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■デンジャラス・パークへようこそ■

神無月まりばな
【2449】【中藤・美猫】【小学生・半妖】
今日も井の頭公園は、それなりに平和である。

弁天は、ボート乗り場で客足の悪さを嘆き、
鯉太郎は、「そりゃ弁天さまにも責任が……」と反論し、
蛇之助は、弁財天宮1階で集客用広報ポスターを作成し、
ハナコは、動物園の入口で新しいなぞなぞの考案に余念がなく、
デュークは、異世界エル・ヴァイセの亡命者移住地区『への27番』で、若い幻獣たちを集め、この世界に適応するすべを説いている。

ときおり、彼らはふと顔を上げ、視線をさまよわせる。
それはJR吉祥寺駅南口の方向であったり、京王井の頭線「井の頭公園駅」の方向であったりする。
降り立つ人々の中には、もしかしたらこの異界へ足を向ける誰かがいて、
明るい声で手を振りながら、あるいは不安そうにおずおずと、もしくは謎めいた笑みを浮かべ……

今にも「こんにちは」と現れそうな、そんな気がして。
デンジャラス・パークへようこそ 〜恋と鯉のフーガ〜

 風は、そろそろ寒さを含み始めた。無理もない。もう秋は深いのだ。
 それでも空は抜けるように青く、見上げれば落葉樹が天を目指すかのように伸びている。
 色を深める紅葉は綺麗でロマンチックで、それだけで美猫は嬉しくなる。
(今日はハナコちゃんちでお泊まり会。楽しみだな♪)
 荷物を抱え、風に背を押されるように美猫は歩く。井の頭公園の入口は、すぐそこだった。
 
 七井橋を通れば、左手にボート乗り場が見える。
 料金表の前であぐらをかき、池の水面を見ている鯉太郎は、今日も暇そうであった。時折、金髪にぱらりと、落ちた紅葉が絡みつく。
 美猫は声をかけるでもなく、しばらく立ち止まってうっとりとその横顔を見ていた。
 やがて鯉太郎は視線に気づき、美猫に笑顔を向けた。
「よお、美猫」
「こ、こんにちは」
「今日はボートに乗りに……来たわけじゃなさそうだな。ハナコのところか」
「は、はい。あの、ごめんなさい、急ぐので」
 真っ赤になった美猫は、ぴょこんと頭を下げ、ささっと動物園方向へ走り去る。
「おーい?」
 困惑顔の鯉太郎は、ぽりぽりと頭をかいた。

 その一幕を、紅葉の木の幹に隠れて見ていた者がいる。
 なぜか黒ずくめのスーツに身を包み、サングラスまでかけた弁天であった。 
(ふっふっふ。みーたーぞー♪ これはあれじゃな、幼い恋心の芽生えじゃな。是非わらわが一肌脱がねばっ!)
 特にギャラリーがいるわけでもないのに、弁天はサングラスをちょっと上にずらしてポーズを決めた。

 ♪ ♪

「いらっしゃーい、 美猫ちゃん。待ってたよ」
 ハナコの暮らす家とその部屋につながるゲート『いのゼロ番』は、動物園入口の柱の横にある。すでにゲートをOPENしていたハナコは、美猫が来るなり手を引っ張って招き入れた。
 広い部屋の中は、美猫の好む赤の色彩でコーディネートされている。
「お邪魔しまーす。ハナコちゃん、これ、おばあちゃんから」
 美猫は解いた荷物から、小さな包みを取りだした。赤地に白の桐唐草模様の風呂敷の中には、竹行李の箱が入っている。
 ぎっしりと詰められた太巻きに、ハナコの歓声が上がった。
「わぁ。お花見のときの、おばあちゃん特製太巻きだ! これ、美味しかったんだよね。ありがとー♪」
 ハナコは浮き浮きしながら、お茶の用意を始めた。
「美猫ちゃん、何飲む? 太巻きいただくんならほうじ茶入れるけど、夕食にはまだ早いかな?」
「あのね、お菓子も持ってきたんだよ。いちごどら焼きと本わらび餅。これもおばあちゃんが作ったの」
「すごーい♪ じゃあ、紅茶と煎茶とほうじ茶。順番に入れちゃう」
「そんな急がなくていいよー。だってお泊まりだから、ゆっくりできるもん」
「それもそうだね」
 くすくすくす。額をくっつけて、少女ふたりは笑い合う。
(うう〜む。ああしておると、無垢で無邪気で愛らしい女の子たちにしか見えぬのう。ま、美猫はそのとおりだから良いとしてもハナコは……もごもご)
「ん?」
 何となくいや〜んな気配を感じ、ハナコは部屋をきょろきょろ見回した。
「どうしたの? ハナコちゃん」
「弁天ちゃんの声が聞こえたような気がしたんだけど……。気のせいかなぁ?」
「あとで弁天さまもいらっしゃるんだ?」
「まさか!」
 ハナコはぶんぶんと首を横に振って否定した。
「今日は美猫ちゃんとハナコだけの、美幼女オンリーイベントだもん。弁天ちゃんには内緒にしてたのに……ばれちゃったかな……」
 落ち着かなげなハナコに、美猫はなおもくすくす笑った。
「美猫はどっちでもかまわないよ? 太巻きだってお菓子だってたくさんあるし、気にしない気にしない」
「そお?」
 ハナコはなおもカーテンの裏を覗いたりしていたが、ようやく気を取り直してお茶の用意に取り掛かった。
「ねー。今日は何して遊ぶ? なぞなぞ? なぞなぞ? それともなぞなぞ?」
「ハナコちゃんたら。……うん、なぞなぞもたくさんしよう。でも、いろんなお話もしようね」

 ♪ ♪

 紅茶のカップをふたつテーブルに置いてから、ハナコは美猫の隣に座った。
「そうだ。ハナコ、美猫ちゃんに聞きたいことがあったんだ」
「なあに?」
「……ちょっとオトナっぽい話なんだけど、いい?」
 背伸びをしたい年頃の少女が秘密を問うときの囁き声に、美猫はたじろぐ。
「えっ? そんなの美猫に答えられるかな?」
「美猫ちゃんにしか答えられないことだよ。あのね」
 ハナコはいっそう声をひそめる。
「ね。美猫ちゃんて、鯉太郎ちゃんのことが好きなの?
「…………!!」

 がちゃん!

 美猫が持ち上げたカップが、派手な音を立てて落ちる。
 ハナコは予想していたと見えて、隣から支えたため大事には至らなかった。
「そっか。やっぱりそうなんだね」
「ち、ちがうよ。そんなことない」
「いいのいいの照れなくても。だって美猫ちゃん、鯉太郎ちゃんを見る目が違うもん。いつもうっとりとして、夢心地って感じ」
「それは……そのお」
「でも鯉太郎ちゃんて、あれで結構もてるからなー。鯉太郎ファンクラブ会長の、ミヤコタナゴのミヤコちゃんが黙っちゃいないと思うけど、頑張って!」
「……違うってば」
 美猫は小さな声で否定する。――と。
「あいわかった。まるっとわらわにお任せじゃ!」
 突然、カーテンがばさりとはためき、黒いスーツにサングラス姿の弁天が出現した。
 ハナコは大げさにのけぞる。
「弁天ちゃ……。いつの間に。カーテンの陰はさっき確かめたのに」
「細かいことはどうでもよろしい。美猫や、悩める乙女の守護神たる弁天が乗り出したからには、おぬしの恋はばっちりじゃ! 大船に乗ったつもりで待っておれ!」
「あ、あの……。弁天さま……」
 おろおろする美猫をよそに、弁天は言いたいことだけを言うと、しゅわっちと何処かへ消えた。

 ♪ ♪

 弁財天宮地下1階に、『恋愛成就プロジェクト極秘打ち合わせルーム:関係者以外立入禁止』という一角が設けられたのは、それからすぐのことである。
 しばらくして、緊張したおももちのデュークが、その部屋を訪れた。
 重大な案件の発生により折り入って相談があると、弁天から連絡があったからだ。
「弁天どの。ご相談とはいったい……?」
「うむ。実はの」
 サングラスをくいと額の上に上げ、弁天は声を落とした。
「どうやら美猫が、鯉太郎にラブなのじゃ」
「そうでしたか」
 冷静な表情のままで、デュークは頷く。
「可愛らしいカップルですね。うまくいけば宜しいのですが」
「おぬし、そんな呑気でよいのか? ライバル登場じゃぞ」
 ばん、とテーブルを叩き、弁天はデュークににじり寄る。
「ライバル? どなたの?」
「おぬしに決まっておろう。いつぞや同じ学園に通っていたときは、美猫と何やら良いムードだったではないか」
「あれは、夢の中での出来事ですから」
「いいや! 実はおぬしが猫耳に弱いことを、わらわはちゃんと突き止めておる。好きであろう、猫耳! 嫌いとは言わせぬ!」
「……それは私だけではなく、エル・ヴァイセ出身の男性は全般的にそういう傾向にありまして」
「まあよい。わらわの相談とは、おぬしには断腸の思いをさせるが、身を引いてもらいたいということなのじゃ」
「……引くもひかぬも、もともと」
 反論しかけたデュークは、しかしすぐに折れた。
「――かしこまりました。おおせのとおりに。全て、弁天どのにおまかせいたします」
 未だツッコミの技術を体得していないデュークであるが、こういう時の弁天に逆らっても無駄だということはよくわかっているのだった。

 ♪ ♪

「ちょっと待てー! 何だこりゃあ。いったいおれが何したって言うんだぁー!」
「ええい暴れるでない。おとなしく美猫の告白を受けるのじゃ! よっ、この果報者!」
 ――ほどなくして。
 必死に抵抗する鯉太郎を、紅葉の幹にワイヤーロープでぐるぐる巻きに縛りつけ、力技の告白タイムが演出された。
 立会人として集められたデュークとハナコと蛇之助は、輪になってひそひそと囁き合う。
「弁財天宮の備品にワイヤーロープがあったことを、今日初めて知りました」
「あのねデューク。そこは全然突っ込みどころじゃないから」
「それにしてもせめて、もう少しロマンあふれる演出は出来ないものでしょうかね……」
 それぞれのため息が交差する中、弁天は美猫の肩に手を置いて、鯉太郎に向かわせた。
「さあ美猫や。今こそ秘めたる想いを打ち明けるのじゃ!」
「あの……」
 しばらくもじもじしてうつむいていた美猫は、やがて意を決したふうに顔を上げた。
「鯉太郎さんって、お魚のにおいがして」
「うむうむ」
「美猫、お魚大好きだから、うっとりしちゃうの」
「うむ………う? それで?」
「それだけ……ですけど……」

「――コイはコイでも、恋ではなくて鯉だったということですね」

 デュークが真剣極まりない口調で言う。
 あまりといえばあまりの落ちに、一同は固まってしまった。

 朝霜の便りも届き始めるこの季節。
 その日、武蔵野の地には、今年一番の木枯らしが吹いたという。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2449/中藤・美猫(なかふじ・みねこ)/女/7/小学生・半妖】

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■         ライター通信          ■
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あけましておめでとうございます。神無月です。
お忙しいところ、わざわざご来園くださいまして、まことにありがとうございます。
不束なNPC連中ではございますが、本年もおつきあいくだされば幸いでございます(深々)。

美猫さまには、弁天に縁結び依頼をしてくださいまして(違ーう)。
楽しいプレイングに、一読後爆笑しました。実は一度はやってみたいネタだったんですよね。恋と鯉。
……愉快な変換ミスがないか、納品前に何度も何度も見直したのはヒミツです。