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■■Assassination Play■■

東圭真喜愛
【4012】【坂原・和真】【フリーター兼鍵請負人】
■Assassination Play■

「ねえ、おじさん」
 夜、コンビニから夜食を買った帰り道、声をかけられて草間・武彦は思わず立ち止まった。
 相手は店の陰に丁度隠れていて顔は見えないが、まだ開いている店の明かりから、服はパーカーだと分かった。
(この寒いのにパーカー)
 と思いながら、
「なんだ?」
 と返事をする。
「面白い遊びがあるんだ。『勇者』も『魔術師』も『剣士』も『読心術者』もいる……来ない?」
 声からして、まだ10代か20代の前半といったところだろう。武彦は思わず呆気に取られ、
「興味ないね」
 と片手を振って去った。
「残念……スカウト失敗。次、いこ……」
 男の声が、遠ざかっていく。

 興信所に帰ると、零が血相を変えて飛びついてきた。
 なんでも、零の知り合いの女の子が、「A.P.」と名乗る集団に殺されたと、たった今両親から電話が入ったというのだ。
「A.P.? なんだ、それは」
 武彦は夜食をテーブルの上に置き、泣きじゃくる零の背中を撫でながらネット検索してみる。
 検索数は思ったほどヒットした。今話題急上昇中のサイトのことらしい。
 アクセスしてみると、武彦は背筋が寒くなるのを感じた。
 そこには、「Assassination Play」と書かれており、その「遊び」の概要も書かれている。
『勇者』と『魔術師』、『剣士』に『読心術者』をバックに、このサイトでは、所謂「なりきりチャット」というものをしているのだ。自分自身であるキャラを作り、ダイスを振り、幾度か繰り返し───勝てば望む「憎み恨む人間」に制裁を「バックの4人」に頼むことが出来る。負ければ、自分自身が「暗殺される」。
 このサイトは誰もを歓迎しているわけではなく、街中で突然スカウトされるのだ、という。滅多に大人はおらず、参加メンバーやスカウトされる者は「10代〜20代前半」の若者が多いらしい。
「零の友達は、これに『負けて』───殺されたってわけか」
「制裁」又は「敗者」の死体の傍には必ず、トランプ大のダイス模様の黒い紙に、「A.P.」と赤文字で書かれているのだという。
(さっき俺に声かけてきた奴……あれが、そうか)
 泣いている零を見ると、無性に腹が立ってくる。「Assassination Play───暗殺ごっこ、暗殺遊び」。ふざけている。
 武彦は夜食を食べるのも忘れ、まずはバックを引き出すべく、協力者達を募ることにした。
■Assassination Play■

「ねえ、おじさん」
 夜、コンビニから夜食を買った帰り道、声をかけられて草間・武彦は思わず立ち止まった。
 相手は店の陰に丁度隠れていて顔は見えないが、まだ開いている店の明かりから、服はパーカーだと分かった。
(この寒いのにパーカー)
 と思いながら、
「なんだ?」
 と返事をする。
「面白い遊びがあるんだ。『勇者』も『魔術師』も『剣士』も『読心術者』もいる……来ない?」
 声からして、まだ10代か20代の前半といったところだろう。武彦は思わず呆気に取られ、
「興味ないね」
 と片手を振って去った。
「残念……スカウト失敗。次、いこ……」
 男の声が、遠ざかっていく。

 興信所に帰ると、零が血相を変えて飛びついてきた。
 なんでも、零の知り合いの女の子が、「A.P.」と名乗る集団に殺されたと、たった今両親から電話が入ったというのだ。
「A.P.? なんだ、それは」
 武彦は夜食をテーブルの上に置き、泣きじゃくる零の背中を撫でながらネット検索してみる。
 検索数は思ったほどヒットした。今話題急上昇中のサイトのことらしい。
 アクセスしてみると、武彦は背筋が寒くなるのを感じた。
 そこには、「Assassination Play」と書かれており、その「遊び」の概要も書かれている。
『勇者』と『魔術師』、『剣士』に『読心術者』をバックに、このサイトでは、所謂「なりきりチャット」というものをしているのだ。自分自身であるキャラを作り、ダイスを振り、幾度か繰り返し───勝てば望む「憎み恨む人間」に制裁を「バックの4人」に頼むことが出来る。負ければ、自分自身が「暗殺される」。
 このサイトは誰もを歓迎しているわけではなく、街中で突然スカウトされるのだ、という。滅多に大人はおらず、参加メンバーやスカウトされる者は「10代〜20代前半」の若者が多いらしい。
「零の友達は、これに『負けて』───殺されたってわけか」
「制裁」又は「敗者」の死体の傍には必ず、トランプ大のダイス模様の黒い紙に、「A.P.」と赤文字で書かれているのだという。
(さっき俺に声かけてきた奴……あれが、そうか)
 泣いている零を見ると、無性に腹が立ってくる。「Assassination Play───暗殺ごっこ、暗殺遊び」。ふざけている。
 武彦は夜食を食べるのも忘れ、まずはバックを引き出すべく、協力者達を募ることにした。



■Session 1■

 初っ端から、草間興信所は殺気立っていた。
 休日を使って朝イチで来た坂原・和真(さかはら・かずま)と武彦が、いきなり口論になったのである。
「明らかに危険だって分かってるんなら、そんな馬鹿な事は二度と言うな!」
「危険を承知で依頼を受けたんですよ、俺は。貴方とは元から仕事を請け負いする仲ですし、仕事があればやる、っていう俺の方式は変わっていませんけど、浅はかでもなく、ちゃんと考えて来たつもりです」
「お前なあ、分かってるのか。『負けたら』殺されるんだぞ!」
 武彦が和真のカジュアル服の胸元を掴み上げた時、ソファで珍しく静かにしていた羽角・悠宇(はすみ・ゆう)が立ち上がり、その武彦の腕を掴んだ。
「落ち着けって、草間さん。皆遊びで来てんじゃないのは皆分かってんだから。一言『お前が心配だ』って言えば済むことだろ?」
「……っ!」
 武彦は図星をさされ、いつになくカリカリした頭を冷やすべく、和真の胸倉を離し、自分でお茶を淹れ始めた。
「みんな、静かにして。零さん、さっき眠れたばかりなんだから」
 扉からそっと出てきて、悠宇と一緒にやってきた初瀬・日和(はつせ・ひより)が言う。
 零はあの日からなかなか眠れないらしく、今日も皆が来てようやく少しホッとしたといった風に寝たところなのである。
 だからこそ、武彦がカリカリするのも無理はないとも分かるのだが、ここで全員キレても問題は解決しない。
「和真さん、本当にスカウトされに行くんですか?」
 武彦の淹れた、どう見ても濃いお茶を和真の前に置きながら、日和。悠宇の前とその隣にも置いて、自分もソファに座った。
 武彦とは知り合いという和真は、服の胸元を正しながら、「そのつもりです」と変わらず静かな口調で応える。
「お二人は?」
 聞かれて、まず悠宇が応える。
「草間さん以外にもスカウトされて断った人がいる筈だから、そいつを探して声をかけられた状況……時間、場所、一人の時か否か……とか、共通する情報がないか調べてみようと思います」
「『負けた』人からは糸の手繰りようがありませんが、『勝った』人も必ずいる筈ですから。可能なら……零さんのお友達のPCのログを見たいんです」
 続いて、日和。
 ログというのはいい考えかもしれない、と三人は暫く相談した。武彦に頼み込み、零のその「殺された」女友達の両親に電話をかけて交渉してもらい、三人はまず、その女の子が住んでいた家に行って調査が出来ることになった。
「気をつけていけよ!」
 相手が所構わずの「暗殺人」ならば、朝だろうが昼だろうが危険度は無関係と考えていいだろう。武彦のその言葉を背に受け止めた三人は、改めてこの事件の重さを感じた。




「履歴でも随分このサイト頻繁に使ってますね」
 椅子に座った日和が、女の子───名前は、結崎・美紀(ゆうざき・みき)といった───が生前使用していたパソコンの画面を神妙な面持ちで見ている。悠宇は左隣から覗き込み、和真は椅子の真後ろに立って見ていた。
 ネットというのも不思議なもので、「現実世界」とはまた別の雰囲気を持っている。ネットをたくさん使用している人間や、敏感な人間は、「自分に危険・近寄りたくない」と感じることもネットを通して本当にある。三人は今、それを正に三様に感じ取っていた。
「サーバーの運営先やサイトの管理者は?」
 悠宇の問いに、日和はマウスを動かす。
「美紀さんて」
 ふと、和真がパソコンの画面を見つめつつ、唇を開く。
「どうやってスカウトされたんでしょうね。ご両親は何かご存知ないでしょうか」
 気配を感じ取っていたのか偶然なのか、振り向いた和真と紅茶を持ってきていた美紀の母親の視線がぶつかる。
「どうやって、かは分かりませんが……」
 三人に紅茶を渡し終えた母親は美紀のベッドに座りながら、やつれた表情で言った。
「一ヶ月程前、美紀は『新しいゲームに誘われた』って……はしゃいで学校から帰ってきたんです。でもそれから学校と食事以外は部屋に篭りっきりになって、段々疲れた顔になっていって……」
 泣きそうになった母親の肩を、日和が抱く。
「あの」
 今思いついたといった感じで、悠宇が尋ねる。
「失礼ですけど、美紀さんて苛められてたりしました? 学校で」
 すると母親は言いにくそうに、
「どちらかといえば……美紀は勝ち気で。小学校までは、苛めっ子のほうだったんですよ。それで先生に注意されていたりして」
 なるほど、と和真は思う。
 人に恨みや憎しみを抱きやすい者は、苛められっ子に多いものかもしれない。それと、コンプレックスを抱えた者。
 聞くと美紀は、前から新しもの好きで、流行にも敏感だったという。零の友達、というのも不思議なくらいだ。まああの零のことだから、どんな人間とも友達になれてしまうのだろうが───。
「それなら、草間さんがスカウトされたのも納得いくな。あの人もなんだかんだで新しもの好きじゃん?」
 悠宇が紅茶を飲みつつ、二人に同意を求める。
「新しもの好き、というか……どっちかと言えば、巻き込まれてる側のほうかもしれないけど、言い方や見方を変えればそうかも」
 と、日和。
 和真は逸早く紅茶を飲み終え、パソコンの画面を見ていたが、振り返らずに日和と悠宇に確認を取るように尋ねる。
「サーバーの運営先は『Requiem』……これも何か胡散臭いな。管理者も偽造してると思う。大体こういうサイトってそんなもんでしょう。草間さんが『スカウト』されたって場所は、バーでしたっけ?」
「はい。そう言ってましたよね」
「確か───ブルーメンソールって名前の、小さなバーの右の小道とか言ってたよな?」
 よし、と小さく和真が身体を起こす。
「とりあえず、そこに行って来ます」
「……本当に、気をつけてください。暗殺遊びなんて……確かに世の中には腹が立ったり煩わしい人もいる。でもいなくていい人はいないんです。勝った者にも後悔を残させるようなこんな不毛な行いは終わらせないと……」
 気丈な口調の日和の手が微かに震えていることに気がついた悠宇は、その手を自分の大きな手で優しく包み込んだ。今回悠宇は、何があっても彼女から離れないと固く決めていた。
「終わるさ」
「A.P.」に向けて挑戦的に呟いた悠宇の言葉を激励と受け取り、和真は一番早く行動を起こす為に、美紀の家を出て行った。



■Game−Kazuma VS Mental-readinger−■

 新しもの好きもスカウトの要素に入る、とは分かったものの。
 さてどうやってそれを「敵」に「自分、坂原・和真もそうである」と認識させるかを和真は考えながら歩いていた。
 コンビニで買ったもので軽く昼食を取り、改めて頭の中で「スカウトさせる要素」をまとめる。
 新しもの好き、何者かに恨みを持つ者、強い執着心を持つ者───。
(───不本意だけど、この線でいこうか……)
 バー『ブルーメンソール』はまだ開いていない。「幸い」そこは、昼間のこの時間帯は人通りが結構ある場所だった。徐に、コンビニで買っておいた果物ナイフを取り出し、鞘を取る。カッターにせずこちらにしたのは、人の目につきやすいからだ。思ったとおり、通りすがる何人かは気付いてギョッとしたように立ち止まった。
 見計らい、和真はナイフでザッと手首を切る真似をした。実際切ったのは服の部分だが、血が出るところでうまく死角にしたので誰も気付いてはいない。キャアッと何人かが悲鳴を上げる。もう一度と言わんばかりに和真がナイフをかざすと、
「おやめなさい、学校で何があったかしらないけれど!」
「苛めか何か知らないけど、死のうとする前に誰かに相談すればコワくないのよ!」
 野次馬達が増えてきた。
 和真は頃合だと見計らって、一度その場から逃げるように走り去った。
 一時間ほど、時間を置く。バー『ブルーメンソール』の向かいにある小さなデパートの屋上に上がり、フェンスを乗り越えようとする。後ろから、声をかけられた。
「手首の次は、飛び降り?」
 内心、やった、と静かな気持ちで思っていた。振り向かず、一瞬手を止めて、フェンスをまたぐ。
「苛められっ子に、制裁を加えたいと思わない?」
 ゆっくりと、今度は振り向く。パーカーを着た帽子の少年が、パーカーのポケットに手を突っ込んで立っていた。どこにでもいるような顔の少年だが、彼が「ここら辺の受け持ち」なのだろう。
「……制裁?」
 和真が尋ねると、少年はこくりと頷く。
「面白い遊びがあるんだ」
 彼がそこまで言った時、
「無駄だ。その者は既に我々の遊びを知っているようだよ」
 と、水を差すように第三者の声がした。パーカーの少年が、「リーディンガーさん!」と歓喜の声を出してキョロキョロする。
「───きみ……その者のスカウトはいい。どうも俺に用があるようなのでね……他の者のスカウトを頼むよ」
 再び声がする。風に乗って、どこから声を出しているかが分かりにくい。ともかくパーカーの少年は「はい」と元気よく言い、足早に去っていく。
「さて」
 と、給水塔の向こう側から、白いコートを着た男が現れた。年は20代前半くらいだろうか。驚くほど美しい顔の持ち主だが、これも驚くほど表情というものがない。フェンスから降りながら、和真は、「こいつは手強いな」と直感で思った。
「いつかはきみのように、我々4人との対決を望む者もいるだろうとは思っていたが……大変光栄だよ」
「それはどうも」
 コートの男の言葉を、軽く受け流す。
 男の口の端が上がり、「面白い……」と呟いた。
「偶然とはいえ、お望みの通り、俺が『読心術者』だ。身内では『古(いにしえ)のエニシ』と呼ばれている……遺言があるならいつでも聞いてあげよう」
「簡単に俺の心が分かるとも思えないが」
 和真が言うと、コートの男は僅かに目を細めた。
「面白い能力だな……」
 読んだのか、と思った瞬間、今のも読まれているのかと和真は内心「嫌な能力の相手だ」と思う。
 クックッと喉の奥で男は笑った。
「そうだな……自分でも嫌な能力だ。だが、きみが望んだんだ……満足してほしいね。『次にきみは俺に殴りかかって来ながら空いた手で携帯を取り出そうとする』」
 男の言葉の後半とほぼ同時に走り出していた和真は、ハッと足を止めた。左手は携帯を取り出そうとポケットに手を入れかけている。男は、ゆっくりと近付いて来た。
「悪いが……俺も喧嘩は強いほうなんだ、こう見えてもね」
(能力を封じてしまえばこっちのもんだ)
 男はその和真の算段も読み取ったかのように、微笑む。実に───やり難い相手だ。
「さて……『読心術者』は、こういうことも出来る」
 言うと男は、ポケットに入れていた両手を外に出し、何かあや取りでもするように左右に広げた。その間をパリッという音が空気を跳ね、光の有刺鉄線が現れた。パチパチと音を立てるそれに、和真の直感が赤信号を出していた。
 走り出す前に、見透かしたように靴先に有刺鉄線が刺さり、行方を塞いだ。───否、事実見透かして、そうしたのだろう。
「どうした……? 少年。俺の能力を封じるんだろう……?」
 ここまで心を読まれて、勝ち目があるのかは分からない。
 だが、和真はその男の微笑みに、一度ギリッと歯軋りし、飛び掛っていった。



 何分が経っただろう。
 和真は、いつの間にか自分が倒れていることに気がついた。人の気配が増えていることにも気がつき、首の向きを変えると、ぼんやりと、悠宇ともう一人、男の姿が見える。
「余所見をするということは……諦めたか……?」
 ハッと上を向く。パリパリとまた音を立てて、有刺鉄線が襲い掛かってくる。既に「これ」によって全身が痺れきってしまっているというのに。和真は人間として当然の本能で、目を閉じた。




■『勇者』、現る■

 和真が目を閉じ、悠宇が翼をしまい、日和が『魔術師』と共に浮上してきた───その時。
 パンパンパン、と拍手の音がどこからか、した。
 和真に襲いかかろうとしていた有刺鉄線が消え、『剣士』が瞳を開け、日和を振りほどいて『魔術師』が「何か」に縋るように手を伸ばす。
「楽しいショーを有り難うございます。私の仲間───『剣士』と『魔術師』を追い詰めるとは、まったく恐れ入りました」
 悠宇は、しっかりと日和を抱きしめていたが、声の主は見つからない。今の内に一呼吸でもと、ごろりと仰向けになった和真が、「彼」を発見した。
「……あそこ」
 喉までやられてしまい、うまく声が出なかったが、震える指で示したのが幸いして、悠宇と日和も見ることが出来た───空に浮いている、白いジャケットに紫色のズボンの男を。
 年の頃は20代前半といったところだろう、紫の長髪を後ろで一つにくくり、この世のものとも思えぬ美貌に笑みを浮かべ、恐ろしいほど冷たい視線で悠宇と日和、和真を順々に見下ろしている。
『勇者』だ、と三人同時に理解した───身体のどこかで、本能で……「叶わない」と悟りながら。
「あまり事を大きくしたくないので、ここは引き分けということで如何ですか?」
 言いながら『勇者』は両手を少しだけ上げる。すると、それが当然のことのように、『読心術者』と『剣士』、それに『魔術師』の身体がふわりと浮き、彼の傍に落ち着いた。
 日和が和真に駆け寄り、悠宇が『勇者』を睨みつける。
「お前─── 一体、」
「お察しの通り、私は『勇者』です。身内での呼ばれ方は特にないですが───そう、『総べる者』としておきましょうか。私は能力という能力はないのですが、強いて言えば、『対峙した者全ての能力を吸収すること』です。あなた達のリーダーさんを呼んでおきましたから、ここは一つ、引かせて頂けませんか?」
 ハッタリを言っている口調と視線ではない。引かせてもらいたいのは、こっちのほうだった。
 三人の顔色を見て、『勇者』は満足そうに頷き、
「ご了承頂けたようで、有り難うございます。こちらも『剣士』がしばらく使い物になりませんし、ゲームには報酬がつきものですからね。私達の総称をお教えして差し上げましょう」
 そして『勇者』は短く、言った。
「Assassination Phantom」───と。
 やがて『勇者』は空中にそのまま消え、殆ど同時に屋上に、息を切らせた武彦がやってきたのだった。




■「A.P.」についての報告書■

 その後、和真はすぐに武彦の旧知の病院に送られ、悠宇と日和もついていった。よく見ると日和も前髪が凍りかけていたし、両手は氷をずっと掴んでいたため、かじかんでしまっていた。何よりも手を大事に思っている日和には、ショックだったろう。怒りの遣りどころがないといった風の悠宇に、小さなノートパソコンを持ち込んで、三人其々から事の次第を詳しく聞いて報告書を作っていた武彦が、画面から目を離さずに言った。
「病室で破壊行為はなしな、羽角」
「分かってるよ」
 自然、応える声も尖ってしまう。そんな悠宇に、和真の様子を見ていた日和も声をかけた。
「大丈夫よ、悠宇。ちゃんと治療してもらったし、ちゃんと治るまでは手は使わないから」
 気を遣わなきゃいけない大事な相手から気を遣わせられては意味がない。悠宇は小さくため息をつくと、ベッドに横になっている和真の脇の丸椅子に座った。
「和真さんは、大丈夫ですか」
 しばらく今までのことを回想していた和真だが、悠宇に向かって小さく頷いておき、反対側の丸椅子に座ってキーボードをカタカタと打っていた武彦のほうを向いた。
「草間さん、俺、あいつら相手に勝ち目が全くないわけじゃないと思うんです」
 カタ、と音が止まり、武彦の視線が和真へ向けられる。
「弱みでも見つけたか?」
「いえ、弱みというんじゃないんですが。まず、『まともに相手』をしちゃ勝ち目はないと思います。能力じゃ、まず勝ち目はない……あの『勇者』がいる限り。あいつら、『まともな能力者』じゃありませんよ」
「私もそう思います」
「平気で人を害している所からももっと大きなバックの末端の様な気がしないでもなかったんだけど、俺は」
 日和も頷き、悠宇も呟くように言い、改めて『剣士』とやりあった時のことを思い返してみる。
 和真は続けた。
「『勇者』が言っていた、『対峙した相手』というのが、実際向き合った『対峙』かそれとも自分達が敵とみなして『対峙』とするかによっても、かなり違うとは思いますが……後者だとすると、頭脳戦で周囲から固めて追い詰めていく方法なら、あるいは、と思うんです」
「なるほど」
 武彦は試しに「Assassination Phantom」と検索してみたが、こちらは思っているものは全くヒットしなかった。
「『A.P.』ってのは本当は『Assassination Phantom』のことだったんだな、サイトのことじゃなくて」
 悠宇が、「制裁」された人間や「負けた」人間の傍にいつも置かれるという「A.P.」の赤文字のトランプ大のカードを想像しながら、言う。
「そんなにたくさん能力を『持って』いるのなら、そのログだって消せるはずなのに───残しておいてくれるなんて、随分余裕を感じます」
 少し腹立たしくも哀しくも感じていた日和が、武彦に渡した、美紀の家でプリントアウトした「ログ」の紙を見やりながら、言う。日和は日和で、悠宇が滅多に他人に見せない能力を出させた「A.P.」に対して腹を立ててもいたし、何故か哀しくなってもいたのだ。悠宇はそれに気付いただろうか?
「事実余裕、なんでしょうね。彼らは」
 疲れたように、和真は目を閉じる。
 ともかくも全員無事だったことは救いだと、武彦は言う。零がやがて和真の見舞いに来て、全員の命が無事だったことに、改めて命の尊さを知ったと、また泣いていた。



 この後、暫く「Assassination Play」というサイトは放置状態となる。世間では、「皆飽きて廃れたんだろう」等と話題が飛び交っているが、草間興信所では。
 武彦の手によって作られた「A.P.」───「Assassination Phantom」についての報告書が、重要書類として保管されたのだった。

 





《完》
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
4012/坂原・和真 (さかはら・かずま)/男性/18歳/フリーター兼鍵請負人
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女性/16歳/高校生
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男性/16歳/高校生
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東瑠真黒逢(とうりゅう まくあ)改め東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。今まで約一年ほど、身体の不調や父の死去等で仕事を休ませて頂いていたのですが、これからは、身体と相談しながら、確実に、そしていいものを作っていくよう心がけていこうと思っています。覚えていて下さった方々からは、暖かいお迎えのお言葉、本当に嬉しく思いますv

さて今回ですが、ちょっとシリアスな話を、そして、ちょっとわたしのいつもの作品とは趣向が違うと思われた方もいらっしゃるかと思いますが、「暗殺」を目的とする集団の話を書いてみようと思い、皆さんにご協力して頂きました。最初から「これは一話では終わらないな」と思いつつOPを書いていたのですが、やはり終わりませんでした。とはいえ、皆様によって引き出された「Assassination Phantom」という4人組は、シリーズ化予定ということで、異界に書かせて頂きますので、お暇な方がいらっしゃいましたら、後日にでも異界を覗いてやってください。
ダイスですが、これは別に紙にあみだくじのように作っておいてありまして、1回だけ振った人用と2回振って来た人用とにも別れておりまして、皆さんの其々のダイス目も参考にさせて頂き、『読心術者』、『剣士』、『魔術師』の戦況&結果とさせて頂きました(他は秘密ですが、ここだけの話、『剣士』のモデルは口調もかなり違うのですが、性格や志の一部などは、今回はあまり書けませんでしたが実のところ某海賊漫画の剣士さんだったりします(笑))。
また、今回は御三方が其々に「違う相手」を選んでおられましたので、その部分だけ個別にしてあります。見ないと分からない部分もあるかと思いますので、他の方のその部分も是非、どうぞお暇なときにでも。

■坂原・和真様:初のご参加、有り難うございますv 今回一番、結果的にやられてしまった和真さんですが、上記しましたとおりダイス目と照らし合わせたものとなっておりますので、ご了承ください。とはいえ、和真さんという方は初めて扱わせて頂いたのですが、頭のいいお方だと判断しまして、最後、病室で武彦に「今後の対応の仕方」を助言する大役もさせて頂きましたが、如何でしたでしょうか。
■初瀬・日和様:いつもご参加、有り難うございますv こんな危険な依頼なのに日和さんが、どうしよう、といった感じだったのですが(笑)、日和さんは日和さんなりに、こういう行動や言動をするだろうなと判断しまして、戦闘はダイス目と照らし合わせましてあのような感じになりました。手を大事になさっているとのことで、両手だけが心配ですが、一週間後には完治しているはずですので、ご了承くださいませ。
■羽角・悠宇様:いつもご参加、有り難うございますv 今回「片時も傍を離れない」と固く決心されていたので、正直本当に申し訳ないですと心の中で謝りつつ、日和さんと離させて頂きました。なんとなく、初めて悠宇さんの能力を書いた気がするのですが、これがなければちょっと危険なダイス目でした。全部今回で「解決」出来ていたら、『剣士』さんと実はいいお友達になれる、かな……?とも思っていたのですが、そこが書けなくてそれが少し残念なところではあります。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は今までとは「裏の面」からそれを入れ込むことが出来て、本当にライター冥利に尽きます。本当にありがとうございます。とはいえ、これで「A.P.」の「活動」が終わったわけではありません。またネタが上がりましたら、ご参加なさらなくても、出来上がっていく(であろう)これからのノベルを拝見して頂けたら、と思います。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2004/12/14 Makito Touko