■超能力心霊部EX トナカイ・ナイト■
ともやいずみ |
【2181】【鹿沼・デルフェス】【アンティークショップ・レンの店員】 |
「あら」
声をあげた奈々子が嬉しそうに正太郎を見遣った。
「まあ、珍しい。薬師寺さんが普通の写真を撮るなんて」
「…………」
無言で苦笑する正太郎。奈々子の横でポテトを食べていた朱理が写真を覗きこむ。
「すごいじゃん、正太郎! 流れ星の写真なんてさ〜。いやあ、正太郎の念写もたまにはロマンチックなことするんだねー」
「そういえば、そろそろクリスマスでしたね」
小さく笑った奈々子の横で朱理が飛び跳ねそうな勢いで提案する。
「あ、じゃあさ、せっかくあたいたちってこうして友達になれたんだし。クリスマスパーティーってやつ、してみる?」
「え?」
奈々子は一瞬困惑の顔をするが、苦笑いした。
「クリスマスには用事がありまして。違う日でいいなら」
「ええ〜!」
「家族で約束があるんです、私。ごめんなさい、朱理」
「僕も……ごめん。違う日なら空けられるから」
「そっか〜。しょうがないよね。じゃあ別の日でいいよ」
朗らかに笑う朱理に、奈々子と正太郎が安堵の息を出す。
朱理はう〜んと唸った。
「どうせなら、もっと大勢でやりたいよね〜……」
両親を亡くして単独上京してきた朱理は、寂しいのだろう。それがわかっているからこそ、奈々子と正太郎は目配せして困っていた。
「大勢って、どこに呼ぶんですか」
「どこって……そうだなあ。あたいの家?」
「はあ?」
驚く奈々子に、朱理は続ける。
「あたいの叔母さん、彼氏と2、3日小旅行なんだってさ。あたい、一人なの」
「……」
絶句する奈々子と正太郎。
「な、なんでそんなことに……!」
「ええー? 少しは羽を伸ばしてもらいたいじゃない。あたいがいいって言ったんだから、そんな気にしないでいいよ奈々子」
「そ、そうかも……しれませんけど」
ジュースを飲む朱理を、二人がなんだか申し訳なさそうに見遣った。
奈々子がぱん、と軽く手を叩く。
「そうだ! 都合のいい日の夜に集まって、星空を見上げながらというのはどうですか?」
「あ、いいね、それ。奈々子さんナイス!」
「え〜、寒いよぉ」
文句を言う朱理に、奈々子は冷えた目を向ける。
「あら。寒いなら暖かい料理を持って集まればいいんです。だいたい私たちはいつもファーストフード店に集まってこうしているんですから、クリスマスでもそういう気分でいいと思いますけど?」
「そうだね。あったかいものって、コンビニでも買えるし……。僕は賛成。ビニールシート広げて、ゆっくり星を見上げるのもいいかもしれないよ」
朱理は二人を見遣り、「そうだね」と小さく呟く。
「じゃあ空がよく見えるとこに行かなきゃね……」
小さく笑う朱理に、奈々子と正太郎はにっこり微笑み合った。
「では、各自飲み物や食べ物を持って集まるということでいいですね? 知り合いに声をかけてもいいですよ? それに、もしかしたら現地で新しい知り合いもできるかもしれませんし」
正太郎は言い出せなかった。
流れ星の形が微妙だったので、実は虫眼鏡で見たら……それは星じゃなかったのだと。
それはどう見ても、トナカイだったのだ。
(星空か……。まさかね)
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超能力心霊部EX トナカイ・ナイト
ふいに耳に入った声に、鹿沼デルフェスはちらりと視線をそちらに走らせる。
視界の隅に映ったのは、まだ若い高校生の三人組。
(今、『念写』と、聞こえた気が……)
デルフェスは心配になる。
(何か怪現象でも起こっているのでしょうか……?)
商談の最中だったことを思い出し、慌てて彼女は目の前の人物に微笑みかけたのだった。
*
「あの……」
声をかけると、三人の高校生たちは一斉にデルフェスのほうを見遣った。
デルフェスは少しだけ目を見開く。よくもまあここまでバラバラな三人組が集まったものだ。
「?」
怪訝そうな黒髪の少女に、デルフェスは名刺を差し出す。
「わたくし、こういう者です」
名刺を受け取った黒髪の少女は、不審そうにそれに目を向ける。横からボブカットの少女が覗き込んだ。
「アンティークショップ・レン?」
二人の少女の声が見事にハモり、デルフェスは「まあ、可愛らしい」と思ってしまう。
金髪の少年がそういえばというようにデルフェスを見つめた。
「あ、僕知ってます。中には入ったことないですけど」
「ぜひ一度来てくださいませ」
にっこりと微笑むが、彼はちょっと戸惑い、それから「はあ」と気のない返事を返してきた。
「で、そのお店の方が何か用ですか?」
警戒心を前面に出して言う黒髪の少女の横で、ボブカットの少女が朗らかに笑う。
「あたいは高見沢朱理。こっちは一ノ瀬奈々子。で、そっちのは薬師寺正太郎。よろしく、鹿沼さん」
「! あ、あなたはどうしてあっさり名乗るんですか、このバカ!」
「ぐえっ、く、苦しっ……!」
奈々子に首を絞められる朱理を、正太郎が慌てて止める。
「ま、まあまあ奈々子さん……大目に見てあげてよ。朱理さんは、鹿沼さんが自己紹介したから反射的に自分も自己紹介したんだと思うんだけど……」
「そんなのわかってます! 問題はそこではありません! なぜ勝手に私たちの紹介までするのかが問題なんです!」
言われてから、正太郎も気づいたらしく手を引っ込める。
「そんなに首を絞めたら窒息死してしまいますわ。実は、さっきわたくし、『念写』という言葉を聞いて……何か怪現象でお困りでしたら手助けできると思ったものですから……」
「ああ……そういうことですか」
奈々子が首から手を離すと、朱理が喉を押さえて咳をしていた。
「それなら心配ありません。確かに、いつもは怪現象が写るんですけど、今回は普通の写真なんです。ご親切にありがとうございます」
薄く微笑む奈々子に、デルフェスはつられて微笑んだ。
「そうですの。なら良かったですわ。わたくしったら、早とちりしてましたのね」
「いえ。心配してくれてありがとうございます」
正太郎まで気弱そうに微笑む。
デルフェスは奈々子の前に置いてある写真に視線を遣り、「これですのね」と尋ねた。
「ええ。星空がきれいに写ってるだけなんです。せっかくもうすぐクリスマスだしと思って、みんなで集まって星空鑑賞会をしようかと話していただけなんです」
「まあ! 星空鑑賞会?」
「クリスマスパーティーの代わりなんですけどね」
苦笑する奈々子に、デルフェスはずいっと近づく。
「でしたら、ぜひ使っていただきたいツリーがありますの。勝手にわたくしが誤解してしまったお詫びに、提供しますわ」
「そんなに気にしなくていいです。勘違いされるようなことを話していた私たちも悪いんです。気を使わなくていいですよ」
「……。あ、でしたら、その鑑賞会、わたくしも参加させていただけませんか? それならツリーを使うのもお許しいただけますでしょう?」
「いいね! なんか雰囲気出そう! 鹿沼さんありがとう!」
朱理に満面の笑顔を向けられ、デルフェスは思わず「いいえ」と微笑む。素直な朱理は見ていて微笑ましい。そんな朱理の横で、嘆息している奈々子の姿がある。
「また勝手に決める……。仕方ないですね、みんなで集まろうという考えでしたし。鹿沼さん、日時などはお店のほうに連絡します。いいですか?」
「はい。連絡がくるのを、お待ちしていますわ」
*
「うわあ、すごいねえ」
奈々子から連絡された場所に来ていたデルフェスは、やって来た朱理の言葉に微笑む。
朱理は、彼女が持参したツリーを見て先ほどのセリフを言ったのだ。
「妖精が住んでいると言われている、曰くのあるツリーなんですの。あとで、ちょっとした仕掛けがあるのでお待ちください」
「うん! あ。あたい、チキンナゲットとか買ってきたよ。ポテトも」
「わたくしは七面鳥の丸焼きをお持ちしました」
「早いね、朱理さん。それに、鹿沼さん」
声に二人が振り向く。土手を降りて来たのは正太郎だ。大きめの魔法瓶を持っている。
「スープと、あったかい飲み物持ってきたから。あと、ビニールシート」
ビニールシートを広げる正太郎は、空を見上げる。散らばった星の数々は、微かに光っていた。
「奈々子さん、よくこんなところ見つけたよね。誰もいないし……見通しはいいし。まあ、川辺っていうのがすごいけど」
「悪かったですね」
冷ややかな声に正太郎がびくりとする。デルフェスが土手の上の奈々子を見て「こんばんは」と声をかけた。
「こんばんは、鹿沼さん。私は色々と料理を詰めて持ってきました」
ツリーにミルクをそっと添える。すると、ツリーの飾りが輝き、ベルが鳴り出した。決して派手ではなく、慎ましやかな演奏だ。
「お店ではこういうのが売っているんですか?」
驚く奈々子に、デルフェスは微笑む。
「害のある物もありますわ。このツリーは無害ですけど」
紙の皿に料理をのせて、奈々子に渡す。朱理はずっとツリーの前で「へー」とか言いつつ珍しそうに眺めていた。
正太郎一人、なんだかそわそわして空を見上げている。何か心配事でもあるのだろうか?
「はい、朱理様」
「ありがと、鹿沼さん」
皿を受け取ってもぐもぐ食べだす朱理は、暖かい紅茶を飲んでいる正太郎の横にちょこんと座った。
全員シートの上に座り、またたく星空の下、料理を口に談笑する。
と。正太郎の顔色が悪いことに奈々子が気づいた。
「どうしたんです?」
「え!? あ、いや……」
正太郎の言葉は途中で途切れた。きらりと空に光が走った瞬間。
どごーん!
派手な音をたてて河原に何かが落ちた。一同が唖然とする中、声が聞こえる。
「いやあ、美味そうなニオイでついつい……あかんなあ」
「あ。トナカイだ」
朱理の声に正太郎が「え」と顔を引きつらせた。
彼女の言葉の通りに地面に激突したらしいのはトナカイで……おそらく空から落下したのもコレだろう。
「……クリスマス前なのに、なんで……」
あからさまに嫌そうな表情を浮かべる奈々子に、トナカイは近づいてくる。
「うわあ、美味しそうやね! ボクも頂戴」
「はい、どうぞ。まあ……この時期ということは、プレゼント配達ですの?」
にこやかに言うデルフェスに、奈々子が信じられないという瞳を向けた。どうやら彼女は異常な状況にあまり順応しないタイプのようだ。
トナカイはうんうんと頷く。
「わかってくれるんやねえ。この時期はサンタのおっさんが無茶しよるから、困ったもんやけど」
トナカイ使いが荒いわあ。
明るく言うトナカイに、奈々子と正太郎が青ざめて呆れた。
「あはは。トナカイが喋ってる! しかも、なんか方言が入ってるよ!」
爆笑している朱理に「失礼なお嬢さんやなあ」とトナカイが悪態をつく。
「どうして地上に落下されたんですの?」
料理を乗せた皿を地面に置くと、トナカイががつがつと食べだす。どこからどう見ても、トナカイだ。
「腹が減りすぎて目眩を起こしたんや。ちょうどいいニオイがして、ふら〜っとなったらドスンと落ちたんや」
「そんなに忙しいんだ〜。トナカイも大変だねえ」
「わかってくれるんやな、お嬢さん! そうや。サンタのおっさんが無茶言いよるからこの時期は大変やねん。いっつもギリギリでプレゼント用意しよるから」
「配達、お疲れ様ですわ」
「そっちのお姉さん綺麗やねえ。あ〜、いいとこに落ちて嬉しいなあ」
異常な状況に動じないデルフェスと朱理に、奈々子と正太郎は顔を見合わせる。
「あ、あの、鹿沼さん……全然動じないんですね。……トナカイが喋ってるのに」
「トナカイだって、たまには喋ることがありますわ」
微笑むと、奈々子は奇妙な表情を浮かべて「はあ」と返事をする。
怪現象に慣れていないのは、どうやら奈々子と正太郎の二人だけらしい。
「まあまあ。ボクのことはクリスマスの幻とでも思って、楽しんでや」
……トナカイがわらった。
ふらりとよろめく奈々子を、デルフェスが慌てて支えた。
「大丈夫ですか? 奈々子様」
「あ、ありがとうございます……。こ、こういうのに慣れてないもので……」
「面白いけどなあ。奈々子って、結構そういうのダメだよね」
「朱理が気にしなさすぎなんです!」
怒鳴ってから、奈々子はデルフェスに苦笑する。
(奈々子様も苦労されているんですわね……。確かに朱理様は鈍い方というか……)
怒られた朱理は肩をすくめてトナカイの側でチキンナゲットを頬張る。
「朱理さん……へ、平気なの?」
「なにが?」
「何がって……。変とか思わないの?」
正太郎の恐る恐るの言葉に、トナカイが憤慨する。
「変って、何が変やねん! クリスマス、トナカイとくれば、導き出される答えは一つ! そんなんやと、モテへんでえ兄ちゃん」
「モテなくて悪かったな!」
「いいじゃんモテなくても。そのうち可愛い恋人できるよ」
「さらっと笑って言わないでよ、朱理さんも!」
そんな様子を眺め、奈々子は薄く笑った。
「ああもう……わかりました! クリスマスの幻ですね、そういうことにします! デルフェスさん、じゃんじゃん食べて、楽しみましょう!」
「ふふ。そうですわね。一人増えたので、賑やかになりましたわ」
「……一人というか、一頭ですけどね」
「まあ。うふふ。そうですね」
河原で、少し早い珍妙なクリスマス。
そんなメンバーを、星空だけが見下ろしていた。ただ、しずかに。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【2181/鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)/女/463/アンティークショップ・レンの店員】
NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】
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■ ライター通信 ■
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この度はクリスマス限定ものにご参加くださり、ありがとうございました。ライターのともやいずみです。
鹿沼様だけのご参加ということで、楽しいけれど幸せな感じのクリスマスにできるように頑張りましたが、いかがでしょうか?
奈々子と朱理と仲良くなるように心がけましたが、朱理は性格からして警戒心ゼロなのですっかりなついているようです。奈々子も好意的になってますね。
今回はご依頼ありがとうございました! 楽しく書かせていただき、大感謝です!
楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
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