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■CHANGE MYSELF!〜アカデミーなお正月〜■

市川智彦
【2196】【エターナル・レディ】【TI社プロモーションガール】


 能力者様 各位

 年もいよいよ押し詰まってまいりました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。
 さて年末年始でご多忙な皆様のために、我々アカデミーはささやかな迎春の宴をご用意させて頂きます。アカデミーの所定の日時に都合のつく方はご友人やご家族の皆様をお誘いの上、下記の場所までお越し下さいませ。なお会場までの移動費のみ、各自の御負担とさせて頂きますのであらかじめご了承下さい。教師一同、皆様のお越しを心からお待ちしております。


 あの能力者至上主義のアカデミーからこんな手紙が関東各地に届いていた。開催場所は東京の山奥になっている。日時も正確に書いてあるところを見ると、どうやら本気で開催するらしい。いったい何をするのやら……この先、能力者たちにものすごく怪しいダイレクトメールはどう扱われるのだろうか?


CHANGE MYSELF!〜アカデミーなお正月〜


 能力者様 各位

 今年も残すところわずかでございます。皆様、いかがお過ごしでしょうか。
 さて年末ご多忙な皆様のために、我々アカデミーはささやかな迎春の宴をご用意させて頂きました。アカデミーの所定の日時に都合のつく方はご友人やご家族の皆様をお誘いの上、下記の場所までお越し下さいませ。なお会場までの移動費のみ、各自のご負担とさせて頂きますのであらかじめご了承下さい。教師一同、皆様のお越しを心からお待ちしております。


 あの能力者至上主義の秘密組織『アカデミー』からこんな手紙が関東各地に届いていた。開催場所は東京の山奥になっている。日時も正確に書いてあるところを見ると、どうやら本気で開催するらしい。いったい何をするのやら……このものすごく怪しいダイレクトメールは能力者たちにどう扱われるのだろうか。捨てられるのか、はたまた……?


 そんな怪しげなダイレクトメールとは裏腹に、宴の席はとても賑やかだった。新春を祝う舞台は明治時代の名家が別荘として使っていたとされる大きな館である。建物の壁などをじっくり見ても、今にも朽ち果てそうなイメージは一切ない。きっと能力か何かで新築同然に変えてしまったのだろう。館の中では客に混ざってメイドたちがそれぞれの雑務をこなしていた。アカデミーのお正月行事はつつがなく行われている。
 館の入口に艶やかでありながらも落ちついた感のある振袖の女性がやってきた。彼女はこの宴が思いの他盛況であるのを見てまずは安心する。

 「アカデミーは……わたくしが想像する以上に大きな組織なのでしょうかね。」

 口に手を当てながら、ふとした疑問を声にするのは天薙 撫子である。今までアカデミーの教師たちと激しい戦いを繰り広げた彼女の元にも、なぜかあのダイレクトメールは届いていた。普通なら自分は宴に呼ばれるような立場の人間ではない。一度は参加することをためらったが、せっかくの誘いを無下にするのもどうかと思い、一時休戦ということでここにやってきた。今日は愛用の御神刀は携えず、代わりに小さな袋を持っている。そしていそいそと館の入口へと進む。すると入口には受付係としてなのか、いつものように姿勢を正して客を待つ風宮 紫苑の姿があった。彼はいつものようにタキシードを着ている。彼女はさっそく紫苑に声をかけた。

 「おや……天薙さまではありませんか。お待ちしておりました。」
 「明けましておめでとうございます。この度はご招待に預かり、誠にありがとうございます。今回はお言葉に甘えさせて頂きましたわ。」
 「それは結構なことです。どうぞごゆっくりしていって下さい。中にはアカデミーの人間の他にもその家族やお子様もおりますので、何かありましたらリィールの部下であるメイドたちにお申し付け下さいませ。」
 「わかりましたわ。それでは、また後ほど……」

 このふたりのやり取りだけ聞いていると、まるで敵味方という関係を感じさせない。その言葉の裏に変な嫌味や牽制があるわけでなく、ただ普通に会話しているだけだ。撫子はそそくさと中に進むと、なるほど確かに賑やかな声がする。入口からまっすぐ進むとすぐに中庭へ行けるのだが、そこは好天に恵まれたおかげもあってたくさんの家族連れが豪華な料理に舌鼓を打っていた。子どもたちの方はすっかり腹ごしらえが済んだのか、他の家の子を見つけてはわいわいとはしゃいでいる。やはり子どもたちの中にも未知なる能力を持っている者がいるのだろう。そう思うとここは実に不思議な空間である。
 撫子は中庭の奥に日本料理代表として豪華なおせちが置かれているのを見て、そちらに向かった。彼女の密かなお目当てがこれである。和の中で育った彼女には余所で出されるおせち料理は気になる一品のようだ。さっそく自分と同じ振袖姿のメイドに黒豆やかまぼこなどを取り分けてもらい、それを受け取ると美しい箸使いで一口食べる。しばらくは黙って口を動かしていたが、表情は真剣で視線は少し下がっていた。

 「あら……これはまた違った味付けですのね。特に黒豆はどう調理されてるのかしら。少し変わった風味が……」

 普通に食べているのかと思えば、どうやら彼女はおせちの研究をしながら食べていた。家の味付けと違うおせちを前に、今度は自分で積極的に取り分け始める。少しずつ食べては調理方法を推理し、また取っては食べを繰り返す彼女はもう食べることで夢中になっていた。

 「昆布巻きは中の具が違いますわ。それに……」

 この調子では彼女の箸はしばらく止まりそうにない。そんな彼女の後ろをオーダーメイドで作られたエナメル皮の着物でキメた女性が通りかかった。彼女はテクニカルインターフェース社のコマーシャルなどで有名なキャンペーンガールのエターナルレディである。今日は服装がまったく違うので一発で彼女を見抜く人間はなかなかいないが、逆にその衣装に対してのざわめきが通る先々で巻き起こった。そのたびに妻帯者の悲鳴が続けざまに上がるのだが。
 彼女の向かう先は自社がアカデミーに提供した世界のお酒を取り揃えたコーナーだ。そこで客の注文したお酒を注ぎ、せっせとテクニカルインターフェースの宣伝をしているとこういうわけだ。着物にもプラスチックのカップにもしっかり社名が入っているので、それを見落とす人間はまずいない。しかし客の中には『アカデミーの宴なのになんで他社の人間が……』と首を傾げるものもいた。
 そこへたまたま、教師のひとりであるメビウスがふらりとやってきた。今は取り巻きも誰もおらず、ひとり寂しくいるらしい。

 「あら〜〜〜、あなた教師のメビウスさんじゃない。あたし、あなたに会えて感激っ、うふっ♪」
 「まさか余所の業者がうちのパーティーに入ってくるとは思わなかったぜ……教頭も物好きだな。あ、ウォッカな。」
 「は〜い。あたし、その教頭さんにごあいさつしたいでぇ〜す。今日はいらっしゃってないんですかぁ?」
 「あの人ぁ、校長より気まぐれだからな。今日の責任者は紫苑だ。なんかあったらそっちに言いな。」
 「ざぁ〜んねん。はい、ウォッカで〜す。メビウスさんもテクニカルインターフェースをよろしくねぇ♪」
 「家電はたいてい買ってるよ。どこかと違って頑丈だからな。んぐんぐ。」

 メビウスはレディの思惑とはまったく違う返事をする。きっと彼はテクニカルインターフェースの表向きの仕事しか知らないのだろう。トレンチを片付ける振りをして後ろを向いたレディは露骨に不機嫌な顔をした。そしてウォッカを煽る彼を見て『本当に教師なのかしら』とまで疑う始末。服も普段着だし、他の教師から比べると威厳も感じられない……そんなことを思っていると、彼はさっさとその場を去った。
 すると入れ違いにふらふらと鼻の下を伸ばした男が近づいてきた。酒の匂いというよりかはレディの姿に誘われてやってきたようだ。彼女はオヤジが絡みに来たのかと思ったが、ずいぶんと若い男だったのでちょっと安心した。
 彼は教師の風宮 紫苑から直接の手紙を受け取ってここにやってきた風宮 駿である。彼の受け取った手紙は皆に配られた丁寧な文章が書かれたダイレクトメールではなく、紫苑直筆の手紙で「アカデミーの新年会があるというので来なさい」とまぁ、兄が弟に指示するかのような文面で送られてきた。こんな手紙が来る以上ただでは済まないと思って彼は常に『世界』のカードを右手に握ってきてみたが、本当にアカデミー主催のお正月パーティーで拍子抜けしてしまう。ほっと一安心の駿だったが、どこを探しても肝心の紫苑の姿がどこにもない。しばらく必死に探していたが、中庭に出ると豪華な食事が並んでいるのを見つけるとご機嫌になってしまった。そして目的をすっかり忘れてそれらを食い散らかし始めたというわけだ。その最中にたまたまレディの姿を見ていつものように一目惚れしたらしい。
 一方、レディは見た目通りのバカではない。相手がシステムカバラを所持する男であるということはすでにわかっていた。思わぬチャンスがやってきた内心喜び、日本酒の瓶と小さな枡を持ってさっそく駿にアプローチをかける。

 「あら〜、カッコいいお・に・い・さ・ん♪ 一献傾けるつもりはございませんの〜?」
 「えっ、ウソ。俺のこと言ってる? 嬉しいなぁ〜、こんな人が彼女だったら本当に幸せなのに〜。えへへ。」
 「あら、あたしは別に構いませ〜ん。なんでしたらぁ、この会場でそういうお付き合いしてもいいでぇす。」
 「うううう、ううううう、うっそぉ? 俺、まだ初夢でも見てるのかな? ってわりに痛てててて!」

 万年モテないはずの自分にオッケーする女性がついに現れた。頬を思いっきりツネるが痛みはまったく消えない。大喜びの駿。しかも相手はテレビに出てるような有名人だ。こりゃ春から縁起がいいやとばかりに、レディから差し出される日本酒の入った枡を丁寧に持ってそれを一気に空ける。もう誰がどう見ても上機嫌。レディは駿と近くのベンチに座って日本酒をどんどん注ぐ。いつもの彼は女性の積極的な行動に関しては免疫がないのだが、酒が入っているせいかどうも気が大きくなっているようだ。もちろんこんな楽しい場だから警戒する必要もない。どんどん酒を煽る駿。
 実はレディは自分の能力で日本酒に催眠の燐粉を混ぜ込み、このまま駿を眠らせてベルトごと奪ってしまおうと考えていたのだ。彼女は相手にどんどん酒を勧めてどんどん飲ませるが、なぜか駿は眠る気配を一向に見せない。元々酒に強いのか、それともレディの能力が効果を発揮していないのか……何度も瓶を傾けるレディは同じような感じで何度も首を傾げるのだった。

 『おっかしいわねぇ〜。さっきから眠るように細工してるのに全然そんな様子がないわ。酔ってるはずなのに……?』
 「ひぃっく! 美人を隣にして飲むお酒がうまいって……なんとなくわかる気がする。うひぃっ!」

 顔も真っ赤でろれつも回っていないところを見ると、完全に酔っ払っているのは確かだ。システムカバラは専用のカードを所持しない場合、催眠状態にでもしない限り本人から引っぺがすことはできない。それで彼女も必死になっているのだが、このまま浴びるように酒を飲ませてもどうにもならない気がしてきた。こうなれば実力行使。駿の腰のあたりに触れれば……そう思って手を後ろに回した時だった。

 「申し訳ありませんが、ここはお子様もいらっしゃる団欒の場です。そのような行為はやめていただけますでしょうか?」
 「はっ……ああ〜、だぁれかと思ったら紫苑さんじゃないの〜。今回はテクニカルインターフェースにご贔屓下さってありがとうございますぅ〜♪」
 「し、紫苑〜、って、風宮 紫苑か?!」

 兄と自称する男の名前を聞いて酔いが冷めた駿は急に立ち上がる。しかし紫苑はずっとレディとしか喋っていない。こんなにふたりが近いのにひとりぼっちの駿はひとりで身構えたまま、じっとその場で固まってしまっていた。

 「し……おん、さん?」
 「ここで前途ある青年をたぶらかすような真似をすれば……それこそ社に顔が立たなくなるのではありませんか?」
 「そうね〜、あたしが甘かったわ。じゃ、駿くん。さっきの話はなかったことにしてね♪ じゃあ〜ね〜♪」
 「あっ、あっ、ウソっ……!」

 今の今で順調だったはずが紫苑の登場でいきなりいつものように振られた駿。さすがにこれには耐えきれず、紫苑に湿った視線を向けた。彼は『紫苑のせいでこの恋がダメになった』と言いたいらしい。しかし紫苑は教訓じみたことを彼に話すとさっさとその場を去った。

 「敵は私だけではないということだよ。いつも視野を広く持って行動することを心がけるといい。」
 「なんで正月からあんたにお説教されないといけないんだ!」
 「……アカデミーに入れば恋人にも苦労せずに済むというのに。まったく。」
 「え、え、え、え? それどういう意味? ちょっと詳しく聞かせて下さい。意味深なのはわかるけど、言葉の意味がよくわからない。」

 耳寄りな情報を聞いてちょっと心が動いた駿はいつまでも紫苑の後ろをついて回った。しかし紫苑はそれに関して二度と口を開こうとはしない。彼の口から出るのは「アカデミーにいつ入るか」などの勧誘の話ばかりだ。いったいさっきの紫苑の言葉は何を意味するのだろうか。それは永遠の謎だった。


 撫子は近くで遊んでいる子どもたちとふれあったりして、しばし正月気分を楽しんでいた。すると子どもたちが豪華な羽子板を持ってくるではないか。どうやら羽根突きでもして遊ぼうというのだろう。しかし子どもは板をひとつしか持っていない。肝心の羽根ともう一枚が見当たらなかった。

 「あらあら……あなたの羽子板のお相手はどなたですの?」
 「あのおねーちゃんだよ!」

 子どもたちの指差す先には赤い髪を振り乱した女性が立っていた。なんと彼らは教師であるリィールを相手に羽子板をしようというのだ! しかも今日のリィールはお正月バージョン。赤を基調にした振袖をバッチリ着こなしてそこに立っていた。そして子どもたちと羽子板をするが……どうも着物に慣れていないらしく、どんなに勝負しても負け続けてしまう。おぼつかない足取りで羽根を追う姿を見て、思わず撫子が笑った。

 「あらあら、リィール様は羽子板よりも着物が苦手のご様子ですわね。」
 「……誰かと思えばお前か。案ずるな、これは子どもサービスだ。」

 そう言いながら負けに負けているリィールの顔は墨だらけだ。どうやら罰ゲームまでしっかりとやらされているらしい。子どもたちは顔に落書きをすると満足そうに「もう一回!」とリクエストする。いつもの白い肌が真っ黒になっているのを見て、撫子も一緒になって吹き出してしまった。

 「ふふふ。ではそのお顔は名誉の負傷、といったところでしょうか。」
 「別に子どもに恨みはない。だから負けてやっているだけだ。だが、大人とする場合は……」
 「遠慮はないということでしょうか。ならばわたくしが受けて立ちましょう。ごめんね、わたくしにも羽子板をさせて下さるかしら?」

 そう言って子どもから羽子板を借りると、ふたりは直線上に立った。いつまでも強がりを口にするリィールとそれを微笑ましく見ている撫子。今日は獲物ではなく羽子板を持って戦うことになった。まさかこんな日が来るとは、ふたりも思っていなかっただろう。
 まず先攻はリィールから。羽根を突く乾いた音が周囲に鳴り響く……しかし。

 「あっ、しまっ……!」

 リィールはあろうことか撫子の目の前に羽根を打ってしまった。一歩も動くことなく攻撃のチャンスを得た撫子はあえて羽根を軽く弾く程度に打つ。そう相手が動けないことはさっきの動作ですでにわかりきっていた。だから撫子は彼女が急いで前に出てくるように仕向けたのだ。案の定、慌てて前に出る。

 「おっ、うわっ……と!」
  ポトリ
 「これはわたくしの勝ちですわね。それでは一筆……」

 すでに勝ちを確信していたのか、墨壷と筆を持ってリィールの前に立っていた撫子はまだ塗られていない右のまぶたにペケ印をつける。すると周囲の子どもも無邪気に笑った。今日のこの場ではアカデミーの人間と接しているとは思えないほど和やかな時間が流れる……と思っていたら、リィールが大人げない言葉を発した。

 「も、もう一度だ! 勝つまではやめないからな!!」
 「よろしいでしょう、受けて立ちますわ……!」

 「わーわー、やれやれ〜!」
 「どっちもがんばれ〜〜〜!!」

 彼女も撫子もすっかりその気になっていた。子どもたちの声援に引かれて周囲の大人たちも見物にやってくる。いよいよリィールは負けられない。新春の真剣勝負が幕を上げた……が、その結果は改めて言うまでもあるまい。こんな調子でアカデミー主催のお正月は過ぎていくのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 /性別/ 年齢 / 職業】

0328/天薙・撫子     /女性/18歳/大学生(巫女):天位覚醒者
2196/エターナル・レディ /女性/23歳/TI社プロモーションガール
2980/風宮・駿      /男性/23歳/記憶喪失中 ソニックライダー(?)

(※登場人物の各種紹介は、受注の順番に掲載させて頂いております。)

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■         ライター通信          ■
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今回もご参加ありがとうございます。シナリオライターの市川 智彦です。
ちょっと変わった趣向で、異界「CHANGE MYSELF!」の第6回をお送りしました。
戦闘は一切なしでアカデミーの教師との触れ合いを中心にした作品となりました。

エターナルレディは初のご登場になるのでしょうか〜。おめでとうございます!
会社の宣伝もバッチリで任務はしっかりこなせたのではないでしょうか?
気の利いた特別協賛で誠にありがとうございます。教師も喜んでおります(笑)。

今回は本当にありがとうございました。また別の依頼やシチュノベでお会いしましょう。
「CHANGE MYSELF!」もまだまだ続きます。今後ともどうぞよろしくお願いします!