コミュニティトップへ



■シンデレラは誰だ!?■

ひろち
【4004】【透・蓮姫】【刀幻舞姫(とうげんまいひめ)】
「・・・居ない」
 いつでも本を読むことに没頭している栞が、珍しく口を開いた。夢々はコーヒーを淹れていた手を止める。
「居ないって、何が?」
「シンデレラですよ。シンデレラ。本の中から消えちゃってるんです」
「はあ?」
 意味がわからない。
「・・・栞さん。また俺をからかってるわけ?」
「違いますよー。確かに夢々くんいじめるのは楽し・・・じゃなくて、これ見てみてください」
 栞が本を差し出してきたので、夢々は顔をしかめつつもそれを受け取り、中身を読んでみた。

+++ +++ +++ +++ +++
『シンデレラ!シンデレラはどこ!?』
『お母様。あの子、どこにも居ないわ。とうとう逃げたのよ』
『シンデレラ!シンデレラ!!』
『どーこー行ったのよー。出てきなさーい!』
+++ +++ +++ +++ +++

「・・・何これ。もはやシンデレラじゃないっていうか・・・継母達がシンデレラ捜索し続けてるだけじゃん」
 数ページ後には白紙になっていた。しばらく眺めているとまた新たな文字が書き加えられる。やはり内容はシンデレラ捜索。
「シンデレラが居なければ物語は進行しませんよ。当たり前のことでしょう?」
「そうだけどさ。何でこんなことになってんの?」
「多分、本を抜け出してどこかに出かけたんじゃないですか。シンデレラもたまには息抜きしたかったんでしょう。そのうち帰ってきますよ」
「そういうもんなの?」
「そういうものです」
 栞がそう言うのならそうなのだろう。何せここは「めるへん堂」だ。夢々自身も元々は本の中の人間である。ここでは本は「生きた存在」なのだ。
「・・・あ。ちょ・・・っ栞さん!!」
「どうしました?」
「何かこの本、凄いことになってきてるんだけど・・・」
 きちんと文章を形成していた文字が、乱れてきている。接続語の欠落、綴られる脈絡のない言葉、前後で繋がりのない文章。最後には文字ですらなくなっていた。
「うあー。全っ然、読めねーっ」
「主人公を失ったことで混乱しているようですね」
「どーすんだよっ」
「どうすると言われても・・・」

 ギィ・・・

 最近建付けが悪くなってきたドアが開く音がした。 
 客だ。
「丁度いいですね」
「何が」
 栞は「ふふふ」といたずらっぽく笑う。何か思いついたのだろう。
 嫌な予感。
「な・・・なぁ、栞さん・・・?まさか客をシンデレラに仕立て上げちゃおーとか思ってないよな・・・?」
「え?だってそれしかないですよね」
「えええええっ!?」
シンデレラは誰だ!?

「だいたい事情は飲み込めましたわ」
 蓮姫は優雅な動きでティーカップをソーサーに戻した。少し首を傾げ「でも、その前に」と言葉を続ける。
「わたくしの弟を見ませんでした?」
「・・・ですって、誰か見ました?」
 栞の視線に考え込む夢々と鈴音。本の整理をしていた氷月が作業を続けたまま淡々とした口調で答えた。
「ここ3ヶ月で訪れたお客様は全部で12名。その内11名女性。1名は30歳近い男性だったと記憶しています」
「そうですか」
 蓮姫はさして落胆した素振りは見せず、頷く。答えを予想していたのだろう。
「では、透蓮姫さん。案内役は誰にしますか?」
「そうですねぇ・・・・・・」


【探し人は誰ですか?〜透・蓮姫〜】


「シンデレラっ!」
 甲高い声に蓮姫は雑巾を絞る手を止め、立ち上がった。
「お継母様。ちょうど良かったですわ。今、探しに行こうと思っていたんです」
「探しに?」
「ええ。床の雑巾がけも煙突掃除も食器洗いも夕食の下ごしらえも庭の手入れも窓拭きも洗濯も終わってしまったのですが、あとは何をすれば良いのでしょう?」
「・・・」
「遠慮なく言ってください。何でもしますわ」
 にっこり微笑む蓮姫。たたんで置いてあった洗濯物を引っ掴み乱暴に蓮姫に投げつけると、継母は靴音を響かせて部屋を出ていってしまった。
「・・・何がそんなに気に入らなかったのでしょう?」
「そりゃ怒るわよね」
「蓮姫さん、これはシンデレラですよ」
 何時の間にか部屋に入ってきていた鈴音と栞が口々に言う。
 蓮姫は「ああ、なるほど」と手を叩くと、その場にわざとらしく崩れ落ちた。指先で涙を拭うフリなどしつつ、妙に芝居がかった言葉を紡ぐ。
「ああ、神様。どうしてわたくしはこんなに不幸なのでしょう。掃除も洗濯ももう沢山ですわ。お継母はどうしてわたくしをいじめるのでしょうか。辛くて辛くて死んでしまいそう・・・」
「そこまでなりきらなくてもいいと思うけど」
「だってなりきった方が楽しいでしょう?」
 蓮姫は立ち上がると呆れ顔の鈴音に抱きついた。
「鈴音様もその魔女っ子服、とーっても可愛らしいですわ」
「これは店長の趣味で・・・・・・。・・・って、苦しいってば、蓮姫さんっ」
「あら、ごめんなさい」
 くすくす笑いながら体を離す。
 弟のことを思い出すからだろうか。自分より年下の子を見ると可愛くて仕方が無い。
 つい構ってやりたくなるのだ。

 城へと続く道。かぼちゃの馬車に揺られながら、蓮姫は栞にこんな質問をしていた。
「栞様はめるへん堂の店長様でしたわよね?どうしてお店を?」
「それはもちろん本が好きだからですよ。こんな能力も持ってますし」
「楽しいですか?」
「楽しいですよ。・・・まぁ、色々と」
 「色々」という言葉に何か含むものを感じたが、鈴音は敢えて突っ込まないことにする。夢々が健気にせっせと働く姿を楽しそうに眺めているような人間だ。
 内容を尋ねるのは怖すぎた。
「鈴音様は?」
「え?」
 突然話を振られ、鈴音は顔を上げた。赤い瞳が真っ直ぐこちらを見つめている。気を抜くと吸い込まれてしまいそうだった。
「鈴音様はどうしてめるへん堂に?」
「私は店長に無理矢理引っ張り出されて・・・。私、店長が書いた物語の登場人物なのよ」
「そうだったのですか。どんなお話ですの?」
 これには鈴音は答えない。代わりに栞が口を開いた。
「一人の女の子が突然居なくなってしまった姉を探すお話です。その女の子がこの鈴音で―――」
「まあ!」
 栞の説明を遮って、蓮姫が鈴音の手を取る。
「奇遇ですわね。わたくしも弟を探してますの。わたくし達似てますわね、鈴音様」
「え・・・?あ・・・ええ。そうかもね」
 勢いに押され、頷く鈴音。蓮姫は柔らかく微笑んだ。
「見つかるといいですわね、お姉様」
「・・・」
 見つかるか見つからないか。
 それを決めるのは栞だ。
 鈴音が外に出ているため、あの物語は未完である。
 栞の方を見ると、素知らぬ様子で外を眺めていた。
「何か・・・見つからないかも・・・・・・」
「何を言っているのですか」
 蓮姫は鈴音の手を自分の手で優しく包み込む。
「そんな弱気ではお姉様も悲しみますわ。大丈夫。きっと見つかりますわよ。ね?」
「・・・」
 目を瞬かせる鈴音。何故だかふいに懐かしさが込み上げて、胸が熱くなる。
 ――ああ、そうか
 蓮姫は姉に似ているのだ。
 優しくて温かい。
「えっと・・・その・・・。ありがと、蓮姫さん」
 小さな声で呟くと、蓮姫はもう一度優しく微笑んだ。

 軽やかに優雅にひらひらと舞う。
 城に集まった人間は踊りを止めて、蓮姫の姿に釘付けになっていた。
「綺麗・・・」
 鈴音もその中の一人。目はずっと蓮姫を追っている。
 ひらひら ひらひら
「何だか蓮姫さんって不思議な人よね」
「そうですか?」
「そうよ。すっごく人を惹きつける力があると思う。それに・・・」
 それに
「ねぇ、店長」
「何でしょう?」
「私のお姉ちゃんって見つかるの?」
 栞は少しだけ考えるような素振りをし、「さあ」と短く答えた。
「それはあなた次第じゃないですか」
「何それ。意味がわからないんだけど」
「それなら考えてください」
「店長の意地悪」
 頬を膨らませてみせる鈴音に、栞はおかしそうに肩を震わせて笑う。文句を言ってやろうと口を開いて―――
「シンデレラ!僕と結婚してくださいっ」
「え?」
 口は開いたまま、声がした方を見た。蓮姫が舞うのを止めていた。その正面に立つのは王子だ。
「ちょっとちょっと。王子が早まってるわよ、店長!」
 本来王子がシンデレラに結婚を申し込むのは舞踏会の後、ガラスの靴を彼女に届けてからである。
「展開が変わっちゃいましたねー。確かに蓮姫さんの人を惹きつける力は相当のもののようです。でもまあ、面白いからいいんじゃないですか」
「・・・言うと思ったわ・・・」
 あくまで状況を楽しもうとしている栞は放っておいて、鈴音はハラハラしながら蓮姫を見る。彼女は王子に向かってにっこり微笑んでいた。
「お断りしますわ」
「え?」
「わたくし、弟を探すのに忙しいんですの」
「弟・・・?」
「そういうわけですので、さようなら」
 優雅に一礼をし、ぽかんとする王子に背中を向ける。歩き出す彼女の後を鈴音と栞も追った。
「蓮姫さんっ。今の断り方はちょっと冷たいんじゃないの?」
「え?でも彼は本気ではなかったのでしょう?」
「かなり本気な目してたわよ、あれ」
「そうでしたか・・・?」
 鈴音は溜息をつく。どうも彼女には少々抜けている所があるようだ。
「本気だったとしても、それは一時の気の迷いですわ。だって彼には探している人がちゃんといるはずです」
「それって・・・」
「そうですわよね?」
 最後の言葉は鈴音に向けられたものではない。蓮姫の視線を追うと、ボロ服を身にまとった金髪の少女が居た。
 少女は蓮姫に向けて軽くお辞儀をし、横を通り過ぎる。
「戻ってきた・・・?」
「・・・そのようですね。どこに行ってたのか知りませんが、王子を蓮姫さんに取られてしまうと思ったんでしょう」
「なーんか、嫌な予感・・・」
 確かこの本の本来の主人公・シンデレラは、かなり気が強かったような・・・・・・
「ちょっとー!王子様!!あたしというものがありながら、何やってんのよーーーー!」
 王子が何か取り繕っているようだったが、シンデレラの怒鳴り声は途切れなかった。
 蓮姫は満足そうに頷く。
「めでたしめでたし、ですわ」
「なのかなぁ・・・?」



 めるへん堂に戻ってきた鈴音は蓮姫に尋ねた。
「蓮姫さんは、また弟さんを探すの?」
「ええ。もちろん」
 笑顔で答える蓮姫。鈴音は彼女を真っ直ぐ見上げ、言う。
「見つかるといいわね」
「ええ。見つけてみせますわ」
 蓮姫は店員それぞれに礼をすると、「では」と玄関へ足を向けた。鈴音はその背中に声をかける。
「あのっ、蓮姫さん!」
「何でしょう?」
 振り向いた蓮姫に鈴音は、手の平をぎゅっと握り締めた。
 今、言わなくては。
 もう二度と会えないかもしれないのだから。
「あのね・・・。蓮姫さんって私のお姉ちゃんに似てるわ」
「あら」
 蓮姫は少し小首を傾げ、
「随分と可愛らしい妹ができてしまいましたわね」
 嬉しそうに。
 本当に嬉しそうに笑った。
 笑ってくれた。
「・・・ねぇ、店長」
 閉まったばかりのドアを見つめながら、鈴音は呟く。
「私、お姉ちゃんに凄く会いたいわ」

 
 
 探している人がいる

 とてもとても大切な人

 会いたくて会いたくて会いたくて



 今日も私はあなたを探します


fin


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

PC

【4004/透・蓮姫(とう・れんき)/女性/28/刀幻舞姫】

NPC

【本間・栞(ほんま・しおり)/女性/18/めるへん堂店長】
【鈴音(すずね)/女性/10/めるへん堂店員】

【夢々(ゆゆ)/男性/14/めるへん堂店員】
【氷月(ひづき/男性/20/めるへん堂店員】

【シンデレラ/女性/16/シンデレラの登場人物】
【王子(おうじ)/男性/18/シンデレラの登場人物】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

初めまして、こんにちは。ライターのひろちという者です。
今回はありがとうございました!
まだ数える程度しか仕事をこなしていないので、頂くお仕事の一つ一つが宝物です。

蓮姫さんはとても魅力のある女性で・・・
書いているうちにどんどん私の手の届かない所に行ってしまうような感じでした。
でも今回、蓮姫さんの魅力に一番やられてしまったのは私でも王子でもなく、鈴音だったようです。
普段は妙に大人な態度をとる彼女ですが、蓮姫さんの前では本来の子供らしさが出ていたように思えます。
なので、ほとんどを鈴音視点で書かせて頂きました。
いかがでしたでしょうか?
少しでも心に響いたなら幸いです。

弟さん、見つかると良いですね。

本当にありがとうございました!
またご縁がありましたら、その時はよろしくお願いしますね。