにそんなのあった?」
「ありましたよ、探してきましょうか?」
そう言って、銀埜はツムギのほうに向かって言った。
「ですが、大分子供向けというか…大人の方向けのものではありません。
それでも宜しいですか?」
ツムギは銀埜の言葉に、笑って頷いた。
「はい、むしろそっちのほうがいいですよ。上げる相手はまだ少年ですから」
「さいですか、なら好都合ですね。少々お待ちください」
銀埜はそう言って、きびすを返してカーテンの奥に消えた。
ツムギはそれを見送り、不思議そうな顔で私に言った。
「…そういえば、どんなリュックなんですか?」
「…私が聞きたかったりするのよね、それを」
★
「お待たせしました」
そう言って銀埜がカーテンの裏から顔を出したのは、私がツムギさんに紅茶を勧めていたときだった。
「あ、見つかった?」
私は紅茶のカップをソーサーと一緒にカウンターの上に置き、銀埜に顔を向けた。
銀埜はにやりと笑い、両手に持っていたものを掲げて見せる。
右手には、薄いピンク色のうさぎのぬいぐるみ。
左手には、同じぐらいの大きさをしたカエルのぬいぐるみ。
どちらも手足がだらんと長く垂れ下がっており、腹のぶぶんがぷっくりと楕円形に大きい。
何とも単純なフォルムだが、その分愛らしい。
そして私は、その両方に見覚えがあった。
「ああっ!思い出した!そうそう、これよ、この可愛さに一目ぼれして、買っちゃったんだっけ」
「やっと思い出しましたか?ロンドンの雑貨屋でですよ。
持って買えるのが大変だったというのに、あなたは…」
銀埜は苦笑して私を見た。私は、あはは、とひきつり笑いを浮かべ、
「いや…その。そういえばすっかり忘れてたわ。懐かしいわね、これ!
そう、リックに散々馬鹿にされたんだっけ。こんなもん買うなんて正気じゃない、とかなんとか」
「リックには貴女の感性は分からないのでしょう。ちなみに私にも良く理解出来ませんが」
「あはは、まあいいじゃない。銀埜たちにはムリでも、きっとツムギさんなら分かってくれるわ!ねえ?」
私は銀埜から二つのぬいぐるみを受け取り、ぎゅっと抱き締めながらツムギにいった。
ツムギは暫し目を瞬いていたが、やがて、おずおずと頷く。
「はあ…か、可愛いとは思いますけど」
「でしょう?ほらやっぱり、分かる人には分かるのよ」
うんうん、と私は頷き、淹れたばかりの紅茶を退かし、カウンターの上に二つのぬいぐるみを並べておいた。
そして、どう?とツムギに向かって言う。
「どっちがいいかしら?月弥くんにはどっちも似合うと思うけど。
みてみて、これリュックになってるのよ」
私はそう言って、うさぎのほうのぬいぐるみを反対にし、それの背中を見せた。
うさぎの背中には、茶色いベルトが二本平行につけられており、それを肩にかけると背中に背負えるようになっている。
ぬいぐるみ自体は40センチほどの体長だろうか。ちょうど小学生が背中に背負うと、見た目も可愛いだろう。
ぬいぐるみの布地は綿、顔の造りは同じで、黒いボタンが目の代わりになっている。
そしてその口はパペット人形のように大きい。
「カエルのほうも同じデザインでね。どっちがいい?私はカエルもなかなか…何よ、銀埜」
私は半分興奮しつつ、ツムギにぬいぐるみリュックの説明をしていた。
その私を、傍らに立っていた銀埜が、つんつんと突付く。
「…リュックの説明はともかく。あれらにかけた魔法、覚えてらっしゃいますか?」
銀埜は、ツムギに聞こえないほどの大きさで私に囁いた。
私は眉を潜め、
「…そんなのかけたっけ?存在すら覚えてないのに、そんなの覚えてるわけないじゃない」
「それはそうですが。…かけたのですよ、貴女は」
そう言って銀埜は、私の耳元でこそこそと囁いた。
私は銀埜の言葉を聞いて、さぁっと顔を青ざめる。
ま、まさか…そんなのかけてたなんて!
「つ、ツムギさん!」
私は慌ててツムギのほうを向いた。
ツムギは、置いていたうさぎのぬいぐるみリュックを持ち上げ、その口元を覗いていた。
…私が恐れていたとおりに。
「ちょ、ちょっとまって!」
私はそう叫ぶのと同時に、うさぎのパペット人形のような口が、がばちょと大きく開かれた。
そして止める間も無く、ツムギの姿が吸い込まれるように消えた。
まるで煙を吸い込むように、うさぎの口の中へ。
「………………!!!」
私は無言で叫びながら、店の床にぽとんと落ちたうさぎに駆け寄る。
そしてうさぎを拾い上げ、青ざめながら銀埜に言った。
「……もう少し早く言ってよ!!!」
「御風音ツムギ!」
私がうさぎに向かってそう叫ぶと、うさぎの口から、
うにょん、と文字通り吐き出されるようにして、ツムギが出てきた。
呆然と床に膝ついているツムギに駆け寄り、私は冷や汗を浮かべながら言った。
「ごめんなさい、大丈夫!?どこか変な空間にたどり着かなかった?
洗脳とかされてない?ごめんね、私自身この中がどうなってるか分からないのよ」
「確かその中は、永久に続く闇の世界でしたよ。なかなか恐ろしいものです」
銀埜はツムギの背中をさすりながらそういった。
私は、ん?と首を傾げる。
「…何で知ってるの?」
「一度中に入りましたから。…それも覚えてないんですね」
そう言って、銀埜はハァとため息をつく。
私は暫し無言で頭の中を探っていた。
…残念ながら記憶に無いけれど、きっとこれを作ったころの私は、
実験と称して銀埜たちを中に吸い込んだんだろうな。
そりゃ確かにため息もつきたくなるというものだ。
「え、ええーと…つ、ツムギさん。大丈夫?精神崩壊してない?」
私はそう言って、ツムギの目の前で手を振った。
暫し呆然としていたツムギは、ハッと我に返ったのか目の焦点が元に戻る。
「あ、あそこは一体?!何だかいきなり暗くて寒いところへ!」
「お可哀想に…もう大丈夫ですよ。
作った本人さえ忘れていた機能ですが、このぬいぐるみは見た目の容量を超えたものでも、
ゆうに収納できるのです。中の空間をすこしばかり弄っておりまして」
…何処と無く銀埜の言葉に釘があるような気がするけども、それは私の気のせいなのかしら?
私のじろりと睨んでいる視線に気がつかない振りをしながら、銀埜はぬいぐるみの解説を始めた。
「本人は忘れているようなので私が説明しますと」
…だからそれはもういいのよ!全く、根にもつんだから。
「このぬいぐるみの前に収納したいものを差し出すと、飲み込む形で中の空間に収納されます。
重さにすると、大体1トンほどは大丈夫ではないかと。
勿論中の空間に入れたものの重さは感じません。
出すときは、出したいものを指名すると、うさぎが吐き出してくれます。
間違って人を入れたりしなければ、なかなか便利なものですよ」
…いちいち癇に障る言い方するのよね、今日の銀埜ってば。
そんなに、このうさぎの中の空間で、嫌な目にあったのかしら?
……そういえば、銀埜を試しに入れてみたとき…便利だからって、生ゴミとかも一緒に入れてたような気もするけど。
きっと気のせいよね?うん、気のせいに違いないわ。
「へえ…確かに便利ですよね。さっきの俺のように、中に入ってしまわなければ」
「ええ、中に入らなければ非常に便利ですよ」
うっ…青年二人の言葉が、妙に胸に刺さるわ。
「ええと、もう一つのカエルのほうも、同じように収納できるんでしょうか?」
ツムギは、何の気なしに銀埜に尋ねた。
銀埜は素知らぬ顔で、
「カエル?何のことやら。うちにはうさぎのぬいぐるみリュックしかありませんよ」
「え?でもさっきあったじゃないですか。カエル…」
「御座いません。記憶違いでは御座いませんか?
それとも、あの漆黒の空間で少々嫌な目にでもあわれたのではないでしょうか」
「そんなはずは…そ、そうですか。じゃあうさぎだけなんですね」
「ええ、うさぎだけですとも」
銀埜はそう言って、にっこりと微笑んで見せた。
私はカウンターの上を覗いて、先程まであったカエルのぬいぐるみリュックが消えていることに気がつく。
…銀埜、いつの間に…。
「まあでも、うさぎも本当に可愛いですし…それに便利だし。
これだと、遠くにお出かけするときも、お菓子やら飲み物やらをたくさん持っていけますね」
「ええ、そういうように使うのが、一番良い使い方だと思います。
…時には、中に生ゴミを収納しようという不届き者もいますがね」
「そんな人もいるんですか?こんなかわいいぬいぐるみなのに、勿体無いですよ」
「そうですよね。私もそう思います。ねえ、ルーリィ」
うっ。お願いだから、そんな目で見ないで、銀埜。
「だ、だって。ほら夏場はすぐ生ゴミが異臭を放つし、その中だと臭くないし!
いいアイディアだと思わない?」
「思いません」
そうきっぱりと返してくる銀埜。
…これは相当根に持ってるわね。
「は、はは…まあ、そういう使い方もあるとは思いますが。
…うん、でもこれだといつも身に着けてもらえそうだし。
それに最近月弥くんにお友達もたくさん出来て、お出かけする機会が増えたそうなので、
これだと安心ですね」
ツムギはそう言って、ぬいぐるみの頭をなでて、満足そうに微笑んだ。
「ええ、私もそう思うわ。親心ってやつよね」
「…まあ、そんなところでしょうか」
ツムギはそう言って、半分苦笑したように笑った。
「ありがとうございました、良いクリスマスを!」
カラン、カラン…。
ドアが閉まるのを見送って、私は顔を動かさずに笑顔のまま銀埜に言った。
「…あのカエル、どんな魔法?」
銀埜も微動だにせず、笑顔のまま答える。
「……自動で蝿を取ります」
私と銀埜は、二人揃って固まったまま、絶句した。
クリスマスの贈り物に、自動蝿取り機なんて…あんまりだわ。
★
そしてー…それから数日後。
「な・ん・で!あたしがこんなことしなきゃいけないのよ!?」
「まあまあ。だってサンタにトナカイはつきものじゃない?」
「あんたがトナカイになればいいでしょう!この寒空の下に…しかも折角のクリスマスだって言うのに。
ふッざけんじゃないわよ」
私の傍らに立って、ブルル、と鼻息荒く地面の土を前足で蹴っている一匹のトナカイ。
その瞳は赤みがかかった金色だが、今は怒りに燃えている。
私はトナカイの首をぽんぽんと叩き、宥めるようにいった。
「私は変化術うまく使えないし、仕方ないじゃない。ね?3級魔女のエリートさん」
「…あんたもちょっとは、他の術の練習しなさいよね。だから全然うまくならないのよ」
「はいはい、わかりました。とりあえず今だけは辛抱しててね?」
私はトナカイー…に変化した、幼馴染のリースの首から手を離し、
被っているファーつきの赤い帽子を被りなおした。
そして自分の格好を見下ろす。
帽子と同じ白いファーつきのケープと、その下の、膝丈ほどのワンピース。
そして、ふくらはぎを覆うブーツ。
帽子からブーツまで、赤ずくめの格好。
ケープから出た腕に、寒風が当たって少々寒いが、これも我慢だ。
私はパンパン、とワンピースを手ではたきながらリースに言う。
「どう?中々似合ってるでしょ。一度やってみたかったのよね、サンタの格好」
「ふん、馬子にも衣装ってやつよね。言っておくけど、あたしのほうがずっと似合うんだから!」
「はいはい、リースもトナカイ似合ってるわよ」
私はくすくすと笑ってそう言った。
そしてリースがまた憤慨して、足元の地面を掘らないうちに、と手にしていた紙袋を抱えた。
本当は白い大きな布袋にでも入れたかったけども、仕方が無い。
何せプレゼントは二つだけだし、そのうちの一つは割れ物だ。
「じゃあいくわよ。リース、変なこと喋らないでね」
ブルル、と鳴くリースを無視し、私は目の前の呼び鈴を鳴らした。
住所は既に確認済み。さぁて、どちらが出てくるかしら?
私がわくわくしていると、目の前のドアのノブがひねられ、扉が開かれた。
そして見知った顔が覗く。
「いらっしゃい。どなたですか?…ってルーリィさん?」
「メリークリスマス!サンタがお届けにきたわよ」
私はそう言って、目の前の青年に笑いかけた。
青年ー…ツムギが扉に手をかけたまま、眼を丸くしていると、彼の後ろのほうからパタパタとスリッパの鳴る音が聞こえた。
そして、可愛らしい声がツムギの背中から届く。
「せんせー、だぁれ?」
「月弥くん。ほら、サンタさんが来てくれたよ」
ようやく事態に慣れたのか、ツムギは身体をずらして、後ろにいる少年に笑いかけた。
少年ー…今度は10歳程度の容姿をしている月弥は、私の格好を見て、わぁと声を上げた。
「サンタさんだ!うわぁ、ルーリィさん?」
「ええそうよ、どうかしら?」
私はにっこり笑って、一回転してみる。
月弥はうんうんと頷いて、
「すごい似合ってるよ!ねえ、先生」
「そうだね、とても可愛らしいですよー…そちらのトナカイさんも」
微笑まれて驚いたのか、私の斜め後ろにいたリースが、ブルルと鳴いた。
そのトナカイのリースに驚いて、月弥が眼を丸くしている。
私はその様子を見て、くすくすと笑いながら、手にしていた紙袋をごそごそと漁った。
そしてまずはツムギに、綺麗に包装した中ぐらいの箱を差し出した。
ツムギが眼を大きくしてそれを受け取っている間に、今度は月弥へ、大きめの包みを手渡す。
勿論、こちらも包装済みだ。
「お互いが、お互いのことを想って選んだ、最高のプレゼントよ。
中身は私が知ってるけども、今は秘密にしておくわね。
開けてからのお楽しみってことで。それから、お二人で愛を確かめ合うのも私が去っていってからにして頂戴ね?
でないと羨ましがっちゃうから!」
残念なことに、サンタはシングルベルなの。
私はそう言って、ぱちりとウインクをした。
そして驚いている二人を見届け、バイバイ、と手を振った。
背後でドアが閉まるのを感じ、私はううん、と背伸びをした。
その傍らにいるリースが、私の顔を見上げて言う。
「あんた、パーティに混じりたいとか図々しいこといってなかったっけ?」
「あはは、はじめはそのつもりだったけど…確かに図々しかったわね。
やっと気がついたわ」
やれやれ、と肩をすくめる。サンタは所詮、お届け役ってことよね。
その私に、リースは呆れ声で言う。
「何を馬鹿なこと考えてるんだか。あんたにはちゃんと、一緒に過ごす家族がいるでしょ?」
―…血は繋がってないし、人間じゃないかもしれないけどさ。
私はそう言うリースの言葉を聞いて、少し眼を丸くした。
「…リース、時々は良いことも言うのね」
「どういう意味よ、それ」
クリスマスは好き。
暖かい気持ちを持っている人の顔を好きだから。
街中に溢れてる、無尽蔵な幸せを感じるのが好きだから。
そして、大切な人がすぐ傍にいる幸せを、改めて感じることが出来るから。
End.
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2287 / 御風音・ツムギ / 男性 / 27歳 / 医師】
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■ ライター通信 ■
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ツムギさん、こんにちは。ライターの瀬戸太一です。
二度目のお目見え、大変嬉しく思いつつ書かせて頂きました。
クリスマスノベルにもかかわらず、少々時期外れとなってしまい、申しわけありません;
そして、ノベルの展開的に大分コメディ調となってしまいました。
少しでも楽しんで頂けると幸いです。
今回は月弥さんと同時のご発注ということで、
ラストの部分だけリンクさせて頂きました。
一応リンク作品ということで、タイトルは同じになっております。
月弥さんバージョンのほうも読んで下されば嬉しいです^^
そして今回、私の書くノベルでははじめての試みですが、
アイテムシステムのほうを利用させて頂きました。
プレゼント交換ということなので、月弥さんノベルで登場したアイテムを、
納品時に一緒にお渡しさせて頂きました。
末永く使って頂けると幸いです。
それでは、良いお年を。
来年もよろしくお願いします。
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